今回紹介するのは「トイ蛇腹レンズ」。自分で蛇腹を折って工作するレンズだ。と、聞いたとたんに「無理、無理」という反応をする人も多いと思うけど、折り紙が得意な日本人であれば誰でも折れる。そんなに難易度は高くないので、興味を持った方は、ぜひチャレンジしてみて欲しい。
これが「トイ蛇腹」。トイカメラ以下の写真が撮れます! |
「トイ蛇腹」で撮影した写真。チープなレンズ1枚で撮影したのだが、普通のレンズでは味わえない、不思議な描写の写真が撮れる |
この「トイ蛇腹」というのは、いったい何をするものなのか? 蛇腹の伸び縮みにより、ピント合わせをすることができる。そして蛇腹の先に虫眼鏡などの凸レンズを1枚くっつければ、一眼レフカメラのレンズとして利用ができるという、画期的なシステムだ。(いや、蛇腹なんて昔からありますね。画期的ではありませんw)
このレンズの面白いところは、使うレンズによって、画角も描写も異なるということ。つまり、世界でたった1つの描写を手に入れることができる。といっても、そんなに凄い写真が撮れるわけではないが、ちゃんとしたメーカー製のレンズではありえないような、ダメダメな写真を撮ることが可能だ。
なんで「わざわざダメダメな写真を撮らなきゃいけないんだ!」という人もいるかもしれないけど、ただ変な写真を撮って喜んでるわけではありません。なんか懐かしいような、味のある写真を撮ることができるというのが、この手作りレンズの魅力。
■どんな仕組みになっているのか?
仕組みをまず説明すると、レンズが1枚あり、それを自作の蛇腹に取り付ける。さらにアダプターを介してカメラのボディーに取り付けるのだが、以下、順を追って説明したい。
こんな部品を使う。基本は厚紙を切ったり、張ったりという工作だ | 左がレンズ部分、真ん中が伸び縮みする蛇腹、右がボディに取り付けるマウント、という構成だ |
まずレンズ。これは普通の凸レンズが1枚あればいい。安くて簡単に入手できるのは、おもちゃの双眼鏡に付いているものだ。これは100円ショップなどでも売られているし、「楽天市場」や「Yahoo! ショッピング」などで「双眼鏡」で検索をかけ、「価格が安い」順に並びかえれば、100円ぐらいの双眼鏡がたくさんヒットする。ずい分と安いが景品などに使われることが多いようだ。
ネットショップで買うのであれば、送料もかかるから、いくつかの種類をまとめて買っておくといいだろう。入手したレンズが必ずしも撮影に使えるとは限らないからだ。では、どんなものが使えるのか? これは焦点距離が問題になる。まず焦点距離が近すぎると、レンズをボディーの中に入れなければならないし、遠すぎると蛇腹を延ばしてもピントが合わない。ということは、蛇腹の可動範囲内でピントが合う必要があるということだ。
マウントと蛇腹部分の厚みを考えれば、普通の一眼レフカメラの場合、50mmから90mmぐらいの焦点距離のレンズが使えるということだ。マイクロフォーサーズの場合はもう少し焦点距離の短いレンズを使うことができるが、撮像素子が小さいため画角は狭くなってしまう。いずれにせよ、街中で撮影するのであれば、ピントが合う範囲で、なるべく焦点距離の短いレンズを見つけると撮りやすいだろう。
用意したレンズでピントが合うかどうかのチェックは、カメラを三脚などに固定して行なう。レンズを外した状態でチェックするので、ホコリが入らないように気をつけてください。
こんなレンズを利用する。焦点距離は分からないので、いくつか用意して、試してみるといい |
レンズのそのほかの入手方法としては、ジャンクカメラや交換レンズをバラして取り出したり、レンズのバラ売りをしているところを探してみてもいい。チープなレンズとちゃんとした光学レンズでは描写も変わってくるので、いろいろ試してみて、自分の好みの描写のものを探し出すというのが、このトイ蛇腹の楽しみ方だ。
