【新製品レビュー】アップルAperture 3
今回お借りした15インチのMacBook Pro。2.8GHzのCore 2 Duoに4GBメモリー、500GB HDD搭載で、アップルストア価格は22万8,800円。速いです |
アップルのApertureの最初のバージョンをレビューしたのは2006年2月。「フォトグラファーのための、初めてのオールインワン・ポストプロダクションツール」という、ちょっと小難しい謳い文句で売り出されたApertureは、機能は素晴らしかったが重くて価格も高いという、少々敷居の高いソフトウェアだった。
最新のAperture 3(試用したのはver. 3.0.2)は、これまでの印象とは打って変わって、驚くほど軽快で、素晴らしく便利なソフトに進化している。しかも、価格はAperture 2より4,000円ダウンの1万9,800円(いずれもアップルストアの税込み価格)。さらに身近な存在になった。
■顔認識と位置情報に対応。非対応RAW画像の読み込みも
Aperture 3は、とにかく色んなところが新しい。まず、インターフェイス。これがiPhotoによく似ている。というか、そっくりである。そっくりなだけじゃなくて、iPhotoのライブラリをそのまま読み込めたりする。iPhotoからのステップアップも楽ちんになっているのだ。
目玉機能のひとつが「人々」だ。英語版では「Faces」。つまり、顔認識機能である。ライブラリの中の画像から人物の顔を自動で探し出してきて、人物単位で分類、整理できるもの。画面の上側にはすでに名前で分類済みの人々が並んでいて、下側には「未設定」な人々が並んでいる。で、「未設定」のをクリックして名前を付けると、上に並べてくれる。
面白いのは、写真を選んで名前を付けると、同じ人物と思われる画像をピックアップしてきて、「これって××さんじゃない?」って教えてくれるところ。あとから追加された写真についても、同じように教えてくれるから、合ってればカチッとやるだけで分類完了である。すごく簡単。名前がわからなければ、「未設定」のままにしておいてもいいが、「×月○日に会った人」とかにしておいて、あとでわかってからなおせばいい。
次が「撮影地」。英語版では「Places」。見ればわかるとおり、どこで撮ったかがひと目でわかる。メタデータの中に位置情報が記録されていればそのまま自動でやってくれるし、iPhoneが持っている位置情報のデータを利用することで、GPS機能のないカメラの写真も半自動的に位置情報を割り当ててくれる。
GPSロガーもiPhoneも持ってない人は、地図上に写真をドラッグ&ドロップするという手がある。おなじみのGoogleマップを見ながら、「あ、このカットはここで撮った」とかいうふうに、ピンを立てていけばいい。このピンはあとからでも自由に動かせるので、修正するのも簡単だ。
サンプルライブラリを開いた状態のAperture 3の画面。プロジェクトのサムネイルの上でマウスを動かすと、中身がざっと見られるようになってて、これがけっこう便利 | 「人々」の画面。「未設定」の人に名前を付けると、「この人もElizabethでしょ?」と聞いてくる。あとから追加した写真の整理が楽だ |
「撮影地」の画面。地図上に写真を撮った場所がピンで表示される。地図の左下を見ればわかるとおり、Googleマップである | 地図をアップにしてピンをクリックすると、場所の名前と何枚の写真があるかを教えてくれる。これは5か所のを合成した画像 |
手動で「撮影地」の設定をやってみる。最初は世界地図。ダブルクリックするとズームインしていくのはGoogleマップと同じ | CP+2010の会場となったパシフィコ横浜 |
表示は地形図、道路地図、航空写真から選べる。で、写真を地図上にドロップすれば位置情報の付加はOK。簡単だ | ズームバックすると、「このエリアで何枚」みたいな表示になる。地名などの情報は位置情報から逆ジオコーディングされる |
それと、複数のライブラリを自由に切り替えて使えるようになったし(起動し直したりする必要もない)、フルスクリーン表示の状態のまま、別のプロジェクトやアルバムに移動できるようにもなった。画質の調整とかはできないが、フルHD動画もあつかえる。さらに、FlickrやFacebookとかに写真を公開するのも簡単だ。従来どおり、キーワードなどで整理したり、検索したりするのはもちろん、設定した条件に合致する写真だけをまとめて表示してくれる「スマートアルバム」機能も備えている。
