特別企画

「SIGMA Photo Pro」の“モノクロームモード”を試す

階調の幅が広くモノクロらしさは圧倒的

 フィルムではカラーとモノクロがあるのが当たり前だったが、デジタルの時代になってからはカラーばかりが注目され、モノクロが意識されることはとても少なくなった。というのも、かつてはいかにデジタル写真で美しい色調を得るか、またディスプレイをはじめとする機器とのカラーマッチングや色管理に重点が置かれていた点が大きいだろう。

今回の作例は「DP1 Merrill」で撮影した。

 しかしデジタルカメラやデジタル写真が当たり前の時代になり、再びモノクロも注目されてきた。例えばオリンパスのアートフィルターに搭載されたラフモノクロームや、Nik SoftwareのSilver Efex Proなどの登場により、デジタルでモノクロ写真を楽しむ人が増えてきた。さらに顔料インクプリンターやアート紙が充実してきたことも見逃せない。

 モノクロ写真は、カラーとは異なる魅力がある。色彩で見せるのではなく、白から黒への階調で見せるため、カラーでは得られない深みのある写真が味わえる。また色がないことで、見る側のイメージが増幅される。そして光を意識しやすいのもモノクロの特徴だ。カラーよりアーティスティックな印象を受けるのも、モノクロの魅力といえるだろう。

モノクロ専用の操作パレットを新設

 今回、「Foveon X3ダイレクトイメージセンサー」でお馴染みのシグマから提供されている、SD・DPシリーズ用のRAW現像ソフト「SIGMA Photo Pro」がアップデート。SIGMA Photo Pro 5.5(以下SPP5.5)になった。SPP5.5の最大の特徴は「モノクロームモード」を搭載したことだ。

SPP5.5のインデックス画面では、上部に「B/W」のボタンが新設。サムネイルを選択してB/Wのボタンを押すと、カラーとモノクロームモードの切り替えなでダイレクトにモノクロモードでの編集作業が行なえる。またサムネイルもモノクロモードで編集した画像には「B/W」のマークが付くが、サムネイル自体はカラーのまま。

 これまでのSPPでもホワイトバランスのタブからモノクロを選ぶと、モノクロ写真にすることはできた。しかしそれはカラー化した画像をモノクロ化したもの。それに対しSPP5.5のモノクロームモードは、RAWデータそのものからモノクロ写真を作る。そのため三層構造のFoveon X3の各ピクセルに取り込む光を最大限に活かすことができ、高解像力で階調豊かなモノクロ写真に仕上がるのだ。

 ただしモノクロームモードに対応しているのは、SD1、SD1 Merrill、DP1 Merrill、DP2 Merrill、DP3 Merrillのみ。またSPP5.5のモノクロームモードで編集すると、それ以前のバージョンのSPPでは編集できなくなる。

 SPP5.5のモノクロームモードは、調整パレットの最上部のタブを「カラー」から「モノクローム」にするだけ。すると調整パレットもモノクロ用になり、表示画像もモノクロになる。

カラー用の調整パレット。
ホワイトバランス設定からモノクロを選ぶとモノクロ写真になる。従来の方式だ。
モノクロームモードの調整パレット。露出やコントラストなどのパラメーターはカラーと同じだが、カラーミキサーやフィルムグレインがある。

 パラメーターは、露出、コントラスト、シャドウ、ハイライト、シャープネス、X3 Fill Lightと並んでいるのはカラーと同じ。しかしホワイトバランスはなく、カラーミキサーとフィルムグレインがある。またノイズリダクションもカラーノイズはなく、輝度ノイズとバンディングノイズのみだ。カラーのように倍率色収差やフリンジ除去もなく、調整パレットはシンプルだ。

 カラーミキサーは、RGBの各感色特性の調整が行なえる。例えば赤を濃く、あるいは青空を明るく、などの調整が可能だ。カラーホイールの中にあるドットを動かすことで調整できる。するとホイール横のバーにもRGBの割合が表示されるので、どんな状態なのか把握しながら作業ができる。

 フィルムグレインは、フィルムの粒状感だ。これを活用することで、フィルムライクな仕上がりが得られる。調整できるのは、大きさと粗さ。大きさは粒子の大きさ、粗さは粒子の密度が変化する。これまでもデジタルのモノクロ写真では、Photoshopなどでノイズを加えて粒状感を出す方法もあったが、よりフィルムに近い雰囲気に仕上げられる。

