特別企画

山岳写真家・菊池哲男さんにKANIフィルターを試してもらいました

「Partial Soft Focus」「Premium Dual Purpose GND 0.75」レビュー

厳冬の白馬三山と沈むオリオン座など冬の星座たち(パーシャルソフトあり)
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S / 24mm / マニュアル露出(15秒・F2.8) / ISO 3200

最近、注目を浴びている角型フィルターを自分なりに効果がありそうなシーンに使ってみた。

車で移動し、近場で撮影するならとりあえず持参すれば良いのだが、できるだけ装備を軽くしたい山岳の撮影においては、撮影機材はぎりぎりまで絞り込みたいところ。テントやシュラフ、食料、コンロなど生活様式一色のほか、ピッケル、アイゼン、スノーシューなどのギアも担ぎあげなければならない冬山では尚更のこと。今まではPLフィルターと保護フィルターくらいしか使っていなかったが、最近、角型フィルターを使用した作品を目にする機会が増え、その効果を目のあたりにして、試してみたくなったのだ。

北アルプス遠見尾根・小遠見山で撮影中の筆者。バックは厳冬の五竜岳

今回試した角形フィルター

KANI Partial Soft Focus Filter

今まで山岳夜景の撮影に際し、星空を撮影する場合、フィルムカメラと違ってデジタルカメラで撮影するとピントを合わせれば合わせるほど、明るい星と暗い星との区別がつきにくく、良く知られた星座などもわかりにくくなるという難点があった。

これに対し、星像をわずかにぼかすソフトフィルターの使用もおこなわれていたが、画面全体をぼかすために明るい星だけでなく山並みもわずかにボケてしまうので、私自身は使っていなかった。

今回、部分的にぼかすフィルター「KANI Partial Soft Focus Filter」(以下、パーシャルソフト)がKANIから発売されたので、早速利用してみたのだ。ソフト部分は縦方向7割程度だが、口径によっては多少上下移動が可能だ。

KANI Premium Dual Purpose GND 0.75 Filter

GNDフィルターとは日本ではハーフNDの名称で知られるフィルターで、海外では「Graduated Neutral Density」の頭文字を取ってGNDフィルターと呼ばれている。

一般的には角型フィルターの上半分がND、下半分が透明になっていて、朝日や夕陽などダイナミックレンジが広い場面で明暗差のバランスを取るために使う。ND部分の濃度の違いのほか、いくつかのバリエーションがあって、境目がソフトタイプとハードタイプに分かれているほか、リバースといって中央付近が一番暗くなっているタイプもある。

今回使用したのはKANIブランドの「Premium Dual Purpose GND 0.75フィルター」。境目が2カ所あるGNDフィルターで、1枚でソフトとハードタイプ、両方使える便利なGNDフィルターだ。

星を効率的に大きく目立たせるパーシャルソフト

撮影は1月中旬~2月中旬にかけて、北アルプスの白馬岳、五竜岳、鹿島槍ヶ岳周辺などを4回にわたりおこなった。厳冬期の白馬岳一帯は、積雪の少ない八ヶ岳はもちろんのこと、北アルプスでも槍・穂高連峰など南部・中部とも違って悪天の日が多く、撮影できるチャンスが少ないのだが、それだけに豊富な積雪がもたらす山岳美は本場アルプスを彷彿させるものがある。

まず最初に訪れたのは五竜岳遠見尾根の小遠見山。2,007mの山頂にテント泊して、朝焼けはもちろんのこと、満天の星空や月光浴の山々の撮影をめざした。

そして取材日、入山の時は無風快晴だったのだが、日が沈んで薄暮が終わり、いよいよ夜景撮影というときになって強風が吹きだし、明け方まで続いた。それは防風用に雪のブロックを積んでいてもテントごと飛ばされるような風で、雪洞にしなかったことを悔いたが、後の祭り。風が息をするタイミングを読んで三脚を抑えつけて少しは撮影したものの、なかなか厳しい撮影で、陽が昇る頃になって徐々に風は収まって、やっと落ち着いて撮影できたのだった。

