新製品レビュー
SIGMA sd Quattro(実写編)
Artレンズ+独自センサーが生み出す超精密描写
2016年7月13日 07:00
シグマ初のミラーレスカメラ「SIGMA sd Quattro」が発売になった。最大の特徴は、レンズ交換式のカメラでは初めてQuattroセンサーを搭載したこと。一般的なイメージセンサーとは異なり、3層構造になった各層の全ピクセルでフルカラー情報を取得でき、深みのある色と緻密な細部描写が得られる独自のセンサーである。
前回お届けした試作機による外観と機能のレビューに続き、今回は製品版による実写レビューをお伝えしよう。
レンズには、描写力に定評のある同社「Artライン」の交換レンズ3本を使用。さまざまな条件で写したsd Quattroの撮影画像を見てほしい。
遠景描写をチェック
まずは遠景の表現力を見るために、晴れた日の屋外風景を撮影した。レンズには、単焦点の「35mm F1.4 DG HSM」を使用。絞りを変えながら複数枚を撮影したが、ここでは最も良好な写りが得られたF5.6のカットを掲載した。
くっきりとした冴えのある色合いと、細部までのシャープネスの高さを確認できる。画像サイズは5,424×3,616ピクセル(約1,960万画素)と特に大きいわけではないが、精細感は優秀で金属の錆びや汚れといったディテールまで鮮明に表現できている。
感度別の写りをチェック
感度は、ISO100~6400の範囲を1/3または1段刻みで選べる。次の写真は、感度を変えながら同一のシーンを撮影したもの。撮ったままのJPEGデータである。
ISO100では高い解像と鮮やかな発色、リアルな質感表現を確認できるが、感度を高めるごとにノイズが増え、彩度や解像感が損なわれていく。その劣化の度合いは、APS-Cサイズ(23.4×15.5mm)というセンサーサイズの割には激しく、ISO800以上は正直あまり使いたくない。
カメラ内JPEGとRAW現像データを比較する
続いて、カメラ内で生成されるJPEGファイルと、RAW撮影してPC上で現像したJPEGファイルを比較してみよう。RAW撮影には、同社純正の現像ソフト「SIGMA Photo Pro 6.4」を使用した。
下の写真は、ISO100で撮影した夜景だ。撮ったままのJPEGでは、信号などの強い光源部分がやや不自然な描写になっているが、RAW撮影ではそれが目立たない。発色やシャープネス、ノイズ感にも差が見られ、全体的にはRAW撮影カットのほうがバランスのいい仕上がりといえる。好みや狙いに応じて細部の設定を調整することももちろん可能だ。
次は、感度ISO250の撮影カットを比較。拡大表示にすると、撮ったままのJPEGでは暗部にカラーノイズが結構目立つ。一方RAW撮影カットでは、初期設定でもノイズがあまり気にならないように低減されている。
カメラ内生成のJPEGファイルも意外と健闘し、大きく見劣りすることはない。ただ、ディテール表現にこだわる場合や、カメラの性能をフルに引き出したいときはRAW撮影からの現像のほうがベターだろう。
SFDモードの写りをチェック
画質を高める新機能として、SFD(Super Fine Detail)モードを搭載。1回のシャッターで明るさの異なる7枚の画像を撮影し、1枚の専用RAWデータ「X3Iファイル」として保存するモードだ。そして、現像ソフト「SIGMA Photo Pro」を使って、このX3Iファイルから低ノイズで広階調な画像を生成できる仕掛けになっている。
次のカットは、同じ条件で通常モードとSFDモードを撮り比べたもの。どちらもRAWファイルから「SIGMA Photo Pro 6.4」を使ってJPEG出力した。
通常モードでも十分に高画質だが、SFDモードでは解像感と階調性がいっそう向上し、ノイズも目立たなくなっていることが分かる。特に、建物下部のやや日陰になった部分を見比べると、SFDモードの効果は明らかだ。
