新製品レビュー
Google Pixel 8 Pro
トップクラスの撮影機能 新しい「プロ設定」の使い勝手は?
2023年11月9日 07:00
Google純正のスマートフォン「Pixel」シリーズの最新モデル「Pixel 8」が登場した。従来通り、「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」の2モデルがあり、カメラ機能が強化されているのが「Pixel 8 Pro」だ。
今回は「Pixel 8 Pro」の試用機をもとに、カメラ機能を中心にレビューをお届けする。
ハイエンドの大型ディスプレイ搭載スマホ
まずは「Pixel 8 Pro」の基本スペックを紹介する。
ディスプレイは6.7型2,992×1,344ピクセルのSuper Actuaディスプレイを搭載。画面サイズは前モデル「Pixel 7 Pro」と同じだが、解像度などが微妙に異なっている。これは従来は画面の端がカーブしているエッジディスプレイであり、新たにフラットなディスプレイに変わったからだろう。フラットになったことでカメラを構えた時に指が画面にかかることが減って、操作感が向上している。
外形寸法は162.6×76.5×8.8mm・213gとなっており、「Pixel 7 Pro」とほぼ同等のサイズと考えていいだろう。
CPUがGoogle Tensor G2からG3へとバージョンアップ。メモリは12GB、ストレージは128/256/512GBから選択可能。
繰り返しになるが、ポイントは画面がフラットになったこととTensor G3へのバージョンアップ。PixelのカメラはAIによる処理がかなりのウェートを占めているため、全体的なカメラのパフォーマンス向上が想定できそうだ。
カメラの基本スペックは、メインカメラが有効画素数5,000万画素のOcta PD広角カメラ。センサーは1/1.31型、ピクセルピッチは1.2μmで、4つの画素を1画素として扱うピクセルビニングによって1,250万画素で記録される。レンズの焦点距離は24mm相当(35mm判換算、以下同)、F値はF1.68。
超広角カメラは有効画素数4,800万画素。ピクセルビニングを使用した上で画素補間を行い、1,250万画素で記録される。ピクセルピッチは0.8μm。レンズは焦点距離12mm相当、F1.95 。望遠カメラも同じく4,800万画素で記録画素数は1,250万画素。ピクセルピッチは0.7μm。レンズの焦点距離は同110mm相当、F2.8。
「Pixel 7 Pro」と比べると、超広角カメラがピクセルビニングに対応したほか、全体的にレンズのF値が明るくなっている。
新たに追加された機能としては、シャッタースピードやISO感度などを細かく設定できる「プロ設定」が追加され、一部UIが変更された。
また、撮影後の編集機能として新たに「編集マジック」が登場。クラウドでの高度なAI処理が可能になったほか、集合写真での連写からベストな人の顔を合成する「ベストテイク」といった機能が盛り込まれている。
強力な超解像ズームや天体写真、夜景モードなどの撮影機能などは従来通り搭載されている。
より細かな設定が可能になったカメラ機能
実際にカメラを起動すると、Pixel 7 Proの頃とは一部UIが変更。Pixel 7 ProにもアップデートがあってUIは変更されている。カメラのUIが途中で変わるというのは、スマホの良い面でもあり悪い面でもあるだろう。
変更点としては、画面下部に静止画と動画の切替ボタンが用意され、どの撮影モードでも静止画と動画が素早く切り替えられるようになった。それに伴って、左右にフリックして切り替える撮影モードが整理された。
今まで画面の上部にあった設定ボタンが下部に移動。ボタンのタッチか、画面を下から上にスワイプすることで設定が表示されるようになった。
また「Pixel 7 Pro」との大きな違いとして、画面タッチでAF・AEを合わせる際、デュアル露出補正とホワイトバランスが表示されなくなっている。
「Pixel 7 Pro」では、タッチAFで、明部と暗部の露出をそれぞれ設定できるデュアル露出補正と、ホワイトバランスを設定するバーが表示されていた。
「Pixel 8 Pro」ではこれらが廃止され、「プロ設定」モードに統合された。右下にあるアイコンを押すとプロモードになって明るさ/シャドウ/ホワイトバランス/フォーカス/シャッタースピード/ISO感度の調整が可能になる。
デュアル露出補正は、明るさとシャドウのバーを動かすことで設定できる。ホワイトバランスも同様で、撮影としては従来と同じことはできる。今までのように、項目を切り替えずにデュアル露出とホワイトバランスがまとめて操作できる方が便利だったと思うが、Googleはそう判断しなかったようだ。
