ニコンD700【第7回】

AFまわりのカスタムセッティング

Reported by 北村智史


今回はまたAi AF-S Nikkor ED 300mm F4 D(IF)をお借りして、AFまわりのカスタム機能のセッティングについて検証してみた。連写でバリバリやっただけだから、撮影は短時間だったけれど、2,000コマちょっと撮ったので、あとのチェックが大変だった

 さて、今回はAFまわりのカスタム機能についてである。D700のカスタム機能で、AF関連のものは10項目。そのうちの6項目を初期設定から変えている。

AF関連のカスタムメニュー項目
 初期設定セットA
a1 AF-Cモード時の優先レリーズレリーズ/フォーカス
a2 AF-Sモード時の優先フォーカスレリーズ
a3 ダイナミックAFエリア9点51点(3D-トラッキング)
a4 AFロックオン標準しない
a5 半押しAFレンズ駆動するしない
a6 フォーカスポイント照明オートオート
a7 フォーカスポイント循環選択しないする
a8 AF点数切り換え51点51点
a9 内蔵AF補助光の照射設定するする
a10 MB-D10のAF-ONボタン機能AF-ONAF-ON

 最初の「a1 AF-Cモード時の優先」は、初期設定が「レリーズ」のところ、筆者は「レリーズ/フォーカス」にしている。使用説明書には「ピント状態に関係なく撮影優先でシャッターをきることができますが、低コントラスト・低輝度の被写体を連続撮影するときは、連続撮影速度を落としてピント合わせを行ないます。連続撮影時に撮影速度よりもピント合わせを優先したいときにお使いください」とある。

 つまり、低コントラストや低輝度といったAFでピント合わせが難しい条件では、連写速度を犠牲にしてでもピント精度を重視した動作になる、ということ。それ以外の条件では、初期設定の「レリーズ」と同じ動作になると考えていい。基本的にスポーツ系は撮らないので、連写速度がピント精度よりも重要になることはないから、「レリーズ/フォーカス」のほうが使い勝手はよさそうに思う。

 次の「a2 AF-Sモード時の優先」は「レリーズ」にしないと、“親指AF”で問題が出る。“親指AF”では、AF-ONボタンでAF作動を行なってからフレーミングを変えたり、ピントを微調整してからシャッターボタンを押すわけだが、そうすると、選択している測距点でピントが合っていないケースも当然出てくる。

 で、初期設定の「フォーカス」優先にしていると、シャッターが切れないことがある。というのは、「フォーカス」優先だからである。選択した測距点に重なっている被写体にピントが合っていないかぎりはシャッターが切れない設定なのだ。だから、「レリーズ」優先に切り替えておかないといけないのである。

連写速度よりもピントが合っていることのほうが大事なので、初期設定の「レリーズ」ではなく、低輝度や低コントラスト時にだけ連写速度を遅くする「レリーズ/フォーカス」にしている“親指AF”には初期設定の「フォーカス」では差しさわりがあるので「レリーズ」に切り替えないといけない

「a3 ダイナミックAFエリア」は初期設定が「9点」になっている。使用説明書によると「9点」は「被写体の動く方向が予測」しやすいときに向き。「21点」は「動きがランダムで予測しにくい被写体の撮影に適して」いて、「51点」は「被写体の動きが速く、選択したフォーカスポイントで被写体を捉えにくい場合」用とのこと。ようは、難易度の高い条件ほど、ダイナミックAFエリアの測距点数を増やすようにすすめているわけだ。

 現状では、もうひとつの選択である「51点(3D-トラッキング)」に設定している。3D-トラッキングは、画面内を移動する被写体を、色情報などをもとに自動追尾してくれる機能で、使用説明書には「左右に動く被写体を自由な構図で撮影するのに適しています」とある。動く被写体を連写で追っている途中で構図を自由に変えることができるというわけだ。

 それはそれで強みなのだが、こちらの思惑どおりにはたらいてくれるとはかぎらない。シャッターボタン半押しでロックした被写体を追いかけてくれるはずが、被写体の別の部分にピントを合わせてくれたり、まったく関係のない場所に飛んでいったりもする。条件によってはきちんと追いかけてくれるし、ちゃんと追いかけてくれればとっても便利なのは間違いないが、その条件について見きわめがきちんとできていないと、安心しては使えない。