惜しいのは動きに弱いこと。7枚の撮影には約4秒強かかるが、その間に風で草木が揺れたため、その部分には不自然なジャギーが生じている。風の少ない日を選んだり、室内で撮るなど、シーン選択にはそれなりに気を配る必要がある。
さらに別の条件でもSFDモードを試してみた。上のクマは、シャッター速度を0.5秒にセットしたうえで、外部ストロボの光量を手動で素早く1段ずつ下げながら、SFDモードで撮影したもの。通常モードのカットと見比べると、いっそう豊かな階調と低ノイズの描写を確認できる。特に、通常モードでは色飽和が生じてつぶれ気味な赤い服の部分も、SFDモードではより正確かつ微細に再現できている。
なお取扱説明書には「SFDモードにストロボは併用できない」旨が記されており、この私の撮影方法は正しい使い方ではない。こうした静物を撮る際は、本来はLEDライトなどの定常光を用意したほうが手軽だろう。
作品
絞りをF9まで絞り込み、手前の草木から奥の航空機までをパンフォーカスで捉えた。機体の硬質感や微妙な凹凸が的確に再現される一方、曇り空の滑らかなグラデーションも美しく描写。曇天ながらメリハリがあり、深みと奥行きを感じさせる写真となった。
こちらは船の羅針盤。開放値からシャープな写りが得られる「18-35mm F1.8 DC HSM」の明るさを生かして手持ちで撮影。さらにPLフィルターを使用して周辺を暗く落とし、ツヤっぽい色彩と飛び出るような立体感を強調した。
見上げるアングルを選択。動きのある対象物にグッと肉薄するような撮り方には向かない。こうした一歩引いた視点から眺めるような撮影スタイルが本カメラには似合っている。
カメラを三脚に固定し、1/2秒の低速シャッターで撮影。ゴツゴツした壁面の質感を克明に再現。部屋を暗くして大きなディスプレイに表示すると、その場を再び訪れたような臨場感が味わえる。
葉の裏側から外部ストロボを照射することで、背景を暗く引き締めつつ、細かく入り組んだ葉脈を浮かび上がらせた。試しにレタッチソフトを使って、この写真を明るく補正すると、後ろにある別の葉っぱや地面の様子が見えてくる。つまり画像の情報量が多く、一見つぶれたように見える暗部にも階調がしっかりと残っている。
ホワイトバランスを「日陰」に設定して夕焼け空の赤みを強調。AFスピードが遅いため動体スナップ用には適さないが、歩く人物くらいの動きなら問題なく対応できる。
皮膚やヒゲの素材感、水の透明感などをつややかに再現。アザラシに限らず人物の場合でも、濡れた肌の質感表現は本カメラの得意分野のひとつといえる。
最後のカットは、日が暮れてシルエットになった展望台だ。この日の撮影枚数は約250枚。それを電池交換なしで乗り切ることができた。公称の撮影可能枚数は約235枚。
じっくりと楽しめる画質至上主義カメラ
前回の試作機レビューでは、AFなどのレスポンスの遅さとEVFの見えにくさを、本カメラの課題として挙げた。今回使った製品版では、試作機よりもやや高速化していたが、操作全般が遅いという印象そのものは大きく変わらない。スナップ感覚で手軽に撮るカメラではなく、画質や構図を重視し、被写体にじっくりと向き合いながら撮るカメラと考えたほうがいい。
画質については、なまめかしく感じるくらい豊かな発色と階調、被写体の細部をリアルに再現する精細感を確認できた。低感度での細部表現力については、APS-Cサイズセンサー機ではトップクラスといっていい。
レンズ一体型のdp Quattroシリーズとは異なり、明るいレンズが生み出すボケ表現を楽しんだり、ズームの自由度を生かしてフレーミングにこだわったりできる点も大きな魅力だ。
高感度に関してはISO400までがギリギリ許容範囲といったところ。ただ中途半端にISO200やISO400を使うよりも、せっかくなら明るいレンズや三脚、照明などを活用し、無理してでもISO100にこだわるほうが本カメラの撮影スタイルとしては似合うと思う。
そういう意味では手間のかかるカメラだが、それを手間だと考えず、sd Quattroならではの体験として撮ること自体を楽しめる人にとっては、ほかにはない唯一無二の存在になるだろう。