特別企画
“超”マクロ撮影を小型軽量レンズで…「LAOWA 65mm f/2.8 2x Ultra Macro APO」で春の花を撮る
2020年4月28日 12:00
個性的なレンズをライナップするLAOWAブランドから、新しいマクロレンズが登場します。
「LAOWA 65mm f/2.8 2x Ultra Macro APO」は、APS-Cセンサー搭載のミラーレスカメラのために設計されたマクロレンズ。海外で先行発表され、日本でもこのたび発売が決まりました。
LAOWAのマクロレンズといえば、いずれも等倍以上、2倍の撮影倍率という珍しいスペックが特徴です。今回の新製品の撮影倍率もしっかり2倍をキープ。作りこみの良さなどLAOWA製品の遺伝子を受け継いでいます。
それでいてフィルター径52mm、重量335gという小型軽量の鏡胴が自慢。最新レンズだけに、画質についても期待がかかります。
この最新レンズを写真家のわたなべももさんに使ってもらい、作品とともにその特徴をレポートしていただきました。(編集部)
LAOWA 65mm f/2.8 2x Ultra Macro APO【主な仕様】
- 焦点距離:65mm(35mm判換算97.5mm相当、または104mm相当)
- 開放F値:F2.8
- レンズ構成:10群14枚(異常低分散レンズ×3)
- 絞り羽枚数:9枚
- 最短撮影距離:17cm
- 最大撮影倍率:2倍
- フィルター径:52mm
- 外形寸法:57×100mm(直径×全長)
- 重量:335g
- 対応マウント:ソニーE(APS-C)、富士フイルムX、キヤノンEF-M
自分にとってのマクロレンズ
花を撮りたくて写真を始めたわたしが、一番初めに買ったレンズはマクロレンズでした。
花は小さくて可憐です。でも、よくよくみると、花びらの模様が美しかったり、しべの形がおもしろかったりします。立って見下ろすのと、花と同じ高さになってのぞき込むのとでは、かなり印象が違います。
お花畑もすてきだけれど、その一輪一輪と対話するようにレンズを向けると、まるで自分がアリやテントウムシになった気持ちがして、花粉がおいしそうに見えたり、花びらの迷路に迷い込んだり……そう、気分はまるでアリス。マクロレンズの向こうには不思議の国が広がっているのです。
花を大きく撮るには、花に近づくことが大切です。ですが、ほとんどのレンズは被写体に近づくとピントが合わなくてボケてしまいます。それは最短撮影距離(被写体に近づき撮影できる距離)が長いからなのです。
マクロレンズは接写ができるように、この最短撮影距離が短くなるよう作られています。もっと寄りで撮りたいのに……というもどかしさから解放され、思いっきり花に近寄れます。
また、開放F値が明るいレンズが多いので、絞りを開放にすると花の前後がやわらかくボケて、ふわふわのなかに花が浮かんでいるようなファンタジックな写真が撮れます。
さて、LAOWAのレンズといえば、独創的でアイディアに富み、さらに質が良いとの評判ですが、今回わたし、初体験。いつもカメラはフルサイズセンサーを搭載したモデルを使っていますが、このレンズはAPS-Cセンサー専用とのことなので、ソニーα6600につけてみました。
心配なこともあります。ふんわりとろりとしたボケの表現をなにより大切にしているのですが、イメージセンサーのサイズが小さくなると、実はボケ感も少し硬くなってしまうのです。また、純正レンズではないのでAFが効かずMFでピント合わせをすることや、いつも使うボディの機能がどこまで使えるかなど、どきどきしながら手に取りました。
サイズ感・重量
まず箱から出して驚いたのは、フィルター径が52mmとコンパクトなこと。そして335gという軽さ(私がいつも使っているマクロレンズの約半分!)です。
α6600はボディ自体が小さめなので、フルサイズ用の明るいレンズをボディにつけるとバランスが悪く感じていました。それがこのレンズだと、装着した時のバランスがすこぶるよい。手のひらに乗るようなかわいらしさで、持ち運びもらくらくです。
レンズには2つのリングがあります。
ボディ側(撮影者の手前側)のリングは絞りリング。ボディのダイヤルと連動していないので、このリングを回し、絞りの数値を赤いラインに合わせて調整します。リングを回すと数値ごとにカチッ、カチッとわずかに引っかかるしくみ。慣れればリングを見ずに、ファインダーをのぞいたまま感触で絞りを変えることが可能です。
レンズ先端側のリングは、ピントを合わす時に使うフォーカスリング。重すぎず、軽すぎず、早く回してもゆっくりでも驚きの滑らかさ。この操作性には職人魂を感じました。
