特別企画
換算525mmで行くモロッコ2,000kmバスの旅
α7R IV+APS-C用E70-350mmで超望遠スナップ
2020年3月26日 06:00
アフリカ大陸北部、砂漠地帯を有することでも有名なモロッコ王国の数都市を縦断移動するツアーで撮影旅を敢行してきました。実に約2,000kmもの距離を長距離バスに乗ってめぐる旅程です。使用したカメラはソニーのミラーレスカメラα7R IV。このカメラを中心にシステムを組んでいます。走り抜ける沿道風景をどのように切り取ることができるのか。APS-Cクロップモードも使用しながら撮影していきました。
α7R IVの画素数とEマウントのメリットを最大限にいかす
長距離移動を伴う旅のため機材の重量は極力抑えたい。でも、画質はしっかりと確保したい。こうしたワガママな要求に応えてくれるシステムとは何か。そうした願いに対して、ソニーのフルサイズα機はしっかりと応えてくれます。小型・軽量ながら35mm判フルサイズセンサーを搭載しており、α7R IVなら有効約6,100万画素が使える。それでいてバッグへの収まりが良いので、しっかりと必要な機材を詰め込めるところが、まずポイントです。
そして、Eマウントレンズはフルサイズ用もAPS-C用も同じマウントのため、フルサイズ機ならどちらも利用可能。しかもAPS-Cならクロップモードで「あと一歩」の寄った画角も得られます。今回の撮影旅では、そうしたソニーのミラーレスαならではの利点に着目して機材システムを組みました。
まず使用したレンズは「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」。このレンズはα6600などのAPS-Cミラーレスカメラ用の望遠ズームレンズです。2019年10月に発売されたモデルで、「G」を冠するレンズとなっています。35mm判のフルサイズカメラに装着するとAPS-C相当にクロップされ、望遠端で525mm相当の超望遠画角が得られることになります。α7R IVの重量はバッテリーとカード込みで約665g。本レンズは約625gですので、トータルで1,290gと、軽量ながら超望遠システムを構築できる、というわけです。
撮影時はフルサイズセンサーをAPS-Cにクロップして使用することになるのですが、まず不安になってくるのが画素数です。α7R IVの画素数は有効約6,100万画素。APS-Cにクロップすると約2,620万画素になります。ここからは考え方次第ですが、今回試用してみた限りでは“これもアリ”な選択だと思えました。
フルサイズ機をAPS-Cにクロップして使用するメリットは2つあります。1つ目は、いま取りあげたように、焦点距離が1.5倍相当になるということ。そして2つ目は、像面位相差AFセンサーが画面端にいたるまですべての領域をカバーできるということです。特に今回のようなバス移動の多い撮影行では、AFセンサーのカバー率が高くなることは大歓迎。取り回しのしやすい超望遠システムで、歩留まりの良さが期待できます。
今回の旅では、こうした使い方にも注目しながら撮影しています。
作品
変わらない風景が続くバス旅では、道の向こうからやってくるのは何だろうって期待しながら眺めているのも楽しみでもあるのです。
実際にはそれぞれのクルマの間隔はかなり離れているのですが圧縮して見えます。
大都市カサブランカで乗り込んだバスは郊外の牧草地帯を見ながら、やがて荒涼としたエリアやいくつもの大都市へとどんどんと進んでいく車窓風景を中心に望遠レンズで記録してみました。
街を出て小一時間も走ると、緑のこの風景を見ることはもうなくなってしまいました。
このカットは1/2,500秒ですが、走るバスの車窓からの撮影では平均して1/2,000秒くらいで撮影しないと、悪路を走るバスの揺れではフレーミングすることさえ不可能でした。
「青い街」として近年有名になった崖沿いに張り付いたシャフシャウエンの街並みを高台から見ると、青く塗られた建物がいかに多いかがうかがわれます。
デコボコ道が延々と続いていく姿を超望遠レンズで撮ると、遠近法を無視した面白い造形が姿をあらわすこともあります。町と町の距離がかなり離れているものの、移動手段はクルマだけじゃなく馬車やラバ車、バイクや自転車も活躍しています。
馬車だって今も大活躍している。この馬車は荷物を届けた後なのか、箱乗りの馬主以外何も乗っていないので軽いのだろうけど、ものすごいスピードで走っていて、あやうくバスとぶつかりそうな勢いでした。
お世辞にも心地良いとは言えない路面を、ハイウェイ並みのスピードで走るトラックと、同じ道を自転車で走る少年。余計なお世話ですが「大丈夫??」って心配になります。
ガイドのモハメッド氏。横顔が神職者のように見えたので離れた場所から超望遠で1カットだけそっと撮影した。彼が纏ったカンドゥーラという民族衣装のターバンの生地と皮膚感がリアルな描写。
