特別企画

夏本番!花火の色を忠実に撮るには?

ホワイトバランスを駆使して、花火師の意図を再現する

緑点滅花火は色鮮やかでしかも明るい。露出オーバーになってしまうと色が再現できない。D5100・AT-X 124 PRO DX II・マニュアル露出・F16・9.4秒・WB:電球・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚

夏といえば「花火」を連想する人は多いだろう。

花火には様々な色合いと形が存在するのだが情報誌やネットで公開されている写真を拝見すると色が濁っていたり、露出オーバーだったりと残念な写真が目に付いてしまう。

なぜか?

伝統文化で永久不変と思われがちな花火だが、実は毎年新しいタイプが発表されている。花火師さん達の努力により次々と発表されているのだ。特に色の種類についての進化が著しい。

そのためフィルム時代からの撮影テクニックをデジタルに転用するだけでは、新しい花火の色を忠実に捉えられないケースも出てきている。

ここでは花火の色とその忠実な再現方法について考察してみたい。

花火の種類と色

花火は大きく分けて、和火(わび)と洋火(ようび)に分類できる。

和火は黒色火薬を使用した日本伝統の深い橙色(だいだいいろ)だ。この橙色は炭が燃えている時の色に近い。線香花火や手筒花火などが黒色火薬の色合いだ。打ち上げ花火では和火花火と言うタイプがそれにあたる。

洋火に比べると暗めで大人しく、江戸時代には和火の色が主流だったそうだ。街灯やイルミネーションが無い時代には和火でも華やかに感じられたと想像される。

和火は暗めの花火なので、絞りを開けて撮る必要がある。

スターマインの一場面で和火の柳が何発も開花した。柳はゆっくりと垂れ下がってくるタイプの花火だ。低空の噴出花火は青色でしかも先端が小さな彩色の柳だった。D600・AF-S NIKKOR 18-35mm f/3.5-4.5G ED・マニュアル露出・F5.6・3.8秒・WB:AUTO2(電球色を残す)・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚

「洋火」は火薬に様々な物質を混ぜ炎色反応を利用し色や明るさの調整を行っている花火だ。

どんな物質を混ぜているのかは煙火業者により秘密になって公開はされていない。

基本的な例

紅色:過塩素酸カリウム、炭酸ストロンチウム、レッドガム
緑色:過塩素酸カリウム、硝酸バリウム、塩化ゴム
青色:過塩素酸カリウム、酸化銅、フェノールレジン
黄色:過塩素酸カリウム、ナトリウム、フェノールレジン
紫色:過塩素酸カリウム、炭酸ストロンチウム、酸化銅、レッドガム

上記以外にも中間色やパステルカラーなどのカラフルな花火が次々と発表されている。

一般的な花火大会で上がっている花火のほとんどは、洋火で構成されていることが多い。和火は脇役に回ってしまっている。しかし、江戸時代から継承されている和火花火は日本人として大切にしていきたい花火の一つだと感じている。

紅、黄、緑、青、が組み合わさった牡丹花火のスターマイン。ホワイトバランスの選択を間違えると濁った色になってしまう。D610・AF-S NIKKOR 16-35mm f/4G ED VR ・マニュアル露出・F4・10.8秒・WB:電球・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚

和火と洋火でホワイトバランスを使い分ける

和火のホワイトバランスは?

デジタルカメラを始めてから、和火のホワイトバランスは晴天(太陽光)が良いと思っていた。

しかし、和火は煙火業者によって橙色の濃さが違う。濃い橙色の和火を作る煙火業者もいれば、明るい橙色で和火を作る煙火業者もいる。ホワイトバランスを晴天に設定して撮っていると、橙色が濃すぎると感じる時があった。

実は最近のニコンの一眼レフカメラには、ホワイトバランスの設定のひとつとして、AUTO2(電球色を残す)が搭載されている。試したところ、こちらの方が和火には良いようだ。