前述の設定ボタンの設定項目も整理され、「全般」と「プロ」のタブで分類されるようになった。「プロ」には解像度12MPと50MPの切り替え、JPEG/RAWの切り替え、レンズの切り替えを自動化するかの設定項目が用意された。
「Pixel 7 Pro」にはピクセルビニングを解除してフル画素で撮影する機能はないが、「Pixel 8 Pro」では可能。これにより、5,000万画素での撮影が可能になった。
JPEG/RAWの切り替えは「Pixel 7 Pro」でも存在していたが、レンズ切り替えの自動化をオン/オフできる設定は目新しい。
Pixelシリーズのカメラでは、近接撮影時と望遠撮影時、ピントが合わないと判断するとレンズを自動で切り替えていた。例えば近接撮影時は標準カメラからより接写できる超広角カメラに切り替わり、さらに被写体に近づけるようになる。望遠カメラに切り替えた際は、近くの被写体を狙ってピントが合わないとカメラが判断すると、自動的に標準カメラに切り替わり、同じ画角までデジタルズームになる。
レンズ切り替えの自動化をオフにするとピントが合わなくなる可能性が高まるので、「プロ」設定にあるとおり、基本的には自分で判断できる人が使うもの。自動で問題ないだろうが、レンズを含めてコントロールできるようになった点は大きな違いだ。
全体として、より細かい操作が可能になって設定項目も増えた一方で、オートモードがより簡素化されている。細かな設定はプロモードでまかなえるようになった。「Pixel 7 Pro」のオートモードは明暗の調整が簡単にできて重宝していたので、少し残念ではある。
オートホワイトバランス
「Pixel 7 Pro」との画質面での極端な差はないようだが、なぜかオートホワイトバランスの傾向が暖色寄りになっているようだ。高周波成分の処理は向上しているようで、細かい被写体が多い写真でよりクリアな描写になっている。
比べると「Pixcel 8 Pro」は室内で暖色に寄る傾向があるものの、色味は派手になりすぎず適度に自然だ。
こちらも「Pixel 8 Pro」は暖色寄りの傾向になった。
超広角カメラ
メインカメラの0.5倍相当となる超広角カメラ、5倍相当となる望遠カメラもいずれも十分な画質。細部までよく表現し、破綻のない描写をする。
超広角カメラは実焦点距離2.23mm・12mm相当なので、従来の1.95mm・13mm相当とは異なり、F値も変わっていることから、センサーサイズが大型化されているようだ。
「Pixel 7 Pro」に比べて、中心部の画質は大きく変わらないが、周辺が高画質化しているようだ。
望遠カメラ
望遠カメラも実焦点距離18mmで110mm相当となり、前モデルの19mm・117mm相当と値が異なる。ただし焦点距離は異なるが、こちらは計算上、同じセンサーサイズと見られる。
デジタルズームに関しては30倍ズームまでの拡大が可能。他社製品に比べて30倍ズームながら画質は良い(あくまで他社スマートフォンと比較して)。こちらもAI処理の向上のせいか、「Pixel 7 Pro」よりも再現度は向上している。
50MPモード
5,000万画素で撮影する50MPモードは、メインカメラだと想像よりも良く描写されている。超広角、望遠も5,000万画素(8,166×6,144)での撮影に対応する。どちらも有効画素数は4,800万画素なので画素補間をしているようだ。
超広角カメラの50MPモード。100%表示すると無理があるが、スマートフォンの画面ぐらいのサイズだと立体感と精細感を感じられるので、割り切って使うと良さそう。
望遠カメラでも傾向は同様。100%表示にすると途端に粗が見える。
メインカメラでも同様。100%まで拡大すると12MPモードの方が高画質だが、50~60%ぐらいまでの拡大率だと、立体感と精細感が感じられる。離れてみると精緻に見えるというのは、ちょっと絵画的な手法にも感じる。
同じ場所から12MPモードで撮影したもの。
撮影時は、夜景モードと同じく画面中央に水準器のようなエフェクトが表示される。これは手ブレにあわせて中央の黒点が円の中を動くというもので、高解像度で目立つ微細なブレを抑える処理をしているのだろうか。
保存時にも時間がかかるのでソフトウェア処理もしているようだ。さすがに物理的にレンズの描写性能を超えている部分は描写し切れていないが、それでもダイナミックレンジは犠牲になっていないようで、スマートフォンの画面ぐらいだと解像感が増して見える。
ポートレートモード
ポートレートモードにおける細部の処理は改善されているようで、背景ボケも改善されている。
