試したくなる「一脚活用のススメ」

Reported by 種清豊


 一脚とは、雲台もしくはカメラなどを支える台座の下に、伸縮可能な1本のパイプを備えた撮影用品のこと。いわば、三脚の脚を1本だけ取りだしたものと考えるといいだろう。主にカメラのブレを抑えたり、重量のある超望遠レンズを支えるために使用するのだが、三脚のように自立する固定台座ではないので、撮影者自身がカメラないし一脚を支えながらの使用となる。

 まずブレ軽減の面では、周囲が薄暗くなりシャッタースピードを遅くして撮影したいときや、望遠レンズによるブレの増大を手持ちでの撮影に比べかなり抑えるのに効果がある。それと一脚は三脚ほどの設置場所の広さが必要ないため、ちょっとした街の中や、とっさの撮影にも優れている。

今回試用した一脚はいずれもベルボン製。左から「ジオポッドE64」、「ポールポッド」、「ウルトラスティックM53」一脚も縮長はさまざま。持ち運びなどを考慮して選びたい

 また三脚に比べて小型軽量であるため、とり回しの容易さから、スポーツ写真の現場で使用されている姿を目にすることが多い。三脚もカメラ自体を支えてくれるので、撮影者にカメラの重みを与えることはないが、自身がよく動くような撮影の場合など、やはり脚自体が軽い一脚にカメラの重量を支えてもらいながら撮影に集中できる、という意味ではその利用価値は高いといえる。

三脚に比べると設置面積が大幅に少なくなり、また持ち運びも容易になるのが一脚の利点。ウルトラスティックM53は縮長が短い代わりに全高はアイレベルにならないが、ライブビューで撮影するには問題ない
一方、ジオポッドE64のようなタイプはアイレベルをカバーするが、縮長もそれなりにある

 ブレを抑えるという目的は同じであるが、その使用方法は少し違ってくる。使用法にこれといった正解というものは無いのかもしれないが、基本的な使い方や応用的な使い方をいくつか紹介していこう。

自由雲台を活用してさらに効果を上げる

 まず、一脚を伸ばす高さであるが、三脚と同じように基本的には撮影者自身の目の高さにカメラのファインダーが来るようにセットする。ただ、デジタルカメラの使用に際しては、背面液晶モニターをファインダーとして撮影できるカメラも多いので、あくまでも自分が被写体をよく確認できる高さにセットすればいいだろう。

一脚をセッティングする高さはアイレベルが基本。ただ、ライブビューで撮影する場合はやや低くても支障はない

 一脚に装着する雲台は、一般的に自由雲台が使われている。特別な理由がない限り、雲台を装着して試用した方がいいだろう。雲台とともに一脚を使用したほうがいいだろう。ただ、主に動いている被写体、スポーツ選手や乗り物などを流し撮りするときなどは、ブレもそうだが、機材の負担を脚にあずけるという時に雲台を使用せずに使うこともある。

一脚には自由雲台が付属しているものと、別売のものがある。自由雲台付きがお勧めだが、付いていない方も市販の気に入った自由雲台を装着できる

 構え方としては、一脚を垂直に立ててカメラを支えたり、雲台を使うことを前提に、一脚を少し斜め前に出して支えたりする。撮影者の足は肩幅程度に開いて構えるが、片足を一脚の前に出して靴で押さえるような構えをするカメラマンもいるようだ。

一脚の構え方だが、左のように垂直に立てる方法もあるが、右のように一脚の脚を前に出した方が安定するので試して欲しい。この場合、自由雲台が必須だ
場合によっては、一脚の脚を自分の足で押えるようにすると安定する。実際にこの構え方をするプロカメラマンもいる。靴の内側のへこんでいるところに合わせるのがポイントだ
段差などを利用して一脚の足を安定させるのも良い方法

 どちらにせよ自立しないので、撮影者自身で一脚やカメラを補助するのだが、このとき、一脚の脚を掴まずに、カメラやレンズなどを手持ちで撮影するようにカメラ側を保持するとブレをいっそう抑えられる。また、雲台自体をフリーにして撮影するということも広く知られているようだが、ファインダーで撮影する場合ならともかく、ライブビューでの撮影だと少し安定感がつかみにくいので、その場合は雲台を固定して撮影するなど、適宜状況に応じて撮影者の慣れに応じた使い方の選択が必要だろう。

