新製品レビュー
SIGMA sd Quattro H
APS-H約5,100万画素相当の画をチェック ボケ表現もしやすく
2017年2月8日 07:00
シグマからAPS-H相当サイズのイメージセンサーを搭載した「SIGMA sd Quattro H」が登場した。解像感に定評がある「Foveon X3 ダイレクトイメージセンサー Quattro ジェネレーション」を心臓部に据えた、シグマSAマウントのミラーレスカメラだ。
sd Quattro Hは2016年に発売された「SIGMA sd Quattro」の兄弟機となる。ほとんどの部分が共通となっているので、仕様など基本部分の詳細は「SIGMA sd Quattro」のレビューページを参照して頂きたい。
両者の大きな違いはセンサーサイズだ。sd Quattroは23.4×15.5mmのAPS-Cサイズセンサーを搭載しているが、sd Quattro Hは26.7×17.9mmのAPS-Hサイズセンサーを採用した。このシグマ初となるAPS-Hセンサーは約5,100万画素相当(一般的なベイヤー配列換算)を誇り、35mm判換算で焦点距離1.3倍に相当する画角で撮影が可能となる。
記録画素数は6,192×4,128ピクセルが基本となるが、JPEGのS-HIモードだと8,768×5,840ピクセルでの記録ができる。同社製フルサイズ対応の「DGレンズ」を使えばAPS-Hサイズで撮影が可能で、APS-C対応の「DCレンズ」を使った場合は自動的にクロップされ、sd Quattroと同様の撮影結果が得られる。このクロップ機能はOFFにすることもできる。
映像エンジンは引き続き「TRUE(Three-layer Responsive Ultimate Engine)III」を2つ搭載。シグマの重いX3F形式のRAWデータの処理に当たる。バッファメモリーはRAWで最大10コマの連続撮影可能な大容量となっている。
オートフォーカスはsd Quattro同様、コントラスト検出と位相差検出とのハイブリッド方式。他社製品と較べるとのんびりとした合焦スピードだが、精度はまずまずで、高速で移動する動体などでなければ十分なアキュラシーでピント合わせが可能である。
カメラの各種レスポンスも独特の動きだ。電源スイッチを入れた時やシャッターのタイムラグ、撮影画像再生などフォトグラファーがカメラに慣れて合わせていく必要がある。
撮影間隔も巨大なデータのメモリーカードへの書き込みに時間を要するため、おおらかな気持ちで撮影に臨むことだ。愛情というか忍耐が求められる孤高のカメラと言っていいだろう。
ただこのリズムがなかなか悪くない。描写が気に入って使い込んでいくうちに、sd Quattro Hのテンポが体得できてくる。そうなったら撮影が俄然楽しくなってくる。
DNGに対応し使い勝手が向上
sd Quattro HはDNG形式にも対応している。従来のX3F形式はシグマ製の「SIGMA Photo Pro」によるRAW現像処理が必要だったが、メニューでDNGを選択すれば「Adobe Photoshop Lightroom」などでの現像処理が可能だ。
カメラのファームウェアアップデートによってsd Quattroも同じ機能が提供される予定となっている。X3FはJPEGと同時記録ができるが、DNGを選択した場合はDNGオンリーになるので注意が必要だ。また画質面ではX3F形式がノイズ面でやや優位に立っている。クオリティや使い勝手を考えて記録形式をチョイスしよう。
また、sd Quattro同様「SFD」モードも搭載している。これは1回のシャッターレリーズで露出の異なる7枚の画像を取得しSIGMA Photo Pro上で処理をすると、極めてノイズが少なく高階調なイメージを手にできる機能だ。
約5,100万画素相当を連写するため記録に時間を要するのと処理するPCにもパワーが要求されるが、撮影対象によっては素晴らしい結果を得られるはずだ。SFDモードをONで撮影すると「X3I」形式のRAWファイルとなる。それをSIGMA Photo Proで現像すると、豊かなディテールのフィニッシュが可能だ。次の作例では、左部分にある暗部のノイズが少ないのにも注目だ。