ポートレートモードは一般的にデジタルズームをした状態になり、「Pixel 7 Pro」では「1倍」と「2倍」という2つの倍率になっているが、実際は通常の撮影モードにおける1倍(24mm相当)よりも1.5倍程度デジタルズームがされている。つまり36mm相当だ。
「Pixel 8 Pro」も同様にデジタルズームになるが、倍率の表記が「1.5倍」と「2倍」になっており、「Pixel 7 Pro」の「1倍」と「Pixel 8 Pro」の「1.5倍」が同じ画角だ。
これが何を意味するかというと、「Pixel 7 Pro」は「ポートレートモードの1倍(36mm相当)」の2倍(72mm相当)になるが、「Pixel 8 Pro」は「標準モードの1倍(24mm相当)」に対する1.5倍(36mm相当)と2倍(48mm相当)になり、2倍時の画角が大きく異なっている。
個人的には、いわゆる35mmと50mmに近い画角になる「Pixel 8 Pro」の方が使いやすいと感じた。
ストロー周辺のボケはどちらも問題ない印象だ。
夜景モード
強力な夜景モード、長時間露光、アクションパンといった機能も従来通り搭載。プロモードを搭載したことでシャッタースピードやISO感度も設定しやすくなって、細かな設定をしやすくなったので、ちょっと凝った撮影もしやすくなった。
Pixel 7 Proの夜景モード。屋内から屋外までバランスよく描写している。
Pixel 8 Proはやはり暖色寄り。こちらもバランスよく描写されている。
手持ちで高品質な夜景撮影が可能だ。
手持ちで長時間露光撮影も可能。
人も音声も消せる強力な編集機能
撮影後のAI処理としては、静止画では「編集マジック」が追加された。これはGoogleフォトの機能で、Googleアカウントに撮影画像をアップロードしたうえで編集アイコンをクリックすることで、「オブジェクトの削除」などが可能になる。
今まで、画面内の人物を認識して消去する機能はあったが、生成AIで処理するため、複数の候補から結果を選択できるようになっているし、気に入らなければ再生成も可能。ただ、単に画面内の人を消すだけなら従来の消しゴムマジックでも良い。
ポイントは、写真を解析することで、編集マジックで処理できる機能が変わること。空の置き換えやゴールデンアワーの設定、水辺の写真であれば水の色を変えたり、昼の写真を夜景に変えたりするなど、様々な効果が適用できる。
夜景っぽい雰囲気に。拡大すると写真としては破綻している。
面白いことは面白いのだが、いろいろと難しい機能ではある。写真とは異なる楽しみ方と考えた方が良さそうだ。
動画用のAI編集機能
従来の「消しゴムマジック」や「ボケ補正」といったローカル処理の機能も搭載。
動画向けのAI編集機能としては「音声消しゴムマジック」が利用できる。これは短時間(最長2分)の動画内にある人の声、音楽、周囲の人の声、自然音、ノイズ、風切り音を検出して指定の音を消すことができる、というもの。
元の動画。風切り音が目立つ。
風切り音を消して、さらに動画編集のエフェクトを実行した動画。風の音がきれいに消えている。
これは結構強力で、特に風切り音やノイズの削除が強い。屋外での撮影には必須の機能に思われるが、ローカル処理のためか、長時間の動画では利用できず、2分間に収める必要がある。細かく撮影してあとでつなぎ合わせるような撮影をしている人に向いている機能だろう。
まとめ
Pixel 8 ProはAndroidスマートフォンではトップクラスの画質や撮影機能を誇る。プロ設定が追加され、細かい撮影設定を変更できるようになったものの、設定する場所が複数にわたって行ったり来たりが必要になって、使い勝手はあまり良くない。このあたりが整理されると、もう少し使いやすくなりそう。
今回は紹介しないが、連続して撮影の中から人物の顔だけを抽出して、いい表情の写真を選んで置き換える「ベストテイク」機能も搭載している。複数の集合写真だと、誰か一人が目を閉じてしまったり表情が良くなかったりするという場合がある。複数枚の撮影をしておけば、それぞれの人物のベストの表情を組み合わせて集合写真を作成できる、というのがこの機能。
失敗写真を減らす工夫と言えなくもないが、写真としては少し疑問を感じる部分ではある。AIで邪魔なものを消してしまう機能もなかなか複雑な気持ちになるが、記念写真やスナップ写真としては失敗をなかったことにできる機能というのは、今までになかった新しい世界観ではある。
トップクラスのスマホカメラ機能だけでなく、新しい写真のあり方としても注目の製品だろう。
なお撮影機能としては「動画ブースト」機能が今後搭載予定で、ビデオ夜景モードという夜景の動画撮影時に明るく撮影できる機能が搭載される予定(Pixel 8 Proのみ)だが、現時点では提供されていない。