早朝、フェズの旧市街を見下ろせる高台に到着。街の中心部にはモスクなども見え、イスラム古代都市のパノラマ風景が広がります。
朝焼けを浴びてアンバーに染まる街並みがAPS-C相当ながら克明に描写されています。
ズームの最大値では、子どもの頃に観光地で望遠鏡を覗いた感覚を思い出す。ファインダーの中の風景についつい夢中になって、シャッターを切って楽しんでしまいました(笑)。
高台から昇る朝の光線に染まる街並みを眺めている猫。監視員みたいに真剣な眼差しでした(笑)。
高台から6号線とウイラーヌ道路が交差するラウンドアバウトを見下ろす。モロッコの交差点のほとんどはラウンドアバウト方式でした。
城壁に空いた穴の中に巣作りをしているカラスの夫婦がベッドに使う素材を集めていました。巣に近寄ると攻撃されてしまいますが、望遠なら、刺激することなく、その様子を記録できます。
皮革製品で有名なフェズにはタンネリと呼ばれるなめし革工房があります。そこでは動物の皮を剥いだあとに、革製品につけられるように加工する職人たちが働いています。
染料を乾かすために天日干しされている“なめし革”は圧巻です。
350mmの望遠側でアップにすると、革の質感が目の前にあるかのように迫って見えてきます。落ちないように折られて乾かされているので、ひろげると優に2m以上もある一枚革になります。大きな動物からとられた革である証しでしょう。
モロッコの古代都市の旧市街には、メディナと呼ばれる要塞都市があります。職人が働く加工所、スークと呼ばれる市場には、肉屋や八百屋などといった食料品店、日用品や雑貨店、ハマム(浴場)まで備わっています。迷路のような街の、細い路地で荷物を運搬するには、小柄で力持ちなロバの力を借りるしかないのです。
右の派手なピンクの車はタクシー。モロッコとカサブランカでは赤、ラバトは青、マラケシュは黄色というように、その地方(街)によってタクシーの色がそれぞれ決められているのです。写真はアトラス山脈南側からマラケシュ方面へ向かう10号線を走っていた頃に撮影したもの。この辺りではピンク色のタクシーが特色でした。
街道には横断歩道なんかありません。だから歩行者はクルマの合間を走り抜けて渡るしかないのですが、当然クルマが止まるとちょっとした渋滞が発生します。街道沿いの街では、こんな風景がみられることもあるのです(笑)。
走るバスから換算525mmのポートレート撮影をするのは、なかなか難しいものだと実感しました(笑)。
長距離でも平気で原付みたいな小さなバイクで移動している人をみかけましたが、そういえば暑くて蒸れてしまうのでしょうか、ヘルメットをしているライダーは少なかったような気がします。
世界中の何処へ行っても聞こえてきそうな、こんな親子の会話です(笑)。「いつまで遊んでるの、さあ早く家に帰るよ!!」。
一瞬、蜃気楼かと目を疑ってしまいました。何も変わらない砂漠と道だけの高原風景を走ってきたところに、突然目の前に煉瓦色の新しい建物があらわれました。実はこれ、Boumalne Dadesというベルベル人の街並みなのです。
砂漠地帯からトドラ峡谷へ向かう途中、沿道の崖下にはナツメヤシ林が広がっていました。ナツメヤシの実はデーツと呼ばれ、朝食などに出てくるモロッコでは定番の食べ物。ジャムやお菓子にもなる栄養豊富な万能食材です。
アトラス山脈の南麓にあるトドラ峡谷。大きな岩山を見上げるとクライマーたちの姿が見えます。高所恐怖症のボクにとっては信じられない危険行為にしか見えないのですが(笑)。
350mmにズームアップしてファインダーをのぞくと、険しい岩肌を登るロッククライマーの動きや装備までが克明に確認できました。
超望遠に相当する画角だと、仕事に精を出す人々の邪魔をすることなく自然な動きを捉えることができます。トドラ峡谷のこんな山奥にある谷合の村にも人々の暮らしがあります。地元の人たちはこの川で飲料水を汲んだり、洗濯をしています。トドラ川は、彼らにとってはいわば生活用水でもあるのです。
幹線道路沿いには、仕事終わりに迎えの車を待つ人や、ヒッチハイクをしようとする人たちの姿が多く見られます。
最後の宿泊地へと向かうバスから見た風景は、今日もまた西陽を浴びて金色に輝く道でした。
旅をふりかえって
冒頭にも記しているように、「E 70-350mm F4.5-6.3 G OSS」はα6600などのAPS-Cセンサー用に設計された望遠ズームレンズですが、同じEマウントですので、35mm判のフルサイズセンサーカメラにも使えます。フルサイズセンサー機に装着すると画角が1.5倍相当にクロップされますので、35mm判に換算すると105-525mmの超望遠ズームレンズに変身します。
