ニュース
キヤノンEF11-24mm F4 L USMの技術説明会レポート
石橋睦美氏らが魅力を語る
Reported by 本誌:武石修(2015/3/18 15:53)
キヤノンは3月17日、新レンズ「EF11-24mm F4 L USM」の技術説明会を関係者向けに都内で開催した。また写真家による同レンズのトークショーも行われた。
EF11-24mm F4 L USMは35mmフルサイズ対応の超広角レンズで、魚眼レンズを除くと最広角のズームレンズとなる。2月に発売し、実勢価格は43万7,400円前後。
“12-24mm”ならF2.8で作れるが……
冒頭、キヤノン イメージコミュニケーション事業本部 副事業本部長の岡田正人氏は、「顧客価値の創造を目指し、EFレンズを通して写真文化を発展させることが我々の使命」と挨拶した。
キヤノンではレンズ開発に当たって、理想のレンズを設定してその実現のために必要な技術を開発していくバックキャスティングと呼ばれる考え方で進めているという。
「ある技術ができたからレンズを作る、ということでは弱いと考えている。最初に理想のレンズを描けることが重要で、それが決まれば要素開発ができる。キヤノンで様々な要素開発をしている他の部署など、全社的なバックアップが受けられるようになっている」
レンズの開発拠点があるのは、栃木県宇都宮市の宇都宮光学研究所。カメラ用レンズの他、半導体製造に使うステッパーやすばる望遠鏡の光学系なども手がけている。同じ場所にレンズ工場もあり、「宇都宮にはキヤノンの光学が集結している」という。
レンズの光学設計を行うソフトは自社開発したもの。「使うのは難しく、長く先輩について修行する」のだそう。現在は3D CADやシミュレーションの発達で、試作レスになっているという。落下試験もコンピューター上でおこなえる。
シミュレーションはスーパーコンピューター(富士通PRIMEHPC FX10)で行い、「以前は一晩かかっていたものが、すぐに結果がわかるようになった」とのこと。
キヤノンのレンズ生産拠点は宇都宮以外にもあるが、「Lレンズは日本製にこだわっており、すべて宇都宮で作っている」という。同工場ではレンズの研磨や組立はもちろん、レンズ鏡胴の切削や塗装、さらにはペンタプリズムの研磨や蒸着までおこなっている。
レンズ製造では研磨などで大量の水を使用するが、同工場ではクローズドループシステムと呼ばれる濾過の仕組みを備えており、逆浸透膜で純水に戻して再利用するなど、環境にも配慮しているとのことだ。
また、レンズ研磨皿を作るのは最も上位の「名匠」という担当者が行う。サブミクロンの違いが感覚でわかるという。
同工場では従業員にフォトマスター検定の受検を勧めており、撮影した写真は工場の廊下などに展示している。若手には自社レンズの貸し出しも行っているそうだ。
岡田氏は今回の新レンズについて、「このレンズは世界一、世界初を目指すなかで生まれたもの。12-24mmならF2.8が作れるのでそちらと迷ったが、より広く撮影できる11-24mmを選んだ」と述べた。
Lレンズならではの耐久性も追求
続いて、キヤノン ICP第一開発センター所長の金田直也氏が技術説明を行った。
キヤノンでは16-35mmなどの広角ズームレンズをラインナップしているが、より広角のズームレンズのニーズがあり、世界最広角となる11mmスタートのレンズを製品化したという。
本レンズでは、第1レンズを同社で最大という研削非球面レンズとした。球面レンズで作るよりも前玉径を小さくできるという。第1レンズを東京ドームの大きさにしても、誤差は1mm以下という精度で作られるとのこと。
第1レンズの非球面化は歪曲収差の低減ににも寄与し、今回ほとんど歪曲収差の無い描写を実現したとしている。ただし、前玉の非球面化だけでは周辺部の結像位置が前に移動する像面湾曲が発生するので、複数の非球面レンズで補正を行う。今回は3枚の非球面レンズを採用した。
コーティングのSWC(Subwavelength Structure Coating)は、EFレンズでは初めての2面に採用。さらにASC(Air Sphere Coating)と併せてフレアやゴーストを低減した。SWCとASCを使わない試作品(マルチコートのみ)との比較を見たが、はっきりとフレア・ゴーストの低減効果がわかった。
耐久性の面では、外装と内部の筒の間にゴムリングを入れて衝撃を吸収したり、可動ローラーによってぐらつきを無くすといった対策を講じている。
また、防塵防滴構造を採用しており、例えば本レンズを上に向けた状態で水がかかると、前玉とフードの間に水がたまるが、その状態でもズーム操作をしなければ浸水しないという。
トリミングすればパノラマ写真に
写真家の石橋睦美氏は、歪曲が少ないという特性を活かし、歪曲が検知されずに現実感のある写真として今回は建築写真を選んだ。
石橋氏によると構図の中心が画面の中心になるようにし、カメラの水平をとって撮影することで、室内の柱や梁が歪曲無く撮れるとのことだ。
また、横長にトリミングすることで、広がりのある表現ができ、新しい使い方になるとした。トリミングでは縦位置の構図も見つけられると、掛け軸のような表現の可能性があることにも触れた。
凸版印刷 チーフフォトグラファーの南雲暁彦氏は、アメリカのThe Waveと呼ばれるスポットで撮影した写真を披露した。
「スーパーワイドと思われていた16mmでも狭い。パースは付くが、歪みはないので、本当に『こういう場所です』という写真が撮れる。16mmでは収まらない雲も入る」と評した。