パナソニックから「LUMIX DMC-TZ30」が発売された。DMC-TZシリーズは比較的コンパクトなボディに高倍率ズームを搭載したシリーズで、2006年の「LUMIX DMC-TZ1」から7代目となるロングセラーシリーズだ。特徴とするズーム倍率は、前機種「LUMIX DMC-TZ20」の16倍から20倍に引き上げられ、初代の10倍ズームから6年で2倍となった。
ズーム倍率以外の主な変更点は、GPS機能のひとつとして、背面液晶モニターに地図表示が可能になったこと。また、動画撮影時に1080/60pのAVCHD progressiveをサポートしたことなどが挙げられる。
発売は3月8日、実勢価格は3万円前後。カラーバリエーションはブラック、ホワイト、レッドとなっている。
■光学20倍ズームながら薄型ボディを実現
外観は大きな変更はなく電源スイッチと撮影/再生の切り替えは従来機同様スライド式。再生中にシャッターボタンの半押しで撮影に復帰することができないなどの欠点はあるが、スライド式の方が確実という人もいるので好みの範疇だろう。
モードダイヤルの割り当ては若干変更されているが、基本的なところは同じ。シャッターボタン、動画撮影ボタンなどの配置も変更はなく、操作感は継承されている。背面のボタン類も変更はなくパナソニック伝統のQ.MENUボタンによる設定変更、4方向ボタンの割付も同じだ。EXPOSUREボタンにMAPが加わり地図表示の際に使用する。
改めて基本スペックを確認してみる。ズーム倍率は20倍に拡張されたが、ボディは約33.4mmから約28.2mmに薄型化された。光学20倍ズームレンズ搭載のデジタルカメラとして、世界最薄という。
レンズはLEICA DC VARIO-ELMAR、焦点距離24-480mm相当(35mm判換算)F3.3-6.4。光学式手ブレ補正機構を内蔵し、動画撮影時はアクティブモードに対応、ナノサーフェスコーティングを採用している。
撮像素子は前機種と同じく1/2.33型有効1,410万画素MOSセンサーだが、新タイプのものに変更され、ISO1600時のS/N比が3.8dB改善されたという。設定できる最高感度はISO3200、高感度モードではISO6400が光量により自動選択される。
オートフォーカスについては、アルゴリズムの見直しとソフト処理の高速化により、AF速度を従来機より20%高速化。合焦速度を約0.1秒としている。フル解像度での連写性能は従来機と同じで、AF追随で最大5枚/秒、AF非追随で最大約10枚/秒。
従来機でパノラマ撮影をするには、複数枚の画像を撮りパソコンで合成する方法を採用していたが、DMC-TZ30では、カメラ内部の処理でパノラマ合成が可能となり、ようやく他社に追い付いたという印象だ。
そのほか静止画関連では、おまかせiAに「iHDR」が追加され、撮影時に逆光を自動判別すると、自動的に2〜3枚の高速撮影し合成を行なうようになった。
動画撮影では1080/60pのAVCHD progressiveをサポートし、より滑らかな動画撮影が可能になったとのこと。「風音低減機能」は従来のオン、オフからにオートとオフの選択に変更された。
GPS機能では、背面液晶モニターに地図表示が可能となったことに加え、GPSアシストデータに対応したことで測位速度が向上したという。
バッテリーは従来機と同じDMW-BCG10で静止画の撮影枚数は260枚と変わらないが、バッテリー充電器は付属せずAC-USB変換アダプターによりUSBケーブルで充電する方式に変更された。
HDMI端子とAV OUT/DIGITAL端子。USB充電はここを使う。 | バッテリーは変更なし。記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカードに対応。Class4以上が推奨。 |
■GPS機能が強化。地図表示やGPSアシストに対応
次に、新しく搭載された地図表示機能を詳しくみてみよう。地図表示機能自体はカメラ本体にも搭載されているが地図の倍率が低く、標準の状態では最大でも本州全体が液晶モニターに映る程度の倍率となっている。詳しい地図表示を行なうには付属のDVDから地図情報を記録メディアにコピーする必要がある。
再生メニューに地図が加わった | 地図を表示するときはエリアを選択 |
地名からを選択 | カナ表示されるのは日本だけ |
他の国はアルファベット表示 | 地図データをコピーする前はこの倍率まで |
操作は付属の「LUMIX Map Tool」を使用し、詳細表示したい地域を選択する。全世界が10の地域に分割されていて、全ての地域を選択すると5.3GB。日本だけなら392MB、各地域の容量は東南アジア1.09GB、北米1.53GB、西ヨーロッパ983MBなどとなっている。地図情報は記録メディアの指定フォルダにコピーされるので、大容量のカードを使用すれば、全世界の地図を常に持ち歩くことも可能だ。
日本、東南アジア、北米、西ヨーロッパなどを選択 | |
