REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡

小さな単焦点レンズ3本で軽やかに…モデルの表情を見事引き出せた沖縄ロケ

RF16mm F2.8 STM/RF35mm F1.8 MACRO IS STM/RF50mm F1.8 STM

本企画「REAL FOCUS(写真家の眼差し)」は、風景に潜む鮮やかな色や美しい造形を1本のRFレンズで見出すことを目的としている。

RFレンズはその眼差しを写真として昇華させてくれる。旅の中で表現の可能性を切り拓いてゆく写真家の軌跡(ルート)を、そのままトレースしながらローケションと撮影テクニックを解説する。注目すべきは各スポットで撮影した記録枚数だ。撮影に対する写真家のこだわりを感じとれるだろう。

REAL FOCUS—RFレンズと行く小さな旅:写真家の眼差しとその軌跡
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/realfocus2/

第3回目の旅人は、ファッションやビューティー系の撮影で活躍されている高木慎平さん。RFレンズの中でもとりわけコンパクトな3本の単焦点レンズを持って、旅先でのポートレート撮影をおこなってもらった。

旅人/高木慎平

1985年生まれ、岐阜県出身。広告や雑誌を中心にビューティー系やポートレート写真を撮影している。独自の色合いと作風で多くの媒体に掲載され、専門学校や企業向けの撮影講師としても活動している

※本ページは「デジタルカメラマガジン2021年11月号」の「REAL FOCUS RFレンズと行く小さな旅 写真家の眼差しとその軌跡」を再構成したものです。

小さなレンズで足取り軽く南国へと誘われる

今回持参したのは、新登場のRF16mm F2.8 STMと、RF35mm F1.8 MACRO IS STM、RF50mm F1.8 STMの3本。いずれも小型・軽量で、ミラーレスシステムのRFマウントならではと言えるレンズだ。この3本とEOS R5を持って、沖縄へと向かった。南の島への旅では心を軽くして、その開放感を写真に表したい。この3本のレンズは、そんな気分にぴったりな取り回しがとても良いサイズで、状況に応じて気に入ったレンズを使い分けながら撮影できる。異国情緒にあふれた金武町市街と、南国らしいビーチを巡り、日常から離れた気分が軽くなるようなポートレートを撮り進めていく。

ピックアップレンズ① RF16mm F2.8 STM

超広角16mmでかつF2.8と明るいレンズ。それでいて、最大径約69.2mm、全長約40.2mmと非常に軽量。質量にいたっては165gととてもコンパクトだから驚きだ。最短撮影距離は13cmで、開放絞りで近接撮影すると自然で柔らかなボケも引き出せる。非球面レンズを採用しているので、周辺部までしっかりと解像する。先端のリングは、フォーカスリングとしてはもちろん、RFレンズ特有のコントロールリングとしても使用可能で、ISO感度や露出補正を設定しておくとクイックに撮影できてとても役に立つ。信頼できるレンズがリーズナブルなことがうれしい。

SPECIFICATION
レンズ構成:7群9枚
絞り羽根枚数:7枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.13m
最大撮影倍率:0.26倍
フィルター径:43mm
最大径×全長:約69.2mm×40.2mm
質量:約165g

発売予定日:2021年10月28日
オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格41,800円(税込)

最新レンズのRF16mm F2.8 STMは小型・軽量で定評のあるRF50mm F1.8 STMとほぼ同等のサイズだ。この2本にRF35mm F1.8 MACRO IS STMを組み合わせた3本のセットでも小型バッグに難なく入るサイズでとても身軽に旅ができる


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撮影地01:金武町市街地(421枚撮影)

最初の撮影地は金武町。ここは1975年頃から米軍を中心に栄えた町で、今もその名残りが多く残っており、異国の雰囲気が漂っている。私自身、日本らしい場所よりどこか異国情緒がある場所が好きなこと、そして、今回は「現実からのエスケープ」を撮影テーマにしていたので、このスポットを選んだ。

14:49|異国情緒に触れる(14枚目)

EOS R5/RF35mm F1.8 MACRO IS STM/35mm/絞り優先AE(F2.5、1/160秒、+0.7EV)/ISO 200/WB:オート

RF35mm F1.8 MACRO IS STMを使用。35mmは画面の落ち着きと広さを両立できる使いやすい画角で、旅先の情景を入れ込みながらのポートレート撮影に向いている。

今回撮影地に選んだ金武町のように、特徴的なロケーションでの撮影の場合、衣装やヘアメイクに工夫をすると、より写真の魅力が増す。景色に負けないような服装で撮影するのもポイントの1つだ。

14:54|赤と青のはざま(34枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F2.8、1/400秒、+0.7EV)/ISO 200/WB:オート

