新製品レビュー
LEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.
超広角から標準域までをF1.7で 独自スペックの意欲作
2019年8月20日 07:00
昨年のフォトキナで開発が発表され、CP+2019ではモックアップが展示されていたモンスターレンズが8月22日にいよいよ発売される。本製品は10-25mmの焦点距離ながらズーム全域で開放F値F1.7を実現した大口径標準ズームレンズである。
※編集部注:今回レビュー用に試用したレンズはベータ機です。製品版と異なる可能性があることをご了承くださいますようお願いいたします。
レンズの位置づけ
パナソニックでは、これまでLEICA DGシリーズのマイクロフォーサーズ用ズームレンズとして8-18mmの超広角ズーム「LEICA DG VARIO-ELMARIT 8-18mm / F2.8-4.0 ASPH.」、12-60mmの標準ズーム「LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.」、50-200mmの望遠ズーム「LEICA DG VARIO-ELMARIT 50-200mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.」といった3本のVARIO-ELMARITレンズと、超望遠ズームとなる焦点距離100-400mmの「LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm / F4.0-6.3 ASPH. / POWER O.I.S.」を発売済みだが、いずれのレンズもF2.8-F4またはF4-6.3と、F値が可変するタイプだった。
そして今回5本目となるLEICA DGシリーズのズームレンズとしてVARIO-SUMMILUX銘で登場した本レンズは、35mm判に換算して超広角の焦点距離20mmから標準とされる50mm相当までの単焦点レンズ5本分の焦点距離をカバーしていながら、すべての焦点距離でF1.7通しの明るい開放絞りとなっていることが最大の特徴である。このF値の採用は、まさにエポックメイキングといえるもので、新しいコンセプトのズームレンズだ。
デザインと操作性
本レンズのレンズ構成は、非球面レンズ3枚、EDレンズ4枚、UHRレンズ1枚を含む合計12群17枚だ。
フィルター径は77mmで質量690gとなっているため、スペックだけを見ると重量級のイメージだが、実際にカメラに装着してみるとホールディング性やバランスも良くて重さは感じられない。LUMIX G9 PROやLUMIX GH5との相性は抜群だ。
AF性能は極めて優秀でインナーフォーカス方式の迅速なスピードで静粛かつ正確にアジャストする。
パナソニックのマイクロフォーサーズ用レンズでは初となる「フォーカスクラッチ機構」を採用したことで、AF撮影中でもリングをスライドさせることで、即座にマニュアルフォーカスに切り替えられる。このため、ファインダー内の被写体から目を離すことなくマニュアルフォーカスに移行し、そのままピントの微調整が可能となっている。
また、レンズ筐体前部には絞りリングを備えており、1/3段で絞りの目盛が表示されている。このリングはクリックレスの仕様となっており、ユーザーは任意の絞り値を無段階で選ぶことができる。
ズーミングによるレンズ鏡胴の繰り出し量は最大でも10数mmと、サイズ変化も極めて少ないため、操作時のバランスが変化しないところもポイントだ。このため、ワイド端から望遠端まで違和感なく使用出来る。またズームリングは適度なトルク量で不意に動いてしまうこともない。
ロック機構を設けた付属の専用レンズフードを装着した状態。
作例
今年の長い梅雨の中で一瞬の晴れ間が見えた鎌倉の由比ヶ浜ビーチ。焦点距離10mmのワイド端で海と空を大きく取り込んで撮影した。フレアの発生も見られず、耐逆光性能の高さが実感できる。
朱色ベースに金色や蒼色が映える神田明神の随神門。ワイド端の10mmで撮影しても気になるほどのディストーションは感じられない。カラフルな被写体の発色再現性や色のりも良い。
引きがない場面でも10mm側だと35mm判換算で約20mmとなるため、超広角の威力が発揮される。
広角18mmの焦点距離で撮影した。35mm判に換算すると約36mmとなるが、開放F値F1.7でサザエの一部にフォーカスしたところ、背景はもちろん貝殻の周辺部さえも見事なボケ味で描きだしてくれた。
日没が近づき微かに色が変化する時間帯。日本の男子中高校生が着るいわゆる“学ラン“をコスプレで着ている外国人の若者が海を見つめている姿が寺山修司の映画のシーンのようで印象的だった。
キラキラと輝く夏の海、堤防の上で戯れているカップルらしき2羽の鳩を逆光線で撮影。高コントラストの厳しい条件下だが暗部のディティールもよく再現されている。
標準域の25mmで絞り込んで夕暮れの空の微妙な色模様を表現してみる。
本レンズの最短撮影距離は28cm。これを望遠側の25mm(35mm判換算で約50mm相当)で使用するとかなりの拡大倍率となり、準マクロ的な近接撮影が可能となる。
F1.7開放絞りで近接から撮影。9枚羽根の円形虹彩絞りらしく美しい玉ボケを描いてくれる。大口径レンズならではのやわらかい描写が発揮される。
神社の境内で商売繁盛を祈ってお狐さんに合焦。明るい開放F値なのでワイドでかなり寄っての撮影でも前ボケや背景のボケも自然体で美しい。
ややワイドの18mmで近接距離から灯籠の中のカラフルな紙垂にフォーカスして、向こうを通る人物をボカしながら表現してみた。明暗差が強い条件でも色再現性やボケ味も良い。
重厚な質感描写を求め、夏空らしい雲が浮かび上がった都会のビル風景をF11まで絞り込んだパンフォーカスで超広角レンズの特徴であるダイナミックな表現を試みた。
少し絞っただけでも解像度が増してディティール描写性能がグッと上がる。町工場の壁に並べられた工具を外光が美しく照らし出していたが手作りらしく微妙に曲がっていたりするのがかわいい(笑)。
F1.7を作品にいかす
夜の路地裏で見つけた無人野菜販売所を手持ちでスナップ。暗い光線下のもとでこそ明るい開放値の威力が発揮出来る。
広角の焦点距離でもF1.7の開放F値ではフォーカスした奥の人物以外はなめらかにボケ味を発揮して、奥行きを充分に感じさせてくれる描写だ。
冒頭の海カットで後ろ姿で登場してくれた俳優の山中アラタさんに車窓を眺める姿を演じてもらった。揺れが激しい条件だが素早いAFが開放F1.7の浅い被写界深度でも瞳に的確に合焦する。
まとめ
一見するとやや大ぶりにも見える本レンズだが、単焦点レンズ5本分の焦点距離をカバーする開放F値F1.7の大口径ズームレンズでありながら、重量を690gと比較的抑えられているのはマイクロフォーサーズの利点である小型軽量を追求した結果であろう。LUMIX G9 PROに装着しての撮影ではホールディング性や重量バランスにも優れていて、快適な撮影環境であった。
またズームリングの回転も適度な重さがありつつも滑らかな動きで、クリックレスの絞りリング仕様とあいまって動画撮影用途にも向いていると感じた。ほかにもパナソニックのマイクロフォーサーズレンズとしては初となるフォーカスクラッチ機構を搭載していることで、フォーカス時のオートとマニュアルの切り替えが素早く行えるなど、機能的にも“LEICA”銘らしい高級機にふさわしい造りでLUMIXブランドの今後の意気込みを感じさせるレンズだ。
撮影協力/モデル:山中アラタ(D-dash&Company)