特別企画

ニコン「Z 8」で挑む! 松島基地“ブルーインパルス”撮影記

被写体検出「飛行機」のパフォーマンスはいかに?

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/400mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F8)/ISO 500/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:デルタ360°ターン

ブルーインパルスは、宮城県松島基地第4航空団所属の第11飛行隊を正式名称とする、アクロバット飛行を披露する専門のチームです。青と白に彩られた6機の機体が繰り広げる大空でのダイナミックな飛行パフォーマンスは、全国各地の航空祭や大きなお祭りなどで観ることができます。

今回は、被写体検出に飛行機モードが搭載されたニコン「Z 8」を使用して、ブルーインパルスの本拠地でもある松島で撮影をしてきました。

筆者は10年ほど前からブルーインパルスの撮影をしていますが、ブルーインパルスが頻繁にアクロバット飛行を行っていたコロナ前の主要な機材は一眼レフだったので、今回がブルーインパルス撮影に対してのZシリーズ本格導入となります。

Z 8

基本カメラ設定

動きモノの撮影ですので、フォーカスモードはAF-Cに設定。AFエリアモードはオートエリアAFを主に使用し、課目によってはワイドエリアAF(L)とシングルポイントAFも使用しました。

AF時の被写体検出設定は、もちろん飛行機に設定。レリーズモードは高速連続撮影、画質モードはRAWで記録しています。

メニュー内「AF時の被写体検出設定」から「飛行機」を選ぶ
ブルーインパルスの展示飛行は全国北から順に展開されるので、東京在住の筆者がブルーインパルスを撮影するのは秋以降が多いのですが、今回は初の8月の真夏日での撮影でした

レンズは望遠と広角の2本が必須

カメラボディには「Z 8」を2台用意し、それぞれに望遠ズームレンズと広角ズームレンズをつけて2台持ちにします。

航空祭などで行われるブルーインパルスの展示飛行の課目は、宙返り(ループ)や横転(ロール)などのアクロバットな課目と、スモークの軌跡が美しい課目の両方が披露されます。

そのため、機体をアップで捉えるための望遠レンズと、スモークで大きく描かれる空のアートを構図に入れるための、広角レンズの2つが必要になります。

望遠ズームレンズは「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」をメインに、何かあったとき用の保険として「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」をサブとして用意しました。

航空祭などで基地の中に入る場合は、基地内に持ち込めないものがあります。今回の松島基地航空祭では、最大伸長時に40cmを超えるレンズ(フードを含む)の持ち込みが禁止されていましたので、2本とも基準をクリアするレンズを選びました。

一眼レフ時代は「AF-S NIKKOR 80-400mm f/4.5-5.6G ED VR」をブルーインパルス撮影に常用していたので、「Z 8」と「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」の組み合わせは、慣れている画角と近いこともあり、とても撮りやすかったです。

持ち込み禁止物品は基地やその開催年度によっても変わりますが、今回のサイズが基準になるようでしたら、「NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S」が今後のブルーインパルス撮影の常用レンズになりそうです。

広角ズームレンズは、旅スナップで常用している「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」を使用。このレンズなら、雲が低いときに行われる第3・第4区分の、水平に描かれる「キューピッド(ビッグ・ハート)」も全体を写し込めます。

航空祭での撮影時には、望遠ズームレンズをつけたカメラはこのように逆立ちさせて置くことが多いです。現地はとても混雑していますので、事故など起こらないように、足や膝で挟んでおくとより安全です

連写に耐えるメモリーカードとバックアップ用SSD

撮影はRAWで行い、高速連写を多用しますので、それに耐えられるだけの高速性能を有したメモリーカードを使用します。

最大読み出し速度1,950MB/秒、最大書き込み速度1,900MB/秒、最低継続書き込み速度1,800MB/秒のNextorage「NX-B1PRO330G」をメインスロットに、Nextorage「NX-F2PRO256G」をサブスロットに装着して、順次記録に設定して撮影しました。

また、今回は8月26日の東松島夏まつりと、27日の松島基地航空祭の2日間の撮影でしたので、MacBook ProとポータブルSSDを持参して、翌日の航空祭の撮影前に東松島夏まつりの撮影分のバックアップを行いました。

ポータブルSSDにはNextorageの「NX-P2SE2TB」を使用しています。一緒に写っているCFexpressカードと比べるとわかりやすいのですが、驚くほど小さくて軽いのに2TBの大容量。最大転送速度は読み出し1,050MB/秒、書き込み1,000MB/秒になります。

長時間PCに繋いで作業しても熱くなることがないので日常的に使用していますが、特に、極力荷物を減らしたいこのような撮影では本当に助けられています。

性能はもちろんですが見た目が格好良いのもNextorage製品を愛用しているポイント。ポータブルSSDのPUレザーポーチは手触りも良く、作業中についつい触ってしまうほどです

