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インタビュー:撮影者に表現力と使いやすさを…KANI「HT100 IV」システム

完成度をより高めたマグネット式角型フィルターホルダーシステム

KANIブランド製品の発売元、ロカユニバーサルデザイン株式会社の伊藤公彦代表取締役。「HT100 IV」システムやKANIブランドについて聞いてみた

KANIフィルターの角型フィルターシステムの最新モデル「HT100 IV」シリーズ。マグネット式の着脱による利便性をはじめ、プロやアマチュア写真愛好家から高い評価を受けている製品だ。

その進化と高い拡張性を知るべく、KANI製品の発売元であるロカユニバーサルデザイン株式会社の代表取締役、伊藤公彦さんにお話をうかがってきた。

「KANI」ブランドとは?

今浦友喜(以下、今浦): 近年、角型のGNDフィルターなどを使用したアーティスティックな作品が多く見られるようになりました。そうした中、KANIフィルターは多くの製品を矢継ぎ早に投入、ラインアップを強化しています。

今回のインタビューでは角型フィルターシステムの主力製品「HT100 IV」を中心に、さまざまな話を伺っていきたいと思います。まずはKANIフィルターというブランドについてお教えいただけますか。

伊藤公彦(以下、伊藤): 「KANIフィルター」は、創業者が風景写真向けの高品質なフィルターを作りたいということで始めたブランドです。その時にKANIフィルターを使わせてもらったことがありました。それがすごく良く、無謀にも前職を辞め、KANIフィルターに惚れ込んで6年、という感じです。今では製品開発、パッケージデザイン、国内販売、海外販売など一手に取り組んでいます。

今浦: KANIフィルター以前にも角型フィルターの市場はあったと思いますが、新しくブランドを作ろうと思ったのはなぜなのでしょうか。

伊藤: 以前はアクリル製や高品質なガラス製角型フィルターがなく、色かぶりが大きかったり、傷がつきやすかったり、コーティングも剥がれやすいものもありました。そのような状況で、高品質なガラス製角型フィルターを作りたいと考えました。

今浦: ブランドロゴのペンギンのキャラクターも良い味を出していますよね。

ブランドロゴのペンギンをあしらった「KANI マグネットステッカー」

伊藤: 「ファーストペンギン」という言葉からきています。海に1番初めに飛び込むペンギンのことで、新しいことにどんどん挑戦しようという意味合いで採用しました。

今浦: ペンギンはアウトドア感もあるし、グッズ化してもかわいいですよね。さてHT100 IVについて伺っていきましょう。100mm幅の角型フィルターが装着できるホルダーシステムの第4世代ということですが、前システムのHT100 IIIとは、主にどんな違いがあるのでしょうか。

HT100 IVホルダーにPremium Medium GND 0.9 100×150mmフィルターを装着した状態
12月5日発売の「HT100 IV トラベラーセット」。HT100 IVホルダーを中心に、マグネット式の各種フィルター、ステップアップリングで構成

HT100 IV 特徴その①|アルミ製フィルターフレームの存在

伊藤: 特徴は大きく3つあります。1つ目は対応する角型フィルターに、アルミ製のフィルターフレームが付いていることです。これにより、ガラス面を直接触らず操作ができるようになりました。つまり、フィルター面が指紋などで汚れにくくなっています。

HD100 IVに対応する角型フィルターの例。左が100×100mm、右が100×150mm。

伊藤: またこのフィルターフレームには持ち手が付いているので、ホルダーに装着しやすいほか、手持ちでフィルターを操作したい際にも扱いやすくなっています。

持ち手があるおかげで扱いやすい

なお、HT100 III用の角型フィルターをこのフィルターフレームに入れていただくことで、HT100 IVでもご使用いただけます。実は2mm厚の他社フィルターもこのフィルターフレームに入れることができます。

