コラム
ソニーRX1シリーズの歩みを振り返り、「RX1R III」の登場を祝おう
2025年7月23日 12:00
9年ぶりにRX1シリーズが復活したと話題のソニー「RX1R III」。この登場に心震わせたカメラおじさん(※筆者のことです)が、初代RX1の登場した2012年からどのような時代を見てきたのか。RX1R IIIの予約受付開始に寄せて、その歩みを振り返ってみたい。
“フルサイズコンデジ”の衝撃「RX1」(2012年11月発売)
初代RX1の登場は13年前。有効2,430万画素の35mmフルサイズセンサーに、ゾナーT* 35mm F2のレンズを搭載。AFはコントラストAFだった。EVFではなくポップアップ式のストロボを装備しているのも、今となっては時代を感じるところか。発売時の店頭予想価格は25万円前後で、「コンデジで25万円もするのか!」との声もありつつ、カメラ好きに強く訴えかけるパッケージングだったことは間違いない。
当時のソニー機といえばAPS-Cミラーレスカメラの「NEX」が話題の中心で、「α7」シリーズに代表されるフルサイズミラーレスカメラはまだ世に存在しなかった。あえて言うなら、2012年9月にフォトキナで発表された「ライカM(Typ240)」が、ミラーボックスを持たず、CMOSセンサーでライブビュー撮影ができる=オールドレンズ遊びを楽しめる唯一のフルサイズ機と目されていた。
当時のニュース記事を振り返ると、RX1は“「サイバーショットDSC-RX100」の上位モデル”と記載されている。1.0型センサーを搭載するコンパクトカメラの上位モデルが35mmフルサイズという飛躍具合も、ソニーというカメラメーカーのポテンシャルを感じさせる。デジカメ Watchのニュース記事は基本的に冷静だが、当時としてあまりにも画期的な製品だったことが醸し出されている。
コンパクトカメラ然としたスタイリングながら、35mm判相当サイズ(35.8×23.9mm)の撮像素子を搭載するという、類を見ない製品となっている。
レンズ一体型のカメラでも、とりわけ大きなセンサーと単焦点レンズを組み合わせるというパッケージングはシグマのDPシリーズが先駆け。2011年にはAPS-Cセンサーにクラシックなスタイリングやハイブリッドビューファインダーなど、カメラらしいお楽しみ要素を満載した富士フイルムX100シリーズも登場。2013年には「RICOH GR」がAPS-Cセンサーを採用し、「ニコンCOOLPIX A」も登場するなど、APS-Cセンサーのコンパクトカメラは1ジャンルとして定着する。
2012年当時のコンパクトカメラはRX100のような1.0型センサーもまだ珍しく、1/2.3型センサーがコンパクトデジカメの標準。リコーGR DIGITALシリーズやキヤノンPowerShot S90シリーズのように1/1.7型になると高画質志向の“高級コンデジ”と呼ばれていた。そうそう、暗所画質を担保するために画素数を減らすのが流行ったのもこの頃だ。
ローパスレス版として加わった「RX1R」(2013年7月発売)
なんと、1年足らずで新モデルが出た。といってもローパスフィルターレスモデルのため“RX1の後継機種ではなく併売”とアナウンスされたが、あまりに早い新モデルの登場にショックを受けたRX1ユーザーも少なくなかった。店頭予想価格は25万円前後でRX1と同じ。ローパスフィルター以外の撮影に関わる部分はRX1と共通だった。
当時はデジタル一眼レフカメラの中級機などで、高画素モデルやモアレ覚悟でローパスフィルターを廃して究極画質を目指したモデルを併売するケースが出てきた。RX1を選ぶほどのカメラ好きであればレンズ一体型の画質メリットを知ったうえでの買い物だから、その限界を引き上げるローパスレスモデルが追加されるとなれば「だったら最初っから出してよ!」と思うのも理解できるところ。このあと2013年11月に、フルサイズミラーレスカメラの火付け役「α7」「α7R」が発売される。
ポップアップEVFに可変ローパス。ロマン溢れる「RX1R II」(2016年2月発売)
2年半を経て、スゴいカメラが帰ってきた。センサーは当時のミラーレス最上位機「α7R II」と同じ有効約4,240万画素の裏面照射型CMOSにアップデートされ、像面位相差AFを併用する「ファストハイブリッドAF」にも対応。さらに小型ボディを維持しつつポップアップ式のEVFやチルト式の背面モニターを搭載するという、性能的にもスタイル的にも未来的なワクワク要素が満載だった。発売時の店頭予想価格は税別43万円前後。
ライバル不在だったフルサイズコンパクト市場に「ライカQ」が登場したのが2015年。28mm F1.7のレンズを搭載し、光学式の手ブレ補正機構も装備。ユーザーはレンズ画角の好みや機能性、価格(税込60万円弱)を踏まえて選んだ。