東松島夏まつりと松島基地航空祭

ブルーインパルスの本拠地松島では、松島基地航空祭の前日に東松島夏まつりという地元のお祭りが行われ、ここでもブルーインパルスの飛行を観ることができました。

市街地を飛ぶため派手なアクロバット飛行はありませんが、通常の航空祭なら天気の悪いときに行われる課目を、青空を背景に観ることができる貴重なチャンスとも言えます。

東松島夏まつり当日はとても天気が良く、多少の雲はありましたが、空の青の美しさは格別でした。筆者は混雑を避けたかったのでお祭り会場の方ではなく、市街地の公共駐車場に車を停めて、ブルーインパルスの格納庫近くまで徒歩で移動して撮影しました。

東松島夏まつりの撮影風景。滑走路の向きがわかっていればブルーインパルスの飛行方向もわかるので、混雑を避けた場所で撮影してもOK。基地の近くなら、機体を大きく捉えられます

しかし翌日の松島基地航空祭は朝から雨が振り、ブルーインパルスの飛行は中止かな? というくらいの悪天候だったのですが、オープニングフライトの9時には雨もすっかり上がり、雲は多いものの飛行展示が可能な空になりました。

この日は渋滞を避けるために宿の近くのコインパーキングに車を停めて、電車で20分ほど移動して矢本駅経由で基地へ行きました。公共の駐車場や航空祭用の臨時駐車場もあるのですが、今回は航空祭終了後の渋滞を回避するために電車利用にしました。離脱が遅れると駅構内への入場規制などもありますので、体力に自信がない方やその後の予定がある方は、過去の交通情報などを調べてから交通手段を選ばれることをお勧めします。

と、念を押したくなってしまうほど、航空祭の会場は混んでいます。基地が広いので中に入ってしまうとそれほど混雑を感じないと思いますが、開門を待って列に並んでいるときと、航空祭終了後に列になって歩いているときに実感されるでしょう。

最近ではトイレの数を増やしたのか、トイレ行列は少なくなりましたが、数年前、他の基地では飲み物が売り切れることもありましたので、飲食は会場内で調達できるとは思わずに持参しましょう。

日差しを遮る帽子は、基地内・外ともに風が強いので、飛ばされないように紐付きのものを用意しましょう。日陰はありませんので、ラッシュガードなどでの日焼け対策も大事です。今回は3辺の和が100cmを超えない椅子の持ち込みが可能でしたので、こちらもあった方が体力が温存できます。

基地の中で、折りたたみ式の小さな椅子の上に立って撮影している方もいますが、マナーとしてはもちろん、基地によっては禁止事項としているところもありますので、みなさんはしないようにしてくださいね。

広角レンズだからこそ撮れるビッグなハート

東松島夏まつりの日は好天で、編隊連携機動飛行の課目「キューピッド」が青空にとても映えました。広角ズームレンズをつけたボディの絞りをF11にして被写界深度を深くするとともに、上を見上げて太陽が画角内に入るような構図が多いので、太陽の光芒が多く出るようにします。

ブルーインパルスは太陽近くのハートの凹みからスモークを出しながらスタートし、2機が左右に別れてハートを描き、下でクロスしてスモークをオフにします。ここでは飛行機検出というよりも、ハートの凹み部分のスモークにピントを合わせれば、ピントの合ったクリアな画が得られます。

Z 8/NIKKOR Z 14-30mm f/4 S/14mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F11)/ISO 500/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:キューピッド(ビッグ・ハート)

松島基地航空祭「ウォークダウン」「プリタキシーチェック」

航空祭の会場には航空機展示エリアがあり、当日に飛ぶブルーインパルスもそこに並んでいます。開門すぐの時間に基地内に入れば、展示エリアに近いスペースを確保することもできます。

そこでは、ドルフィンキーパーと呼ばれる整備員の作業、ドルフィンライダーと呼ばれるパイロットがブルーインパルスの機体「T-4」に乗り込むところ、エンジンスタート、飛行前の点検などを間近に観ることができます。

ここでは主役は人なので、被写体検出モードは人物にしておいてもいいでしょう。会場は照り返しもあってモニターはかなり見にくい状況です。ファインダー撮影が主になりますので、タッチAFなどのモニター上でのピント操作は想定しないほうがいいです。


Gスーツを身につけたパイロットが、ブルーインパルスに乗り込みます。整備員が機体の上に乗っているのが羨ましく思えたり。

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/400mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F8.0)/ISO 400/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:ウォークダウン

