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「宙玉レンズ」を作ってみよう

〜被写体が宙に浮かぶ不思議な世界
Reported by 上原ゼンジ

 「宙玉レンズ」なるものを考案した。“チュウタマ”ではなく、“ソラタマ”と読む。透明球の中に映り込んだ光景を撮影するのだが、宙に浮かぶ玉の中に閉じ込められたような描写になるので、「宙玉」と名付けた。

宙玉レンズで撮影した写真。透明球に映る世界は天地逆さまになっているので、後から180度回転させている。ニコンD5000+AF-S Nikkor 18-55mm F3.5-5.6 G+ケンコーMCクローズアップレンズNo.10+アクリル製宙玉レンズ

 このデジカメWatchで取り上げて貰った影響もあり、かなり多くの人がこの宙玉レンズを使って遊んでくれるようになった。「宙玉」で画像検索をすると、たくさんの人達が撮った宙玉写真がヒットするので、ちょっと不思議な気分だ。

アクリル製の円板に穴を空け、アクリル製の透明球を接着して作った宙玉レンズ。お菓子の空き箱やステップアップリングを使って、カメラのレンズに装着して使用する

 元々は手作りレンズの一貫として、ビー玉を使った撮影をしていた。ビー玉を使って撮影をすると、魚眼レンズでの撮影のように、広い範囲が映り、遠近感が強調され、画は大きく歪む。ちゃんとした光学レンズというわけではないから、描写自体はチープな感じだが、それが逆にオモチャっぽくて面白い。また、ビー玉に限らず透明な球であれば何でも使えるので、アクリル球、ソーダガラス、クリスタルガラス、天然水晶から、消臭ビーズまで、いろんなものを試してみた。すべて描写は異なり、なかなか奥深いものがある。

まだ宙玉レンズが誕生する以前の工作。白いスチロールに穴を空け、天然水晶を固定した
パワーストーンの店で買った天然水晶を使って撮影。なんとなくお上品な描写に思えるのだが、いかがだろう? 周囲は後から円形にトリミングした。ニコンD200+タムロンSP AF 90mm F2.8 Di+天然水晶球

 最初の工作は、白いスチロール板に円形の穴をあけて、その中に球を埋め込んで固定するという方式だった。だから、宙玉レンズのように、玉の周囲は透明に抜けてはいない。でも中心部だけピントが合い、周囲は柔らかくボケる描写は、魚眼レンズにはない特徴であり、これはこれで楽しむことができる。

直径50mmという大きなクリスタルガラス球を使用。内径50mmの透明アクリルの筒をカットし、黒く塗装した。リコーCaplio GX100のフード&アダプター(HA-2)の外径がちょうど50mmだったので、ぴったりはめることができた
このレンズを使うと遠近感と歪みが強調された面白い描写になる。ただ、直径50mmのガラス玉というのはかなり重たいし、使う意味はあまりないと思います(笑)。値段も高くなるし、せいぜい30mmぐらいでいいんじゃないかな。リコーCaplio GX100+直径50mmのクリスタルガラス球

 透明球を使って撮影をしている人達は世界中にいる。たとえば、frickrの中の「Crystal Ball Photography」というグループでは透明球を使って撮影した写真がたくさん投稿されている。ただし、透明球をつまんだ指が入っていたり、その指をトリミングしたりで、宙に浮かんでいるようには撮影できていない。だからたぶん世界中の人が“指が邪魔なんだよなー”と思っていることだと思う。

 私が透明な板で球を支持する方法を思いついた時に、まず試してみたのは、薄い塩ビのシートだ。この塩ビのシートというのは、さまざまな製品パッケージに利用されているので、簡単に入手することができる。円形の穴を空けるのは、サークルカッターが利用できる。ただし塩ビは薄いので、2枚の塩ビシートに穴を空けて挟みこむ方式というのを考えた。これが宙玉レンズの原型だ。

透明の塩ビシートに透明球よりも少し小さめの穴を空けて、両側から挟む。穴はサークルカッターを使って空けた。接着はしていない
塩ビの工作は簡単でいいのだが、球と塩ビのつなぎ目の部分がいまいちきれいにならなかった
玉の周囲を透明にするという方式に可能性を感じ、お金をかけて作ったのがこのレンズ。「K.P.S. PRO. LENS SHADE」を使って、コシナのディスタゴン T* 2.8/25に取り付けた。最短撮影距離を短くするために接写リングを使ってカメラボディに取り付ける

