特別企画

水族館撮影のテクニックを教わってきた

手強い環境&被写体…上手に撮るための工夫とは?

本誌でもおなじみ、写真家の水咲奈々さんに教わりました。

アドビシステムズ株式会社は8月26日、水族館写真の撮影術と画像の加工編集が体験できるマスコミ向け説明会を開催した。会場は、東京都豊島区のサンシャイン水族館。

前半は会議室での座学、後半はサンシャイン水族館での撮影会という構成。講師はフリー写真家の水咲奈々さんと、アドビシステムズの栃谷宗央さんが務めた。

水咲さんの指導に従って撮影した写真をもとに、水族館での撮影におけるポイントを解説してみたい。掲載する写真は、全て筆者および同行の編集者が撮ったものである(失敗写真を含む)。

写り込みに気をつける!

水族館写真で一番多い失敗例が、照明などの写り込み。非常口マーク、向かい側の水槽、そして自分自身など、水槽の表面に写り込む要素は多い。

そんな写り込みの対処として効果的だというのが、「まっすぐ」に「くっつく」こと。

具体的には、水槽とレンズの面が水平になるようなポジションを維持しつつ撮影。レンズが上向いたり、下を向いたりすると余計な光が入り込んでしまう。隙間を減らすことで、より効果的に写り込みを軽減できるというわけ。水槽面にレンズがぶつからない程度になるべく近づくのがポイントだ。

水槽から離れて撮った場合の失敗例。館内の照明が写り込んでしまった。

水槽のうしろが通路になっている場合は、背景を写真の一部として活用できるような場所を探す。背景の照明などを積極的に活用することで、普段と違った写真になるだろう。

被写体の一部を大きく写す・主役を決める

大型水槽などがある場合、あるいはたくさんの魚が泳いでいる場合など、全体を撮りたいがために、引いた写真になりがちだ。結果、いつも同じような写真になってしまうことはないだろうか。

そういった場合は、思い切って被写体の一部分を大きく写すのが効果的だ。

例えば、クラゲの「ひらひら」に着目してその部分を主役にしたり、特徴的な魚の顔や部分をアップで撮る。どこか一部分にグッと寄ることで、マンネリ写真から脱却しよう。

一方、引いた画にする場合は、主役となる被写体を決めることが重要。

サンシャイン水族館を例にすると、クラゲトンネルで撮影するなら、主役のクラゲに照明の光が当たった時がシャッターチャンスだ。ポートレイトでも同じだが、スポットライトが当たっている被写体が最も注目される。これは引きの撮影であっても同じなので、上手く活用してみよう。

主役となる被写体には、照明などを利用してスポットライトを当てるのも効果的

たくさん魚がいて、どの魚を主役にすればよいのかわからない場合については、とりあえず一番手前の被写体を主役にしてみよう。

というのも、写真を見る人は一番手前にあるものを目立つモノと判断するそうで、そこがボケていると見難い写真になってしまうからだ。

斜めのラインを意識した対角線(斜線)構図も良い。

泳いでいる魚だけで構図を作るのが難しいなら、固定された照明や岩、イソギンチャクなどの要素を組み込むことで手軽にまとまりのある写真になる。

敬遠されがちな日の丸構図だが、生き物を撮影する場合には有効。見る人の目を引き付けやすく効果的だ。ただし、被写体を大きく入れたい。被写体が写真内に占める割合は、最低でも50%、できれば80%は必要。

カメラの設定は?

水族館で撮る場合の悩みとして、「暗くて撮れない」「ブレてしまう」というものがある。これについては、ISO感度を上げることで対策しよう。

水槽ごとに明るさの違う水族館において、ISOオートはとても便利だ。ただし、上限感度はあまり上げすぎないこと、あらかじめ、自分のカメラの限界を知っておくことも重要になりそうだ。

ISO感度1600で撮影した例。ノイズの具合や水槽の中の明るさなどを考慮しつつ、撮影しやすいシャッタースピードを確保しよう。

露出を変えて撮るのも有効だ。魚や水槽が暗い色の場合はプラス補正、魚は明るいが背景が黒や青などのときはマイナス補正で。逆光で透け感のある場合や、コントラストを上げたい時などはマイナスにして撮影する。水族館はマイナス補正の方が絵になる。明るさに迷ったら、-0.3EV〜-0.7EVの範囲で暗く撮影してみよう。

-0.7EVの補正を行い、コントラストを微調整した。

RAWで撮ってLightroomで調整

つまらない写真になってしまう場合は、色味を変えて対策しよう。青くしたい時は「電球」、白くしたい時は「晴天」、赤っぽくしたい時は「晴天日陰」といったようにホワイトバランスを調整することで普段と違った写真ができる。その場でカメラのホワイトバランス設定を調整してもよいし、RAWで撮っておき自宅で補正するのでもよい。

ホワイトバランス:オート
ホワイトバランス:蛍光灯。Lightroomで変更。
ホワイトバランス:日陰。Lightroomで変更。

なお、水咲さんは、無色透明なクラゲのホワイトバランス調整が楽しく、クラゲ撮影に嵌まったという。

次は「かすみの除去」。水槽内がもやっとしている場合、Lightroomの「かすみの除去」を使うことで、クリアな描写になることがある。

「かすみの除去」OFF
「かすみの除去」ON

他にも、水槽内の泡やゴミを消すのもLightroomなら簡単だ。水槽内に餌が漂っている状況はよくあるが、それもスポット修正ツールで比較的簡単に対処できる。

ポイントを抑えれば簡単!お気に入りの被写体を見つけよう

最も重要なことは、水咲さん曰く「お気に入りの魚を見つけること」。ポートレイトを撮るように、お気に入りの被写体への愛を持って撮影することこそ極意だそうだ。小さな子どもを優先するなど混みあった館内ではマナーを守りつつ、気軽にチャレンジしてほしい。

飯塚直

(いいづか なお)パソコン誌&カメラ誌を中心に編集・執筆活動を行なうフリーランスエディター。DTP誌出身ということもあり、商業用途で使われる大判プリンタから家庭用のインクジェット複合機までの幅広いプリンタ群、スキャナ、デジタルカメラなどのイメージング機器を得意とする。