ミニレポート
驚くべきシャープネスのDA 16-85mm F3.5-5.6
(PENTAX K-3)
Reported by 大高隆(2015/5/1 07:00)
HD PENTAX-DA 16-85mm F3.5-5.6 ED DC WRは、2014年11月に発売されたPENTAXの標準ズームで、HDコーティングを採用したズームレンズとしては3本目の製品にあたる。このレンズを短期間ながらテストする機会を得たので、インプレッションをお伝えしたい。
まずはじめに、光学的なスペックについて簡単にまとめておこう。このレンズは16-85mmの5.3倍ズームで、35mmフルサイズ換算で24.5-130mmにあたる広いレンジをカバーする。300mmあるいは200mmといった超望遠までカバーするレンズとはジャンルが違うが、まずは高倍率標準ズームと呼んでいいだろう。
光学系は12群16枚で構成され、各エレメントに高性能なHDコーティングを採用して面間反射によるフレアを抑えている。さらに鏡筒内とレンズ最後部にはフレアカッターを念入りに配置し、逆光撮影でも高いコントラストを発揮する。絞りは7枚羽根の円形絞りを採用する。
このレンズの描写はたいへんシャープだ。「ズームレンズとしては」という断り書きをつける必要は一切なく、ことシャープネスに関しては、高性能な単焦点レンズに匹敵する。
シャープネスが感じられる作例
もちろん欠点がないわけではない。時たま目につく程度ではあるが、幾つかのショットに少し癖のある収差が認められた。端的にいえば、周辺部のボケの崩れと、コマ収差由来と思われるフレア(コマフレア)だ。
周辺に不自然さが現れた作例
画面右下隅に現れたヤギの毛並みのボケを見ると、円周状の線が2つに割れて(放射方向に流れて)二線ボケとして現れている。
画面左上の遠景の木立のボケが、小鳥のような形に崩れて写っている。おそらく非点収差とコマ収差の相乗効果によるものだろう。
いずれも極端に現れた例ではあるが、これらを見るとボケ味を手放しで褒めることは難しい。ただし、高倍率ズームをデザインするときに遠景のボケが最優先されるべきともいえないので、他の要素とのバランスにおいて、少し我慢しなければならない部分かと思う。
そして、幸いこのレンズは撮影距離によってボケの性格が相当変化するようだ。接写や望遠のアップショットのように、ボケ味が重要になるジャンルの撮影距離では、ボケは柔らかく美しいものに変貌する。
私は現在、標準ズームとしてsmc PENTAX DA 17-70mm F4 ALを常用している。ボケ味の善し悪しを考える場合、こと「自然なボケ」という意味では今回の16-85mmよりも、17-70mmの方が優れている。しかし、「柔らかい大きなボケ」という意味では、このHD DA16-85mmに軍配が上がる。
コマフレアは周辺部にいくほど大きなにじみ・流れとして現れるが、画角中央付近ではシャープな像の周りに柔らかなベールのように現れる。遠景のボケでは「流れ」としてマイナス要素だったコマ収差も、近距離でボケが大きくなれば光のにじみとして目に映り、「レンズの味」ということになる。主要な被写体を中央に配置して正確にフォーカスし、周辺をぼかすような構図をとれば、これを効果的に使うことができる。
構図作例
うるさいことを言えば、垂直な壁を画面いっぱいに捉えるような平面チャートに近い状況で撮ると、像面湾曲を少し感じる。
もちろん一般的な撮影では問題にならないレベルであるし、広角レンズによる撮影は、画面中央の被写体より周辺部にある被写体の方がカメラに近いことが多いので、像面が手前に倒れていた方がシャープに写ることすらある。そういう意味で、平面的なものより、実際の立体空間を捉えることに優れたレンズだ。
一方、遠景では距離差が小さく、チャート撮影に条件が似てくるので、像面湾曲や非点収差による周辺の乱れはマイナス要因になってくる。これはこのレンズに限らず、たいがいのズームレンズに共通した問題だ。
中景・遠景をシャープに写すためには、画面中央ではなく周辺部でピントを合わせ、F11かF16くらいまで深めに絞り込んでやる。その方が気楽に写すことができるし、最新のPENTAXならば回折補正が利くので解像劣化も少なく、賢い使い方だ。
風景を周辺までシャープに写す
テストというほど厳密なものではないが、実写を通じて得た印象はこんなところだ。
かなり辛口なことを述べて来たが、私自身は、このレンズがとても気に入った。何より素晴らしくシャープだ。先に示したヤギを写した作例も、ピントが来ているタテガミの辺りの毛並みは、まさしく1本1本の毛先の鋭さまで写し出している。