シグマのカメラは伝統的に高感度に強くない。sd Quattro Hも同様だが、ISO800まではややノイズが増えるもののなんとか鑑賞できるレベルで、ISO1600になるとサイズによっては使用可能なレベルの画質だろうか。SIGMA Photo Proの「自動ビニング機能」をONにしておけば、ISO800以上で自動的にノイズの少ない小さい画像を出力することができる。
作品
sd Quattro Hはホールド性が高い。大きめのグリップと突出したEVFのため、構えた時も自然で楽な姿勢を取れる。強い風が吹き付ける海岸でも安定してシャッターを切ることが可能だった。波に濡れた岩の生々しい描写がFoveonセンサーの特徴だ。
薄暮の富士を背景に荒波の中を進む船を撮影。sd Quattro Hの描写力の高さがよく出たカットとなった。もがく船のディテールから、後ろにそびえる富士の雪が積もった部分や、宝永山の火口まで驚くほどの解像感である。色再現力も高く、現場で感じたそのままの写りだ。優秀なシグマレンズとのハーモニーである。
川岸にあるペイント。ハイライトの粘る階調と、文字部分の塗料の厚みと色再現がいい。大画面で見るとまるで実物がそこにあるかのような描写だ。こういう“Foveon物件”をついつい探して撮り歩いてしまうのがこのカメラの魅力でもある。
同じ河川敷で倒木を何気なく撮ったカットだが、樹皮のディテールがもの凄い。メリハリのある立体感と素直な色再現は、被写体のリアリティさを追求するフォトグラファーに響く性能ではないだろうか。このシャープネス高い写りがリーズナブルな価格で入手できるのが嬉しい。
シグマのカメラというと「高感度ダメなんでしょ」と片付けられてしまうことが多いが、明るく優秀なシグマの単焦点レンズを使えばだいたいのシーンは手持ちで撮影が可能だ。F値可変の暗いズームレンズよりも、数段分明るい開放値F1.4のシャープでキレのいい単焦点を使って、フットワークを活かして撮った方が気持ちがいい場合も多い。
写真は金網越しに撮影したノラネコ。毛並みのシャープさと柔らかさの同居した感じが気に入った。
sd Quattro Hは使っていて本当に楽しいカメラだ。独特のテンポに慣れてくると“Foveon物件”をどんどんと撮りたくなる。写真は岬の先端にあるウミウの生息地だが、拡大すると飛んでいるカモメから、岸壁で羽を休めるウミウを1羽1羽数えられるくらいの解像感である。稜線に生える植物の立体感にも注目だ。夕陽の色も自然でとてもイイ感じだ。
APS-Hサイズになって解像度が高まったが、美しいボケ味にも注目したい。物理的に大きくなったセンサーサイズと、その解像感由来の立体感がAPS-Cフォーマットのsd Quattroの描写とはひと味異なるのだ。これは両者を使うとより実感できるが、使えば使うほど「H」をチョイスしたくなる。
スロープに並ぶ漁船とサギを高所から狙ったカット。約5,100万画素相当の描写力は克明に情景を記録できる。フレーム内の全てのものが雄弁に語りかけてくるような感じさえ受ける。たしかにクセがあるカメラだが、一度使い始めるとその魔力に取り憑かれてしまうだろう。ちょっとした好奇心と真剣に写真と向き合う気概があればの話だが。
夕暮れの岸壁を散歩する男。sd Quattro Hは臨場感溢れる描写でこの光景を記録した。男の歩く足元から対岸の様子、そして遠くに浮かぶ半島のシルエットまで、肉眼を軽く越えてである。それにしてもこのカメラの切れ味が鋭いこと! いいレンズとの組み合わせはまるで光学兵器である。
まとめ
sd Quattro Hはシグマ初となるAPS-Hセンサー搭載機だ。その解像感高い大型センサーと、世界中で定評のあるシグマレンズとで唯一無二の写真を撮ることができるのが魅力である。はまった時の写りは本当に素晴らしいものがあるのだ。
超高感度や高速連写、可動式ディスプレイやボディ内手ブレ補正機能などとは無縁だが、銀塩カメラのようなシンプルさで被写体と対峙できるのが潔くていい。旅、そして風景やスナップ、スタジオや静物など、情景を解像感高く写しとりたい人には向いているカメラだと思う。
約5,100万画素相当の高い画質と描写をリーズナブルな価格で入手できるのも嬉しい。sd Quattroを持っているフォトグラファーは買い増し決定だろう(笑)。