新製品レビュー

キヤノンEOS 8000D(外観・機能編)

意外となかった、前後2ダイヤルのエントリーEOS

1989年に登場し、そのデザインや操作性、堅牢性が現在の「EOS-1D X」にまで受け継がれているキヤノンEOS初のプロ機「EOS-1」をご存知だろうか。そのEOS-1で画期的だったのが、“ダブル電子ダイヤル”だ。シャッターボタン後方のメイン電子ダイヤルだけでなく、背面にもサブ電子ダイヤルを搭載。ファインダーを覗いたまま、親指一本で露出補正ができる。この前後ダイヤルの操作性は、EOS-1以降に他社も採用し、現在のミドルクラス以上のデジタル一眼レフやミラーレス機では当たり前の装備だ。

しかしエントリークラスは、初心者でも親しみやすいように、ダイヤルはひとつでシンプルな操作性にしている場合が多い。キヤノンでもEOS Kissシリーズはフィルム時代からサブ電子ダイヤルを持たず、最新のデジタル機「EOS Kiss X8i」でも同じだ。

ミドルクラス以上にサブ電子ダイヤルを持つのはEOSの伝統であり、EOS Kissにはサブ電子ダイヤルがないのもEOSの伝統なのである。しかし、エントリーモデルはダイヤルがひとつ、という常識を覆したモデルが登場した。それがキヤノンEOS 8000Dだ。

「EOS Kiss X8i」との違いは?

EOS 8000Dは、同時に発表された「EOS Kiss X8i」の姉妹機といえる機種だ。どちらも撮像素子はAPS-Cサイズの2,420万画素CMOS。映像エンジンDIGIC 6も同じ。19点AFや7,560画素RGB+IR測光センサーも共通。さらにバリアングル液晶モニターや無線LAN機能もどちらも備える。そして大きさや重さもほとんど同じ。EOS 8000Dがわずか10g重い程度だ。

内蔵ストロボはガイドナンバー約12(ISO100・m)。焦点距離17mm相当の画角に対応する。E-TTL II自動調光に対応し、調光補正やFEロックも可能。
本体左側面後方は、映像/音声出力端子とHDMIミニ出力端子を装備。
左側面前方は、リモコン端子と外部マイク端子を持つ。
左がEOS 8000D、右がEOS Kiss X8i。ほぼ同じスペックの姉妹機とはいえ、上面の液晶パネルの有無や、左手側上面の操作部など、外観の違いは大きい。EOS 8000Dは本格派の雰囲気で、EOS Kiss X8iはビギナーでも親しみやすい雰囲気だ。

しかし外観や操作性には大きな違いがある。そのひとつが軍艦部の液晶パネルだ。EOS Kissは2002年に発売のEOS Kiss 5(フィルム一眼レフ)から軍艦部に液晶パネルは持たず、背面に表示している。デジタルになってもそれは変わらず、EOS Kissシリーズの特徴になっていた。液晶パネルがない代わりに、右手側にモードダイヤルを持つレイアウトだ。だがEOS 8000Dは、上位機と同じように右手側に液晶パネル、左側にモードダイヤルを持っている。

EOS 8000Dの上面液晶パネルは、まるでミドルクラスのようだ。ISO感度や露出情報、バッテリー残量や撮影可能枚数の他、無線LAN機能のオン/オフ表示もある。バックライトも搭載。

そして背面に、EOSのエントリーモデルとしては初めてサブ電子ダイヤルを搭載した。これにより、露出補正や絞り値が瞬時に設定でき、スムーズな露出コントロールが可能になった。またメニュー画面のスクロールや測距点選択もスピーディーに行える。ダイヤルの内側は十字ボタンになっていて、EOS 70Dに近い印象。WB、AF、ピクチャースタイル、ドライブにダイレクトにアクセスできる。この仕様はEOS Kiss X8iと同じで、エントリーモデルらしさが感じられる。EOS 70DとEOS Kiss X8iの中間といえるレイアウトだ。

EOS 8000Dの大きな特徴であるサブ電子ダイヤル。上位機と比べるとダイヤルが薄く、操作は表面を撫でるような印象だ。ダイヤルの内側は十字ボタンだが、不用意に押してしまうことはなかった。
電源スイッチはモードダイヤルの下に配置。上位機のEOS 7D Mark IIやEOS 70Dと同じだ。ONの位置は静止画撮影、その先は動画撮影用になる。

驚いたのが、ライブビュー時のAFの速さだ。像面位相差AFとコントラストAFを組み合わせた「ハイブリッドCMOS AF III」の採用により、ストレスを感じない、快適なAFを実現した。タッチAFに対応し、モニターのピントを合わせたい場所にタッチすれば、スッと合焦する。さらにライブビューで被写体を追いながら連写をする、サーボ連写も可能。これはEOS Kiss X8iにはできない、EOS 8000Dが優位な部分だ。また動画撮影時は、EOS 8000DだけデジタルズームとHDRが可能になっている。

