新製品レビュー
キヤノンEOS 8000D(外観・機能編)
意外となかった、前後2ダイヤルのエントリーEOS
Reported by藤井智弘(2015/7/3 07:00)
1989年に登場し、そのデザインや操作性、堅牢性が現在の「EOS-1D X」にまで受け継がれているキヤノンEOS初のプロ機「EOS-1」をご存知だろうか。そのEOS-1で画期的だったのが、“ダブル電子ダイヤル”だ。シャッターボタン後方のメイン電子ダイヤルだけでなく、背面にもサブ電子ダイヤルを搭載。ファインダーを覗いたまま、親指一本で露出補正ができる。この前後ダイヤルの操作性は、EOS-1以降に他社も採用し、現在のミドルクラス以上のデジタル一眼レフやミラーレス機では当たり前の装備だ。
しかしエントリークラスは、初心者でも親しみやすいように、ダイヤルはひとつでシンプルな操作性にしている場合が多い。キヤノンでもEOS Kissシリーズはフィルム時代からサブ電子ダイヤルを持たず、最新のデジタル機「EOS Kiss X8i」でも同じだ。
ミドルクラス以上にサブ電子ダイヤルを持つのはEOSの伝統であり、EOS Kissにはサブ電子ダイヤルがないのもEOSの伝統なのである。しかし、エントリーモデルはダイヤルがひとつ、という常識を覆したモデルが登場した。それがキヤノンEOS 8000Dだ。
「EOS Kiss X8i」との違いは?
EOS 8000Dは、同時に発表された「EOS Kiss X8i」の姉妹機といえる機種だ。どちらも撮像素子はAPS-Cサイズの2,420万画素CMOS。映像エンジンDIGIC 6も同じ。19点AFや7,560画素RGB+IR測光センサーも共通。さらにバリアングル液晶モニターや無線LAN機能もどちらも備える。そして大きさや重さもほとんど同じ。EOS 8000Dがわずか10g重い程度だ。
しかし外観や操作性には大きな違いがある。そのひとつが軍艦部の液晶パネルだ。EOS Kissは2002年に発売のEOS Kiss 5(フィルム一眼レフ)から軍艦部に液晶パネルは持たず、背面に表示している。デジタルになってもそれは変わらず、EOS Kissシリーズの特徴になっていた。液晶パネルがない代わりに、右手側にモードダイヤルを持つレイアウトだ。だがEOS 8000Dは、上位機と同じように右手側に液晶パネル、左側にモードダイヤルを持っている。
そして背面に、EOSのエントリーモデルとしては初めてサブ電子ダイヤルを搭載した。これにより、露出補正や絞り値が瞬時に設定でき、スムーズな露出コントロールが可能になった。またメニュー画面のスクロールや測距点選択もスピーディーに行える。ダイヤルの内側は十字ボタンになっていて、EOS 70Dに近い印象。WB、AF、ピクチャースタイル、ドライブにダイレクトにアクセスできる。この仕様はEOS Kiss X8iと同じで、エントリーモデルらしさが感じられる。EOS 70DとEOS Kiss X8iの中間といえるレイアウトだ。
驚いたのが、ライブビュー時のAFの速さだ。像面位相差AFとコントラストAFを組み合わせた「ハイブリッドCMOS AF III」の採用により、ストレスを感じない、快適なAFを実現した。タッチAFに対応し、モニターのピントを合わせたい場所にタッチすれば、スッと合焦する。さらにライブビューで被写体を追いながら連写をする、サーボ連写も可能。これはEOS Kiss X8iにはできない、EOS 8000Dが優位な部分だ。また動画撮影時は、EOS 8000DだけデジタルズームとHDRが可能になっている。
一眼レフならではの楽しさと、バリアングル液晶やタッチ操作の利便性
液晶モニターは、EOS Kiss Xシリーズでもすっかりお馴染みになったバリアングル式。ライブビュー撮影では横位置のハイアングルやローアングルはもちろん、縦位置のハイアングル、ローアングルにも対応する。この液晶モニターはタッチパネルになっていて、設定や再生時の拡大、縮小、画像の送り、戻しなどがタッチで可能。反応も良く、スマートフォンに馴染んでいた人にも違和感なく扱えるだろう。
エントリーモデルというと、小型軽量を重視する傾向にあり、グリップも小さいイメージがある。そのため手が大きい人は持ちづらくなるのだが、EOS 8000Dのグリップは適度な大きさがあり、ボディをしっかりホールドできる。これなら手が大きい男性でも不満に感じないはずだ。また望遠レンズのように全長が長いレンズでも安定して構えられる。今回はキットレンズのEF-S18-135mm F3.5-5.6 IS STMをメインに使用したのだが、このレンズは全長がやや長い。しかし撮影時は、それを気にすることなく軽快に持ち歩けた。
一眼レフの要となるファインダーは、倍率約0.82倍(50mmレンズ)。APS-Cサイズなので視野が大きいとはいえないものの、実用上は気にならず、明るくてクリアな視認性を持つ。グリッドや水準器を表示させることも可能だ。EOS 8000Dはライブビューの進化が目立つが、それでもガッチリ握れるグリップやクリアなファインダーなど、手にしていると一眼レフならではの楽しさが感じられた。
まとめ
これまでEOS Kissシリーズは、EOSのエントリーモデルの定番として高い人気を誇ってきた。しかし性能は良くても「Kiss」というネーミングがソフト過ぎて、好みではない人はいたはずだ。また上面に液晶パネルや背面にサブ電子ダイヤルがないことも気になっていた人もいるだろう。それを一気に解消させたのがEOS 8000Dだ。
基本スペックはEOS Kiss X8iと同じながら、ネーミングにはKissを使わず、上位機のような液晶パネルとサブ電子ダイヤルを持つ。ミドルクラスに匹敵する使い心地は、EOSのエントリーモデルに躊躇していた人でも「これなら」と思える仕上がりだ。もちろんスマホやコンパクトデジタルからのステップアップだけでなく、EOS 7D Mark IIクラスのユーザーのサブカメラとしても注目だ。バリアングル液晶モニターやNFC対応の無線LAN機能は、EOS 7D Mark IIにも搭載されていない。状況に応じた使い分けをしたい人にもおすすめできる。
次回は実写編をお届けする。