いままで述べて来た収差についても、普通なら全てを丸めて目立たなくなるように「うまく」設計するのだと思う。しかし、あえてそうしなかったのは、このレンズがシャープネスの追求を第一義として開発されたからではないか。
そう考えると、いささかピーキーな味付けになっていることも納得できる。何よりK-3ユーザーにとっては、2,400万画素・ローパスレスの先鋭な画質を十全に発揮できる標準ズームとして、この意思を歓迎しないわけがない。
◇ ◇
つづいて、使い勝手についても触れておこう。
最短撮影距離は0.35mとかなりの小回りが効き、最大撮影倍率は0.26倍(1/4倍)と本格的な接写が可能だ。しかも切替が必要な「マクロ機能」ではなく、一般撮影からAFのままで移行できるので機動性が高い。充分なワーキングディスタンスもあり、実用的だ。
接写作例
AF駆動はDCモーターによるレンズ内モーター方式を採用する。きびきびと作動し素早く合焦するので、作動音はまったく気にならない。
権利の関係で掲載できないが、動物園でファミリー向けの回転遊具を撮影してみたところ、ファインダーにゴンドラを捉えた瞬間にすっと合焦し、よく追従して、一旦フォーカスが外れても前後に迷うようなことはなく、すぐに再び食いついていた。爆速とまではいえないが、かなり速い。
同様にインナーフォーカスを採用したsmc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6ED AL[IF]DC WRと同程度か、それよりも少し速いくらいで、PENTAX純正ズームの中では最速だと思われる。
マウントに近いレンズ基部にあるフォーカスリング、クイックシフトフォーカス、AF時のフォーカスリング不回転機構などの構造を、先輩格のsmc PENTAX-DA 18-135mm F3.5-5.6 ED AL[IF]DC WRから継承する。
フォーカスリングの位置が他のレンズと異なるので、最初は戸惑うかもしれない。しかし、1本でほとんどの撮影に対応できるレンズなので、慣れれば問題はないだろう。
MF時のフォーカスリングのトルクは適切でなめらかだが、リングの幅が狭く、ゴムが柔らか目なのでタッチが少し曖昧だ。もう少し硬いゴムでもよいし、いっそLimitedシリーズのようにローレット仕上げでもいいと私は思った(金属鏡筒ではないのでこの仕様になったのだろう)。
鏡筒の造りはとてもしっかりしている。私が使っているsmc DA 17-70mmは、元々の鏡筒の造りが少し華奢である上、永年の使用でさらにユルくなり、頻繁な調整が必要になってしまっている。この点でもHD DA 16-85mmは耐久性がかなり向上していそうで、うらやましい。
大きさは、最大径78mm×長さ94mm、重さは488gと公表されている。K-3につけたときのバランスは申し分ない。軽量なK-S1/K-S2に対しては少し重いかもしれないが、持ち出すのがおっくうになるほどではないはずだ。K-30/K-50などの単三電池で駆動できるボディと組合わせて、フィールドカメラとして使うのも悪くないだろう。
大径のバヨネット式花形フードが標準で付属する。収納が少しかさばるが、逆光に強いレンズを追求する姿勢の現れだと思う。高倍率ズームの宿命として、望遠側では深さが足りないが、HDコーティングの効果もあり、試写を通じて2,000ショットほど撮った中に顕著なゴーストやフレアが生じたものは皆無だった。
ゴースト・フレアテスト
フィルター径は72mmで、OEMではないPENTAXレンズとしてはほとんど例のない規格だ。その成り行きで、キャップもこのレンズ専用に新型として設計されている。こんなところにも、このレンズにかけた意気込みがにじみ出る。余談だが、このキャップは、指掛かりのよい形状ですごく使いやすかった。
まとめ
PENTAXには「スターレンズシリーズ」という高性能ラインナップがあるが、それとは別に「隠れスター」と通称される一群のレンズがある。
スターレンズのように特殊な硝材や技術を用いたわけではないが、コンベンショナルな技術だけを用い、それでいて素晴らしく写りがよいレンズを指して、ユーザーが呼び習わして来た言葉だ。
このHD PENTAX-DA 16-85mm F3.5-5.6ED DC WRが「隠れスター」の中に数えられるようになるかは、まだわからない。しかし可能性は充分に感じる。広角側の周辺画質が単焦点レンズより劣り、遠景のボケに少し癖があるが、その辺りさえ巧く乗りこなせば、素晴らしく高性能な標準ズームレンズとして活躍してくれるだろう。