そしてこれはマクロ撮影において非常に大事なポイントです。なぜならマニュアルフォーカスでピント合わせをするとき、少しでも余計な力が入るとピントがずれたり、構図が変わってしまうほど、リング操作とは繊細なものなのです。このフォーカスリングなら、マニュアルフォーカスもうまくいきそうな予感がしました。
機能・操作性
マウントに電子接点を備えていないので、Exif記録には対応していません。ただし、焦点距離入力によるボディ内手ブレ補正には対応しています。
とはいえ、手持ち撮影の場合はいつもよりシャッタースピードを上げて撮影することをおすすめします。等倍以上の撮影では三脚を使うほうがよいでしょう。
α6600のピーキング機能も使えました。ピント拡大機能も利用できるで、三脚使用時はフレキシブルスポットで合わせた位置を拡大してから、じっくりピント調整すれば確実に合焦できます。
インナーフォーカスを採用しているため、レンズが繰り出して花にぶつかる心配もありません。撮影倍率2倍までの接写ができるレンズですので、これはありがたい仕様です。
描写性能・ボケ
解像力はすばらしいのひとことです。さらに絞りを開けて大きくぼかすと、そのボケ感は極上のやわらかさ。前ボケも後ろボケも自然なトーンで納得の美しさです。2倍撮影のこともあり一風変わったレンズと受け取られるかもしれませんが、画質については個性派というより正統派。どんな花とも相性が良いでしょう。
被写体との距離も少し引きで写したのものから、ぐっと接写で花の一部を切り取ったものまで、何のストレスもなく撮影でき、画質も色もボケの描写も大変質が良いと感じました。
また、画面の隅に主役を置く構図が好きなわたしですが、端においた花にも歪みがなく、忠実に形を保っていました。
玉ボケは絞り開放ではきれいな円形を描きますが、絞ると9角形に変形します。わたしはオールドレンズも好きなので、この形は個性として受け入れることができました。
2倍の撮影倍率
ここまではいわゆる高品質のマクロレンズという印象。ところがこのレンズが本領発揮をするのはここからです。最大撮影倍率は等倍あれば十分と言われているマクロレンズに、あえて2倍を採用……これはなんとも興味深い未知の世界です。
通常、2倍にするためには、レンズとボディの間にエクステンションチューブなどを付ける必要があります。そのことでピント合わせも難しくなり、面倒だなあと避けてきました。けれどこのレンズなら、いつもの撮影と同様に、超マクロの世界を楽しむことができるのです。
わくわくしながら花芯を覗くと、なんと花芯が花の形をしていました。大発見です! 花びらはとろとろのスープのようになり、光を受けたラインだけがきらりと浮かんでいました。シンプルな構図では9角形のボケがアクセントとなり、宝石のようにきらめいていました。
しずく写真にもチャレンジしましたが、絞りをF11まで絞ったので写り込みの花がくっきりきれいなのに対し、花自体は自然にボケたままでしずくの描写を邪魔しません。楽しくて楽しくて、超マクロの世界に引き込まれてしまいました。
注意すべき点もあります。超接写撮影では三脚を使うこと。花にぶつかる可能性があるのでレンズフードは外すこと。少しのブレでも影響を受けるため、タイマーやリモートシャッターなどを使用することです。
まとめ:写欲を刺激する〝わくわく〟レンズ
金属製で高級感のある見た目も、マニュアルフォーカスの操作性も、解像力の高さやボケの描写も、すべて満足のいくものでした。特に、コンパクトなレンズであるにもかかわらず素晴らしい画質が得られる点については、「これで作品を作っていこう」と思わせるほど力のあるものでした。
そして、正統派としての力量を充分備えているだけではなく、超マクロという敷居の高かった未知の世界をこんなに手軽に見せてくれる、そのわくわく感こそがこのレンズの魅力です。
花をアップで撮影するとき、一番使いやすいマクロレンズは焦点距離90〜100mmのレンズです。75mmでは短く、135mmではマクロとしては少し長いのです。このレンズは35mm判で換算すると、ソニーE、富士フイルムXの場合は約98mm、キヤノンEF-Mの場合は104mmになるのでまさにピッタリ!
また今回の写真はすべて三脚を使用していますが、マニュアルフォーカスでの撮影は「花写真を丁寧にじっくり撮る」という基本を改めて思い出させてくれました。優しい花たちは、慌てなくてもずっと待っていてくれますものね。
LAOWAは今注目されているブランドですが、他にもマクロレンズをいくつか出していて、どれもプラスαの特徴を持った個性派ぞろい。わたしたちに刺激と写欲を届けてくれます。このわくわくを皆さんもぜひ体験してみてください。そう、まさに体験するレンズです!