■蛇腹の折り方
蛇腹の折り方に関しては設計図のPDFと折り方の動画が用意されているので、そちらをご利用いただきたい。簡単に手順を説明すると、
- PDFの設計図を黒い紙にプリントする(原寸になるようにプリント設定)
- 設計図の線に従い、インクの切れたボールペンなどでスジを付ける
- 両面テープで端を留めて筒状にする
- プリントした線に従って折り目を付けていく
- 筒を開いて蛇腹状に折りこんでいく
私はA4の色上質紙(薄口、黒)を使っている。黒い紙であれば色上質紙でなくても構わないが、あまり厚いと折りづらい。本当は本物の蛇腹に使う紙が使ってみたいんだけど名称が分からない。もし知っている方がいれば教えてください。まあ、色上質紙であれば文房具屋さんで、20~30円で入手できるし、色上質紙で問題はない。言葉で説明するのはなかなか難しいので、動画を見ながら試行錯誤してみてください。
設計図を黒い紙にプリントしたところ。この線に沿って折っていく | 2つに折って、両面テープで端を留めて筒状にする。そして折りこんでいく |
折り目がついたら広げて蛇腹に折っていく。最初のパターンさえ分かれば、後は同じことの繰り返しだ |
■レンズを付ける
レンズは四角い厚紙に丸い穴を開けて取り付ける。バルサ板も軟らかく工作しやすい。穴あけには、サークルカッターが便利。たとえば、NTカッターの「C-700GP」(735円)は、10~140mmの穴まで空けられるので、こういった細かい工作に向いている。
サークルカッターで穴を空ける。あまり力を入れると曲がってしまうので注意 |
レンズはテープや粘着シートに丸い穴を空けて付けてもいいし、スチロールに穴を空けて取り付けてもいい。テープに丸い穴を空けるには、カッターボードにテープを2枚重ねで張り、穴を空けたら、上のテープだけを剥がして使えばいい。
スチロール板をドーナッツ型に切って、レンズを留めた |
■ボディへの装着
カメラボディへの装着は、カメラのボディキャップに穴を空けるか、リバースリングを使う。ボディキャップというのは、カメラのボディに付いているフタですね。ふだん使わなくて余っているものがあれば、それに穴を空ければいい。ドリルを使って穴を空け、ギザギザになっている部分はヤスリで削ってしまう。
電動ドリルでボディキャップに小さな穴を空けていく | 穴が空いたらバリをヤスリで削る。削りカスはきちんと流水で取り除いておくこと |
リバースリング(リバースアダプター)というのは、レンズを逆さまに取り付けるためのアダプターのこと。レンズを逆さに付けてどうするの? という人もいるかと思うが、逆さまに着けると接写ができるようになる。ボディキャップより高くなるが、わざわざ穴を空けたりする必要がなく、きれいに工作ができる。純正の製品がない場合にはサードパーティー製のものを探すといいだろう。
リバースアダプター。これはニコン純正の「BR-2Aリング」 | リバースアダプターは本来、こんなふうにレンズを逆さまに付けるために使う |
■最後にテープで接着
最後にレンズと蛇腹とマウント(ボディキャップ、リバースアダプター)を両面テープでつなぎます。マウントと蛇腹の間には、厚紙に穴を空けたものを入れます。マウントと厚紙を貼り合わせる際に気をつけるのは、レンズをカメラに装着した状態で、レンズが斜めにならないように張るということ。レンズが円柱であれば問題ないんだけど、この蛇腹は四角いじゃないですか。だから、完成状態で斜めになってるとおかしいんですよ。これだけ気をつけてください。
25mm幅の両面テープをリバースアダプターに張っているところ。余った部分はカッターでカットする | 厚紙をカットした部品をリバースアダプターに張り付ける。カメラにアダプターと取り付けた状態で位置決めをする |