今回のモロッコ撮影旅行は、移動の大半がバス移動になることがわかっていました。せっかく砂漠と赤土が続く広大な地に行くわけですから、なんとか撮影機会を増やせないものか。そこで思いついたのが、いっそのこと、この移動時間をまるっと使って車窓から見える風景や人々を超望遠の画角で捉えてみようというアプローチでした。正直いいますと、本来の仕事目的で持参したカメラがソニーα7R IVだったから、必然的に1.5倍相当の焦点距離で「超望遠」になったというのも本音のひとつでもあるのですが(笑)……。でも、軽量・コンパクトがポイントのα7シリーズであればこそ、それに合った軽量・コンパクトな超望遠ズームが使えたら、という夢のような組み合わせの、現時点でのひとつの解でもありましょう。
ところで、キヤノン提供の紀行番組「世界の街道をゆく」(テレビ朝日系列で10年前から関東地方で放映中の番組)という番組がありますが、実はボクも初期の頃に何度か撮影を担当していましたので、車窓から街並みや風景を撮影するということ自体には慣れていました。
ただ、その時使用していたレンズは、16-35mmといったワイドズームや、24-70mmのような標準ズームが多く、望遠系のレンズは85mmと200mmの単焦点の他は、70-200mm、70-300mm、100-400mmまでのズームレンズが主でした(もちろん全てキヤノンEFレンズ)。
ところが、今回は35mm判換算で超望遠レンズの入口である525mmで、しかも走行中のクルマからスナップするという内容。これは未経験の世界でした。
それともうひとつは番組のための専用ドライバーが運転するクルマで行くのと違い、今回はツアーバスに同乗しているわけですので撮影のためにスピードを落としてほしいとか、ましてやちょっと止めてほしいなんてリクエストは到底できません。つまり「未舗装も残る悪路をトイレ休憩以外ノンストップで、しかも高速運転で進んでいくけど、それでも良いなら横で勝手に撮影しても良いよ」という条件下で「ずーっと超望遠・手持ち撮影」という状況であったわけです。
1週間に及ぶ旅程の中で、バスでの移動は平均して1日6〜7時間。合計約2,000kmに及ぶ旅でしたが、この間うたた寝している以外はバスの中でずっとE 70-350mm F4.5-6.3 G OSSを取りつけたα7R IVを手に、車窓から見える“獲物(被写体)”が見えたら即シャッターチャンスを狙ってカメラを構えるという修行僧のような状態でした(笑)。
ちなみに、カメラ側の設定も含めて四苦八苦でした。普段の撮影ではあまり動きのないポートレートなどが多いので、フォーカス設定は殆どの場合が「瞳AF-ON」での「AF-S」を使用しています。ですが、今回の旅では「AF-C」との併用をしたり、フォーカスエリアもいつもの「拡張フレキシブルスポット」だけじゃなく「ワイド」や「ゾーン」を試してみたりと、アプローチ含め試行錯誤の連続でした。これもまた正解は見つけられていませんが……。
ネイチャー写真家でもなければスポーツや飛行機カメラマンでもないボクにとって、これほど長い時間、超望遠レンズの狭い画角を覗いていることはありません。ですので、ファインダーの中で的確なフレーミングで構図を決めることや、わずかな瞬間でタイミングを捉えるということの難しさには苦労しました。自分でも嫌になるほどの失敗続きなので、カウントしたわけじゃないけど、フレーミングとシャッターチャンスとピントの合致率の確率は2〜3%もなかったという印象で、実はかなり落ち込みました(笑)。
しかしながら超望遠レンズの圧縮効果で非日常的な遠近感を体験できたこと。このスナップの面白さは一番の醍醐味でした。特別なモノを見たり撮ったりしているわけじゃなく、何処の国や街でも見られるような普通のクルマや道路ですが、人々の暮らしや建物などがある街並みを走り抜けていく時に、超望遠でこそ垣間見られる瞬間があります。距離を置いた場所に居る人々や動物たちは、こちらのことに当然気がつきませんし、施設や風景は望遠の圧縮効果によって独特の世界を生み出します。走るバスの車窓から構えたカメラの向こう側には、まるで子どもの頃にデパートの屋上遊園地の望遠鏡で街のパノラマを覗き見した時のような、楽しい“切り抜き風景”の世界が映し出されていました。
技術的には悪戦苦闘が続いた今回のバス旅スナップでしたが、結果的には超望遠のスナップ撮影が、これほど楽しいのかという気づきをもたらしてくれる経験となりました。焦点距離500mmクラスの望遠レンズともなると最近の軽い設計のズームレンズでも少なくても2kgはありますし、ましてや単焦点ともなると3kgオーバーで、しかも価格も目の玉が飛び出るくらいですが、このレンズは僅か625gで、長さも最大繰り出しても20cmを切るコンパクトな筐体で手頃な価格というのも魅力的です。
フルサイズセンサーのカメラに軽量小型なAPS-Cレンズを装着するだけで手軽に超望遠の世界をもたらしてくれたE 70-350mm F4.5-6.3 G OSS、まさに魔法のようなレンズです。
次回、機会があればα6600とのセットで本来のAPS-Cのコンパクトなシステムとして、望遠ズームのE 70-350mm GにワイドズームのE 16-55mm F2.8 Gなども併用して様々な画角を網羅するレビューをしてみたいと思いました。