気になるデジカメ長期リアルタイムレポート

PENTAX K-5 IIs【最終回】

「デジタルプレビュー」の活用を考える

 前回はCTEについて書いたが、今回は、同じようにペンタックス独自の機能でありながら、あまり理解されていないと思われる「デジタルプレビュー」をとりあげ、その活用法について考えてみたい。

 デジタルプレビューとは、一言でいえば、記録するためではなく“見るだけのために”撮影を行なうものだ。設定した絞りやシャッター速度、フォーカス、ホワイトバランス、デジタルフィルター、シャープなどの全パラメータが反映されたプレビュー画像が生成される。通常の撮影と違うのは、画像データがバッファから直接背面LCDに映し出されるだけで、ファイルとして記録メディアに書き込まれることはない。

 一般に、一眼レフカメラの「プレビュー」機能というのは、待機状態では開放されている撮影レンズの絞りを一時的に絞り込み、ファインダーで被写界深度(というかボケ具合)を確認できる機構のことだ。ペンタックスではこれを「光学プレビュー」と呼び、レリーズボタンを囲む電源/プレビューレバーにデフォルトで割り当てている。ユーザーは好みにより、光学プレビューの代わりにデジタルプレビューをここに割り当てることができる。

プレビューレバーの機能設定は「撮影5」メニュータブのボタンカスタマイズから入り、ボタンカスタマイズ>プレビューレバーと開き、デジタルプレビューを指定すれば、デジタルプレビューが使えるようになる。
ペンタックスの絞り込みレバーはシャッターボタン同軸の電源スイッチと一体になっている。電源オンの状態からさらに引くことでプレビューを実行する。

 光学プレビューの欠点は、絞り込みを行なうとファインダーが暗くなってしまい、ある程度熟練しないとボケ具合がわかりにくいことだ。実質的には、ボケの状態が“読める”というレベルの機能であり、“見える”というのとは少し違う。その点、デジタルプレビューは、明るい背面液晶で、実際に撮影される画像が一目瞭然に見える。拡大表示やヒストグラム表示も可能で、各種設定の適否の確認と撮影結果の予測を素早く行なうことができる。

デジタルプレビューの画面。この例ではヒストグラムのオプションを有効に設定している。左上に出ている「絞り」をイメージしたアイコンが、表示されている画像がプレビューである(記録されたものではない)ことを示す。
ヒストグラムは、RGB各チャンネルをコンポーネント表示することもできる。余談だが、この図のように右下に「AE-L」というアイコンが表示されている時にAE-Lボタンを押すと、表示中のデータが写真としてカードに記録される。つまりデジタルプレビューのデータは自動でカードに書き込まれることはないが、保存することはできる。
拡大表示して細部を確認することももちろん可能だ。

 わざわざそんな機能をつけなくとも、とりあえずテスト撮影して、それを拡大すればいいじゃないかと思う方もあるかもしれない。しかし、撮影後カードに書き込むにはそれなりの待ち時間が発生する。1コマで済めばよいが、テストを何回も繰り返す場合、その待ち時間は馬鹿にならない。デジタルプレビューはバッファから画像を直接開くので待ち時間がなく、テスト撮影とくらべれば断然速い。画像を拡大してピントチェック、ヒストグラム分析、スクロールして細部の乱れの確認などを手早く行ない、テンポよく撮影することができる。

“デジタルプレビュー”と“テスト撮影して書き込みを行なう場合”とのレスポンス比較
撮影画像の再生とデジタルプレビューのレスポンス比較するために動画で撮影した。最初のシャッター音がテスト撮影で、2回目のシャッター音がデジタルプレビュー。テスト撮影の場合、撮影後すぐに再生ボタンを押しても、右下の書き込みランプが消えるまでは画像が表示されないことがここにもはっきり写っている。一方、デジタルプレビューは瞬時にプレビュー画像が表示されている。

 デジタルプレビューを使ったことのない方からは「クイックビュー(一般的なプレビュー表示)をオンにしてヒストグラム表示と拡大表示も有効にしておけばいいのでは?」という意見もあるかもしれない。たしかにクイックビューならばデジタルプレビュー同様にバッファから開かれるので待ち時間はない。しかし、撮影中に後ダイヤルで行なうパラメータの変更に支障が出る。

 例えば私の場合、絞り優先AEでは後ダイヤルに絞り操作、前ダイヤルに露出補正を割り当てている。この場合、絞りを深くしようと思えば後ダイヤルを右に回すわけだが、クイックビューが表示されている間は、この操作はクイックビューの拡大になってしまう。速写しながら絞りを変更することができなくなるわけだ(シャッターを半押しにしたままダイヤルを回せる器用な方は別として)。