今浦: 手持ちでも扱いやすいというのは良い発想ですね。僕も手持ちで使うことが良くあります。しかも手持ち用ホルダーもあるという用意の良さ(笑)。

HT100 IV用のフィルターフレームを手持ちで扱えるようにするハンドホルダー。レンズ前にかざして撮影したり、撮影前の効果の確認に

伊藤: フィルターフレームは単品販売もしているのですが、通常のブラックに加えて、今年はピンクとグリーンのカラーバリエーションも発売しました。

今浦: おお、ピンクもグリーンもかわいい。何種類も角型フィルターを持っている人は色で見分けが付けられるようになるから良さそうですね。

HT100 IV 特徴その②|丸型フィルターの使用感を重視

伊藤: 2つ目の特徴は、丸型フィルターとの併用が非常にしやすくなったところです。HT100 IIIでもC-PLフィルターとの併用は可能だったのですが、ステップアップリングとホルダーアダプターの一体型となっていたため、レンズからステップアップリングごと付け外す必要がありました。そこでHT100 IVではホルダーアダプター一体型ステップアップリングと丸型フィルターは別パーツとして、さらに丸型フィルターはマグネットで装着できるように改良しました。これにより丸型フィルターの着脱スピードが格段に向上しています。丸型フィルターの重ねがけも容易で、4枚まで装着できます。このシステムが出来上がるまで5年掛かりました。

HT100 IVを発売した当初は、マグネットタイプの丸型フィルターはC-PLフィルターくらいしかありませんでした。今はND4〜32000までNDフィルター、ブラックプレミアムミストフィルターも濃度違いで5製品、ホワイトミストも3製品、他にもビビットC-PLフィルターや光害カットフィルターなどラインアップを大幅に拡充しています。

今浦: え、もうそんなに増えていたのですね。1年でよくぞここまで揃えましたね。このマグネットのシステムはよくできています。これまでは角型フィルターと丸型フィルターを同時に使おうとするとなにかと制限を受けるものでしたが、HT100 IVなら角型フィルターの重ねがけはもちろん、丸型フィルターの重ねがけも簡単にできてしまう。

伊藤: ホルダーアダプター一体型のステップアップリング(マグネットアダプターリング)も、HT100 IV用に52mmから95mmまでラインアップしています。レンズにこのマグネットアダプターリングを取り付けておいていただければ、レンズ交換時にもすぐにHT100 IVの着脱が可能になりますから。

また、アダプターリングをレンズに付けたままにしやすいように、マグネット式アダプターリングキャップもあります。マグネット仕様ではありませんが、100mm幅で世界初となる105mmフィルター径まで取り付けられるアダプターもあり、FUJIFILM GF30mmF5.6 T/Sなどに取り付けて使用されている方もいらっしゃいます。

今浦: 確かにすべてのレンズにマグネットアダプターリングを付けておけば、ワンタッチでフィルターを切り替えられるのは良いですね。ただし純正のフードは付けられなくはなりますが……。最近のレンズは逆光にもかなり強いので、付けっぱなしもアリでしょうか。

お持ちのレンズにマグネットレンズ側アダプター、キャップを取り付け、瞬時にフィルターワーク可能

HT100 IV 特徴その③|95mm径にサイズアップして使えるシーンも増加

伊藤: 3つ目の特徴はこのマグネット式丸型フィルターを95mmに設計したことです。これにより、超広角レンズや95mm径の超望遠レンズなどにも使えるようになりました。

95mm径のHT100 IV用マグネット式丸型フィルターなら、人気のNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRでもC-PLフィルターなどが使用できる

伊藤: HT100 IIIではレンズ側アダプターに取り付けられる丸型フィルターは82mmだったので、超広角レンズではケラレてしまうことがあったのですが、95mmにしたことで使えるレンズが多くなりました。いわゆる出目金レンズと呼ばれる、前玉が出ていてフィルターが付けられないタイプのレンズでも、専用のアダプターリングを装着していただくことで、ケラレずにC-PLフィルターなどをご使用いただけます。

今浦: 超広角レンズの場合、35mmフルサイズで焦点距離何mmまで対応できますか?

