特別企画

“カメラバカ”作者が待望のニコンDX単焦点レンズを試した結果

イラスト:飯田ともき

6月23日、漫画「カメラバカにつける薬 in デジカメ Watch」の作中で、作者の飯田ともきさんがしつこく主張していた「ZマウントDX単焦点レンズの必要性」がついに実現しました。初のZマウントDX単焦点レンズ「NIKKOR Z DX 24mm f/1.7」がついに発売されたのです。

ということで発売前のβ機を「Z 50」ユーザーの飯田さんのもとに発送して、さっそくインプレッションを執筆いただきました。 (編集部)

ZマウントDX単焦点ついに発売

ついに念願のZマウントDX単焦点が発売されます。もちろん私は予約済みなので、これは自腹レビューと思って読んでいただいて大丈夫です。ただし使っているレンズはβ機です。製品版の長期使用レポートも必要があれば「カメラバカにつける薬 in デジカメ Watch」の中で行います。

作者所有の「Z 50」に装着

このレンズは2021年12月に更新されたレンズロードマップに焦点距離だけを明示して現れました。長い沈黙ののち、2023年5月にニコンUSAが価格と発売日を含む詳報を出し、そこではじめてf/1.7と判明しました。小型で入門向けであることを考えると他にないスペックです。

そして最近省略されがちなレンズフードが同梱されています。雑な扱いをしてよくぶつける私にはとても嬉しい計らい。

なお現時点で「Z fc」に似合うSE版の発売や、レンズキットの取り扱いがあるかは分かっていません。

なぜ私は単焦点レンズを待望していたか

ZマウントのDXフォーマットにはキットレンズとなっている「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」がありますが、入門者がわざわざミラーレスカメラを買ってまずやりたいことであろう「背景ボケ」が存分にできるとはいえません。

「NIKKOR Z 40mm f/2」が登場してある程度は叶いましたが、焦点距離60mm相当の画角だと実用範囲は限られています(NIKKOR Z 28mm f/2.8は明るくないので検証していません)。

もちろん上位のSラインには「NIKKOR Z 50mm f/1.8 S」やもっと上もありますが、「Z 50」につける気にはなれません。ベストなのはDXのための明るい広角単焦点、それは安くて小さくて扱いやすいレンズということになります。ハードルは高かったでしょう。

本レンズはほぼ私の期待を満たしていますが、手ブレ補正がないことだけが気がかりです。気になるボケ具合とともに、そのあたりを中心に見てみましょう。

静止画

このレンズの最短撮影距離は0.18mで、かなり寄ることができます。ただキットレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」の広角端24mm相当でも0.21mなので、ほぼ変わりません。寄るだけなら同等と考えていいでしょう。

しかしこのボケやすい至近でさえ単焦点レンズのほうが明らかにボケ量は多く、ここにf/1.7の強さと意味があると思います。

ただ開放至近ではピント合わせが難しく、これはピントの薄さもありますが手ブレ補正がないためにEVFが揺れるからでもあると推測します。少し絞るか離れれば画面がととのう印象です。ちょうど植物を撮影する距離にピントとボケのほどよい塩梅があり、おすすめしたい写しかたです。

Z 50/NIKKOR Z DX 24mm f/1.7/24mm(36mm相当)/絞り優先AE(1/4,000秒、F1.7、±0.0EV)/ISO 280

現行のDXボディは画素数だけでいうと約2,088万画素ですが、じつは「Z 7」や「Z 9」と同レベルの密度です。少し離れたくらいなら拡大してしまっても画質には満足できるかも知れません。


遠景がよく写ることに驚きました。特に画面中央はシャープです。発色やコントラストも上品です。これは撮ってて楽しくなりました。絞れば解像力が増すというのは定説ですが、このレンズでは開放とf/8を比べても大きな差はありませんでした。周辺減光は解消しますが、そのままでもいいと思います。

Z 50/NIKKOR Z DX 24mm f/1.7/24mm(36mm相当)/絞り優先AE(1/4,000秒、F1.7、-0.3EV)/ISO 140

肝心のボケはどうでしょうか。おおまかな感想ですが、人物撮影で横位置バストアップくらいの距離であればじゅうぶんなボケが得られます。縦位置で全身が収まるくらい距離をとると少し物足りない印象なので、背景処理に気をつけたいところです。動画は横位置なので問題はないでしょう。

Z 50/NIKKOR Z DX 24mm f/1.7/24mm(36mm相当)/絞り優先AE(1/350秒、F1.7、±0.0EV)/ISO 280

手ブレ補正機構の必要性は感じませんが、正直に言うとAFはもう少し頑張って欲しいです。ピントが奥に抜けていることがしばしばありました。両手でしっかり構えて動いていないものを撮るなら大丈夫ですが、現代なので、もう少し性能が欲しいところです。

動画

「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」の24mmと「NIKKOR Z DX 24mm f/1.7」を交互に使ってVlogを撮ってみました。手ブレ補正の有無がどう影響するかを確認するためです(写っているのがいつも遊んでくれる小さいお友達なのでみなさんにお見せできません。かわいいのに残念です)。

正直に所感を申し上げますと、手ブレ補正があってもなくても変わりませんでした。広い公園で虫取りしている様子を手持ちで追いかけるのはやっぱり難しいと感じます。カメラに慣れた人には当然の結果なのかも知れませんね。ちなみにiPhone 13 miniであれば同条件でも楽に撮影できました。

動画の画質はとても良いと思います。存在感、立体感はスマホを寄せ付けません。f/1.7なので少し離れても背景がじゅうぶんにボケる点がキットレンズの「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」との違いです。動画の場合あまりに多いボケは画面が見づらくなりますが、f/1.7は少し多い程度なので表現に取り入れるのも含め扱いやすいでしょう。「Z 50」の内蔵マイクも非常にクリアで定位が分かりやすく、満足できる性能です。

総評

個人的にまだかまだかと待っていたレンズですが、かなり満足できる仕上がりでした。ボケは期待通り、遠景の良さは想像以上です。周辺減光が大きいのも魅力のひとつ。そういうテイストを、芯の解像力は高くAFは速く、動画対応もしているという現代レンズの基礎の上にバランスさせています。さらに価格もお手頃なので言うことはありません。

Z 50/NIKKOR Z DX 24mm f/1.7/24mm(36mm相当)/絞り優先AE(1/125秒、F1.7、±0.0EV)/ISO 800

あ、ひとつだけいいでしょうか。SE版は、飾ってても見栄えするようなかっこいいデザインを期待しています。

2010年に漫画サークル「ていこくらんち」をはじめる。2015年に出した同人誌「カメラバカにつける薬」が、あれやこれやでデジカメ Watchで連載させていただくまでになりました。カメラだけじゃなく、その向こう側にいる人たちの想いを伝えていければいいなと思っています。