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【緊急インタビュー】「CFexpress 4.0」対応製品を投入した意図、そして今後の展開について
ProGrade Digital創業者兼CEOのウェス・ブリュワー氏に訊く
- 提供:
- ProGrade Digital Incorporated
2023年9月29日 08:30
ついに日本でもProGrade Digitalから、「CFexpress 4.0 Type B COBALT 1.3TB」の発売がアナウンスされた。米国で9月5日に先行して発表された製品だ。同社では「CFexpress 4.0規格に完全準拠で世界初の製品化」と謳う。
CompactFlash AssociationからCFexpress 4.0策定の発表があったのが8月28日のこと。その約1カ月後に製品投入というスピード感には驚かされる。
現状、カメラメーカーからCFexpress 4.0への対応について動きはない。むしろCFexpress自体の普及が途上ともいえる段階にある。にも関わらず、迅速にCFexpress 4.0対応製品をリリースしたProGrade Digitalの意図はどこにあるのだろうか。
以下、ProGrade Digital創業者兼CEOのウェス・ブリュワー氏に、メールでインタビューした内容になる。
サンフランシスコ大学で経済学の学士号を取得、ペッパーダイン大学でMBAを取得。プログレードデジタルの創業者兼最高経営責任者。リムーバブルストレージとデジタルイメージング業界で30年以上、経営幹部として企業戦略、製品開発、市場開発に携わる。プログレードデジタル設立前はレキサーの経営責任者および副社長兼ゼネラルマネージャーを務め、レキサーブランドのすべてのメモリー製品のマーケティング、製品管理、エンジニアリング、品質、製造、サプライチェーン、および需要計画を担当。サンディスクでは副社長を務め、数十億ドルの小売事業を築く重要な役割を果たした。
早期投入の意図
——CFexpress 4.0対応のカメラが発表されていないにも関わらず、CFexpress 4.0対応カードを先立って、発表、発売した目的は何でしょうか?
CFexpress 4.0は、PCIe Gen4をベースに規格化されています。PCIe Gen4は既にPCの世界では標準となっていますので、CFexpress 4.0カードとUSB4.0カードリーダーの組み合わせがあれば、お客様の写真や動画のワークフローは劇的に改善されると考えたからです。
CFexpressにとっては新しい技術でも、最新のパソコンを所有している多くのお客様にとっては、既に存在する一般的な技術です。これにいち早く対応することは、幅広いお客様にメリットになると信じています。
新製品のCFexpress 4.0 Type B COBALT 1.3TBカードと、USB4.0シングルスロットカードリーダー(以下PG05.6)を利用すれば、従来のCFexpress 2.0カードとUSB3.2 Gen2カードリーダーPG05.5の組み合わせに比べて、ワークフロー生産性が約3倍向上します。
同時に、CFexpress 2.0カードとPG05.6の組み合わせで、MacBookなどUSB4.0対応パソコンに接続すれば、ワークフロー生産性は約2倍になります。CFexpress 4.0カードを発売する必然としてのPG05.6ですが、既存のカードにも飛躍的な生産性の向上をもたらすという副次効果も生み出しています。
新しい技術や規格をいち早く製品化することは、時には、大きな複合的な効果を生み出すことがあるということを、私たちは経験的に知っています。CFexpress 4.0カードに不可欠なものとして生まれたPG05.6は、その一例であると思います。
規格策定について
——CFexpress 4.0規格の策定において、主導したのはカメラメーカー側でしょうか?それともメモリーカードメーカー側でしょうか?
CFexpress 4.0規格は、カメラメーカーとメモリーカードメーカー双方が話し合って決めた規格です。どちらが主導的ということはありません。しかしながら、カメラが新規格に対応するためには、新規格カードが物理的に存在しないと開発することができません。メモリーカードは常に先に存在しなければならないという宿命を持っています。その点でいえば、メモリーカードメーカーが具体的なプランを先に持っていたといえるでしょう。
——CFexpress 4.0カードの開発で最も難しかったことはなんでしょうか? ProGrade Digitalとしてどのような対策をしてきたでしょうか?
新しいCFexpress 4.0 カードの開発における最大の課題は、大量のデータをより高速に転送する際の熱特性を考慮し、対策を講じることでした。
今回発売するCOBALT 1.3TBカードは発熱性の低いpSLCメモリーを採用し、サーマルスロットルと呼ばれるカードが限界以上に熱くなる前に出力を下げる機能がついています。
したがって、発熱対策の課題は、むしろカードリーダーにありました。PG05.6では、従来のカードリーダーの構造を見直し、冷却性能を高めるヒートシンクを内蔵するなど再設計することで、発熱によってカードが故障したり、カードでサーマルスロットルが機能して転送速度が低下することを抑制するようにしました。
——CFexpress 3.0をとばして4.0となった理由は何でしょうか?
CFexpress規格は、元々PCIe Gen3ベースとして、バージョン1.0が誕生しました。次に、Type AおよびType Cの規格が加えられ、バージョン2.0となりました。さあ、PCIe Gen4ベースに進化しようというときに、CFexpress 3.0では、PCIe Gen3と混同してしまうのではないかという懸念が生まれ、「3.0」をスキップして、バージョン4.0とすることにしたのです。したがって、今後はPCIeのバージョンと合わせて、CFexpress 5.0, 6.0と進化していくことになると思います。
現状で想定するユーザー層
——CFexpress Type B 1.3TBは22万円と高額ですが、想定する顧客はどのような方々でしょうか?