RF16mm F2.8 STMを使ってかつてはスナックだった建物の外観を使用して撮影。狭い場所が画面いっぱいに広く写るので、塗り重ねたペンキのはがれ方や色使いが目を引く1枚になった。タイルを見ても分かるようにJPEG撮影ではカメラの画像処理がしっかりと連動するので、レンズによるゆがみはほぼ感じられない仕上がりになる。

15:00|アメリカンレストラン(94枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F4.6、1/250秒、+1.3EV)/ISO 200/WB:オート

こちらもRF16mm F2.8 STMで撮影。普段よく使用する50mmで撮影する場合、引き算で画角に入れるものを決めていく感覚だったが、16mmの場合は足し算で入れるものを決めていく感覚となる。アングル次第で1枚に収めるものを増やせるので撮影していて楽しい。

15:25|寄り引きのニュアンス(193枚目/206枚目)

寄り:EOS R5/RF35mm F1.8 MACRO IS STM/35mm/絞り優先AE(F3.2、1/250秒、+0.3EV)/ISO 200/WB:オート
引き:EOS R5/RF35mm F1.8 MACRO IS STM/35mm/絞り優先AE(F2.3、1/500秒、+0.7EV)/ISO 200/WB:オート

RF35mm F1.8の特徴はハーフマクロまで寄れること。人物に寄れると、表現の幅が広がる。今回は瞳に寄って撮影して、モデルのアイメイクを幻想的に表現した。近接時のボケ感も美しく、レンズのクオリティーの高さを感じられる。

ピックアップレンズ② RF35mm F1.8 MACRO IS STM

視野に近く扱いやすい35mmという準広角画角のレンズ。開放F1.8と明るく、ボケも楽しめる。特筆すべきは0.5倍という最大撮影倍率を持つハーフマクロレンズでもあること。角度ブレとシフトブレの2種のブレに対応する手ブレ補正を搭載しており、手持ちでもマクロ撮影がしやすい。スナップからマクロまで多様な表現を楽しめる多機能性がわずか305gの鏡筒に詰め込まれている。

RF35mm F1.8 MACRO IS STMのハーフマクロ性能を生かして開放絞りで撮影すると、今にも実が溢れ落ちてしまうような表現を引き出せた
EOS R5/RF35mm F1.8 MACRO IS STM/35mm/絞り優先AE(F2.8、1/250秒、+1.0EV)/ISO 200

海辺のバルコニーで夕日を眺めながら撮影した。瞳に映る夕日がきれいに表現できたのはマクロ性能のおかげ。海の色がワンピースと同じ鮮やかなブルーだったので、海も入るような構図で撮影した
EOS R5/RF35mm F1.8 MACRO IS STM/35mm/絞り優先AE(F2.8、1/30秒、+1.7EV)/ISO 200

SPECIFICATION
レンズ構成:9群11枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.17m
最大撮影倍率:0.5倍
フィルター径:52mm
最大径×全長:約74.4mm×62.8mm
質量:約305g

発売日:2018年11月15日
オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格69,850円(税込)

15:40|伸びやかな色彩の世界(277枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F2.8、1/250秒、+1.3EV)/ISO 200/WB:オート

RF16mm F2.8 STMの広がりのある描写に開放F2.8によるボケをプラスすることで奥行きのある伸びやかな1枚となった。ぼかすことでモデルを引き立たせることができ、空間の奥行きも表現できる。街中の印象的な背景を柔軟に取り込めるレンズだ。

15:52|ピンクの世界を渡る(342枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F3.5、1/790秒、+1.0EV)/ISO 200/WB:オート

RF16mm F2.8 STMを使うと、時に新しい視点を見つけられる。特に街中のスナップでは想像を超える世界が広がる。目の前に広がる景色の全てを収められ、構図を考えるだけで胸が躍る。小さな建物のピンクの壁も、このレンズでのぞくと広大な背景になる。

15:59|オレンジののぞき穴(393枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F3.2、1/4,000秒、+0.7EV)/ISO 1000/WB:オート

個性的なアイメイクを引き立てるためオレンジに塗られた板の隙間からのぞき込んでもらった。RF16mm F2.8 STMで寄って撮影することで被写体がデフォルメされて写るので、ユニークな印象を与えることができる。

16:05|草の冠をいただく(409枚目)

EOS R5/RF50mm F1.8 STM/50mm/絞り優先AE(F4.6、1/600秒、+0.3EV)/ISO 1000/WB:オート

RF50mm F1.8 STMはなじみのある標準画角の1本。サイズや軽さを最小限に抑えていながら描写も美しいため、安心してアクティブに使用することができる。50mmはモデルとの距離感も程よく、フォーカスも高速なので、自然な仕草や動きを収めることができる。