 やってみたらけっこう面白い描写になり、もうちょっと追求してみたくなった。塩ビを使った場合の難点は、切り口がギザギザで、それが映り込んでしまったこと。そこで、今度はガラスを使ってしっかりとした工作をしてみることにした。ただし自分でガラスに円形の穴を空けたり、接着したりというスキルはない。そこでmixiで知り合ったガラスアーティストに相談したら引き受けてくれることになった。

 せっかくガラスに穴を空けて貰えるのだからレンズのフィルターを使うことにした。あとはレンズと距離を空けるための筒があればいい。最初は中古のフィルターをたくさん買ってきて、中のガラスだけ外して連結しようかと思っていたのだが、中古カメラ店「我楽多屋」でいいものを発見した。「K.P.S. PRO. LENS SHADE」という製品で、長さの変えられるレンズフードだ(残念ながら今は製造中止)。これがあればネジでレンズに固定することができる。

 82mm径のフィルターも一緒に買い、ガラスアーティストの所へクリスタルガラス製の球とともに送ったら、きれいに細工をして送り返してくれた。レンズフードにとりつけるとかなり派手な感じになるが、これでようやくイメージしていた写真が撮れるようになったのだった。これが宙玉レンズの完成品だ。


簡単に工作できるように

 しばらくは自分だけで宙玉レンズを使って遊んでいたのだが、せっかくだからほかの人にもその面白さを知って欲しい。そこでワークショップなどの機会に体験してもらうようにした。最初に考えたのは透明のアクリル板に穴を空け、紙管に取り付ける方法。たまたまリコーGX用のアダプターの外径と手持ちの紙管の内径が合ったので、ただアダプターに紙管をかぶせるだけで、取り付けることができた。難点はリコーの特定の製品にしか取り付けられないということだった。

アクリル板に穴を空け、透明球と接着。紙筒とアクリル板も接着剤で貼り付けただけの簡単工作。撮影時にはマニュアルでピントを合わせる。だいたい2cmぐらいの所でピントが合う ワークショップの前日に参加者用に作った宙玉レンズ。女性の参加者が多いということで、カラフルなマスキングテープを張り、“カワイイー”と言わせようとしました(笑)
アクリル板の穴を広げるためのリーマー。穴の大きさが調整できるのがいいところ。まあ、大きくなったものを小さくはできないけど

 連続的にやっている「ゼンラボ」ワークショップの参加者用に考えたのは、某メーカーの菓子箱とステップアップリングを使って、レンズに取り付ける方法だ。これだったら、いろんなカメラに取り付けることが可能だ。ただし、宙玉レンズでの撮影では接写というのが重要になってくる。透明球に映る世界を撮るには、なるべく近くにピントが合った方が有利なのだ。

 一番簡単なのは、最短撮影距離の短いコンパクトデジタルカメラ。これだったら、けっこう簡単にピントが合う。それからマクロレンズというのもいい。ただし、望遠系のマクロだと、筒の長さも長くしないといけないので、街中ではかなり目立つ存在となる。ワークショップの参加者は一眼レフ+標準ズームという人が多かったので、10倍のクローズアップレンズをお薦めした。

お菓子の空き箱を使った宙玉レンズ汎用タイプ。某社の菓子箱にぴったり合うように設計し、アクリルの業者に加工を依頼した マクロ撮影ができない標準ズームレンズの場合には、最短撮影距離を短くするためにクローズアップレンズを間に入れる。寄れないと透明球が画面の中で小さく写ってしまうのだ
みんなで宙玉レンズを持ってきて撮影会を行なった。このカメラで撮っていると、けっこう声をかけられます。ちょっと怪しいけど、微笑ましいという感じで見てもらえます

 単焦点でクオリティーの高いレンズを使う場合は、接写リングを利用するのもいい。ただし、ズームレンズの場合には、ズーミングによって、透明球がどれくらいの大きさで写るのかを調整することができるが、単焦点の場合にはそれができない。そこで、ちょうどいい感じにするために筒の長さを変えて試行錯誤しなければならないという問題が出てくる。まあ、この程度のことは工作の楽しみとも言えるのだが……

 私が地味に広めようとしている宙玉レンズだが、Webで検索してみると、いろんな方法で工作している人達と出会えて楽しい。たとえば、和光のKOBAさんは私が最初にやってみようと思ったフィルター枠の連結を実践してみた人。私は結局やらなかったわけだが、いろんな種類のフィルターを何重にも重ねた姿が壮観。