伊藤: 付けるフィルターの枚数により変化はあるのですが、現在のラインアップで円形マグネットフィルター装着でケラレなく使用できる例としては、NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 SやFE 14mm F1.8 GMとなります。

NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 Sに装着

また、HT100 IVには角型フィルターを3枚セットできるフィルター枠が用意されていますが、これを2枚、1枚と減らすことでケラレをなくすことができます。

今浦: こうしたフィルターを装着できない超広角レンズこそ、GNDフィルターを使いたくなりますからね。

伊藤: なお、HT100 IVとは違うシリーズになりますが、14mmよりも広い画角のレンズでも、150mm幅や170mm幅の角型フィルターをお使いいただくことで、ケラレなく撮影することが可能です。

今浦: ちなみにHT100 IIIは今後も併売されるのですか。

伊藤: はい。HT100 III用の角型フィルターにはフィルターフレームがないので、システムがコンパクトになるというメリットがあります。

撮影中の補給食?……まだまだ広がるKANIワールド

今浦: HT100 IV用の製品の新製品や、現在開発しているものなどはありますか。

伊藤: 新製品としては、パーシャルブラックプレミアムミストフィルターがあります。HT100 IV用の100×150mm角型フィルターで、半分がブラックミスト、半分が透明というフィルターです。星景写真だけでなく、通常の風景写真にも使いやすいフィルターになっています。またそのホワイトミストバージョンも開発中です。

アクセサリーではサンシェードフードを開発しています。角型フィルターのシステムは純正レンズフードを取り付けられないため雨や雪が弱点です。そのためホルダーに取り付けられるフードが必要となります。HT100 III用のサンシェードフードと同じようにカーボンシート製で軽量で折りたたみできる構造のものを開発中です。レンズ側アダプターのみで使用することも考え、レンズ側アダプターに取り付けるフードも現在開発中です。

今浦: なるほど、製品化が楽しみですね。それとここ最近は食品やタオル、車中泊マットなど、一見するとフィルターとは直接関係がなさそうなものを取り扱いされているのが興味深いです。

伊藤: はい。最近は撮影行の周辺用品も取り扱わせてもらっています。タオルなどは人気で、すでに第3弾まで制作しています。車中泊マットは知り合いの社長から紹介を受けた会社の製品で、いいものを作ったんだけどなかなか自分のところだけでは売れないからということで、ロカデザインで仕入れてしています。

今浦: この車中泊マットは知人も使っていてすごく良いと評判です。個人的に面白いと感じているのは「KANI無添加羊羹」ですね。

KANI無添加羊羹

伊藤: 撮影中の補給食として販売を始めました。実は真冬の志賀高原で撮影会を実施したとき−20℃くらいまで気温が下がりまして……。その時にスキーのコーチなどもやられている宿のスタッフの方から、この羊羹をいただいたんです。そしたら本当に血流が戻ってきて、これはすごいなと。手も汚れないしゴミも少ないので、KANIでも製品化させていただきました。

今浦: なるほど。実体験からの製品化だったのですね。

HT100 IVは発売から1年で各種専用フィルターやアクセサリーを大幅に拡張してシステムとして非常に完成度を高めていることがわかりました。近年、カメラの性能進化も著しく、新しい表現に取り組みやすくなってきて、ますますフィルターの重要性が増してきていると感じます。そんなアーティスティックな表現世界を牽引していくKANIフィルターに、今後も期待しています。

その他注目のKANI製品をピックアップ!

枠が付いたとはいえ、フィルターは丁寧に扱いたい。そこでおすすめなのが、HT100 IV用フィルターを収納するための専用フィルターケースだ。100×150mmを4枚、100×100mmを3枚、ホルダーを1台収納できる。

HT100 IV用フィルターを収納できるAC-129F100

ありそうでなかった製品。レンズ前に角型フィルターを装着したまま移動したい場合、角型フィルターの前に「HT100 IVホルダーシールド」をセットすれば保護できる。こうした撮影者の視点に立ったアイデア商品も、KANI製品の特徴だ。

HT100 IV用角型フィルターの前に「HT100 IVホルダーシールド」を装着した状態

1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。日本各地の自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員。