赤城耕一の「アカギカメラ」
第142回:「RF45mm F1.2 STM」に感じる大口径F1.2レンズの今昔
2026年6月5日 07:00
今年もカメラグランプリ2026の外部選考委員を拝命したのですが、筆者はカメラ博愛主義者を公言していますから、機材の順位づけそのものが苦手ですし、毎回のように引き受けたことを後悔するわけです。
まったく勝手なものですが、だって、他の選考委員の方と採点基準が異なったりするわけなので、投票にも躊躇するわけであります。
基本的には革新的な技術を有したカメラやレンズが上位になるのは当然のことであって、それは今年も同様で、順当な結果だと思います。
ただですね、革新的機能を採用したカメラ、レンズ機材が筆者の仕事にものすげー役立って、助かったぜ、という経験は、これまでの経験でもほとんどないわけです。つまり、無理して最新機能のカメラを購入しても筆者の小商いでは生かしきれず、もったいない思いをするわけであります。
逆に戯れ用の私事カメラという意味で、キミにはいつもそばにいて、私を癒してほしいみたいな思いをするカメラ、レンズは減りつつあります。正直、現代の機材はどれを使おうが良好な結果が得られ、出来上がる写真に差異がないわけです。
さらに昨今は機材の価格が高くなるばかりで、ミドルクラス、いや、エントリークラスのカメラ、レンズでさえ、自身の商売の売上額に対してみると、非現実感を持つ価格設定がされているわけです。撮影料や原稿料が安いからなのでしょうか、筆者の仕事量が足りないからなのでしょうか、それとも円安だからでしょうか……ぶつぶつ。
いちおうこれでも商売として考えると機材の償却にどれくらいの時間がかかるのかとか、まったく夢のない寂しい愚痴を言いたくもなります。
嘘つけ、お前、ライカとかハッセルを使っているじゃないか? と、ツッコミがきそうですが、ライカはね、過去のモデルたちのリセールバリューがとてもよろしかったので、それらを元手にして、単に回しているというだけであります。
だって、うまくするとふつうのミラーレス機を下取り交換するより、はるかに支払い金額が少なかったりすることもよくあるわけです。
そうです、昔のように筆者はライカを“ コレクション” したりしていないんですよ。いや、昔からしているつもりは毛頭ありませんでしたが、周囲がそうは見てくれなかったわけですね。困るよなあ。
で、今回のカメラグランプリで個人的に本当に衝撃だったのは、「あなたが選ぶレンズ賞」を受賞した、キヤノンRF45mm F1.2 STMでした。
これ、発表された時にレビューをしたのですが、機材を渡されるまで、価格について編集者が間違えて伝えてきたのだと本気で思っておりました。
45mm F1.2という仕様で、6万5,000円とか、ありえねーだろうがよー。ったくきちんと確認して資料を送ってこいよ。と、ひとりごちてましたから。本当です。で、これを事実と知った時は、これはブレイクスルーな大口径標準レンズだと思いました。
いまだにキヤノンEF50mm F1.2L USMは中古品でも、10万円くらいに設定されています。製造本数が少ないことも理由としてあるのでしょうけれど。
EFではTS-Eレンズで45mm単焦点レンズというのがありましたけど、このレンズは特殊な部類に属しておりました。RFシリーズでは45mmの単焦点レンズは初ですね。あえて50mmにしなかったのは先輩格のRF50mm F1.2 L STMがあるからかもしれません。
F1.2のレンズは大口径ステータスとして認識されています。本レンズはかつてのEF50mm F1.2L USMと同程度の解像性能。しかも販売価格は65,000円という低価格。
うーむ。これでは仲間内の酒宴では見せびらかしたり、自慢すらできません。見せびらかすために機材を購入したい人には向いていない筆頭格のレンズではないでしょうか。
外観は、憧れのF1.2レンズという印象は薄いですね。でも鏡筒の太さが、ただならぬ存在であることを示しています。でも軽いんです、すばらしく。346gという重量は、逆に物足りなく感じるほどです。毎度趣味性の高い製品はデカくも重くてもいいと申し上げていることと逆のことを言っておりますね。すみません。
おそらく鏡筒は樹脂系のパーツもうまく使用しているのでしょう。レンズにしてもプラスチックモールドレンズを使うなどして、軽量化し、コストも同時に下げているのでしょう。RFレンズ特有のコントロールリングの存在も忘れていません。なにか本当に挑戦的な価格設定でもありますが、身近なところにF1.2が降りてきたという印象すらあるのです。貧しい筆者にはきわめて現実味のある価格設定ゆえに下丸子のほうに頭を向けて遥拝しております。
マウント部分は金属です。これがプラスチックだったりすると、興ざめしてしまいます。強度の問題だけではないのです。肝心のトコロを押さえているぜというこのキヤノンの姿勢に筆者は涙してしまうわけであります。
本レンズの構成はEF50mm F1.2L USMと構成が似たオーソドックスなダブルガウスタイプでPMo非球面レンズ1枚を含めた構成枚数は7群9枚。EF50mm F1.2Lと同等の解像感があるといいます。ただ、第一印象の写りでは圧倒的に45mmでしたけどね。こういう結果も困りますよね。
ひと昔前までのF1.2-1.4級の50mm標準レンズの多くは、開放絞りでの描写は球面収差をはじめとする残存する各種の収差の影響から、シャープネスが低く、ハイライトは滲み、コントラストは低めな描写をしました。