全く異なるトーンの仕上がり

 ホワイトバランスからモノクロを選択した従来の“WBモノクロ”と、“モノクロームモード”では、どれだけ仕上がりに差が出るのだろうか? 結果は作例の通りで、WBモノクロとモノクロームモードでは、仕上がりのトーンが全く違うことがわかる。

 WBモノクロは、明るめであっさりした仕上がり。モノクロームモードはどっしりと重さを感じる仕上がりだ。またWBモノクロは、カラー画像から色を抜いたような印象を受けてしまう。やはりモノクロらしさは圧倒的にモノクロームモードだ。

 階調の幅がモノクロームモードの方が広く、そのためWBモノクロより立体感もある。解像力に関しては、極端な差が出ているとは思わなかったが、よく見比べてみるとモノクロモードの方がシャープに感じる。

まとめ

 他社のRAW現像ソフトでも、モノクロにする機能を持つものもあるが、ここまで本格的なコントロールはできない。しかもFoveon X3の高画質を最大限に引き出しているので、尖鋭度が高く、深みのあるモノクロが味わえる。ただカラーミキサーは、慣れないと扱いがやや難しいように感じる。カラーホイールだけでなく、RGBを各スライダーで調整できると、使い勝手がより向上しそうだ。

 フィルムグレインも、どの程度粒状感を出せばいいのか、最初難しいかもしれない。できればプリセットで、あらかじめいくつかのパターンが用意されているとわかりやすいだろう。とはいえFoveon X3の高画質と本格的なモノクロームのコントロールができるのは、実に魅力的だ。ぜひSPP5.5でファインアートとしての写真作品を作ってもらいたい。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
  • 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。

・カラー、WBモノクロ、モノクロームモードの違い

モノクロームモード
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約11.1MB / 4,704×3,136 / 1/160秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)
モノクロームモード
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約9MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)
モノクロームモード
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約9.4MB / 3,136×4,704 / 1/60秒 / F3.2 / -1EV / ISO400 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)

・カラーミキサーの効果

カラーミキサーの設定画面(レッド強調)
モノクロームモード
モノクロームモード(カラーミキサー:レッド強調)
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約10.6MB / 4,704×3,136 / 1/200秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)
カラーミキサーの設定画面(グリーン強調)
モノクロームモード
モノクロームモード(カラーミキサー:グリーン強調)
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約10.5MB / 3,136×4,704 / 1/100秒 / F4 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)
カラーミキサーの設定画面(ブルー強調)
モノクロームモード
モノクロームモード(カラーミキサー:ブルー強調)
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約12.1MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)

・フィルムグレインの効果

フィルムグレインの設定画面(大きさ0.1、粗さ1.0)
モノクロームモード
モノクロームモード(フィルムグレイン:大きさ0.1、粗さ1.0)
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約7.6MB / 4,704×3,136 / 1/125秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)
フィルムグレインの設定画面(大きさ0.6、粗さ0.6)
モノクロームモード
モノクロームモード(フィルムグレイン:大きさ0.6、粗さ0.6)
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約10.3MB / 4,704×3,136 / 1/100秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)
フィルムグレインの設定画面(大きさ1.0、粗さ1.0)
モノクロームモード
モノクロームモード(フィルムグレイン:大きさ1.0、粗さ1.0)
WBモノクロ
カラー(DP1 Merrill / 約9.6MB / 4,704×3,136 / 1/50秒 / F2.8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / WB:オート / 19mm)

・作例

DP1 Merrill / 約9.6MB / 4,704×3,136 / 1/100秒 / F5.6 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 19mm
DP1 Merrill / 約8.7MB / 4,704×3,136 / 1/80秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 19mm
DP1 Merrill / 約9.3MB / 4,704×3,136 / 1/500秒 / F8 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 19mm
DP1 Merrill / 約9.3MB / 4,704×3,136 / 1/320秒 / F8 / -0.3EV / ISO100 / 絞り優先AE / 19mm
DP1 Merrill / 約10MB / 3,136×4,704 / 1/320秒 / F11 / 0EV / ISO100 / 絞り優先AE / 19mm

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。