 これを避けるためにクイックビューの拡大表示を無効にすると、ピントの確認を行なうことができず、結局、書き込み終了を待ってから再生しなければならない。表示時間を短くして回避しようとすれば、表示が消える前に慌ただしくファインダーから目を離さなければならずあまりエレガントとは言えない。こうした煩雑さを避けるため、私は、クイックビューはオフにして、露出(ヒストグラム表示)とピントの確認は主にデジタルプレビューで行なっている。

デジタルプレビューの表示オプション。ヒストグラム/白とび黒つぶれ警告/拡大表示をそれぞれオン・オフできる。

 光学プレビューとデジタルプレビューを共存させたいユーザーもあるかもしれない。そのようなときは、Raw/fxボタンにデジタルプレビューを割り当てる。こうしておけば、特等席にあるプレビューレバーでは光学プレビューを行ない、デジタルプレビューを使いたい時にはRaw/fxボタンを押せば良いということになり、状況に合わせて2種類のプレビュー機能を使い分けることができる。

Raw/fxボタンの機能は、カスタムメニューの「ボタンカスタマイズ」から変更できる。
割当可能な機能は、ワンタッチRaw+/露出ブラケット/デジタルプレビュー/電子水準器/構図微調整/GPS、の6つ。
Raw/fxボタンはエプロン部左側。カメラを支える左手親指で無理なく操作できる位置にある。

 私は普段Raw/fxボタンには電子水準器を割り当てているので、デジタルプレビューはプレビューレバーにあてているが、ボタンカスタマイズはUSERモードごとに記憶されるので、例えば「USER1はプレビューレバーでデジタルプレビュー、Raw/fxボタンで電子水準器。USER2ではプレビューレバーで光学プレビュー、Raw/fxボタンでデジタルプレビュー」というように、異なる設定を与えておいて、切換えながら使うことも可能だ。

 テスト撮影よりもレスポンスがよく、光学プレビューよりも明快という本質的なメリットのほかに、Eye-fiをはじめとする無線LANカードで撮影画像をiPadやパソコンに飛ばしながら撮影している場合、デジタルプレビューにはもうひとつの副次的なメリットがある。それは、転送が発生しないということだ。

 依頼仕事としての撮影では、ライティングや被写体の配置の確認などのために何回もテストが繰り返されるが、Eye-fiを利用した撮影現場でテスト撮影のためにシャッターを切ると、まだセッティングも済んでいない状態のろくでもない写真がどんどん転送されてしまう。カードの容量やバッテリーがもったいない以上に、転送された画像を見ているクライアントの心象を思うとあまり心地のいいものではない。

 そこで、テスト撮影の代わりにデジタルプレビューで確認を行なえば、転送されることなく、自分だけで結果を見ることができる。表示も速いので次々とプレビューしながらセッティング作業を進め、でき上がったら初めて「はいテストしまーす」と言ってシャッターを切れば、その画像は転送されるので大きな画面で皆で検討できる。つまりデジタルプレビューとテスト撮影という2つの手段を持つことで、Eye-fiの設定を変えることなく、見せる見せないの区別を現場の自然な流れの中で行なうことができるのだ。

 画像の確認だけのために撮影を行なうという点で、デジタルプレビューは、フィルムの時代に利用していたポラ(インスタントフィルム)によるテスト撮影に似ている。しかも、このデジタルの「ポラ」は待ち時間もなく、本番とまったく同じアガリが確認できる。極めて現場向けの機能だといえるのではないか。

 ではスタジオ撮影向けに限定された機能なのかといえばそうとは限らない。風景撮影の場合も、いきなり1コマ撮ってからそれをレビューするよりも、だいたいの構図を決めたところでデジタルプレビューをまず行なえば、露出や構図などを客観的に検討することができる。その上で本番撮影にかかれば、自信を持ってシャッターチャンスに集中することができるだろう。

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 最新のプロ用デジタル一眼レフの動向は各社がライブビューやテザード撮影機能の開発に凌ぎを削っており、それらと較べると、基本的な処理能力をK-7の時代のまま引き継いでいるK-5 IIsはやや見劣りがすることは否めない。しかしペンタックスにはデジタルプレビューという優れた独自の機能があり、工夫次第で、充分にそのウィークポイントをカバーすることもできる。

 デジタルプレビューにはライブビューやテザードにはないメリットも多い。例えばライティングをストロボで行なう場合、ライブビューでは光量のバランスや露出の適否の判定はまったくお手上げだが、デジタルプレビューならそれができる。また、テザード撮影が如何に高速化されようともデジタルプレビューほどのレスポンスは望めない。それぞれの得手不得手を知った上でうまく使い分けていくことが大切だろう。

 さて、K-5 IIsの長期レポートは今回で一応の幕とし、次回からは、新しいKマウントフラッグシップである「PENTAX K-3」を題材として、引き続きペンタックスの魅力を紹介して行きたいと考えています。一年の長きに渡り、おつきあいくださりありがとうございました。

大高隆

1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

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