個人的にすごくうれしかったのは、未対応のカメラのRAW画像を、とりあえずだけれど読み込んでくれるところ。今までは対応していないRAW画像はシカトされてしまっていたのが、読めないなりにライブラリに登録できるようになった。当然、RAW画像をいじることはできないが、キーワードを付けたりなどの管理作業だけでもできれば、あとの作業を減らすことができる。しかも、あとでRAW対応になったときに読み込みなおしたり、キーワードを付けなおしたりする必要はない。
アドビに比べるとアップルはアップデートが遅めで(OSとのからみがあって、新機種への対応が機敏ではない)、新しいカメラを買っても対応待ち期間が長くなりがちだ。新しいもの好きにはとても不便だったのだが、それが少しなりとも軽減されたのだからうれしくないわけがない。おかげで、写真(と動画)の管理能力がぐっと高まっているのである。
うれしいことに、複数のライブラリを切り替えて使えるようになった。スマートアルバムをライブラリに書き出したり、戻したりもできる | 画像の読み込みの画面。HDD上にある2,708項目のRAW+JPEGをファイルの移動なしで読み込んだら、たったの38秒で終了。あ然 |
ただし、読み込み後にプレビューを作成するのにはそれなりに時間はかかる。この時点ではまだ「処理中」なので、解像度が低い | こちらはサンディスクのFireWire 800接続のカードリーダーからExtreme IV CFカードの画像を読み込んでいるところ。318項目(5.61GB)を3分40秒で完了 |
すごいことに、読み込みが完了していないうちからピクセル等倍表示ができてしまう。しかも、ストレスなしで動作する |
これも新機能。フルスクリーン状態のままほかのアルバムやプロジェクトに移動できるようになった | レンズ交換式デジタルカメラの動画もあつかえる。調整機能とかはないけれど、静止画と動画を混ぜてiTunesの曲を使ってスライドショーとかもできる |
アップルのMobileMeだけでなく、FacebookやFlickrといった写真共有サイトで公開できる。これも操作は簡単 |
メタデータのパネルには、測距点の表示機能まであったりする。純正ソフトでもないのに。これはキヤノンEOS Kiss X4の画像 | こちらはニコンD700。全測距点+選択した測距点(赤色)で表示される。Dレンズだと撮影距離(焦点距離になってるけど)もわかっちゃう |
いまだにRAW対応してもらえてないオリンパスE-620は選択した測距点のみの表示。E-P2とE-P1は対応してるのにね |
非対応カメラのRAW画像はこんな表示。同時記録のJPEGがあれば、そちらをマスターに設定すれば表示してくれる。読み込んでもくれないよりずっといい | 初期設定ではJPEGをマスターとして表示する。もちろん、読み込み時にどちらかをマスターにする、別々に読み込むとかが選べる |
■画像編集ソフト並の編集機能
画像編集機能もあちこち強化されている。目新しいところでは調整の「プリセット」が加わった。ベーシックな調整のレシピをワンタッチで選べるようにしたもので、露出やホワイトバランスをいじる項目や、「クロス処理」、「トイカメラ」といったアート系の項目もいろいろある。プリセットを適用したのをベースに、さらに調整を加えることもできるし、自分でつくったレシピをプリセットとして保存することもできる。
「ブラシ」機能もすごくなっている。画面の一部分だけ調整したいときに使うのだが、「補正をブラシで塗る」とか「補正をブラシで消す」といった作業ができる。例えば、画面の一部分だけ彩度を変えたり、ビネットで画面の四隅を焼き込んだのを一部分だけ効果を削ったりできるのである。
今までならPhotoshopに持っていってやっていたことが、Apertureの中でできてしまう。「エッジを検出」オプションを使えばマスクを切ったりする必要もない。もちろん、非破壊での処理なので、画質の劣化も最小限に食い止められる。
また、全般的にレスポンスが向上しているので、調整作業がとにかく快適になっている。以前はかなりもたつき感が気になった「傾き補正」などもさくさく動いてくれる。まあ、お借りした15インチのMacBook Pro(2.8GHzのCore 2 Duoプロセッサに4GBメモリー搭載)が速いこともあるが、ほとんどストレスなしで作業ができたのだから感動ものだ。
