トピック

いかに安定して動作させるかを重視…ProGrade Digitalの思想を引き継ぐポータブルSSD

メモリーカードやカードリーダーで業界をリードするProGrade Digital、が新たにポータブルSSD「PG10 USB4 SSD」を発売した。同社にとって初めての外付けストレージ製品で、プロのワークフローを支えることに特化したユニークなSSDである。一足先に製品を試す機会を得たので主な機能や長所をレビューしてみたい。

概要

近年は映像業界を中心に、撮影したデータをパソコンの内蔵ストレージではなく、外付けSSDに保存し、そのまま編集まで行ってしまうというスタイルが確立しつつある。背景にあるのは増大する撮影データだけでなく、ThunderboltやUSB4といった高速規格に対応した大容量ポータブルSSDが手軽に入手出来るようになってきていることだ。

読み書きが2,000MB/秒を超えるような高速ポータブルSSDであれば、4Kや8Kといった巨大なデータをPCの内蔵ストレージ並の操作感で、データの保管と編集を1度に行うことができてしまうのだ。

ProGrade Digitalが発売したPG10 Proは、USB4(Thunderbolt 4/3)に対応した高速SSDで、読み書きスピードがそれぞれ最高2500MB/秒、持続書き込み速度が2,000MB/秒を誇る。容量は2TB/4TB/Windows用 8TB/Mac用8TBの4タイプをラインアップする。2TB/4TB/Windows用 8TBはexFATでフォーマットされており、Mac用8TBはAPFSでフォーマットされている。

ProGrade Digitalによると、8TBのexFATはMacOSのバージョンにより正しく認識しないことがあるため、APFSバージョンを用意したとのことだ。フォーマット形式以外の違いはないとする。

ProGrade Digital製メモリーカードの健康状態チェックや完全消去、ファームアップを可能としたRefresh Pro(無償)にも対応しており、健康状態のチェック(ヘルス)や出荷状態へのフォーマット(サニタイズ)を行うことが出来る。iOS版はMac側の制限により、現在はヘルスのみ利用できる(対応ドライバを開発中とのこと)。

4TBのサニタイズは約2分で終了した。機密性の高いデータを扱う際はぜひ活用したい

USB4対応で最高2,500MB/秒というのは少々物足りないと感じる読者もいるだろうが、ここがPG10 Proのユニークな点でもあり、ProGrade Digitalらしさでもある。なぜこのようなスペックになっているのかもこれからじっくり紹介していきたい。

外観

今回評価したのは4TB版。製品を手にして最初に驚いたのはその重厚さだ。SSD本体は堅牢な専用ハードケースに収まっており、この時点で普通のポータブルSSDとはちょっと違うぞ……という雰囲気を醸し出す。

ケース内にはSSD本体とUSB4対応ケーブル(70cm)が収まっているほか、マグネットベースも付属する。本製品もProGrade Digitalのカードリーダーと同じくマグネットが付いているため、ノートPCの画面裏などにマグネットベースを取り付ければPCと一体化させて安全に運用することが出来る。

SSD本体を取り出すとその大きさ、重さもただ者ではないことが分かる。製品重量は4TBで558gと一般的なSSDよりも重く、サイズも大きいのだ。

USB4(Thunderbolt 4/3)対応SSDは発熱が非常に大きいため、長時間運用すると高温により触れなくなったり、サーマルスロットリングが発動し、パフォーマンスが極端に下がってしまう現象が起きることがあるが、PG10 Proは巨大なヒートシンクを搭載することでファンレスでありながら、使用中に高温となることがない。

ProGrade Digitalによると、使用中の温度制御に非常に長い時間をかけて開発したという。プロのワークフローを止めないことを目指す同社らしいこだわりをもった製品だ。使用中の温度変化については後述する。

本体上部の枠はラベルを貼ることを想定しているようだ。大容量SSDを複数使うプロの現場でも混乱せず安全に使う事を考えた仕様だろう。

この手のSSDは排熱のために表面に穴が開いていたり、凹凸があるものが多いが、本製品は平らで、側面に排熱用の穴が開いている。

ラベル枠は米国のラベルメーカーAvery 5440サイズ(1.5×3インチ)に合わせているようだ。国内でジャストサイズを探すのは難しいかもしれないが、白いパーマセルなどを貼っても良いだろう
両側面にスリット状の排熱穴を設ける

専用ハードケース底面にはSSD本体と同じシリアルナンバーが記載されており、取り間違えを起こさないためのこだわりも感じられる。

ステータスランプは2カ所あり、先端のオレンジ色のランプがアクセスランプ、端子側が電源供給状況を示す。このランプが緑ならOK、オレンジ色は電源不足となるようだ。

ベンチマーク

PG10 4TB版のMacBook Pro(M3 MAX、OS 14.7.1 Sonoma)におけるベンチマークソフトの結果は以下の通りだった。Thunderbolt 4対応ポートに接続して評価を行っている。