このように一脚自体を持つよりも、両手ともカメラまたはレンズを押えた方がブレは抑えられるこのポールポッドのように、下部に三脚を備えて自立する製品も登場している

 標準レンズで撮影するときよりも望遠レンズとの組み合わせでの効果も高い。レンズの重さを支える意味でも有効だし、スポーツや鳥、飛行機など動く被写体をカメラを一脚で保持しつつも、三脚ではできないような自由度のあるとり回しで被写体を追いかけたりと、実際に一度使ってみると腕への負担も少なく楽に撮影できる。

 バリアングル式の液晶モニターを備えたデジタルカメラも増えてきたので、アイレベルに限らず、低い位置での撮影においてもその活用範囲は広がったといえる。とにかく、設置場所という点では三脚に比べ一脚はかなりのアドバンテージがあり、ちょっとした人ごみ、運動会や動物園や水族館など狭い範囲でかつブレやすい状況下での撮影に大変便利である。

バリアングル液晶モニターを活用し、このようにローアングル撮影時のブレ防止も期待できる

 デジタル一眼レフカメラに限らず、コンパクトデジタルカメラやミラーレスカメラなどでもちょっとした夕景撮影などを低感度で撮影したりと幅は広がるだろう。

地面に立てるだけではない使い方

 ほかにも一脚の使い方として、脚を伸ばさずに縮めた状態で胸に押し当てたり、ベルトのバックルのあたりで固定するといった使い方もでき、地面に脚を伸ばしたとき同様にしっかりカメラを安定させることができる。伸ばしたときに脚が細くなるコンパクトな一脚の使用時にはおススメの方法だ。

脚を縮めて胸に押し当てるのはミニ三脚でもおなじみのテクニックだが、一脚でも有効だ。その際、右のようにストラップで支えるとかなり安定が増す

 また、簡単な動画撮影にも有効であるが、変わった使い方として、一脚をスタビライザーのようにして撮影することも行われているようだ。これは一脚を少し地面から浮かし、その重さを重心にして滑らかなパーンを行なうもので、慣れが必要だが、激しい動きの被写体で無ければ意外と効果的である。

一脚を伸ばしたまま軽く持ち、そのまま持ち上げて歩きながら動画を撮ると、比較的滑らかな移動カットを撮影できる

カメラバッグに忍ばせておきたいアイテム

 以上、簡単に一脚の基本的な使い方や利点などを述べてみた。三脚は所有しているが一脚は持っていないという方は多いのだが、実際は風景や夜景、花火など意外と三脚を使う機会が限られていることも多いようだ。日常撮影するなかで、重い三脚は持ち歩くのがおっくうというのが正直なところだろう。

 当然どこでも三脚を使うというのはナンセンスかもしれない。ただ、三脚までは……というときに一脚は大変便利な機材だと思う。適切に使えば確実にかなりのブレ軽減効果を得られたり、機材の重さの負担をなくしたりと活用範囲は広い。小型の一脚などは、撮影に赴くときにとりあえずといった感じで1本カメラバッグに忍ばせておきたい撮影用品だ。

例えば、シグマのDPシリーズのように手ブレ補正機構が無く、できれば低感度を使いたいというカメラと一脚を組み合わせるのは好適だろう。本格的な夜景の撮影は無理だし、ブレ防止効果も万能ではないので過信は禁物だが、日が落ちてきた程度の時間帯なら一脚が活躍するはずだ



種清豊
(たねきよ ゆたか)1982年大阪生まれ。京都産業大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、写真家竹内敏信氏のもとで約3年間のアシスタントを経て、2007年よりフリーランスに。主に日本各地に残る明治、大正、昭和初期のクラシックな素材から現代の街まで幅広く撮影中。また人物撮影や、東京の下町の祭も撮影。キヤノンEOS学園講師、NPO法人フォトカルチャークラブ講師。ブログはこちら

2010/10/14 14:56