和光のKOBAさんの宙玉レンズ。α100+ペンタコン50mm F1.8に装着。幾重にも連なるのは、ガラスを抜いたフィルターの枠。フィルターの枚数を変えることにより筒の長さが調整できる。中古カメラ店(我楽多屋)で1枚50円で買ったものだそうだ

 ブログで発見したのが、すいでんさんの「宙玉ハリネズミ」だ。これは300万画素のトイデジタルカメラ「デジタルハリネズミ2」に宙玉レンズをくっつけたもの。初代は最短撮影距離を短くするために凸レンズを1つ挟んでいたが、それを外したために、透明球と周囲の透明円板を大きくしなければならなくなったとのこと。

すいでんさんの「宙玉ハリネズミ」。電球のリフレクターみたいに見えたけど、シャンプーの容器を利用したそうだ。このフォルムは好きだなあ 容器のフタがカメラに取り付けてあって、宙玉部の着脱も可能

 誰でも簡単にできるようにと思って、お菓子の空き箱を使った工作を考えたけど、もうちょっとカッチリしたものを作りたいという人は、レンズフードなどを利用するといい。Hiroさんもレンズフードを使って宙玉レンズを作りました。接着はせず、押し込んだだけで、ぴったり収まっているそうです。

 フードはレンズを買った時に付いていたものがあれば、それを試してみればいいし、中古カメラ店でジャンク品を安く入手するのもいい。自分で工作する場合には、プラスティックの密閉容器なんかが加工がしやすいです。100円ショップであれば105円で入手可能。黒く塗装すれば、それっぽく見えるはず。

レンズのフードを利用してHiroさんが作った宙玉レンズ。これだったら街中で撮影していても、恥ずかしくないですね オリンパスの「ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4-5.6」に付属したフードに宙玉レンズを装着。そのフードとニコンの24mmレンズはラバーフードを介して接続。さらにレンズとボディの間にはケンコー製のヘリコイド付のテレコン、マクロテレプラスが入っているとのこと
100円ショップで買ったプラスティックの密閉容器。鏡筒の素材に利用できる。その他、シャンプーの容器、ガムの容器などいろんな容器が利用できる

 宙玉レンズの工作で難しいのは、アクリル板に穴を空けるところ。普通のドリル刃で穴を空けようとすると板が割れてしまうので注意。アクリルに適したドリル刃でゆっくり穴を空けてください。穴が開いたら、リーマーでグリグリやって、穴を拡大してください。工作のための道具を買わなければいけないというのが、ちょっと難点かな。工作に自身がない人のために、ワークショップ用に作った部品をうちのホームページで買えるようにしてあるので、良かったら、ご利用ください。

 そんなの買いたくないけど、ちょっと試してみたいという人のためには、もっと簡単な方法もあり。CDやDVDの透明ケースを使い、透明球を挟みこむ方法だ。透明球はDIYの店などで購入できるが、ラムネ瓶の中に入っているビー玉でも構わない。とりあえずは、こんな簡単な工作で、ぜひお試しください!

CDケース2つをバラし、透明のビー玉を挟んでテープで留めただけのもの。レンズに装着せずに立てて置いて撮影をしてもいい

宙玉の玉を増やしてみると?

 ほかの人の宙玉写真を見てみると、自分では撮らなかったようなパターンの写真といろいろ出会えて面白い。たとえば、私はいつも球が真ん中になるように撮影しているが、それをわざと中心から外して撮影している人。あるいは鉄道写真を撮る人、お気に入りのフィギアを撮る人もいる。それから球を1つではなくいくつも並べている人も何人か見かけた。たとえば、かずさんは球を2つ並べたパターン。花形フードにただ宙玉レンズをはめ込んだだけ、という工作も手軽でいい。

レンズはシグマ17-70mm F2.8-4.5 DC Macro。マクロレンズで最短撮影距離が短いため、フードの先端に取り付けただけでピントが合ったそうだ クローズアップレンズ等も付けていないし、フードにはめ込んだだけだから、すごくシンプルな仕組みだ
2つ透明球を並べると、それぞれで映る像は変わってくる。1つ目の時とはまた違ったイメージだ

