新製品レビュー
キヤノンEOS M3(外観・機能編)
液晶チルトとEVFに対応した第3の“M”
Reported by 永山昌克(2015/4/15 07:00)
キヤノンから、同社ミラーレスの3代目として「EOS M3」が登場した。これまでの2台、つまり2012年発売の「EOS M」と2013年発売の「EOS M2」は、レンズ交換式カメラの入門者を主なターゲットにして、持ち運びに適した薄型軽量ボディと、オート主体のシンプルな操作性が特長だった。
それに対して今回のEOS M3は、その一歩上を目指したカメラである。グリップの大型化と液晶のチルト可動化を図ったうえで、ボタンやダイヤルの数を増やしてマニュアルでの操作感を向上。さらに撮像素子とエンジンは一新され、AFシステムのバージョンアップや、ストロボの内蔵、オプションによるEVFへの対応なども実現。キヤノンがミラーレスに対してようやく本気を出した、と感じさせる内容だ。
発売は3月下旬。実勢価格はオープン。発売時のキヤノンオンラインショップでの価格は、ボディ単体が税別5万6,800円、18-55 IS STM レンズキットが税別7万1,800円、ダブルレンズキット(18-55+22mm)が税別8万5,800円、ダブルズームキット(18-55+55-200)が税別9万6,800円となる。
今回のレビューでは、その外観と機能をお伝えしよう。
ホールド感と操作感を高めた新デザイン
ボディは、流線形状のグリップを取り入れた新デザインとなった。既存モデルと外見上の共通点は少なく、グリップの感触から電源ボタンの形状、シャッターボタンの位置まで一新されている。特にグリップの大型化によって、大きめのレンズ装着時の、ホールドバランスが高まったことはうれしいポイントだ。
サイズはおよそ一回り大型化し、EOS M2に比べて重量は約92g増加した。内部のフレーム構造には引き続きマグネシウム合金を採用する。カラーバリエーションはブラックとホワイトの2色が用意。今回試用したブラックのモデルは、手にしたときに剛性が感じられる頑丈で高品位な外装だ。
ダイヤルやボタンについては、その数が増えている。特に大きいのは、天面にモードダイヤルと露出補正ダイヤルを新設したこと。モードダイヤルではオートからマニュアルまでの11モードを素早く選択でき、露出補正ダイヤルでは±3EVの範囲を1/3段ずつ調整できる。
絞りやシャッター速度は、シャッターボタンまわりの電子ダイヤル、および背面十字キーのまわりにあるコントローラーホイールの2つによってダイレクトに調整可能だ。また、シャッターボタンの横に設けたM-Fnボタンや、背面の動画ボタン、ゴミ箱ボタンに関しては割り当てのカスタマイズができる。これらの改良によって、タッチパネル中心だった既存モデルに比べ、各種機能へのアクセス性が大きく向上したといっていい。
タッチ&チルトができる液晶とオプションのEVF対応
外見上で既存モデルと大きく異なるのは、液晶モニターがチルト可動式になったこと。可動の角度は上に最大180度、下に最大45度。ローポジションやハイポジションでの撮影がいっそう便利になったほか、自分撮りがスムーズに行える。ここは構図の自由度を広げる進化として素直に歓迎したい部分だ。
液晶の仕様は、ワイド3型の約104万ドット。十分な明るさと精細感があり、視認性に問題はない。これまでと同じくタッチパネルにも対応し、タッチシャッターによる撮影のほか、AFエリアの移動や各種機能設定、再生コマ送りなどが直感的に操作できる。
もうひとつの大きな改良は、上部のアクセサリーシューに、電子ビューファインダーが装着可能になったこと。オプションのアクセサリーとして外付けEVF「EVF-DC1」が用意され、より確実にカメラを構えて撮りたいときや、逆光で液晶モニターが見えにくくなるシーンで役に立つ。
進化したAFとマニュアルフォーカス
AFシステムには「ハイブリッドCMOS AF III」を新搭載した。既存モデルEOS M2が採用していた「ハイブリッドCMOS AF II」に比べた場合、コントラストAFと像面位相差AFを併用する基本的な仕組みは同じだが、位相差画素の配置を変更し、水平方向の密度を高めたことで、シーンによっては位相差AFのみでの合焦が可能になった。
AF速度は、EOS M2比で約3.8倍スピードアップしたという。試用では、確かに速くなったAFを実感できた。ただ、動きのある被写体にてきぱきとピントを合わせることは依然として苦手だ。動体を撮る際はAFに頼らず、フォーカスロックやマニュアルフォーカスを上手に活用したい。
背面十字キーの左に割り当てられたMFボタンを押すことで、AFとMFをワンタッチで行き来できるのは便利だ。また、MFピーキング機能を新搭載し、ピントが合った被写体の輪郭部分を色付きで強調表示できる点も使いやすい。ピーキングの色は赤、青、黄色から選べる。
水準器やクリエイティブアシストを新搭載
新機能としては、水平方向とあおり方向の傾きを確認できる2軸タイプの電子水準器や、カメラを操作しない状態を検知すると液晶を暗くした後、非表示にするエコモードを搭載した。
ビギナー向けの機能としては、クリエイティブアシストモードを装備する。「背景」や「明るさ」「鮮やかさ」など6つの項目をタッチ操作でスムーズに調整できるモードだ。また、静止画と同時に動画を記録するプラスムービーオートモードや、連写合成によって暗部から明部までの階調を広げるHDRモードを新搭載している。
Wi-Fi機能は新たにNFC機能にも対応する。連写は最高約4.2コマ/秒で、動画はフルHD記録をサポート。そのほか、発色傾向をカスタマイズする7種類のピクチャースタイルや、撮影後に特殊効果を加えるクリエイティブフィルター、4種類のアスペクト選択、レンズ光学補正、オプションのリモコン撮影などの機能を備えている。
撮像素子には、新開発したAPS-Cサイズの有効2,420万画素CMOSセンサーを搭載する。画像処理エンジンは「DIGIC 6」で、感度はISO100~25600に対応する。
撮影領域を広げる小型ボディと可動モニター
トータルとしては、機能面でも操作面でも既存モデルからワンランク上に進み、趣味として写真撮影を楽しむユーザーにとって、より使いこなし甲斐のあるカメラになったといっていい。
特に、液晶モニターのチルト可動に対応したことと、ボタンやダイヤルの強化によって詳細機能へのアクセスがスムーズになったことは個人的にもありがたく感じる。
気になったのは、撮影直後の表示のレスポンスがややもたつくこと。シャッターを切ると液晶表示が一瞬消えてからアフタービューが表示されるが、その液晶ブラックアウトの時間が長いことと、シャッターの半押しによってアフタービューを途中でキャンセルした場合でも、撮影可能状態に復帰するまでに少し待たされる点が不満だ。快適に撮るためには、メニューの設定から撮影画像の確認時間を「切」にしたほうがいいかもしれない。
また欲を言えば、ボタンの割り当て変更をはじめとするカスタムメニューに内容をもう少し充実させてくれれば、さらに使い勝手が高まったと思う。
一眼レフと併用または使い分けるサブカメラとして捉えた場合は、キヤノンユーザーにとって撮影領域を広げる強力な相棒になるだろう。動きのあるシーンを狙うときは一眼レフを持ち出し、静止したものを自由なアングルで撮りたいときはEOS M3で気軽にスナップする。そんな使い分けを楽しみたい。
次回は、作例を中心にした実写編をお伝えしよう。