整備員とパイロットがハンドシグナルを使って、機体をチェックします。エアーバンドを使用している方は、このときに受信機をスキャンしましょう。

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/400mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F8.0)/ISO 400/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:プリタキシーチェック

松島基地航空祭アクロバット飛行

航空祭当日は雲が多かったため、ブルーインパルスの背中側の白が多い色味よりも、お腹側の青が多い色味のほうが曇天の白っぽい背景に映えることもあり、見上げるようなカットを多く撮影しました。

望遠ズームレンズを装着したカメラの絞りは、F8をメインにしています。太陽が構図内に入るときは、光芒を出したくてF11にすることもあります。


この課目は、1〜4番機が離陸した直後にギア(車輪)を出したまま飛行する珍しい課目です。

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/150mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F8.0)/ISO 400/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:ダイヤモンドダーティーローパス

「Z 8」の飛行機検出は、このように機体のお腹側の検出精度はとても高く、正面から頭上を通過し、飛び去っていく機体を追い続けてくれました。ここでは正面撮影時に、前にいる観客の方に間違ってピントが合ってしまわないように、AFエリアモードはワイドエリアAF(L)にしています。


雲の切れ間に機体が来た瞬間を狙いたくて、その前から連写を始めました。400mmの最望遠でこれだけの小ささなので、かなり遠いところを飛んでいるのがおわかりいただけると思います。

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/400mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F8.0)/ISO 400/晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/シングル・クローバーリーフ・ターン

正直、飛行機検出が動作しなくてもしょうがないかなと思いながらカメラを向けましたが、ピピッと素早く検出し、雲に機体が紛れるようなシーンも、粘って追い続けてくれました。


ソロで飛行する課目はリードソロである5番機が行うことがほとんどですが、珍しく6番機がソロで行う「スローロール」という課目は、会場正面で横転してくれるので、機体の背中、側面、お腹のすべてをカメラに収めることができます。

このとき、エアバンドレシーバー(無線受信機)を使用すれば、ブルーインパルスのアクロバットのタイミングを聞くことができます。筆者はアルインコの「DJ-X8」というエアバンドレシーバーを使用して、スモークのオン・オフ、横転のタイミングなどを確認しながら、それに合わせて撮影しています。

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/400mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F8.0)/ISO 400/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:スローロール

ブルーインパルスはその機体もですが、白いスモークの軌跡が美しいので、撮影するときは、スモークの位置をどう構図するかを考えるのが楽しくもあります。

このカットでは、スモークの質感がとても丁寧に描写されていて、AF機能と連写機能はもちろんのこと、「Z 8」の描写の美しさを体感しました。

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/400mm/マニュアル露出(1/1,600秒、F8.0)/ISO 400/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:タッククロス(パターンII)

4機が背面飛行を行うこの課目では、構図中央に近く上を飛ぶ2番機のコックピットにピントが合いました。

Z 8/NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S/170mm/マニュアル露出(1/1,600秒、ISO 400)/WB:晴天/ピクチャーコントロール:スタンダード/課目:4シップインバート

青空を背景にしたブルーインパルスは、青と白のコントラストの高い機体ということもあり、とてもピントが合いやすいのです。しかし今回、曇天の白い空を背景にしても、遜色なく素早くピントを合わせてくれました。


ブルーインパルス撮影における「Z 8」の実力

動きモノ、特に空を飛ぶ飛行機の撮影というと、慣れていない方は「とてもじゃないけど撮れっこない!」と思われるかも知れませんが、カメラを向けるだけでピントを合わせてくれる「Z 8」があれば、初めての方でもブルーインパルス撮影をお楽しみいただけそうです。

一眼レフ時代の、ちょっと苦労しながらピントを合わせる作業も楽しかったのですが、ピントをカメラ任せにして、構図に集中したり、エアバンドレシーバーから聞こえてくる会話を楽しむ余裕ができるのは素直にありがたく、カメラの進化に感謝したいですね。

航空祭ではどこから機体が来て、どんな動きをするかを、自衛隊の方が会場内で公式アナウンスしてくれます。エアバンドレシーバーを持っていなくても、片耳にイヤホンを着けて長めのレンズを持っている方のレンズが向いている方向にカメラを向ければ、だいたいそちらから機体がやってきます。

最初は機体の速さに驚かれるかも知れませんが、構図に入りさえすれば「Z 8」のAFが頑張ってくれますので、約40分の展示飛行内で高速連写に耐えられるメディアがあれば、エプロンで受けた感動を高い描写性能で再現した、自分だけのブルーインパルスの写真を残すことができるでしょう。

今後も全国各地でブルーインパルスの展示飛行が予定されていますので、筆者も「Z 8」を持って全国展開したいと思います。

東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い