地図情報をコピーすると200kmだったスケールバーの数値を50mまで拡大することが可能となる。撮影位置を確認する程度なら問題のない倍率だが、道に迷ったときの地図として使うには物足りない倍率だ。地図が目的ならスマートフォンなどを利用した方が賢明だろう。
GPSアシストに対応したことで、GPSの測位時間は従来機より短くなったような気がする。あくまで筆者の印象だが、クルマで移動した後に降りて撮影を開始すると、最初の1枚目のシャッターボタンを押す前に測位が完了するといった感じだ。
地図をコピーするとここまで表示可能となる | 撮影をすると地図上にマークが表示される |
動物園での撮影を地図で表示 | GPSアシストに対応 |
■新しいMOSセンサーを採用、高感度時の画質が向上
静止画についても確認してみよう。撮像素子が新タイプのMOSセンサーに変更され、高感度撮影時の画質が向上したという。実際に画像を見ると、ノイズ、解像度ともISO100からISO1600まではゆるやかに劣化していく印象だ。
前機種DMC-TZ20ではCCDからMOSに変更され、静止画の画質が大幅にダウンした。今回のDMC-TZ30にでは、それがかなり改善された。ISO100ではCCDを搭載したDMC-TZ10の方が高画質だが、ISO1600ではTZ30の方がノイズ、解像感とも優れている。
レンズは20倍ズームとなったが、広角端で少しタル型の収差はあるものの、気になるほどではない。わずかに望遠側にズームすると改善される。
「合焦速度約0.1秒」を謳うだけあって、静止画撮影中のAF速度はかなり速くなった印象だ。連写しながらフレーミングを変更しても素早くピントが合った。コンパクトデジタルカメラとしては充分は速度になったと感じられる。
■利便性の高いUSB充電に対応
バッテリーは従来機と同じDMW-BCG10。静止画の撮影枚数は260枚と変わらない。動画撮影や連写機能を多用して静止画の撮影をするとあっという間にバッテリー切れとなる。従来は予備バッテリーの購入は必須と思っていたが、DMC-TZ30はUSB充電が基本となったので少し事情が変わってきた。
従来は充電器でバッテリーを充電する方式だったのでACコンセントがないと充電ができなかった。動物園の撮影ではいつもバッテリー切れとなり、園内の飲食店でコンセントを貸してもらい、食事を注文して充電待ちをしていた。
携帯電話、スマートフォン、タブレット端末では、USBを使用した充電は当たり前となっている。DMC-TZ30はUSB充電となったため、付属品もAC-USB変換アダプターが用意されている。USB充電に対応したため、外出中もノートパソコンやUSB充電器から充電することが可能となった。2001年に発売されたイーレッツのUSB充電ケーブルから始まったUSBを充電専用に使うという考えが、やっとデジカメに採用されたことを個人的に非常に嬉しく思っている。
筆者はスマートフォンの緊急充電用にリンケージの「Infinity2000」を使用している。今回はこれを持ち歩き、動物園を歩き回る間に充電をしながら撮影を続けた。Infinity2000はリチウムポリマー充電池を内蔵し2,000mAhの容量があるので、895mAhのDMW-BCG10を2回ほど充電できる計算だ。
標準の充電方式はAC-USB変換アダプタから充電する | 外出中はUSB充電器でも充電できる |
予備電池と違い撮影現場で充電する場合は注意が必要だ。バッテリーを使い切ってからあわてて充電しても動画を1回撮影したらすぐにバッテリー切れとなってしまう。元々バッテリーの充電時間は260分なので短時間では充電できない。枚数を多く撮る人は少しバッテリーの充電が減ったら、撮影の合間にこまめに充電した方がいいだろう。
予備電池とUSB充電器は一長一短なところはある。どちらを用意した方がいいかは、他の携帯機器との都合で考えればいいだろう。ちなみに純正の予備バッテリーよりInfinity2000の方が実売価格は安い。
■動画は1080/60pに対応
LUMIX DMC-TZシリーズの動画機能は、LUMIX DMC-TZ7で「AVCHD Lite」規格に初めて対応し、720p(1,280×720ピクセル)ながらHD動画の記録が可能となり、LUMIX DMC-TZ20で撮像素子をCCDからCMOSに変更、フルHD(1,920×1,080/60i)に対応した。そしてDMC-TZ30ではAVCHD Progressiveのフルハイビジョン(1,920×1,080/60p)の動画記録が可能となった。
動画の画質設定。写真はGPH | PSH |
GPH | FSH |
風音低減はオンがAUTOに変更された。 |
前機種DMC-TZ20はフルHDになったが、残念ながら解像感の乏しい映像しか記録できなかった。DMC-TZ30は1,920×1,080/60iでもTZ20より少し解像感がアップ。1,920×1,080/60pは60iに対し、予想以上にグッと解像感がアップした映像となった。
