新製品レビュー
SIGMA DP3 Merrill
シリーズ初のマクロ対応中望遠モデル
(2013/2/22 00:00)
シグマから発売されているコンパクトデジタルカメラ「DP Merrill」シリーズは、その大きさやレンズ一体型という構成からもコンパクトタイプのデジタルカメラとして分類されている。しかしそこに搭載されているイメージセンサーは、同社のデジタル一眼レフカメラ「SD1 Merrill」と同等の有効画素数約4,600万画素のセンサーであり、いわば「モンスター」コンパクトデジタルカメラといえるものだ。
先行して発売されている「DP1 Merrill」「DP2 Merrill」の描き出す画像は、ローパスフィルターが搭載されていないイメージセンサー特有の高解像度のものとして多くのファンを魅了している。その「DP Merrill」シリーズにあらたにラインナップされる機種が「DP3 Merrill」だ。
高解像度センサーと中望遠レンズの新たなる組み合わせ
DP3 Merrillの基本性能は、DP1 MerrillおよびDP2 Merrillと同じだ。搭載されているイメージセンサーは23.5×15.7mmで有効画素数約4,600万画素(4,800×3,200×3層)の「Foveon X3ダイレクトイメージセンサー」である。このイメージセンサーは同社のデジタル一眼レフカメラSD1 Merrillにも搭載されている。
「Foveon X3 ダイレクトイメージセンサー」は、一般的なデジタルカメラに採用されているベイヤー配列のカラーフィルターを採用したイメージセンサーとは構造が異なり、1画素でRGB全ての波長の光を取り込むことができるため、独特な色乗りの深さを表現できるという特徴がある。
またその構造上、デジタルカメラでの撮影時に発生しやすい色モアレが発生しないため、画像の解像感を若干なりとも損なってしまうことになるローパスフィルターを必要としない。これにより画像本来の解像感のまま記録することが可能となっている。それによって得られる画像は非常に精緻な描写となり、その深い色乗りと共に「Foveon X3ダイレクトイメージセンサー」独特の表現として認知されているものだ。
DP3 Merrill、DP1 Merrill、DP2 Merrillのそれぞれの大きな違いは、搭載されているレンズの焦点距離の違いだ。DP Merrillシリーズに搭載されているのは全て単焦点レンズであり、DP1 Merrillは広角域の19mm(35mm判換算28mm相当)、DP2 Merrillは標準域の30mm(35mm判換算45mm相当)だが、DP3 Merrillに搭載されたレンズは中望遠域の50mm(35mm判換算75mm相当)となる。
つまりDP3 Merrillの登場により、広角・標準・中望遠それぞれの画角をカバーしたことになるわけだ。またDP3 MerrillはDP1 MerrillおよびDP2 Merrillと同様、開放絞り値がF2.8となる。
RAWでもモノクロモードが撮影可能に。顔優先AFも新搭載
DP3 Merrillの操作法や機能はDP1 Merrill、DP2 Merrillと共通だ。ただし発売日(2013年2月22日)の時点では、DP3 Merrillでのみ可能な設定がある。それまではJPEG撮影モードでしか使用できなかったモノクロモードが、DP3 MerrillではRAWおよびRAW+JPEG記録モードでも選択できるようになった(セピアはJPEG記録モードでのみ選択可能)。
また、これまでシグマのデジタルカメラには搭載されることのなかった顔認識モードが、DP3 Merrillで初めて搭載された。
ただし、いずれの機能も今後のファームウェアのアップデートにより、DP1 Merrill、DP2 Merrillでも利用可能になるとシグマがアナウンスしている。
撮影領域を広げる、広角・標準・望遠のコンビネーションが完成
ここまで主にDP1 MerrillおよびDP2 MerrillからDP3 Merrillへの変更点についてお話してきたが、やはりDP3 Merrill最大の魅力は、その高い解像力と深い描写力にある。DP1 MerrillおよびDP2 Merrillが登場した際にも驚いたことだが、レンズ固定式の構造を採用するDP Merrillシリーズならではのレンズの描写の良さには脱帽する。イメージセンサーとレンズのマッチングを最大限に行なっていることの強みによるものだろう。
35mm判換算で75mm相当となる焦点距離は、すこしクローズアップしたスナップ撮影にも良い。またF2.8という明るい開放F値との組み合わせによるボケを活かしたポートレート撮影も可能だ。実際にポートレート撮影を行なった作例をご覧いただくとよく判るが、人物描写にもとても優れたカメラといえる。
加えて22.6cmの最短撮影距離を活かしたマクロ撮影も可能なので、中望遠というレンズの特性をうまく活かせば、バリエーション豊富な撮影が楽しめるだろう。さらに広角域のDP1 Merrill、標準域のDP2 Merrillと組み合わせれば、あらゆるシーンで最高の描写を得ることができるシステムとすることができる。
3台を揃えると決して安い金額とはいえないが、高画質なカメラと高品位なレンズ3本を揃えることを考えれば、それほど無理な選択ともいえないだろう。質量としても3台合わせて1.1kgほどなので、山登りなど機材の軽量化が重要視されるシーンにおいても魅力的だろう。このDP3 Merrillの登場によって完成系に近づいた「DP Merrillシリーズ」。その本領を発揮するのはこれからかもしれない。
作例
・ISO感度比較および同時記録JPEG記録とRAW現像JPEGの比較
同一被写体をRAW+JPEG記録にて、ISO感度を1段ごとに変えて撮影した。あわせて撮って出しの同時記録JPEGと、SIGMA Photo Proを使用してRAW現像したJPEG(右)の描写も比較してみた。
※共通データ:DP3 Merrill / 4,704×3,136 / F8 / +0.3EV / 50mm
まず、ISO100~200では同時記録JPEGおよびRAWから現像したJPEG(以下RAW_JPEGと表記)とではそれほど大きな差はない。ノイズもほぼ見当たらない。ただRAW_JPEGの方がシャドー/ハイライト部の諧調が若干残っていることが判る。
ISO400ではRAW_JPEGに比べJPEGの方が解像感が劣ると同時に、ノイズもJPEGの方が目立ってくる。
ISO800になると極端にカラーバランスが崩れディテールの再現性も劣ってくる。ISO1600以上だとノイズが激しく、実使用には厳しい印象だ。
・新しいモノクロームモード
DP3 Merrillの発売と同時にリリースされるRAW現像ソフト「SIGMA Photo Pro」の最新版には、あらたにモノクロームモード専用のインターフェースも追加される。これはRAWで撮影した画像データを、モノクロに特化した現像を行なうことでより高品質な白黒写真として仕上げることができるものだ。
単にカラー画像からRGB要素を抜いただけの写真とは異なり、いわゆるモノクロ写真ならではのより深い味わいをもった作品へと仕上げることができるという。
同じ撮影画像をカメラ内JPEGのモノクロ、SIGMA Photo ProのモノクロRAW現像の各モードにて現像したものとで比較した。同じ画像からでも現像の違いでこれだけ異なるモノクロ画像が得られる。
この最新バージョンのSIGMA Photo ProのモノクロームモードはDP1 Merrill、DP2 MerrillのRAWデータでも利用できるということなので、これらの特徴をうまく捉えて使いこなせばDP Merrillシリーズをモノクローム用のカメラとして活かすこともできそうだ。
※共通データ:DP3 Merrill / 3,136×4,704 / 1/1,250秒 / F3.2 / +0.7EV / ISO100 / 50mm
・カラーモード
・作例
モデル:夏弥