鹿島槍ヶ岳・五竜岳が一望できる小遠見山でのキャンプシーン
ヒマラヤを彷彿させる厳冬期・鹿島槍ヶ岳北壁の朝焼け

そんな厳しい撮影の中で「満天の星空の鹿島槍ヶ岳・五竜岳に沈む冬の星座たち」をパーシャルソフトのありなしで比較してみた。

パーシャルソフトあり
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 24mm / マニュアル露出(13秒・F2.8) / ISO 3200
パーシャルソフトなし
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 24mm / マニュアル露出(13秒・F2.8) / ISO 3200

元々、冬の星座は明るい1等星が多いので、オリオン座やおうし座などソフトフィルターを使わなくても判別はできるのだが、実際に使ってみると明るい星ほど大きくボケて存在感のある作品に仕上がった。少しだが、星の色味も付いたようだ。実際の画像をパソコンの画面でチェック。山の稜線を拡大してみたが、フィルターの有無で差は感じられなかった。ただ暗い星はフィルター無しの方が多いような気がした。


◇   ◇   ◇

次の作品はまだ月明かりがある中での「月光浴の冬の稜線と安曇野夜景」。手前の山は天狗岳、遠く左下の山並みは浅間山(右)と根子岳・四阿山(あずまやさん)の稜線だ。

この日は月が明るいので、空にはオリオン座と冬の大三角くらいしかわからないが、わずかな星たちが大町市から安曇野のかけての街明かりに負けないで主張している。ちなみにこの月が沈んだ後の星空を撮影したのが先ほどの作品だ。

パーシャルソフトあり
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 17mm / マニュアル露出(13秒・F4.0) / ISO 800
パーシャルソフトなし
Nikon Z 6 / NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S / 17mm / マニュアル露出(13秒・F4.0) / ISO 800


◇   ◇   ◇

GNDで夕空の赤を際立たせる

次にテストしたのは、角型フィルターの定番とも言うべき、GNDフィルターだ。前述の通り、今回はハードとソフトの両方の境目を持つ「Premium Dual Purpose GND 0.75フィルター」を使用した。

撮影は長野県白馬村を見下ろせる北アルプス唐松岳へ続く八方尾根。この日は満月直後の明るい月があり、標高1,850mに建つ八方池山荘上部で月の出の撮影をした後、山荘に戻って2時間ほど仮眠。その後、まだ暗い3時過ぎに八方池山荘を出発し、風の芸術とも言うべきシュカブラ(雪の風紋)の綺麗な場所で朝焼けの撮影をおこなった。

今回、GNDフィルターが得意とする朝焼けを狙った。陽が出る前、空の赤味は最高潮に達するが、その色に露出を合わせると手前の雪景が暗くなってしまう。逆に手前の雪景に露出を合わせるとせっかくの朝焼けの赤味が薄れてしまうという条件だ。

そこで空の部分の光量を抑えるようにGNDフィルターをセッティングすることで、うまく赤味を損なうことなく、手前の雪景色も表現できたと思う。

GNDあり
Nikon Z 7 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 24mm / マニュアル露出(3.0秒・F11) / ISO 200
GNDなし(空の赤味が少し薄れた)
Nikon Z 7 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 24mm / マニュアル露出(3.0秒・F11) / ISO 200

次にテストしたのはPremium Medium GND 0.9フィルター。ソフトとハードの中間のGNDフィルターで、2月中旬、入山前に白馬山麓の姫川にかかる橋の上から五竜岳と鹿島槍ヶ岳を撮影した。

Premium Medium GND 0.9 100×150mm

まだ山に陽が当たり始めたばかりで、最初は70-200mmの望遠ズームレンズで山そのものを撮影していたが、その場の雰囲気を表現するにはもう少し焦点距離は短いレンズの方が適していて、24-70mmの標準ズームレンズに切り替えた。その際、手前の河原など日が当たる前のシャドー部が多くて上記Premium Dual Purpose GND 0.75フィルターではカバーできないため、Medium GND 0.9フィルターを使ったのだ。