■高倍率コンパクトとして正常進化
新たに搭載された機能は、カメラ内でのパノラマ合成だ。画角ではなく、パンする時間で撮影する範囲が異なる仕様だ。ゆっくりパンすれば左右の画角が狭い画像となり、速くパンすれば360度を超える画角の広い画像が撮影できる。
横方向の撮影では縦の解像度は864ピクセルで固定、左右は撮影する速度によって3,000ピクセルくらいから8,000ピクセルくらいまで変化する。
筆者のパンする速度にムラがあるせいか、パノラマ撮影した画像を見ると露出にややムラが発生し縦縞が見られる。パンする速度が速すぎたり遅すぎたりすると、カメラが警告を発してくれる。
パノラマは撮影方向が選択できる。 |
DMC-TZ30にはシャッター速度優先AE、絞り優先AE、マニュアル露出による撮影が可能だ。NDフィルターではなく実際にメカニカルな絞りを使って露出を変化させる数少ないコンパクトデジタルカメラとなっている。
シャッター速度が任意に選べるのは撮影の楽しさを増やしてくれるが、絞りに関してはコンパクトデジタルカメラは画素ピッチが小さく、光の回折による小絞りボケがあるので絞り込むことが難しい。実際に絞りを変えて比較してみると、絞り込むにしたがって解像度は落ちていく。
晴れた日はシャッター速度を遅くすることは難しいが、曇りの日なら流し撮りをしたり、滝をスローシャッターで撮ることができる。
元々明るいレンズではないので、背景をボカすことは難しい。絞りではボケを調整できないので、他社の様に画像を加工して背景をボカす方法の方が実用的だと思われる。マニュアル撮影機能は残して欲しいが、そろそろ絞りはNDフィルター方式に変更して欲しいと思う。
操作系は従来機と基本的に変化はなく、使いやすいインターフェイスだ。筆者のお気に入り機能である「ズーム位置メモリー」も継承されている。
Q.MENUボタンによる設定変更は操作性がよい。 |
ズーム位置メモリーはお気に入りの機能。 | iAモードにiHDRが加わった。 |
シーンモードで逆光補正HDRを選択可。 |
前機種では画質が落ちてガッカリさせられたが、DMC-TZ30になり静止画、動画とも画質が改善されたことは嬉しいことだ。新機種としては正常進化と考えていいだろう。
ズーム倍率はもう充分だと思われる。次機種では低感度時の静止画の画質がCCDを凌ぐところまで進化すれば、静止画もOK、動画もOK、そこそこ小型で高倍率ズームを搭載、さらにGPS機能も対応、タッチパネルも搭載と、これ1台でオールマイティに使えるコンパクトデジタルカメラとして、今後もロングセラーなシリーズとなるだろう。
■実写サンプル
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
・画角
広角端 / DMC-TZ30 / 約5.1MB / 4,320×3,240 / 1/1,300秒 / F4 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.3mm | 望遠端 / DMC-TZ30 / 約5.5MB / 4,320×3,240 / 1/800秒 / F6.4 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 86mm |
・歪曲収差
広角端 / DMC-TZ30 / 約5.7MB / 4,320×3,240 / 1/100秒 / F3.3 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 4.3mm | 望遠端 / DMC-TZ30 / 約5.3MB / 4,320×3,240 / 1/40秒 / F6.4 / 0.0EV / ISO100 / WB:オート / 86mm |
・感度
・カラーエフェクト/クリエイティブコントロール
・パノラマ
ゆっくりパンした例。DMC-TZ30 / 約1.7MB / 3,760×864 / 1/500秒 / F6.3 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.3mm |
速くパンすれば360度以上写せる。DMC-TZ30 / 約2.7MB / 7,632×864 / 1/500秒 / F6.3 / -0.3EV / ISO100 / WB:オート / 4.3mm |
・作例
・動画
- 動画作例のサムネイルをクリックすると、未編集の撮影動画をダウンロードします。再生についてのお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。
約62.8MB / 1,920×1,080/60p / AVCHD |
約37.3MB / 1,920×1,080/60i / AVCHD |
約49.2MB / 1,920×1,080/60p / AVCHD |
2012/4/17 00:00