特別企画

新たな写真表現を目指して…Luminar AI × 木村琢磨

作品制作をAIで強力&手軽に 斬新なアプローチのRAW現像ソフト

Luminar AIで制作した作例(Skylum提供画像)

写真を撮る時に皆さんは「RAWデータ」を残しているだろうか? デジタルカメラで撮影する場合、一般的な記録形式は主にJPEGになるが、そのJPEG画像になる一歩手前のデータが「RAW」である。

撮影する前に撮影環境に合わせてホワイトバランスを決めたり、風景やポートレートなどの仕上がりのモードを選択してシャッターを切るのが一般的な撮影のフローだが、RAWデータを残しておけば、撮影後にホワイトバランスの変更や仕上がりを変更することが可能となる。

RAWを扱うためには現像ソフトが必要となってくるが、その数ある現像ソフトのひとつが「Luminar AI」だ。

カメラメーカー純正のRAW現像ソフトを使用している人も多いと思うが、Luminar AIでは様々なカメラメーカーのRAWデータに対応。複数のカメラメーカーを利用している人なら、Luminar AIひとつあればまとめてRAW現像ができる。またLuminar AIをアップデートすることで、新機種のRAWデータも読み込むことが可能となる。

ここまでは他のカメラメーカー製以外のRAW現像ソフトにも共通する特徴になるが、今回はLuminar AIらしい特徴的な機能を紹介したい。

AIが効果範囲や適用量を判断、少ない手数で良好な仕上がりに

Luminar AIはその名の通り、AI=人工知能を使って画像編集をすることが大きなポイントとなる。

一言で言えば「自動」で現像をしてくれるのだ。難しい操作も知識も必要としないRAW現像のワークフローを体感できるのだ。

例えばこの作品は、逆光の中でプログラムオートで撮影したため、全体がアンダーに写ってしまった。

元画像

これをLuminar AIのAI補正を適用した画像。逆光の雰囲気は残しつつ適度にシャドウ部分が持ち上げられてより肉眼で見た景色に近い仕上がりとなり、雲のディティールと立体感も強調された。

AI補正後

「RAW現像ソフトは難しそう」との先入観を持っている人は多いだろう。確かに専門知識などがないと難しいアプリもあるが、Luminar AIを使うことで解決する。

まるでInstagramのフィルターやスマートフォンのレタッチアプリを使うように、ワンタッチで様々な仕上げを試せる気軽さがあり、一方でパラメータを詳細に調整することで、より自分好みに仕上げることも可能だ。

さらにRAWだけではなくJPEGデータも扱うことができる。まずはLuminar AIがどのようなことができるのか体験していただきたい。

次の作例は、木々の間から光が差し込んだ滝の写真。「こんな写真が撮れたらいいな」をLuminar AIを使って実現したものだ。

オリジナル画像
Luminar AIで現像(「太陽光線」を使用)
「太陽光線」の効果

実際の撮影現場ではここまで光芒は発生しておらず、自分のイメージしているシーンとは少し異なっていた。そんなイメージを具現化してくれるのがLuminar AIである。カメラの設定だけでは実現できない効果をLuminar AIは提供してくれる。その機能の一つが「太陽光線」だ。

Luminar AIの「太陽光線」が素晴らしいのは、被写体を認識して木々の隙間から太陽光が差し込んでいるように計算して効果を適用してくれるところ。そのため、他のソフトでいうところのマスクなどを作る必要がない。

太陽光線の効果に限らず、Luminar AIはその名の通りAIが被写体やロケーションを認識して効果を適用してくれる。特別な知識がなくとも頭の中にある「想像」したイメージを「創造」することができるのだ。

オリジナル画像
Luminar AIで現像

空だけを変化させる「SKY」

Luminar AIのもう一つの目玉として「SKY(スカイ)」機能がある。簡単に言えば写真の中の空を自由に差し替えることができる機能だ。曇りの空を晴天に、日中の空を夕焼けに、満点の星空や天の川を好きな被写体の背景に…とまさに自分好みの空を背景に仕上げることができるのだ。

空を入れ替えるということは切り抜き作業が必要なのでは? と思いわれがちだが、Luminar AIが自動で被写体と空を認識して、空の部分だけ差し替えてくれる。なので数クリックするだけで簡単に空の入れ替えが完了する。