カメラに斜めに付いてしまった失敗例。こうなるとカッコ悪い | 接着はすべて両面テープで。ボンドなどでも構いませんが、失敗した場合にはずしやすい |
完成品。レンズが軽ければ、前の方が垂れ下がってしまうこともない |
■撮影方法
ピントは蛇腹を前後させることにより合わせる。蛇腹なので、アオリやシフトも可能。と言うと「ミニチュア風景写真なんかも撮れますか?」と聞かれるんだけど、あまり向いているとは言えません。というのは、あのミニチュアっぽさというのは、きちんとピントの合っている部分とボケの差がポイントになるけど、このレンズの場合は、元々軟焦点のぼやっとした描写なので、全体にボヤボヤになってしまう。あまり、ミニチュア風景っぽくはならないのです。
レンズを伸ばすと近接撮影も可能 | レンズを縮めると遠景にピントが合う |
こんな風に歪めて撮影しても面白い | ピントや像の流れ具合をファインダーや液晶画面で確認しながら、いい感じになったところでシャッターを切る |
基本はソフトな描写だけど、絞りを付けると少しはっきりと写るようになる。これは適当に黒紙に穴を空けたものをテープで付けている。撮影画像を見てソフトにしたければ穴は大きく、はっきりさせたければ小さくする。ソフトなままでよければ絞りは付けなくてもいい。その方が明るいので、シャッタースピードは速くできる。
レンズの裏側に紙製の絞りを着けたところ。絞り値がいくつか? なんてことは気にせず(私には分からないw)、テストしてみるといい |
撮影はマニュアル撮影が基本だ。絞りは固定なので、シャッタースピードで明るさのコントロールをする。電子接点などは当然ないので、シャッターが落ちない場合もある。そんな時は、マニュアルモードにするなどして対処してみて欲しい。オールドレンズを付けて撮影するのと同じことだ。
ピントはファインダーや液晶画面を見ながら調整するが、蛇腹を歪めてわざと像が流れるようにしてもいいし、どこにもピントを合わせず、アウトフォーカスで撮影しても面白い。撮影のセオリーはないので、何でもありで撮影すればけっこう楽しめると思う。
■撮影例
・チープなレンズを使って
おもちゃの望遠鏡工作キット(105円)についていたレンズで撮影。ファインダーを覗いて、歪み具合を確認しながらシャッターを切っている。
ニコンD200+安物プラスチックレンズ | ニコンD200+安物プラスチックレンズ |
ニコンD200+安物プラスチックレンズ |
・光学レンズを使って
おもちゃのレンズではなく、光学レンズを使って撮影。ピンボケ具合がきれいだったので、わざとピントをはずして撮影。レンズによって再現が変わるところが面白い。
オリンパスE-PL1+光学レンズ | オリンパスE-PL1+光学レンズ |
オリンパスE-PL1+光学レンズ | オリンパスE-PL1+光学レンズ |
■袋蛇腹も作ってみた
蛇腹を折るのが面倒だという人のために袋蛇腹というのも考えた。これは小龍包を食べている時に思いついたのだが、できあがりは小龍包というよりもマカロンに近いか。けっこう可愛い感じにできたと思うが、蛇腹を折るよりも面倒だった。それにあんまり伸び縮みしないというの問題もある。もう少し検討の余地があるな。
袋部分の素材は手芸用品売り場で、レザー風の布地を買ってきた。それをドーナッツ型に切り、内側に折りこんで接着剤で留めた |
横から見たところ。フードはピント合わせの際に指で摘むために付けた | 裏から見るとこんな感じ。一応固定の絞りが付いている |
袋蛇腹で撮影。オリンパスE-PL1+光学レンズ | 袋蛇腹で撮影。オリンパスE-PL1+光学レンズ |
■広角化への道