Phanchanさんの場合は、7つの球を並べたのだが、円偏光(C-PL)フィルターを使って宙玉レンズが回転するような仕組みになっている。円偏光フィルターは2枚のフィルターが重なっていて、1枚が回転するようになっているが、それを利用したそうだ。シャッタースピードを遅くして回転させると、中心の球に写る景色だけは変わらず、周辺の玉の像だけが流れる。なんとも不思議な写真だが、これは新しい写真のジャンルの誕生かもしれないな(笑)。おかしなことを考える人だなと思ったのだが、もとはと言えば、私が電動ドリルにカメラを取り付けて回転させたというところからヒントを得たらしい。

こんな細かい工作をしたそうだ。ご苦労様です(笑)。なんかイクラみたい
これが7つ目で撮影した写真
うーむ、回転してる(笑)。Photoshopじゃなくて、アナログなところがいいんだよね こっちは残像のようになってるな。回転というより、ちょっとズラした、という感じかな
これが電動ドリルドライバーカメラ。シャッタースピードを遅くして、意図的にブレさせることを目的に工作。しかし企画倒れで、ロクな写真が撮れていない

 この球をたくさん取り付けるという方法は実は私もやっている……。と、対抗意識むき出しで書かせてもらうと(笑)、私がやった方法は小さな透明球に接着剤を付け、雷おこしのようにくっつけてしまう方法だ。爪楊枝の先っちょに接着剤を付けて、少しずつくっつけるという方法で、私がやった工作の中では一番ちまちまとした方法だ。昆虫の複眼のような感じだが、小さな球に写る光景の一つ一つは少しずつズレているというのがポイント。すごくかったるい工作なのでお薦めはできないが、透明のケースなどにいれて透明球を挟みこむといった方法もあるので、興味のある方はお試しを。

小さなガラス玉を1個1個接着して作った。現在は壊れてバラバラになってしまいました
これは公園のブランコを撮った写真なんだけど、なんだかよく分かりませんね。リコーCaplio GX100+ガラス製複眼レンズ

 私が最初に花の写真を撮ったためか、被写体として花を選ぶ人が多いようだけど、もっといろんなものを撮ってみて欲しいと思う。風景を撮っても、人物を撮っても面白い。また、カラフルな光源があると、そのボケがけっこうきれいだ。トリミングの仕方も正方形にしてもいいし、球の中だけにすれば、ちょっと不思議なトイレンズ風になる。面白い写真を撮ったらWEB上にアップして、URLを教えて下さい。まだ誰もやっていないようなアイディアを出して、ぜひ世界初の宙玉写真にチャレンジしてください!

池に映り込む木々や空。ニコンD5000+AF-S Nikkor 18-55mm F3.5-5.6 G+ケンコーMCクローズアップレンズNo.10+アクリル製宙玉レンズ
道頓堀にて。カラフルに発光する照明というのはけっこうきれいに写る。花火やイルミネーションなんかも撮ってみて欲しい。ニコンD5000+AF-S Nikkor 18-55mm F3.5-5.6 G+ケンコーMCクローズアップレンズNo.10+アクリル製宙玉レンズ 鴨川の黄昏時。ちょっとドラマティックなイメージだけど、これは現像時にコントラストを上げ、ブルー系にちょっと振ってます。ニコンD5000、AF-S Nikkor 18-55mm F3.5-5.6 G、ケンコーMCクローズアップレンズNo.10、アクリル製宙玉レンズ
海水浴場で撮影。宙玉には空や雲がよく似合う。後から真四角にトリミング。ニコンD5000+コシナ ディスタゴン T* 2.8/25+接写リング+アクリル製宙玉レンズ

※作例写真はすべてRAWで撮影し、Photoshop Camera RAWを使って現像。Web用にリサイズの後、適宜アンシャープマスク処理を施しています。

協力

和光のKOBAさん
すいでんさん
Hiroさん
かずさん
phanchanさん

告知

 「実験写真相談会」を行います。工作や撮影法など、疑問のある方はお越しください。

  • 会場:赤坂港カフェ
  • 住所:東京都港区赤坂6-10-39
  • 日時:9月12日 14時〜17時30分、9月15日 18時〜20時





実験写真家。色評価士。レンズを自作したり、さまざまな写真技法を試しながら、写真の可能性を追求している。また、カラーマネージメントに関する執筆や講演も行っている。著作に「ボケ/ブレ不思議写真術―カメラプラス」、「うずらの惑星―身近に見つけた小さな宇宙 カメラプラス」(ともに雷鳥社刊)、「すぐにわかる!使える!!カラーマネージメントの本―仕事で役立つ色あわせの理論と実践マニュアル」(毎日コミュニケーションズ刊)などがある。上原ゼンジ写真実験室

2010/9/2 00:00