オリジナル画像
SKY(例1)
SKY(例2)
SKY(例3)
SKY(例4)
※スカイ機能を適用後、ライトツールでホワイトバランスと露出を調整
「スカイ」機能を適用

このSKY、基本的には被写体と空がハッキリと分かれている方がより正確な結果を得られるが、複雑な形状でも正確に空を認識して入れ替えてくれる。初めてSKYを使用した時はこの精度の高さに驚かされた。

もちろん、被写体に当たる光と背景の明るさが極端に違ったりすると、それなりに違和感は出てくる。そうした場合は、空を入れ替えた後に露出やホワイトバランスを調整することでより完成度の高い結果を得ることが可能だ。

シンプルな工程で作業が進む

個人的にLuminar AIでお気に入りの機能を紹介させていただいたが、ここでLuminar AIの簡単なワークフローを解説してみよう。

Luminar AIが「簡単」だと自信を持って言えるのには理由がある。

画像を選択

仕上げに合わせてテンプレートを選ぶ

書き出し

と、たった3行程で現像作業を完了することができるのだ。

それでは実際に手順を見てみよう。

まずはカタログのタブの左側にある「+」のアイコンをクリックしよう。現像をしたい画像もしくは画像が入っているフォルダを選択することで画像が読み込まれる。

画像が読み込まれるとカタログに追加される。画像を読み込むとテンプレート画面に移行するが、現像したい画像が違う場合はカタログメニューに戻り現像したい画像を選択した状態でテンプレートメニューに移動する。

テンプレート画面に移動すると画面右側にテンプレートメニューが並んでいるので自分のイメージに近い仕上げのテンプレートをセレクトする。

ここでは「簡単風景写真コレクション」から「サンセット」を選択。Instagramのフィルターを選ぶようにワンクリックするだけで効果が施される。

必ずしも風景だから風景のテンプレートを組み合わせるのではなく、いろいろなテンプレートを試してみることで意外な組み合わせや発見があるだろう。

特別な知識を必要とせずワンクリックで様々なテンプレートを試すことができるので、すべてのテンプレートを試してみるのも手だ。

長秒露光
清光
ノワール風景
森林河川
降雪
焼けたフィルム
冷ややかな場面
ティール&オレンジ
「テンプレート」を選択

プロの写真家が制作したテンプレートも配布されており、今後ますますバリエーションが増えていくはずだ。一度現像した作品を改めて現像し直すのも面白いだろう。

テンプレートが選択できたら次はエクスポート(書き出し)だ。書き出し形式はJPEGだけでなくTIFFやPSD、PDFも選択できる。

自分に合わせたより細かな調整も

以上、テンプレートを使ったLuminar AIのワークフローを見ていただいた。もちろんより細かなパラメーターの調節も可能だ。

編集タブをクリックすることで通常の編集画面に移動する。編集時のツールは、上からエッセンシャル、クリエイティブ、ポートレート、プロフェッショナルと補正項目が4つに分かれている。基本的に上から順番に調整していくと迷わなくて済む。

Luminar AIに限らず個人的なRAW現像の手順として

1. プロファイル、ホワイトバランスの決定
2. 露出、コントラストの決定
3. 彩度の決定
4. その他特殊効果
5. 各項目の微調整

の順番で調整をおこなうようにしている。

RAWからの現像とJPEGからの現像の大きな違いの一つにホワイトバランスの調整幅がある。

RAWではホワイトバランスをケルビン値で細かく調整することが可能だがJPEGではそれができない。また、RAWではホワイトバランスのプリセットを選択することもできるのでより現像が楽になる。

JPEGだとホワイトバランスの調整をケルビン値で指定することができないが、RAWだとそれが可能になる。また、RAWだとホワイトバランスのプリセットが使えるが、これもJPEGでは不可能だ。

JPEG(左)とRAW(右)
JPEGはRAWと異なりホワイトバランスをケルビン値で指定できない

また写真のベースとなる「プロファイル」がJPEGでは後から変更できないので、可能であれば撮影時にRAWも残しておいて欲しい。

プロファイルの選択はRAWでのみおこなえる

プロファイルを変更することで標準、ビビッド、ポートレートなどに適したベースのコントラストや彩度に調整してくれる。テンプレートほどの劇的な差はないが、現像をする上でベースを最初に決めておくことは重要だ。プロファイルの変更だけで完結する場合ももちろんあるのでまずはホワイトバランスとプロファイルで調整しよう。