レンズを1枚だけ使って作る場合の問題としては広角レンズにならないということ。35mmフルサイズのカメラでせいぜい焦点距離50mm程度。でも街中でスナップを撮るにはもう少し広角の方が撮影しやすい。レンズに詳しい人に聞いてみたら、凹レンズを1枚付ければいいという。いろいろ試行錯誤してみたのだが、なかなか思うような結果は得られない。
そこで凹レンズと凸レンズの間にもう一枚、凸レンズをプラスしてみた。なんか高度なことをやっているように思われるかもしれないが、紙を巻いて筒を作り、テープで留めただけの簡単な工作だ。で、結局画角的には35mm判換算の35mm相当ぐらいにまでなった。けっこう苦労したので、これは嬉しい。
ただ、どうやって作ればいいのか聞かれるとちょっと困る。手元にあったレンズをいろいろ組み合わせていたらできてしまったので、設計図も何も無い。というか自分の使っているレンズの焦点距離が何mmかも分からず作っているのだ。
広角にするのはいいが、レンズが重くてうなだれてしまった。こんなレンズを付けて歩いていたら、かなり不審だな | 赤い輪ゴムを付けることにより、うなだれを解消。これって凄いアイディアじゃない! 特許取れるかな?(とれねーよ!) |
凸レンズを1枚増やしたことによる効果というのは、たぶん凸レンズ2枚を重ねることにより、焦点距離が短くなったということ。そこで凹レンズを付けてもピントが合うようになったのだろう。ポイントは先端の凹レンズはちょっと大きめであること。そうじゃないとケラレてしまうのだ。広角レンズの前玉がでかいのは、こういう理由だったんだな。
この広角化はけっこう難しいので、いきなりおすすめはできません。まずはレンズ1枚で楽しんでみてください。そしてまだ試してないんだけど、この手作りレンズの先にワイドコンバージョンレンズを付ければ、画角は広くなるはず。なんか軽いワイドコンバージョンレンズを見つけてみたいですね。
工作してみた人は「トイ蛇腹」あるいは「#toyja」のタグを入れて、ブログやtwitterで教えてください。捜索に参ります。
ニコン D700+凸レンズ2枚、凹レンズ1枚 | ニコン D700+凸レンズ2枚、凹レンズ1枚 |
ニコン D700+凸レンズ2枚、凹レンズ1枚 | ニコン D700+凸レンズ2枚、凹レンズ1枚 |
ニコン D700+凸レンズ2枚、凹レンズ1枚 | ニコン D700+凸レンズ2枚、凹レンズ1枚 |
ニコン D700+凸レンズ2枚、凹レンズ1枚 |
※作例写真はすべてRAWで撮影し、Photoshop Camera RAWを使って色調整。Web用にリサイズの後、適宜アンシャープマスク処理を施しています。
■宙玉だより
宙玉レンズも少しずつ進化しています。宙玉レンズ専門サイトに新たな工作法やメンテナンス法などをアップ中。
宙玉レンズをコンデジに付けるには、透明ゴムを使った | 宙玉レンズで撮影した桜玉を宙玉ギャラリーにアップ。けっこうきれいに撮れるようになってきた |
宙玉ギャラリーには私以外の方が撮った写真もアップしてます。これは佐藤弥生さんがiPhoneで撮影し、iPhoneアプリで加工した写真 |
■告知
- 「上原ゼンジの実験写真術」 大阪で講演を行ないます。宙玉レンズや万華鏡レンズなどの実物も体験できます。5月28日(土)、13時30分~。主催は関西電塾。
- 「ゼンラボ通信」 セミナーやワークショップの情報が知りたい方は「ゼンラボ通信」(メールマガジン、無料)をご購読ください。今回のトイ蛇腹レンズのワークショップなどもやりたいと思ってます。
- 「デジカメでトイカメ!! キッチュレンズ工房」 私がどうして、こんな実験的な写真を撮るようになったのか? 試行錯誤の過程を綴った「デジカメでトイカメ!! キッチュレンズ工房」が電子書籍として販売されています。毎日コミュニケーションズ刊(税込525円)。販売パピルス。
2011/5/16 00:00