新製品レビュー

動画制作にフォーカスしたミラーレスカメラ「LUMIX S5IIX」の強化ポイントとは

ベースモデル「LUMIX S5II」との違いを解説

「LUMIX S5IIX」

パナソニックがミラーレスカメラの新モデル「LUMIX S5IIX」を発売した。ここでは、ベースモデルとなった「LUMIX S5II」との違いを中心にレポートしたい。

ベースモデルの「LUMIX S5II」は2月に発売された製品で、35mm判相当の約2,420万画素センサーを搭載している。ボディの実勢価格(以下同、税込)は24万7,500円前後。一方の「LUMIX S5IIX」は「LUMIX S5II」に高度な動画機能を追加した派生モデルとなっている。こちらはボディのみで27万4,230円前後だ。

基本的なスペックはベースモデルと同じ。「LUMIX S5IIX」のみの特徴は、外付けSSDへの記録、ALL-Intra記録、ProRes記録、ライブ配信機能、オールブラックのデザインということになる。

これらを順に解説していこう。

外付けSSDへの記録

USB接続で2TBまでの外付けSSDに写真や動画を記録できる。インターフェースはUSB 3.2 Gen 2に対応。動画のデータは大容量になるため、長時間の記録や容量当たりのコストがSDカードよりも安価といった理由で、プロの世界では外付けSSDでの記録はよく行われる。

記録できる動画の最大ビットレートは1,939MbpsのProRes 422 HQ(5.8K)となっている。これはおよそ242MB/秒なので、2TBのSSDに140分前後(理論上)の記録ができるということだ。なお、ビットレートが一定以上になる設定時はSSDのみ記録可能となるので、高画質で収録したい場合は外付けSSDを検討する必要がある。

外付けSSD(USB SSD)への記録
外付けSSDの使用を設定できる

注意点としては、外付けSSDを接続するとSDカードへの記録はできなくなるということ。またSDカードの写真や動画の再生も不可となる。

ALL-Intraでの記録

ベースモデルの「LUMIX S5II」は、H.264またはH.265でフレーム間圧縮を行うLongGOP形式での記録のみとなっている。「LUMIX S5IIX」はそれに加えて、H.264でのALL-Intra記録に対応している。

ALL-Intraでの記録
動画画質設定の一部項目に「ALL-I」の表示がある

LongGOPは圧縮率が高くデータ量を少なくできるのがメリットだが、編集するマシンへの負荷は比較的高くなる。対して、ALL-Intraはフレーム間圧縮を行わず全てのフレームが独立していてマシンへの負荷が低い。編集耐性や画像合成においても画質面で優位性があるため、ALL-Intra形式は編集素材として向いていると言われる。

ただ、容量はLongGOPよりもかなり大きくなるので、高速で大容量のストレージ環境が必要になる。

ProResでの記録

ProResはAppleが開発した業務用の動画コーデックでALL-Intra形式を採用している。画質に応じて数種類あるが、「LUMIX S5IIX」はProRes 422 HQを採用している。

ProResでの記録

ProResは映像業界では撮影・編集・書き出し・データの受け渡しなど、様々な場面で標準的に使われているコーデックのひとつとなっている。Apple製品はもちろんだが、業務用機器やプロ用編集ソフトも対応しているものが多い。

ProRes 422 HQとProRes 422はカラーサンプリングが4:2:2、色深度が10bitなので、カラーグレーディングや合成なども高い画質を保って対応できる。HQの方がビットレートが高いより高画質なタイプだ。それぞれ、6種類あるProResシリーズの上から3番目と4番目に当たる(ProRes RAWを除く)。ProRes 422 HQは、4:2:2対応のProResでは最高画質のフォーマットとなっている。

Windowsにおいては、例えばBlackmagic Designの動画編集ソフト「DaVinci Resolve」を使うことで、取り込みと編集は可能となる(macOSと異なりProResでの書き出しは不可)。

Windows版のDaVinci ResolveにProRes 422 HQファイルを読み込んだところ

ライブ配信機能

本体のみで無線のライブ配信に対応しており、YouTube、Facebookのほか、RTMP/RTMPS規格による配信が可能となる。

加えて、スマートデバイスとのUSBテザリングによりモバイルデータ通信経由でライブ配信ができる。またPCに有線LAN接続してライブ配信を行える。この場合は市販のUSBイーサネットアダプターを使う。

スマートデバイスにインストールした専用アプリ「LUMIX Sync」から配信の設定をカメラに転送できる。

ライブ配信機能
LUMIX Syncによる配信の設定画面

加えてライブ配信設定ソフト「LUMIX Network Setting Software」を使うと、配信設定をPCからSDカードに書き出すことができるため、現場でSDカードからカメラへ設定を読み込ませればスマホからの設定無しにそのまま配信ができる。

なおベースモデルと本機はともに、Webカメラソフトウェア「LUMIX Webcam Software(Beta)」を使うとカメラをPCのWebカムとして使うことができる。

オールブラックのデザイン

ベースモデルに対してモノトーンのデザインを採用し、精悍な印象のルックスになった。LUMIXや機種名のロゴが黒になったほか、モードダイヤルの赤いラインも無くなっている。そのほか、ダイヤルやボタンの印字も白からグレーに変更された。

ロゴ部分が黒くなった
ダイヤルやボタンの印字がグレーになっている
背面も同様だ

動画RAWデータ出力

これはベースモデルにもあるため本機のみの機能ではないが、動画RAWデータの出力がデフォルトで利用可能となっている。一方、ベースモデルでは有償ファームアップ(DMW-SFU2:2万2,000円)での対応という点が異なる。

動画RAWデータ出力
メニューにON/OFFの切り替えがある

この機能をONにすることで、ATOMOSとBlackmagic DesignのレコーダーにHDMI経由でRAW動画が記録可能だ。フォーマットは前者がProRes RAW、後者がBlackmagic Design RAWとなる。

まとめ

両機種の価格差は2万6,730円。動画RAWデータ出力の有償ファームアップ分が含まれると考えると、5,000円弱の違いとなる。ベースモデルでも動画のLog(V-Log)撮影などは可能なので、それなりのクォリティで作れるが、本格的なカラーグレーディングやモーショングラフィックを駆使した動画作品まで考えるなら、「LUMIX S5IIX」にするのは悪くない選択だと思う。

1981年生まれ。2006年からインプレスのニュースサイト「デジカメ Watch」の編集者として、カメラ・写真業界の取材や機材レビューの執筆などを行う。2018年からフリー。