RX1R IIには世界初という「光学式可変ローパスフィルター」も採用された。2枚のローパスフィルターの間にある液晶に電圧を掛けて、センサーに向かう入射光の光路に変化を与えてローパスフィルターの効果を変えるというもの。当時はローパスあり/なしのデジタル一眼レフカメラが併売されたり、ペンタックスが「ローパスセレクター」というセンサーシフト由来の機能を搭載するなど、ローパスフィルターの効果や必要/不要についての議論が多くあった。その中で登場した光学式可変ローパスフィルターはα7シリーズで定番化するかと思いきや、そうでもなかった。
余談だが、カールツァイスはこの頃にレンズ銘板の表記を「Carl Zeiss」から「ZEISS」に変更。RX1R IIも発表当時の外観写真ではCarl Zeissだが、後年の写真にはZEISS表記が見られる。
“レンズ一体型ならでは”を再アピールする「RX1R III」(2025年8月発売予定)
そして2025年、9年半の時を経て“復活”となったRX1R III。ソニーの伝統に則れば「アールエックスワンアール・マークスリー」と読むのが正式だろう。店頭予想価格は税込66万円前後となった。
気付けばフルサイズコンパクト仲間のライカQシリーズが100万円を超えていたり、約44×33mm・1億画素センサーのレンズ一体型カメラ「富士フイルムGFX100RF」が83万円だったり、そもそも日本円が安くなったりで、正直なところ66万円と言われてもどれぐらい「高い!」と思えばいいのかピンとこない時代になった。必需品としてのカメラをスマートフォンが担うようになって、普及価格帯のコンパクトデジタルカメラが市場からほぼ姿を消してしまったこともあり、“レンズ一体型カメラ=コンデジ(安いもの)”という見方も変わってきたようだ。
さてRX1R IIIの進化点を見ると、センサーの有効画素数は「α7R V」「α7CR」と同じ約6,100万にアップしている。高解像度センサーと高性能レンズの組み合わせはクロップ撮影に好適。撮影中のワンタッチ操作で35mm、50mm相当、70mm相当に切り替わる「ステップクロップ」機能が搭載されているのも、クロップ(トリミング)に堪えるレンズ&センサー性能を持っているぞという自信が伺える。しかも、そのレンズ設計自体は初代RX1からキャリーオーバーだというではないか。毎年のようにリファインするのではなく、「最初から完璧でしたけど?」というドイツ的な誇り高さすら感じる。
ソニーの製品情報ページを見ると、今回も“レンズ一体型だからこそ成し遂げられた高画質”とアピールされている。α7シリーズがオールドレンズ遊びをカジュアルにしたように、本格カメラの魅力のひとつとしてレンズ交換は大きな要素。それを切り捨てたレンズ一体型カメラはごくマニアックな存在だ。それでも製品化する理由として、高画質化を追及できるメリットを説明している。
レンズ一体型カメラだからこそ、製造時に「レンズ」と「イメージセンサー」の位置調整が可能になります。RX1R IIIは、1台ずつ厳しいチェックを行い、焦点面位置をミクロン単位で最適化。圧倒的な光学性能・撮像性能を、驚異的にコンパクトなボディサイズに凝縮しました。ツァイス「ゾナーT*」35mm F2 単焦点レンズの描画性能と、有効約6100万画素の35mmフルサイズ裏面照射型CMOSイメージセンサーの能力を最大限に引き出します。
レンズ一体型カメラは「ズームできないから汎用性に劣る」と見られがちで、確かに超広角や望遠を求める撮影者には向かないが、高性能レンズと高解像度センサーの組み合わせは侮れない。それどころか、単焦点レンズのカンペキな描写の一部分を切り抜くわけなので、「ズームの中間域はボケが汚い」「広角端は解像力が低い」といったこともない。写りを味わうためのカメラとしては究極的なパッケージングだ。
RX1シリーズ活性化への弾みとなるか?
振り返ればRX1シリーズの本体には、ずっとMade in Japanの記載があった。そしてRX1R IIIも愛知県のソニー幸田サイトで生産しているとのこと。ぶっちゃけ海外工場製でも何の問題もないのだが、それでもメーカーのお膝元である国で生産されたものに特別なありがたみが宿るのは否定できないだろう。単純に海外生産を立ち上げるほどの数を作らないからかもしれないが、むしろプレミアムな機種であることが伺える。
そんなRX1R IIIは既に全国のソニーストアで先行展示が始まっており、7月23日に予約受付もスタート。発売は8月8日だ。また次のモデルまで9年半も空かないように、このコンセプトに賛同するカメラファンには是非とも手にしてほしい1台である。そしてRX1R IIIというRX1シリーズの現在地を踏まえて、この先どう進化してほしいのか、どんなレンズを搭載してほしいのか、むしろ変えるべきではないのか……などなど、今後もあれこれ楽しく盛り上がっていきたい。