タッチAFは、モニター画面のピントを合わせたい部分にタッチするとAFが作動する。タッチ操作でシャッターが切れるタッチシャッターも選択できる。
AF合焦後も、シャッターボタンを半押ししなければ常にピントを合わせ続ける。そのため、カメラや被写体が動くと、それに合わせて追尾が可能。子供やペットの写真を撮る際に便利だ。
蛍光灯やLEDの照明で高速シャッターを切ると、フリッカーが発生することがある。EOS 8000Dはフリッカーレス撮影機能を装備し、明るさや色のばらつきを抑えた写真が撮れる。
EOS 8000Dは電子水準器を搭載している。EOS Kiss X8iと異なる部分だ。風景や建物、テーブルフォトなどで、水平や垂直を正確に出して撮影するのに有効だ。

一眼レフならではの楽しさと、バリアングル液晶やタッチ操作の利便性

液晶モニターは、EOS Kiss Xシリーズでもすっかりお馴染みになったバリアングル式。ライブビュー撮影では横位置のハイアングルやローアングルはもちろん、縦位置のハイアングル、ローアングルにも対応する。この液晶モニターはタッチパネルになっていて、設定や再生時の拡大、縮小、画像の送り、戻しなどがタッチで可能。反応も良く、スマートフォンに馴染んでいた人にも違和感なく扱えるだろう。

EOS 70DやEOS Kiss X8iと同様に、バリアングル液晶モニターを持つ。ライブビュー時のAFも速いので、ハイアングルやローアングルなど、様々なアングルで快適な撮影が可能だ。
液晶モニターはタッチパネルになっている。液晶モニター側の「Q(クイックアクセス)」ボタンをタッチすると、絞り値やISO感度、露出補正、測光など、各設定をタッチで行える。
液晶モニターはアスペクト比3:2の3.0型。約104万ドットだ。撮影した写真を再生すると、モニター画面いっぱいに表示できる。
そのまま指でピンチすると拡大される。スマートデバイスの感覚だ。縮小させると、インデックス表示になる。AFフレーム選択ボタンとAEロックボタンでも同じ操作が可能だ。
画像の送り、戻しも指でスワイプするだけ。スマホからステップアップした人でも馴染みやすい。もちろん十字ボタンでも同様の操作が可能。

エントリーモデルというと、小型軽量を重視する傾向にあり、グリップも小さいイメージがある。そのため手が大きい人は持ちづらくなるのだが、EOS 8000Dのグリップは適度な大きさがあり、ボディをしっかりホールドできる。これなら手が大きい男性でも不満に感じないはずだ。また望遠レンズのように全長が長いレンズでも安定して構えられる。今回はキットレンズのEF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STMをメインに使用したのだが、このレンズは全長がやや長い。しかし撮影時は、それを気にすることなく軽快に持ち歩けた。

一眼レフの要となるファインダーは、倍率約0.82倍(50mmレンズ)。APS-Cサイズなので視野が大きいとはいえないものの、実用上は気にならず、明るくてクリアな視認性を持つ。グリッドや水準器を表示させることも可能だ。EOS 8000Dはライブビューの進化が目立つが、それでもガッチリ握れるグリップやクリアなファインダーなど、手にしていると一眼レフならではの楽しさが感じられた。

エントリークラスの機種は、バッテリー室がメモリーカードスロットを兼ねているケースが多いが、EOS 8000Dは側面に単独でSDカードスロットが設けてある。
バッテリーはLP-E17。EOS Kiss X8iと共通だ。ファインダー撮影の場合、常温(+23度)で約440枚、ライブビュー撮影では約180枚撮れる。
パンケーキレンズ、EF-S24mm F2.8 STMを装着してみた。小型軽量のモデルは、コンパクトなレンズがよく似合う。光学ファインダーのクリアな視界で、軽快に街をスナップしたくなる。

まとめ

これまでEOS Kissシリーズは、EOSのエントリーモデルの定番として高い人気を誇ってきた。しかし性能は良くても「Kiss」というネーミングがソフト過ぎて、好みではない人はいたはずだ。また上面に液晶パネルや背面にサブ電子ダイヤルがないことも気になっていた人もいるだろう。それを一気に解消させたのがEOS 8000Dだ。

基本スペックはEOS Kiss X8iと同じながら、ネーミングにはKissを使わず、上位機のような液晶パネルとサブ電子ダイヤルを持つ。ミドルクラスに匹敵する使い心地は、EOSのエントリーモデルに躊躇していた人でも「これなら」と思える仕上がりだ。もちろんスマホやコンパクトデジタルからのステップアップだけでなく、EOS 7D Mark IIクラスのユーザーのサブカメラとしても注目だ。バリアングル液晶モニターやNFC対応の無線LAN機能は、EOS 7D Mark IIにも搭載されていない。状況に応じた使い分けをしたい人にもおすすめできる。

次回は実写編をお届けする。

藤井智弘

(ふじいともひろ)1968年、東京生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。1996年、コニカプラザで写真展「PEOPLE」を開催後フリー写真家になる。現在はカメラ雑誌での撮影、執筆を中心に、国内や海外の街のスナップを撮影。公益社団法人日本写真家協会会員。