これはユーザーのみなさんもご納得の上のダブルガウスお約束の描写でもあるのですが、これらの“欠点” を逆に「味わい」と解釈、作画に応用するのが使いこなしの妙であるとされてきました。写真レンズの評価のテキトーさ、じゃない難しさがあります。
最新の多くの大口径標準レンズはレトロフォーカスタイプ構成を応用したレンズ設計のものが多く、最新の硝材を採用し、レンズの枚数は増え、コーティングにもこだわりもあり、少なくともレンズ構成に関しては、素人が見てもわかるはずもなく“レンズタイプ” などという言葉は死語となってしまったかのようです。
RFマウントの50mmクラス標準レンズでもRF50mm F1.4 L VCMとか、RF50mm F1.2 L USMなどもあり、これらのレンズは解像力やコントラストが高く、開放から欠点のない素晴らしい描写になるわけですが、これが逆に個性が失われたと見なされたりすることがあります。
ひどいですよねえ。高価なレンズたちなのに。超優秀な光学設計者が寝食を惜しんで懸命に設計したレンズだというのに、ユーザーの評価は勝手でわがままですよねえ本当に。私は設計者の苦労を踏まえてお話をしておりますよ、本当です。ただ、本レンズの登場で高性能の大口径レンズが売れなくなってしまうんじゃないかと心配したりして、大きなお世話ですよね。
最新のレンズ性能が向上したことが、昨今オールドレンズが注目されてしまう要因のひとつになっていることは間違いなく、これもとても皮肉なことにみえます。
本レンズの描写は予想より良いほうに大きく裏切られ、開放絞りから優秀です。線は細く、ボケ味にも大きなクセはありません。これは絞りの位置関係にも秘密がありそうです。オールドレンズとは異なる現代版の洗練された味わいがあることは間違いありません。
AFのスピードもかつてのEF50mm F1.2L USMがどっこいしょ、どっこいしょと重そうなレンズを一生懸命動かしていたのに対して、本レンズはスッと心地よくフォーカシングされます。これもすごいですよね。
筆者は大口径レンズだからといって、必ずすべての写真を開放で撮影するということはありません。
絞りの設定は写真表現にとって、きわめて重要であると土門拳も言っております。だから絞ることが必要な条件だと決めれば、土門先生の教えに従い、徹底して絞りまくります。
せっかくの大口径レンズなのだからもったいないと考えたことはありません。筆者は大口径レンズの場合は絞りの設定の選択肢が広がるという考え方でいいのだと考えているからです。
それに本レンズは特別に高価ではないのですから、絞って使用しても後ろめたい感じはないのです。とはいえ筆者はどんなに高価な大口径レンズであっても必要と判断したなら絞りますけどね。
筆者は年寄りですから、昨今よくみられる大口径レンズの作例で、逆光、露光オーバーで画面傾いて、ハイライトが飛び、モノの一点にしかフォーカスが合っておらず、すべてかすみがかかっているような、これぞ「少年の夢」みたいなボヤボヤした写真は、説得力のある中身が伴わないと生理的に苦手であります。たとえレンズの作例であったとしても、常に意味のある絞り設定をしたいと考えています。
もちろんこれはあくまでも個人の好みであり、見解ですから、そうした雰囲気のある写真を否定するものではないことはお断りしておきます。
本レンズにおいても、レンズのデータを用いて光学補正する「デジタルレンズオプティマイザ」(Digital Lens Optimizer, DLO)機能を使うことができます。
オンとオフによっても描写は若干変化するわけですが、これは1本のレンズでフレキシブルな使用ができるという意味で設定を使い分けてみるのも興味深いものがあります。
「デジタルレンズオプティマイザ」(Digital Lens Optimizer, DLO)は各レンズのデータを元に、収差補正を行う機能です。そこでDLOのオンとオフの写真を比較してみました。合焦点のエッジの切れ込みはDLOをオンにしたものが良く、周辺光量低下も補正され、わずかにコントラストが高い。DLO をオフにしたものはコントラスト弱めですが、光学性能が劣るわけではありません。これは好みの問題ですね。
ただ、想像よりも効果は抑え気味のようにおもうわけです。つまりDLOをオフにしても特別に味わいが増すわけでもなく、オンにしても、味わいを完全に消してしまうような野暮な収差補正は目指していないようにみえます。一部は効果の強弱を選択できるわけですから、このあたりは個人の好みにより使い分けを考えるべきでしょう。
本レンズに関しては「Old」という意味よりも「Classic」というニュアンスのほうが強くなるのではと筆者は勝手に解釈しています。
『Classic』は一般的な日本語訳だと「古典的な」という意味で捉えられることが多いのですが、別の意味で「第一級の」「模範的な」「品格のある」という意味やニュアンスがあるそうです。そうした意味でも、本レンズはシン・「Classic Lens」と呼ぶことができそうです。
キヤノン EOS R6 Mark II/RF45mm F1.2 STM/45mm/絞り優先AE(1/250秒、F1.2、0EV)/ISO 400
小原孝博 写真展「鳴動」
Roonee 247 fine arts・6月14日(日)まで





