まだ使い始めて日が浅いので、すべての和火がAUTO2で最適なのかは不明だが、これからの撮影で検証することにしたい。

和火よりも多少明るい橙色の花火、「錦冠菊花火」(にしきかむろぎくはなび)や「椰子花火」(やしはなび)なども、ホワイトバランスをAUTO2(電球色を残す)するのが良い。錦や椰子の明るい橙色を、黄金色と表現する煙火業者もいる。

ちなみに「錦冠菊花火」とは、上空で開花したあと火の粉を長く垂らし地上すれすれまで下がるタイプの花火。スターマインで沢山の花火が重なって上がると豪華で迫力がある。

錦冠菊(にしきかむろぎく)のスターマイン。AUTO2(電球色を残す)で見た目に近い色合いに撮れた。D600・AF-S NIKKOR 18-35mm f/3.5-4.5G ED・マニュアル露出・F11・13.7秒・WB:AUTO2(電球色を残す)・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚
こちらはホワイトバランスを晴天にして撮影した結果。橙色が濃く感じる。D5100・SP AF17-50mm F/2.8 XR Di II LD Aspherical [IF]・マニュアル露出・F9.5・6.1秒・WB:晴天・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚
RAWで撮影してWBを電球に設定。まるで色の濁った銀冠菊(ぎんかむろきく)の様な写真になってしまう。D5100・SP AF17-50mm F/2.8 XR Di II LD Aspherical [IF]・マニュアル露出・F9.5・6.1秒・WB:晴天・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚

洋火のホワイトバランスは?

洋火のホワイトバランスは電球(電灯)が良い。もしオートや晴天で撮ると全体的にオレンジ色に濁ってしまいイエローはオレンジ色に写る。そうなってしまうと、ピンクやスカイブルーなどの中間色は表現できない。特に淡いパステルカラーの花火は見た目とは違ってしまう。

「銀冠菊花火(ぎんかむろぎくはなび)」など銀、白、雪と言う白系統の花火は、晴天やオートで撮ると薄い橙色に写ってしまい、中途半端な「錦冠菊花火(にしきかむろぎくはなび)」のような写真になってしまう。

ホワイトバランスを電球に設定したことで、中間色の色合いが表現できた。株式会社イケブン(煙火業者)が得意のパステルカラーと銀冠菊が重なっている。D5100・AT-X 124 PRO DX II・マニュアル露出・F11・8.4秒・WB:電球・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚
これは失敗例。ホワイトバランスを晴天にして撮ったため、すべての色がオレンジ色に偏ってしまっている。銀冠菊なのに薄い錦冠菊の様な色に写ってしまう。D200・AF-S NIKKOR 18-35mm f/3.5-4.5G ED・マニュアル露出・F22・8.5秒・WB:晴天・ISO400・リモートケーブル・三脚

洋火と和火、一緒に上がる場合は?

花火大会では洋火と和火が一緒に上がる場合も多々ある。

錦冠菊花火の中心に色鮮やかな洋火を重ねている「錦冠菊小割浮模様」(にしきかむろぎくこわりうきもよう)とか、暗い和火の先端の色が明るい紅や青に変化する「和火柳先紅」(わびやなぎさきべに)等というタイプもある。

こういうとき、ホワイトバランスを電球か晴天のどちらかに設定すると、和火か洋火のどちらかの色は濁ってしまう。和火と洋火のどちらがメインの花火なのかを見極めて、ホワイトバランスの設定をした方が良い。

ところで、小規模の花火大会では設定を変えている時間が無いこともある。

私はRAWで撮った後にPCでホワイバランスを設定することもあるが、可能な限り撮影中にホワイトバランスの設定を変えるように心掛けている。

というのも、PCでホワイトバランスの調整を行なうときに、「和火はどのくらいの橙色だったのか?」など、花火の色を覚えておく必要がある。経験を積み慣れていないと、再現するは難しいだろう。

花火の種類をどうやって見分けるか

大規模な花火大会では大抵「花火打ち上げプログラム」が用意されている。開始の時間や打ち上げ順番、そして玉名(ぎょくめい=花火の種類)などが書かれているもので、このうち玉名が重要だ。

