REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
予測と偶然、その両方に応える高いポテンシャル…超広角ズームを持って東北の豊かな自然を巡る
RF14-35mm F4 L IS USM
2021年11月30日 07:00
本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。
RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。
REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/
第4回目の旅人は、風景写真家の館野二朗さん。セレクトしたレンズは抜群の機動力と広い画角を有するズームレンズRF14-35mm F4 L IS USMだ。
若い頃からバックパッカーの旅やフライフィッシングを通して自然と向き合う。手つかずの自然美にインスピレーションを受け、2000年頃から本格的に撮影活動を開始。以降現在まで全国を行脚し、独創的な視点で撮影をおこなっている。
※本ページは「デジタルカメラマガジン2021年12月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。
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ダイナミックな東北の風景が広角表現をかき立てる
風景写真家を名乗って20数年、あらゆる場所で風景を撮影してきたが、広がりのあるダイナミックな風景は、風景写真の中で最も魅力のある1つだろう。それらを撮影するにはやはり広角レンズが頼りで、画角が広いほど有利になる。
今回はRF14-35mm F4 L IS USMとEOS R5の組み合わせで、紅葉シーズンの東北を撮影してきた。訪れた場所は八幡平と鳥海山、この2つのエリアは山、川、海と変化に富んだ地形で自然風景には格好の撮影地だ。
初日に訪ねた八幡平エリアでは、紅葉している森や川を中心に散策する予定が初日から雪が降るという思いがけないプレゼントがあった。翌日訪ねた鳥海山エリアは気持ちの良い秋晴れの中、紅葉と冠雪した鳥海山を撮影し、最後は美しい海岸で夕日を迎えた。
森の中から海辺まで、風景のさまざまなシーンで撮影するこの旅は、まさに新型広角ズームのポテンシャルを探るのにうってつけの内容。充実の機能性が、その試みに応えてくれた。
超広角レンズの割に小さいことにまず驚いた。質量は540gで、RF15-35mm F2.8 L IS USMより300gほど軽量・コンパクト。山を上がるときや荷物を減らしたいときに有利だ。
手ブレ補正も備わりEOS R5と合わせると7段分の補正効果を得られ、三脚が使えない状況でも手持ちで十分に対応可能。
もう1つ驚いたのは最短撮影距離だ。20cmと短く14mmで被写体にグッと近づけば、小さなものを画面いっぱいに入れながら、遠近感を強調した迫力のある写真が撮影できる。
もちろん、ズーム全域で高画質なので、風景を撮る者には頼もしいレンズだ。
SPECIFICATION
レンズ構成:12群16枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.2m
最大撮影倍率:0.38倍
フィルター径:77mm
最大径×全長:約84.1mm×99.8mm
質量:約540g
オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格:236,500円(税込)
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撮影地01:八幡平アスピーテライン(147枚撮影)
夜明け直前に撮影地に向かうと、例年より少し早く入ってきた寒気が雪を降らし、紅葉した木々は白い化粧をしていた。あいにく八幡平アスピーテラインは山上の雪で通行止めとなっていたが、封鎖された御在所ゲート付近でこの日の撮影を開始した。
撮影地02:森の大橋(9枚撮影)
日が昇り葉についた新雪がとけたころ、八幡平エリアにある森の大橋にやってきた。ここは橋の上からの展望が素晴らしく、松川渓谷を一望できる。渓流を包み込むような森のボリューム感を表現したい。
撮影地03:松川玄武岩(15枚撮影)
森の大橋から車で数分の場所に行くと、松川渓谷の川岸に下りられる場所がある。その川岸に見られるのが岩がきれいに縦方向に割れている柱状節理が美しい松川玄武岩だ。整然と並ぶ岩々が紅葉に彩られていた。
撮影地04:安比高原(128枚)
八幡平エリアを北上し、安比高原にあるブナ林に向かった。ここはブナの2次林で、木々はまだ若く爽やかだ。林床まで光が届くので、雲間から時折顔を出す太陽の光が木漏れ日となって、前夜の雨露をつけた落ち葉を輝かせているのが印象的だった。ブナ林全体も美しいが、ここではRF14-35mm F4 L IS USMの近接性能を生かして、落ち葉や新芽に着目して撮影をおこなった。