GNDあり
Nikon Z 7 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 56mm / マニュアル露出(1/60秒・F13) / ISO 200
GNDなし
露出を地面に合わせた
露出を山に合わせた

雪山に露出を合わせると、日陰の河原がかなりアンダーになってしまい、ここを出そうとすると空の青みが白っぽくなってしまうところだが、Medium GND 0.9フィルターの利用により、上手く調整できたと思う。ちなみにこの作品は3枚ともPLフィルターを併用している。

なお、GNDフィルターのメリットは明暗差を補正することにあるが、雪山の場合、大地の明暗差は雪の無い夏山などと比べると少なくなっているので、確実にGNDフィルターを使った方が良いとは言えない場合もある。フィルム時代、山岳の撮影ではシャドー部が落ちやすいことを利用して、山の立体感を出すためにコントラストを立たせるという表現もあり、デジタルカメラとなった今でも必ずしもダイナミックレンジ補正をしない方が良い場合もある。

一方、夏山などで手前にお花畑などのポイントがあり、奥の山が赤く焼けている場合などはGNDフィルターの最も得意とするところで、その効果は大きいと言わざるを得ない。条件とフィルターの効果を見極めながら、今年は夏山でもぜひ使ってみようと思っている。

GNDあり
Nikon Z 7 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 56mm / マニュアル露出(1/60秒・F13) / ISO 200
GNDなし
露出を空に合わせた
露出を地面に合わせた

また今回使ってみて感じたのは朝焼けなど、思っている以上に空の変化が激しく、また気象の厳しい冬山ではグローブをした手でタイムリーに作業できないことも多いということ。実際、メインの被写体である山が焼けている時になかなかそこまで手が回らないのだ。

したがって山のような大自然を前にGNDフィルターの使用は、あくまでも補助的に押さえておくくらいがちょうどよく、あまりやり過ぎるとありえないような光の条件になり、やり過ぎ感が否めない印象を与えることになる。個人的にはその境界線は見た目と同じ程度というところだと思っているが、最終的には撮影者がどう考えるかで決まるだろう。


◇   ◇   ◇

最後に今回、Nikon Z 14-24mm f2.8 Sでの撮影時にKANIブランドの100mm幅角型フィルターホルダーとレンズ側アダプターのセット「Nikon Z 14-24mm f2.8 S Holder for 100mm」を使用した。ニコンのZマウント交換レンズ「NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S」専用の角型フィルターホルダーで角型フィルター2枚までの使用であればケラレないとしている。

Nikon Z 14-24mm f2.8 S Holder for 100mm

取り付けはとてもシンプルで、はめこんでサイドにある小さなネジで止めるだけ。専用のPLフィルターを取り付けて、簡単に回転させることも可能だ。

このレンズ側アダプターを変えることで他のレンズにも装着ができ、GNDフィルターの作例は100mm幅角型フィルターホルダーをそのまま利用した。

Filter + Holder Case for 100x100mm・100x150mm

ちなみに私自身は持参するフィルターをできるだけ必要最小限としたい方だが、様々なフィルターを使い分ける方にはフィルターケースが便利。KANIの「Filter + Holder Case for 100x100mm・100x150mm」は、100x150mm、100x100mm 3枚に加え、100mm幅ホルダーが一緒に収納できるのがいい。ただし、どこに何のフィルターを収納したか、印をつけておいた方がよいだろう。

制作協力:ロカユニバーサルデザイン株式会社

菊池哲男

山岳写真家。1961年東京生まれ。立教大学理学部物理学科卒。山岳・写真雑誌での執筆や、写真教室・撮影ツアーの講師、アウトドアメーカーのアドバイザーとして活躍。2020年7月ニコンプラザ新宿、8月ニコンプラザ大阪のTHE GALLERYで大規模な作品展を行った、最新の写真集は『鹿島槍・五竜岳 -天と地の間に-』(2020年 山と溪谷社)。東京都写真美術館収蔵作家、日本写真家協会(JPS)会員、日本写真協会(PSJ)会員。