残量100%、テストサイズ1GB
残量100%、8K 10bitYUVモード、左1GB、右64GB

AmorphousDiskMark(テストサイズ1GB)では公称読み出し速度に近い約2,449MB/秒となり、書き込みは約2,169MB/秒となった。

実際の動画ファイルの転送を再現したAJA System Test Liteで8K(10bit YUV)モードでもAmorphousDiskMark同様に安定した結果となり、テストサイズ64GBと大きなファイルでも公称持続書き込み速度2,000MB/秒をしっかりと維持している。転送速度も常に一定だった。

SSDは容量が満杯に近づくにつれパフォーマンスが落ちてくることが多いため、容量の90%以上を埋めたほぼ空き容量のない状態でもベンチマークテストをしてみた。結果は以下の通りで、空き容量100%(出荷時)とほぼ同じパフォーマンスになっていることに驚く。

残量8.5%、テストサイズ1GB
残量8.5%、8K 10bitYUVモード、左1GB、右64GB

PG10 Proはトップスピードこそ控えめながら、空き容量に関係なく常に一定のパフォーマンスを発揮するような設計になっている事が分かる。

Windowsでは手持ちの機器でUSB4に対応したものがなかったためUSB 3.2 Gen 2×2での結果となるが、こちらでも規格上限の20Gbpsに近い2,000MB/秒オーバーの速度が安定して計測された。

実際のファイル転送と発熱

最後に、実際に撮影した大容量ファイルの転送スピードの変化とその時の発熱についても紹介しよう。

以下にEOS R5 Mark IIで撮影した8K30pのRAW動画データ(約436GB)をPG10 Proに連続して書き込んだときの転送時間とSSD本体温度の実測値をまとめた。

MacBook Pro(M3 MAX、OS 14.7.1 Sonoma)の内蔵ストレージからRapidCopyを使って転送。同一ファイルをリネームしながら8回連続で間を置かずに書き込んだ。温度は非接触温度計にて、PG10 Pro表面の3点を測定。

書込回数累積容量
(GB)
転送時間
(秒)
転送速度
(MB/秒)
温度・端子側
(℃)
温度・中央
(℃)
温度・先端
(℃)
温度・平均
(℃)
14362631,69134.334.134.034.1
28722611,70739.337.637.638.2
31,3082611,70641.740.440.340.8
41,7442611,70844.042.642.543.0
52,1812621,70246.145.544.745.4
62,6172631,69647.745.744.746.0
73,0532631,69348.947.545.847.4
83,4892631,69649.048.846.047.9

結果は436GBという巨大ファイルを連続して書き込んだにもかかわらず、SSDの容量が90%を超えるまでほぼ一定の速度で書き込めていることが分かった。書込中にキャッシュ切れで速度が落ちるということもなく、最初から最後まで、ストレージの全領域に渡って同一パフォーマンスを発揮していることが分かる。

温度上昇も非常に緩やかで、35分以上連続してデータを書き込んだにもかかわらず、最終温度は50℃以下に納まる優秀さだ。使い捨てカイロよりも温度が低い。条件としては風を当てるなどの対策を全くせず、デスク上に置いただけだ。

参考までに他社製のThunderbolt 4対応ポータブルSSD(4TB)でも同じテストをしたところ、4回目終了時に温度が60℃近くなり、5回目からはサーマルスロットリングと思われる速度低下が発生して速度が1/2以下となってしまった。

まとめ

多くのポータブルSSDがトップスピードを重視するのに対し、本製品はいかに安定して動作させるかを重視して設計されているかがよく分かる結果となった。

同社のUSB4対応カードリーダーと組み合わせれば、大量の撮影データを高速かつ安定してSSDへデータ転送できるようになるだろう

ProGrade Digitalに取材をすると、どんな状況でもきちんとパフォーマンスをは発揮させ、「ワークフローの効率化を実現する」ことが企業理念だと度々耳にするが、今回のPG10 ProもそんなProGrade Digitalの思想を強く引き継いだ製品だと感じた。

中原一雄

1982年北海道生まれ。化学メーカー勤務を経て写真の道へ。バンタンデザイン研究所フォトグラフィ専攻卒業。広告写真撮影の傍ら写真ワークショップやセミナー講師として活動。写真情報サイトstudio9を主宰。ライフワークは写真をより楽しむための情報を発信すること。2021年より北海道に移住して活動中。