 今回のテスト結果からいうと、東京メトロの車両とはあまり相性がよくないらしく(西武線の地下鉄対応車両も同様だった)、西武線の車両はわりと遠距離から車両前面にピントが合ってくれたのに対し、東京メトロの車両は近距離では車両前面にピントが合うのに、遠距離で車両前面に重なっていない測距点が選択されるケースが相対的に多かった。そういうのがわかっていれば、3D-トラッキングはけっこう役に立ってくれると思うが、データのない被写体をぶっつけ本番的に撮るのであれば、「9点」なり「21点」なりのほうが失敗しにくいのではないかという気がする。

「a3 ダイナミックAFエリア」の設定画面。とりあえず、暫定的に「51点(3D-トラッキング)」にしているが、条件次第で「9点」や「21点」との使い分けも考えないといけない
51点に設定して撮影したときのViewNXの画面。ピントが合った測距点を表示することができる。「1」のタグを付けているカットは選択したのと違う測距点が選択されたもの
3D-トラッキングで追尾に失敗したシーケンス(選択しているのは測距点が表示されているコマ)。使用説明書には「被写体の色が周囲の色と似ていたり、半押し開始時の被写体が小さいとうまく動作しない場合があります」とある
追尾に失敗したシーケンスの4コマ目をViewNXでピクセル等倍表示。あからさまに電柱です。色が似てるのはたしかだけど。このあと、6コマ目と7コマ目のあいだで半押しをやりなおしたのだが、やっぱりうまくいかなかった
地下鉄の車両とはなぜか相性がよくなかった3D-トラッキングだが、西武線の車両では成功率が高かった。9000系とかの黄色の車両はもちろん、のっぺりな灰色のレッドアローにきちんと追尾してくれていたのは予想外だった

 その次の「a4 AFロックオン」も扱いが微妙な項目。AFロックオンは、使用説明書によると「被写体との距離が瞬時に大きく変わったとき、一定時間経過してから被写体を追従するピント合わせ」を行なうものだ。単純に言えば、被写体とのあいだに障害物が横切ったような場合に、障害物にピントが合うのを防止するための機能である。初期設定は「標準」だ。

「被写体との距離が瞬時に大きく変わってから、追従するピント合わせを開始するまでの時間が長い順に、[強め]、[標準]、[弱め]に」なると書かれている。つまり、被写体との距離が急激に変化したときに、「しない」であれば即座にピントを合わせにいくが、オンでは少しタイミングを遅らせてからピントを合わせにいくようプログラムされているわけだ。

 ようはAFの動き出しを少し鈍感にすることで、障害物を意図的に見落としてしまおうという仕組みなわけで、だから、狙った被写体にピントを合わせつづけられるのである。当然、被写体の動きが激しい場合には、鈍くさいAFでは追いつけなくなってしまって、ピンボケが増えることになる。

 実際、以前にほかの雑誌でニコンのAFまわりの記事を書いたときにD200でテスト撮影を行なったときには、AFロックオンをオフにしたほうが合焦率がいいという結果が出た。なので、D700でもAFロックオンは「しない」に設定しているのだが、撮り比べてみたら「標準」と「しない」で大きな差は感じられなかった。

 まあ、D200に比べれば、D700のAFはずいぶん進化しているはずだから、楽勝すぎて差が出なかったのかもしれない(Exif情報を見ると、連写スピードは至近距離でも5コマ/秒をきっちりキープしているし、合焦精度も優秀だった)。もっときびしい条件だと差が出る可能性はあるが、とりあえずは「標準」あたりにしておいてもいいかなぁという気がしてきた。

「a4 AFロックオン」の設定画面。被写体の動きに対してより敏感に反応してくれる(と思える)ので、「しない」にしている。もちろん、被写体との間に入った障害物にピントが合うリスクもある
AFロックオンを「しない」で撮ったシーケンス。電車から電柱へのピント移動に0.2秒、その逆も0.2秒。AFの速さがよくわかる
こちらはAFロックオンを「標準」で撮ったもの。被写体の急激な動きに対する追従性をわざと鈍くすることで、電柱にピントが合わないようにしているわけだ。

