トピック
ニコンZ6IIIの新機能「フレキシブルカラーピクチャーコントロール」とは?
“自分の色”を柔軟に作成・登録 撮影時にリアルタイムでプレビューも
2024年9月13日 07:00
ニコンのミラーレスカメラ「Z6III」には、無償でダウンロードできるニコンの画像閲覧/現像/編集ソフトウェア「NX Studio」の新機能「フレキシブルカラーピクチャーコントロール」(以下、FCPC)との連携機能が盛り込まれている。「NX Studio」で作った自分好みの色味を、「カスタムピクチャーコントロール」(以下、CPC)としてZ6IIIに取り込むことができるのだ。
ここではFCPCとその活用法を写真家の上田晃司さんに伺った。
上田さんは8月11日(日)・12日(月・祝)に開催されたGANREFの「ニコン Z6III 尾道セミナー&撮影会」で講師を務めている。その際、参加者に自作のFCPC「尾道パステル」などを配布し、その効果や使い勝手を解説していた。
参加者の感想やZ6IIIのレビューについてはこちらを見ていただきたい。
GANREF
注目製品レビュー ニコン Z6III
「ピクチャーコントロール」との違いは?
ニコンには従来より「ピクチャーコントロール」という写真の雰囲気を変える画作り設定を行うための機能がある。
その「ピクチャーコントロール」をカメラやニコンのソフトウェアで好みに合わせて調整し、CPCとしてカメラに登録することができる。登録したCPCを呼び出せば、撮影時にリアルタイムで背面モニターやEVFにCPCの画作りを反映させたり、CPCで現像したりすることできる。
それでは、従来の「ピクチャーコントロール」とFCPCとで、どのような違いがあるのだろうか。
従来の「ピクチャーコントロール」では、明るさやコントラスト、色の濃さなどカメラ内で調整できる範囲のコントロールにしか対応していなかったのに対して、 FCPCではトーンカーブのほか、ハイライト、シャドー別のコントロールや色別のコントロールなど調整の方法が増えた のがポイントだ。また「NX Studio」内の カラーブレンダーやカラーグレーディングを利用することで、調整がさらに容易になっている 。
FCPCは、ニコンのソフトウェア「NX Studio」で調整でき、カメラに転送して 撮影時に調整値を反映したライブビューをEVFで確認できる 。
これまでのホワイトバランス調整では難しかった「特定の色だけを変える」といったことも可能 。上田さんによると、空の色をシアンっぽくしたり、赤い部分が強すぎるから赤だけを落とすといったことができるようになったそうだ。
最近流行のルックはシャドーとハイライトを別々に調整されているタイプも多く、ニコン純正のシステムで簡単にこうした絵作りも行えるようになった。
なお、NX StudioでFCPCを調整できるのはRAWデータとなる。このため、 RAWデータであれば、過去のニコン機の多くでもFCPCの調整が可能 になっている。
上田版オリジナルFCPCの特徴
今回、上田さんがオリジナルのFCPC「尾道パステル」で撮ったという作品を見せてもらった。
「青とシアンと緑の色相がちょっと動いている感じです。ベースとしてかなりシアン方向になっています。それだけだと色が薄くなるので、そのぶん彩度を少し増しています。そして明るさもちょっと上げているので、様々なシーンに合うようになっています。カメラ単体では作れないので、ここがFCPCの売りです」(上田さん。以下同)。
加えて、ハイライトを抑えてシャドーを上げるというコントラストが弱くなるトーンにしているそう。
「そして、カラーグレーディングではシャドーにグリーンをわずかに入れています。加えて、ハイライトにオレンジがちょっと入るようにしています。フィルムのポートラを意識しつつその中にやや暖色を入れた感じですね」
シャドーにグリーンを入れるのはシネマ系のフィルムルックに近づけるためとのこと。今回の設定は日の当たっているシーンには特に相性が良いとのことだ。
実際の作成手順
ここまで見てくると、FCPCでかなり細かいコントロールができることがわかった。そこで、実際の作り方のワークフローを伺った。
上田さんによると最初にルックの目標を決めて、そこに向かって調整をしていくのがポイントとのこと。