ニュートラルベースで撮ったJPEGなので、RAWに切り替えるとかなり色が変わる。で、新機能の「プリセット」はこんなふうにプレビューできる | ブラシ機能もいろいろと強化されている。ブラシを使って、部分的に調整を加えたり、逆に調整を減らしたりもできる |
「補正をブラシで塗る」を使うと、画面の一部分だけ調整を加えることができる。左はブラシで塗った範囲を「カラーオーバーレイ」表示しているところ。赤くなっている部分だけ調整の効果が加えられる |
花の部分だけ彩度を上げてみた。「エッジを検出」オプションを使うと適当に塗っただけでもはみ出さないので効率よくやれる |
D700で撮ったオリジナルのJPEG画像。ニュートラルベース(コントラストだけちょい上げ)で撮っているので、見た目にはかなり近い(はず) | RAW画像から無調整で出力した画像。空の明るさや彩度などがずいぶん違う | ブラシで部分的に調整した画像。数字的にはやりすぎだけど、もとの色が地味なのでちょっとハデかなぁといったところ |
こちらはEOS Kiss X4で撮った写真。RAW対応はまだなのでJPEG画像がマスターになっている | 「インスペクタ」のHUD(ヘッズアップディスプレイ)は、スライダーを操作するときにシフトキーを押すと、スライダーだけ表示にできる |
画面全体の彩度を下げておいて、部分的に「補正をブラシで消す」で効果を削っていく |
効果を削りたい部分をブラシでごりごりやる。大きなブラシサイズでおおまかにやって、細かい部分はサイズを小さくして作業する |
「カラーオーバーレイ」表示にすると、塗り忘れとか削りすぎがひと目でわかるので便利 | 「新しい補正調整を追加」してブルーのボートが鮮やかになるよう彩度を上げている |
ブルーのボート以外の部分の彩度を調整し直す。調整内容がどんぶり勘定的に集約される非破壊補正なので、画質劣化を気にしなくていい |
EOS Kiss X4で撮ったオリジナルのJPEG画像 | Aperture 3で無調整のまま出力した画像 | 彩度をいじって仕上げた画像 |
これはE-620で撮ったカット。E-620のRAWには未対応 | 「傾き補正ツール」を使っているところ。グリッド表示を見ながら水平、垂直を合わせていく。マウスの動きにぴったりとカーソルがついてきてくれる |
マウスのボタンから指を離せばグリッドは消える。細かく調整したい場合は「インスペクタ」のHUD上で数値入力もできる |
E-620で撮ったオリジナルのJPEG画像 | Aperture 3で無調整のまま出力したJPEG画像 | 傾き補正後に出力した画像 |
公園の花壇の花には、砂ボコリや糸くずとかが付いていることがある。これをレタッチしてみる | マウスでなぞったところは白く反転。で、指を離せばもう直ってる。「自動的にソースを選択」、「エッジを検出」オプション付きの「修復ブラシ」が楽だ |
D700で撮ったオリジナルのJPEG画像。かなりゴミいっぱい。これもニュートラルベースのピクチャーコントロールで撮っている | Aperture 3でRAWから無調整で出力した画像。調整してないだけに、彩度が高すぎてピンクの部分の繊細さがいまいち | レタッチしながら画面キャプチャーしまくったのを合成した画像。全部で86か所。まるで虫に食われたみたい |
で、こちらができあがり。これでもまだまだな感じだが、元画像と比べるとびっくりしてしまう |
■より便利に、より使いやすく進化
ほかにも機能は盛りだくさんなので(アップルによると新機能の数は200を超えるらしい)、とてもではないがここで説明しきれるはずもない。興味のある人は30日間使えるフリートライアル版がダウンロードできるので、試してみるのがいいと思う。
とにかく強力で柔軟な管理機能に加えて、さらに高度になった編集機能。従来からのいいところはそのまま、より便利に、より使いやすく、そしてより快適に進化しているのがAperture 3のすごいところだ。iPhoto以上の機能を、iPhoto並みにフレンドリーなのだから、おすすめ度はものすごく高い。今までも買って損はしないソフトだったが、今度のはぜひ使ってみて欲しいソフトに仕上がっていると思う。
ただし、モニターは大きいほうが間違いなくいい。お借りした15インチMacBook Pro(1440×900ピクセル表示である)では、閲覧や管理などに使う分には不満は感じないが、細かい調整になると狭くて物足りない。24インチのLED Cinema Display(1,920×1,200ピクセル表示)くらいあったほうが幸せだろう。
2010/3/29 00:00