11:58|落ち葉にて輝く雫(201枚目)
雨上がりのブナ林で見つけた朴の葉には、水滴が乗り印象的だった。手持ちでバリアングルモニターを使い、カメラを地面スレスレに構える。14mmで近寄ると背景にはブナ林が写り込んだ。
撮影地05:曽利ノ滝(123枚)
車道沿いの駐車スペースから徒歩15分ほど、時折ロープが渡されているような滑りやすい坂を下りる必要がある曽利ノ滝。柱状節理の崖からストンと一気に落ちる落差約25mの直瀑は美しく、上からも下からも迫力ある滝の様子を見られる。
撮影地06:竜ケ原湿原(202枚撮影)
翌日は鳥海山方面に移動。雪景色からスタートした1日目と打って変わって秋晴れの様相だ。それでも前日の寒波の影響は残っていて、鳥海山は見事に冠雪し、裾野には紅葉した木々が広がっているという素晴らしい条件だ。祓川ヒュッテのそばにある竜ケ原湿原を中心に撮影することにした。
06:55|凍てつく落ち葉(494枚目)
鳥海山に光が当たるまで、湿原の周辺部を散策しながら被写体を探した。小さな池の淵には薄氷が張り、閉じ込められた紅葉とのコラボレーションが美しい。このレンズは最短で20cmまで寄れるので、最短距離まで近寄って14mmで広く撮影した。
07:05|ナナカマドのアクセント(507枚目)
遊歩道を歩いていると赤いナナカマドが目を引いた。ナナカマドに近寄り、背景に鳥海山を入れた構図でワイドレンズならではの遠近感を出した。右に入れたナナカマドは上下の隅もゆがまずシャープな描写だ。
撮影地07:元滝伏流水(89枚撮影)
駐車場から杉林を抜けるとたどり着く元滝伏流水。ここは鳥海山エリアでも人気の絶景スポットだ。溶岩の末端崖から湧き出る水がいくつもの筋を描く滝となり、その湿度によって一帯が苔に覆われた姿がなんとも幻想的な場所だ。
15:28|苔を巡る水の営み(669枚目)
元滝伏流水では、水の中に入ったり三脚を立てたりすることは禁止されているので、撮影アングルによっては手持ち撮影を余儀なくされる場所もある。EOS R5とRF14-35mm F4 L IS USMの組み合わせでは、最大7段分の手ブレ補正が効くので、手持ちでもシャッター速度を遅くして滝を絹のよう表現できる。
レンズ単体で最大5.5段、EOS R5との組み合わせでは、最大7段分の手ブレ補正効果が得られるRF14-35mm F4 L IS USM。上の写真のような滝や川の流れを手持ちでもぶらすことが可能だ。手ブレ補正効果は絶大で、三脚が必須といえるシーンが減ったので、アングルの自由度も上がる。
手ブレ補正をオンにして撮影した写真と、オフにして撮影した写真の違いは明白で、手ブレ補正をオフにして撮影したカットでは、葉や苔がぶれてシャープさが失われていることが見て取れる。
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撮影地08:釜磯の湧水(183枚撮影)
夕暮れ迫る中、旅の終わりに向かったのが釜磯の湧水。ここは、海岸の砂浜のいたるところで水が湧き出している不思議な場所だ。地中から湧き出す水と日本海から打ち寄せる波がまじりあい、砂浜に水鏡を作り出していた。
予測と偶然が入り混じる風景写真の頼もしい味方
八幡平と鳥海山は、何度も訪ねた慣れ親しんだ場所だ。どこへ行けば何が撮れるか大体は分かっているが、予想していないものとの出合いもまた旅の醍醐味だ。旅の始まりに出合った雪もそう。この日は朝日を期待していたが、思いがけない雪は朝日よりうれしいプレゼントだった。細い葉が重なりその上に積もった雪。繊細な情景にはレンズの描写力がものを言う。撮影して拡大すると、葉1枚1枚がしっかりと描写されていて、朝一番の撮影でこのレンズが信頼できることを確信した。紅葉時期の雪は日が昇るとすぐに溶けてしまうので、手持ち撮影に切り替えて急いで撮影をした。そんな時こそ、EOS R5と連動した7段分の手ブレ補正が心強い。ワイドマクロにも強いレンズなので、あらゆるものへの近接撮影も試みた。これまでは見落としていたような落ち葉や池の氷に14mmでグッと寄ってみると別世界が見える。レンズの表現力によって慣れ親しんだ風景が多層的に広がっていくように感じた。
RF14-35mm F4 L IS USMはどの画角でもシャープな画質が得られる。風景写真は予測と偶然が入り混じる中での撮影となるが、光線や気候を予測して訪ねた最高のコンディションでは、しっかりと求めた仕上がりで応えてくれる。一方で、手ブレ補正や最短撮影距離という特徴的なアドバンテージが撮影の自由度を高めてくれるので、偶然出合った被写体や条件にもすぐに対応できる。RF14-35mm F4 L IS USMはその描写力と自由度で新たな風景を切り拓く原動力となってくれた。
合計撮影枚数:896枚
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社