花火打ち上げプログラムの一部分

例えば、「昇曲導錦冠小割浮模様」(のぼりきょくどうにしきかむろこわりうきもよう)と言う花火の場合を見てみよう。

その名を見ると、打ち上げと同時に上空に向かって真っ直ぐな火の筋「昇り」が付いていることが分かる。また、花火の中心に色鮮やかな小さな玉(洋火)が沢山開く「小割浮模様」を伴うようだ。そして、花火の本体は「錦冠」である。

本体が和火の錦冠ということは、「ホワイトバランスはAUTO2(電球色を残す)が良いな」と判断できる。

では具体的にどうするか。

先にも書いたように、現在の花火大会では大半は洋火が主流になっている。

まずはホワイトバランスを電球(電灯)にして撮影を開始。事前にプログラムでチェックしておいた和火、錦、椰子などの花火が上がる前に、ホワイトバランスをAUTO2(電球色を残す)にするのだ。

プログラムは大会本部のテントで配っていたり、100円から1,000円ほどで販売されていることもある。最近では花火大会の公式サイトで公開されるようにもなってきた。

花火の種類を理解して撮影できれば、楽しさは倍増するだろう。

花火打ち上げプログラムの一部分
玉自体にも玉名が書かれている。

日本の花火は芸術作品

花火を間近で見ると迫力ばかりが印象に残る。しかし、花火にも様々な色と形があるのだ。

例えば、上空で開花し何度も色を変えながら消えていく「変化菊」(へんかぎく)。

中心から幾重にも重なり広がる「三重芯」(みえしん)、「四重芯」(よえしん)、「五重芯」(いつえしん)。

色鮮やかな小さな玉が一斉に咲く「彩色千輪」(さいしょくせんりん)。

大玉だけでなく、小さい玉や噴出花火などにも魅力的な花火が沢山ある。花火には微妙な色合いや美しい形があることを知り撮影に挑んで欲しい。

花火は日々進化し続けている。そして今、デジタル技術の進歩により、撮影テクニックにも変化が起き始めている。いつの日かホワイトバランスオートで、すべての花火が撮れる日がやってくるかも知れない。

手筒花火が終わった後、降り注ぐ火の粉の中を歩く氏子(うじこ)。この写真はホワイトバランスを晴天にして撮っている。今年はAUTO2(電球色を残す)で挑んでみる。D300・18-200mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSM・マニュアル露出・F9.5・1/8秒・WB:晴天・ISO100相当・三脚
「夕映えの椰子」と名付けられたワイドスターマイン。洋火の橙色はホワイトバランス電球が良い。D600・AF-S NIKKOR 18-35mm f/3.5-4.5G ED・マニュアル露出・F13・1.8秒・WB:電球・ISO100・ND4フィルター リモートケーブル・三脚
直径800〜850mにも広がると言われている世界最大の四尺玉。二尺、三尺、四尺の殆どは錦冠菊だ。D600・AF-S NIKKOR 18-35mm f/3.5-4.5G ED・マニュアル露出・F11・120秒・WB:晴天・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚
噴出花火と小さな3号玉だが何度も色を変化させながら広がり消えていく。美し色合い、儚い姿を見せてくれた。D5100・AT-X 124 PRO DX II・マニュアル露出・F9・12.2秒・WB:電球・ISO100・ND4フィルター・リモートケーブル・三脚

金武武

(かねたけたけし)1963年神奈川県横浜市生まれ。写真の技術を独学で学び30歳で写真家として独立。打上げ花火を独自の手法で撮り続けている。写真展、イベント、雑誌等、メディアでの発表を続け、花火の解説や講演会、花火撮影ツアーの依頼が増えている。2016年には花火打上従事者の資格を取得。博報堂Webサイト「ONESTORY」でコラムを連載中。著書に「眺望絶佳の打ち上げ花火」(玄光社刊)、「デジタルカメラ超・花火撮影術 プロに学ぶ作例・機材・テクニック」(アストロアーツ刊)。DVDに「デジタルカメラ 花火撮影術」。