1.3TBという大きな容量、最大3,400MB/秒という書き込み速度、そして22万円という価格を考慮すると、最初のお客様の多くはシネマグレードの高精細動画を扱う撮影スタジオや、ビデオグラファーになると考えています。
例えばRED Digitalはすでに、弊社のCFexpress Type B COBALTシリーズを「承認」していますが、1.3TBも承認リストに追加しました。V-Raptorや最近ではKomodo-XでCOBALT 325GBや650GBカードを使用している撮影監督は、新しいリーダーだけでなく新しいカードも採用することで、ワークフローに大きなメリットを得ることができるでしょう。もちろん、スポーツ、レース、動物など高速連写で大量に撮影し、素早く編集を行うプロフェッショナルフォトグラファーも対象になると思います。
新カードリーダーについて
——USB4.0に対応した新カードリーダーPG05.6の価値をどのように考えていますか?
このカードリーダーは、CFexpress 4.0カードの性能を発揮するためにはなくてはならない製品です。しかしながら、先ほど述べたように、既存のCFexpress 2.0のワークフローも進化させる効果が期待されます。その意味では、当社製品に限らず全てのメーカーのCFexpress Type Bカードにポジティブな影響力のある製品です。
価格も1万5,200円と性能を考えるとリーズナブルな価格ですので、既存のCFexpress Type BカードとMacなどUSB4.0対応パソコンを利用する全てのお客様に購入を検討していただきたいと思います。
カメラ業界・メモリーカード業界の今後
——CFexpressに参入した当初考えていたメモリーカードの進化のスピード感について、現在のカメラの進化スピードは早いですか? 遅いですか?
CFexpressカードが生まれる前のデジタルカメラを思い出してください。片手で軽々持てるような小さなカメラで8K RAW動画が撮影できたり、秒間30コマの高速連写をノンストップで撮影できたりすることなど想像できたでしょうか? 私たちは、数年かかると想定していましたが、想像を超えるスピードで実現していきました。その点では、十分に早いといえるものだと思います。
しかしながら、そもそも(スマートフォンのカメラ機能を始めとして)デジタルデバイスの世界は飛躍的に進化している中で、デジタルカメラがその世界だけでの進化を考えてはいけないと思います。他のデジタル機器の進化スピードを超えるような速度で、カメラの世界も進化する必要性があります。
その点で、最初のCFexpress 4.0カードをCOBALTという最高性能グレードで発売したことによって、数年のうちに、このカードの性能を生かしきるようなカメラが発売されるような未来を導くことができたら嬉しいです。
——現在のカメラはSD(主にUHS-II)、CFexpress 2.0(Type A、Type B)のカードが使われていますが、これらとCFexpress4.0カードの棲み分けはどのようになっていくと考えていますか?
まずCFexpressカードですが、全てのSSDがPCIe Gen4およびGen5対応へと進化しているように、Type A、Type Bに関わらず、全てのCFexpressカードは、4.0に進化していくことになると思います。
実は、私はSandiskに勤務していた時に、SandiskのSDA設立をリードしていました。ある意味では、SDカードの生みの親の一人と言えます。しかし、それはもう4半世紀前のことです。PCIe Gen4、Gen5のような超高速転送の時代に、薄いプラスティックの筐体に象徴される25年も前に作られた規格では、今日のイメージング製品の進化には適応できないと言えます。その点では、SDカードのサイズを期待するデジタルデバイスには、PCIeベースの高速性能と熱特性に優れたCFexpress Type Aが採用されることになると考えています。
——現在のCFexpress製品はいずれCFexpress 4.0に置き換わると考えていますか? だとしたらそのタイミングは?
今後数年間で、主にワークフローパフォーマンス向上の利点により、Type BもType AもCFexpress 2.0の大部分が 4.0 に移行すると考えています。 今回の私たちの新製品の発表で、このトレンドが幕を開けたといえるでしょう。
——ProGrade Digitalとして、今後のカメラはどのような発展をしていくと考えていますか。また、それに対して御社はどのような役割を果たしていきたいと考えていますか?
当社は、CFexpressカード第一世代でSLCテクノロジーを適用し、COBALTブランドを付して、各カメラメーカーに高速性能と低消費電力(低発熱性)の可能性を提案してきました。特に日本のカメラメーカーには、その可能性の意味するところを早くから認めていただき、COBALTカードはメインの開発カードとなることができました。その意味では、ここ数年のカメラの飛躍的進化の一役を担えたのではないかと自負しています。
私たちは、フラッシュメモリー技術を熟知したメモリーカードメーカーにすぎないので、カメラの進化を予言することはできません。私たちができることは、フラッシュメモリーの進化を踏まえて、より新しい技術を持った製品をカメラメーカーに提案することです。その結果として、私たちが想定するより大きな飛躍が実現され、世界中の多くのカメラに関わるプロフェッショナルやハイアマチュアの皆さんが幸せになるという役割を果たせることを願っています。