LUTで大きく雰囲気を変える

次は、普段私がよく使うツールの効果をいくつか紹介させていただこう。

縁取り

エッセンシャルから選べる「縁取り」を使うことで、被写体のアウトラインの強弱を調整できる。モヤがかかっていてアウトラインがハッキリしないシーンなどで使用すると鮮明な画像にすることができる。

マイナスに調整することでよりアウトラインをぼかしていくことができるため霧の中にいるような効果に見せることも可能だ。縁取りのマイナス効果はポートレート撮影などでも人気の効果の一つだ。

縁取り
適用量0
適用量100
適用量-60

かすみ除去

「風景写真」ツールは、その名の通り風景写真でよく使われるツールを一まとめにしたものだ。

中でも「かすみ除去」は人気のある機能で、その名の通りかすみを取り除きコントラストを高めるツールだ。いわゆる抜けの良さを強調する機能で霞んだ青空をもう少しハッキリとした色にしたい、虹をもっと鮮明にしたい時などに効果を発揮する。

かすみ除去
適用量0
適用量100

さらに「縁取り」を組み合わせることでさらに全体の鮮明度を向上させた。RAW現像とはこのように様々な機能を組み合わせて自分の仕上がりイメージに近づけていく作業だ。

かすみ除去+縁取り

ムード

そしてもう一つご紹介したいのがムード機能だ。動画を撮・編集している人は馴染みがある「LUT」を当てる機能だ。LUTとは「Lookup table」の略称で、簡単に言えば自動で色変換をしてくれる機能だと思って欲しい。LUTの種類を選ぶだけで全体の印象を大きく変えることができるため仕上げに迷っている時などはいろいろなLUTを当てて画像がどの雰囲気に合っているのかを確認してみると良い。

本来であれば様々なパラメーターを調整してたどり着く結果だが、ムード機能からLUTを選ぶだけで、何十種類もの仕上げを瞬時に試すことが可能だ。

ムード
選択なし
Palm Springs
1960
Genius
Red Trace
Wooden

「Sky AI 2.0」が実装予定

簡単操作でハイクオリティな結果を得られるLuminar AIだが、今後もアップデートで更なる機能が追加されていく予定だ。

その中でも近日公開される機能をよりアップデートした「Sky AI 2.0」は現行のスカイ機能の精度をさらに向上させ、水面の映り込みなどもAIが認識して反映してくれる。

下の作例では、水面の映り込みまで認識して空が入れ替わっているのが分かる。

補正なし
(作例提供:Skylum)
Sky AI 2.0を適用
(作例提供:Skylum)

Luminar AIにはまだまだ紹介しきれないほどの豊富な機能が搭載されている。ヘルプメニューからユーザーガイドにアクセスできるため、より細かく調整をしたい人はは一度目を通しておこう。


◇   ◇   ◇

Luminar AIが今までのRAW現像ソフトと明らかに違うアプローチのソフトであることが、お分かりいただけたのではないだろうか。写真を撮る行為はそのままに、撮影後にイメージを作り上げていくスタイルのLuminar AIは、新たな写真表現のスタンダードになっていくだろう。

この数年でスマートフォンが普及して写真を撮る人口は何倍にもなった。写真を撮る人が増えた分だけ表現方法も増えており、特にSNS上では今までとは違う写真表現が日々生まれている。生粋の写真表現からSNS世代のクリエイティブな写真表現までLuminar AIは提供してくれる。

Luminar AIを使うことで「想像」していた一枚が「創造」できるようになり、今後ますます新しい角度からの写真表現、アプローチが増えていくだろう。写真家としてこれからも新しい写真表現を追求していきたい。

制作協力:Skylum

木村琢磨

岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に広告写真(風景・料理・建築・ポートレートなど)を撮影。ライフワーク・作家活動として岡山の風景を撮影。12mのロング一脚Bi Rodやドローンを使った空撮も手がける。​イベントやカメラメーカー主催のセミナーで講師としての登壇も。2013年 APAアワード2014写真作品部門 入選。2016年 オリンパスギャラリー東京にて個展開催。