ピックアップレンズ② RF50mm F1.8 STM

EFレンズから定番標準レンズだった50mm F1.8。そのRFマウント版となるRF50mm F1.8 STMも、小型・軽量でリーズナブルという特徴をしっかりと受け継いでいる。EFレンズ時代から最短撮影距離も短くなり、0.25倍というクォーターマクロの最大撮影倍率を達成。ボケを生かしたポートレートはもちろん、スナップやテーブルフォトまでカバーするオールラウンダーレンズだ。

レスポンスよく撮影できるAF性能と取り回しの良さが魅力。ストレートに写るので、こちらの工夫がダイレクトに反映されるのが楽しいレンズだ。
EOS R5/RF50mm F1.8 STM/50mm/絞り優先AE(F2.2、1/1,000秒、+1.0EV)/ISO 200

SPECIFICATION
レンズ構成:5群6枚
絞り羽根枚数:7枚
最小絞り:F22
最短撮影距離:0.30m
最大撮影倍率:0.25倍
フィルター径:43mm
最大径×全長:約69.2mm×40.5mm
質量:約160g

発売日:2020年12月24日
オープン価格
※キヤノンオンラインショップ参考価格28,600円(税込)


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撮影地02:熱田ビーチ(141枚撮影)

金武町の撮影が終わった後、沖縄は本州より日の入り時間が遅く、まだまだ空が明るかったので、西海岸の熱田ビーチへ移動した。西海岸は南の島らしい透明度の高い海と美しい砂浜が広がっており、熱帯植物も多く生息しているお気に入りの場所。特に広角レンズのRF16mmを使ったビーチでのポートレート撮影は、新たな表現方法を見つけるきっかけにもなった。

17:01|南ビーチを感じる(449枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F7、1/600秒、-0.3EV)/ISO 200/WB:オート

ビーチのきめ細やかな砂と生い茂る植物に寝転ぶ姿を1枚の写真に入れたいと思い、RF16mm F2.8 STMを使用した。手持ちで俯瞰撮影したが、見事に足元から茂みの奥まで撮影できた。普段使用している50mmでは手持ちの俯瞰で全身を入れるのは難しい。16mmを使うことで沖縄ならではの自然をダイナミックな構図で撮影することができた。

17:05|南国の風を浴びる(538枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F2.8、1/250秒、+1.3EV)/ISO 200/WB:オート

透き通るような空と海。RF16mm F2.8 STMで撮影するとモデルも背景も引き立つ写真となった。高輝度側のコントラストも美しい。足場の悪い砂地での撮影も身軽に動けるのがうれしい

17:10|亜熱帯への誘い(552枚目)

EOS R5/RF16mm F2.8 STM/16mm/絞り優先AE(F2.8、1/300秒、+0.7EV)/ISO 200/WB:オート

ビーチへとつながる小道。RF16mm F2.8 STMを使用することで、熱帯植物のいきいきとした臨場感がダイナミックに表現されて、小道がまるで異世界への入口のような1枚に変化した。


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心まで軽くなる軽快な機材で伸びやかに描く南国の色彩

色彩にあふれた街並み、南国のビーチを吹き抜ける風。最高の舞台に導かれるように撮影を進めていく。今回新しく加わったRF16mm F2.8 STMは伸びやかな画角とクリアな描写力が魅力。構図を工夫すると色鮮やかで個性的な街並みが写真の中に立体的に立ち上がり、被写体の魅力を最大限に引き出せる。街中の色や構造物をいかにして構図に取り込んでいくか。広角でのポートレート撮影は、新しい発想や写真表現に気付かされる。

落ち着いた画面で、旅先で見つけた情景を入れつつモデルの全体の動きなどを撮影したいときは、RF35mm F1.8 MACRO IS STMの出番だ。表情や仕草をレスポンス良く切り撮るときはナチュラルな画角とモデルとの距離感で扱いやすいRF50mm F1.8 STMが活躍する。

普段は、機材を軽くして動きやすい荷物で撮影することを心がけているが、使用した3本のレンズは手に取った瞬間に感動するくらいコンパクト。3本セットで500mlのペットボトルほどの大きさで、小さなカメラバッグでもEOS R5とレンズ3本を入れて出かけられる。すごいのはサイズだけではなく、ステッピングモーター(STM)のAF駆動が速く被写体へのピント合わせも正確なこと。まさに、「軽快」という言葉がピッタリのレンズ群だ。いまだ暑さが残る晩夏の沖縄でも、ストレスなく撮影できる。さまざまな画角で夢中になって切り撮った南国のポートレートには、日常から一歩抜け出たような世界が広がっていた。

合計撮影枚数:562枚

モデル:優衣(@buibui1209
現場写真:青塚博太
制作協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社

高木慎平