「むやみに進めるとわからなくなってしまいます。FCPCは一度絵がフラットになったところからスタートするので、言葉でイメージを固めておくと良いのです。『空をシアンっぽく、コントラストは浅く、緑はどうする?』みたいなことを頭の中に書き出しておく。それがスタート地点になります」
確かにFCPCは調整項目がCPCよりもグッと増えるので、方向性が無いとどのパラメーターをどう動かして良いのかわからなくなってしまうだろう。上田さんによると、好きな写真や絵などを参照しながら目標にするのも手とのこと。
具体的な手順としては最初にコントラストの調整を行う。絵のだいたいのメリハリを決めておくそうだ。ここでは下げる方向で−20に設定した。
続いて、ハイライトとシャドーを調整。コントラストを押さえたいので、ハイライトは−20、シャドーは+20に。白レベルと黒レベルは今回触らず、色は鮮やかな方が良いので、彩度を+20にした。
ここまででベースが完成。このあと色相を中心に調整していく。まず空の色をシアン方向にするために「カラーブレンダー」で青の色相を−40に設定。空は少し明るくするために明度を+10にする。続いて緑を鮮やかにするために少し彩度を上げる。
「特にカラーブレンダーの『カラー』は色の知識が無くても比較的簡単に調整ができます」。
ここまでで大体のルックができあがった。これで満足であれば、「カラーグレーディング」は動かさなくてもOK。
今回上田さんはさらにカラーグレーディングでハイライト側にオレンジとシャドー側に少しグリーンを足していた。カラーグレーディングには「中間」もあるが、あまり触ることは無くシャドーとハイライトを動かすのが効果的だそうだ。
カラーグレーディングの操作のコツとしては最初にホイールの端までポイントを動かして色相を決定し、そこから彩度のバーを下げて調節するということ。ホイール上で彩度を調節しようとするとマウス操作などでは色相も動いてしまう可能性があるためだ。
これで一応の完成となる。この後保存してほかの写真にも適用し、破綻が無いかを確認しておくことも大切だという。色々な写真で検証することで、調整値がどのようなシーンに合っているのか、合っていないのかを知っておくことが重要とのことだ。
完成した調整値はファイルとしてSDカードに書き出して、カメラのCPCとして登録しておく 。これが一連の流れだ。
「映画を見てその雰囲気がいいなと思ったら真似してみるのも良いでしょうし、雑誌の写真のルックを参考にするのも面白いですね。そして、これがリアルタイムでカメラで見ながら撮れるのでモチベーションが上がります。これが一番大きなところでしょう」。
なお、FCPCのパラメーターはカメラ側で調整できない。そのため、効果の強いタイプや弱いタイプなど複数のバリエーションを登録しておいて、現場で切り換えて使うというテクニックもある。
カメラ側での調整対応に期待
最後にFCPCの感想や今後への期待を伺った。
「適用度をカメラで変えられるようになれば、FCPCは圧倒的に良くなると思いますね。もっと言うと、ハイライトやシャドーなどNX Studioでやっている調整がカメラでできると良いですね。そうすると現場でどんどん調整できるのでシーンに応じた対処がしやすくなると思います」。
加えて現状ではカメラへのCPC登録数が9つまでなので、もう少し増やしてほしいとのこと。
ほかには調整値を3D LUTとして書き出せると動画への対応という点で良いのではとのことだった。
カメラではRAW+JPEGで撮っておくのがお薦めだそうで、 FCPCを適用したJPEGはSNSなどのアップ用として使用し、RAWはNX Studioでさらに調整を追い込むために使う 。FCPCで作った調整値を適用して撮ったRAWは、NX Studioで読み込むと設定値が引き継がれているので、そこから必要に応じて調整を進められるというわけだ。
FCPCの特徴の1つでもある「過去のカメラの画像にも適用できる」点は、上田さんも高く評価していた。以前のニコン機で撮影した作品に、最新のFCPCを適用してその魅力を再発見、というのも楽しそうだ。過去の作品までフォローしてくれるところは、いかにもニコンらしい点といえるだろう。 NX Studioは無料なので 、Z6III以外のニコンユーザーもぜひFCPCを試してみて欲しい。
なおZ6IIIのユーザーなら、ニコンの新しいクラウドサービス「Nikon Image Cloud」に公開されている クリエイターの「イメージングレシピ」もZ6IIIに取り込むことができる 。好みのレシピを取り込んでみてはいかがだろうか。