 お次の「a5 半押しAFレンズ駆動」は、初期設定は「する」で、今回のテスト撮影では「する」に設定したが、通常は“親指AF”なので「しない」である。

初期設定は「する」だが、“親指AF”派なので「しない」

 ひとつ飛んで「a7 フォーカスポイント循環選択」は「する」に変えている。初期設定の「しない」の場合、例えば右端の測距点が選択されている状態でマルチセレクター(十字キー)の右キーを押してもなにも起こらないが、「する」にしておくと、右端から右キー押しで左端の測距点にジャンプする。

初期設定は「しない」だが、右端から右キーで左端にジャンプできる「する」にしている

 カメラのファインダーというのは実は右目でのぞくことを前提にしていて、左目が利き目の人には不便なようにできている。左目でファインダーをのぞくと、マルチセレクターの特に左キーが押しづらくなるのである(鼻が邪魔になるのだ)。測距点を左に移動させたいときには面倒な思いをするわけで、だから左キーを何度も押すよりも、右から回り込んだほうが早いケースもあったりする。なので、循環選択をオンにしているのである。

 残りの「a6 フォーカスポイント照明」、「a8 AF点数切り換え」、「a9 内蔵AF補助光の照射設定」、「a10 MB-D10のAF-ONボタン機能」の4項目は初期設定のままで使っている。

初期設定の「オート」のまま初期設定の「51点」のまま
これも初期設定の「する」のまま。常用している“親指コンティニュアスAF”だと補助光は発光しないけど初期設定の「AF-ON」のまま。MB-D10持ってないし。持ってても「AF-ON」で使いますから

 とまあ、こんな感じである。ちょっとばかりクセのある設定かもしれない。まだまだカスタムメニューの項目はたっぷりあるが、AF関連の項目よりはずっとややこしくないので、そのうちにまとめてやっつけたいと考えている。

  • 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。

・ダイナミックAF:51点

「9点」や「21点」に比べると、選択した以外の測距点でピントが合う頻度が高いように感じた。

※共通設定:Ai AF-S Nikkor ED 300mm F4 D(IF) / 4,256×2,832 / 1/800秒〜1/1,000秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天

・ダイナミックAF:3D-トラッキング(失敗例)

 地下鉄の7000系(茶帯)と10000系、西武6000系はちゃんと追尾してくれないケースが多かった。同じ7000系でも黄帯はわりとよかった。

※共通設定:Ai AF-S Nikkor ED 300mm F4 D(IF) / 4,256×2,832 / 1/1,600秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天

ダイナミックAF:3D-トラッキング(成功例)

 3D-トラッキングがうまく使えると、最初は画面の中央でとらえた電車を、近づいてきたときには画面の右側で、といった撮り方ができる。つまり、測距点の位置に縛られずにフレーミングが決められるというわけだ。

共通設定:Ai AF-S Nikkor ED 300mm F4 D(IF) / 4,256×2,832 / 1/640秒〜1/1,000秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天

AFロックオン:しない

 AFロックオン「しない」だと、激しい動きにも敏感に反応してくれる反面、被写体の前を横切る障害物にピントを合わせてくれたりする。

共通設定:Ai AF-S Nikkor ED 300mm F4 D(IF) / 4,256×2,832 / 1/500秒〜1/1,000秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天

AFロックオン:標準

 AFロックオンを使うと、電柱が横切っても無視してくれるので、被写体を見失う心配がない。

共通設定:Ai AF-S Nikkor ED 300mm F4 D(IF) / 4,256×2,832 / 1/500秒〜1/1,000秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO200 / WB:晴天



北村智史
(きたむら さとし)1962年、滋賀県生まれ。国立某大学中退後、上京。某カメラ量販店に勤めるもバブル崩壊でリストラ。道端で途方に暮れているところを某カメラ誌の編集長に拾われ、編集業と並行してメカ記事等の執筆に携わる。1997年からはライター専業。最初に買ったデジタルカメラはキヤノンPowerShot S10。 ブログ:http://ketamura08.blog18.fc2.com/

2007/6/3 00:00