PENTAX K-30【第3回】

標準ズームをサポートする広角レンズを選ぶ

Reported by 大高隆


 前回とりあげた2種類の標準ズームはいずれも広角側が18mm止まりで、使い込んでいくとより広い画角のレンズが欲しくなるユーザーも多いだろう。そこで今回は、筆者所有の超広角レンズ3本をとりあげて、それぞれの特徴を紹介していこう。


今回扱う3本のレンズ。左から、 smc PENTAX-DA 12-24mm F4 ED AL [IF]、 SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM、 smc PENTAX-DA 15mm F4 ED AL Limited

SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM

 現在手に入るAPS-C用の超広角レンズとしては、最も広い画角を持つレンズ。超音波モーターによる静粛で素早いAFが特徴で、フルタイムMFにも対応している。MFには切替スイッチ操作が必要。


K-30に装着したSIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSM

 手に持つとずっしり重たいガラスの塊のようなレンズだが、ズーミングしても全長が変わらないためバランスはよく、適度な長さもあって指がかりの失敗も少ない。

 過去記事でも触れられているが、このレンズは鏡筒の先端が固定式花形フードになっており、その内側で前玉がズーミングに従って前後する構造になっている。フードの有効長が画角に応じて変化し、フレアやゴーストの原因となる画角外からの入射光を効率よくカットする。


広角側にズームすると前玉が前進し、フードの有効長が短くなるのでケラレは生じない(8mm位置)。望遠側では前玉が後退し、フードの有効長は深い(16mm位置)。

 この仕組みはかつて「ズームフード」として多くのメーカーに取り入れられたが、高倍率化するズームレンズに対応しきれず徐々に廃れ、最近はあまり重要視されなくなった。しかし、超広角レンズの性能向上には画角ギリギリのところにある点光源(例えば太陽)からの迷光をフードでカットすることは極めて重要だ。

 鏡筒設計を工夫してズームフードを復活させたシグマの努力には、これを特筆することで敬意を表したい。実際、このレンズはコーティングのよさも手伝い、ヌケのよいクリアな描写をする。


ゴーストが少し出ているがヌケは申し分ない。8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / F4.5 /8mmフレアは改善するがゴーストがはっきりしてくる。8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / F16 / 8mm
ズームフードの効果で、8mm側よりもむしろコントラストは高い。8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / F5.6 / 16mmわずかにゴーストが見られる以外ほとんど逆光であることを感じさせない。8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / F16 / 16mm

 超広角レンズは屋外では太陽を捉えることも多く、逆光に強いことが求められる。今回行なった逆光時のテストでは、実際の風景撮影に近い条件とするため、カメラは水平に構え、レンズフードを使用して行なった。画角の違いにより8-16mm F4.5-5.6 DC HSMの8mm時のみ太陽が写り込み、比較としてフェアでない面もあるが、それも含めてのテストとご了解ください。また、多少の露出のばらつき、露出補正の違いなどはご容赦願いたい。

 ディストーションは強いタル型傾向の陣笠型で、広角端のみならず長焦点側でも目立つ。一般の撮影でもわかってしまうくらい歪みが強いのは残念だが、8mmという焦点距離を考えるとよく頑張って補正されていると言うべきだろう。


8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 8mm8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 10mm
8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 12mm8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 14mm
8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 16mm

 このレンズはPENTAX純正ではないため、ボディ内レンズ収差補正機能で歪みを取り除くことはできない。しかし、デジタル一眼レフカメラ用超広角レンズのド定番として、PCの収差補正ソフトウェアのほとんどがこのレンズをサポートしており、歪みが問題になるカットに対してPC上で補正を行なえばきちんとした直線再現を得ることができる。そのためにはJPEGではなくRAWで撮影しておくことが望ましい。

 ディストーションの他にあえて難点を挙げるとすれば、フォーカスリングの回転方向が純正レンズと逆のいわゆるキヤノン巻きだということがある。しかし、AF主体で使う分には大きな問題にはならないだろう。


8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 約6.0MB / 4,928×3,264 / 1/1,000秒 / F8 / 0.0EV / ISO400 / WB:オート / 16mm8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 約7.2MB / 4,928×3,264 / 1/500秒 / F16 / 0.0EV / ISO400 / WB:オート

 なお、狭い部屋のインテリア撮影はこのレンズの独壇場だが、壁4面を1枚の写真に写すと不自然になる。肉眼では四角い部屋の壁4面が同時に見えることはあり得ず、このような写真を見せると、六角形の部屋であるように錯覚されてしまう恐れがある。APS-Cセンサーの場合、焦点距離12mmと10mmの中間あたりが壁4面が写るか否かの境界になり、10mm以下を含む超広角ズームレンズを使う場合には、空間表現の歪みにも注意をはらう必要がある。特別な意識なしに使いこなせるのは12mmまでだろう。


壁が4面写った状態。一般にはこのような構図は避けた方が無難だろう。8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 8mmこの程度まで画角を狭めると、不自然さがなくなる。8-16mm F4.5-5.6 DC HSM / 10mm

smc PENTAX-DA 15mm F4 ED AL Limited

 DA 15mm F4 ED AL Limitedは、高い光学性能に加え、モノとしての質感・趣味性にまでこだわって設計されたDAリミテッドシリーズの超広角レンズ。光学設計上のポイントとして、特に歪曲収差の補正に力を注いだと言われ、ソフトウェアによる補正に頼ることなく、ほぼ完全な直線の再現と、それに裏打ちされた端正な空間描写をみせる。


K-30に装着したsmc PENTAX-DA 15mm F4 ED AL Limited。15mmという焦点距離は35mm判換算の23mmに相当し、超広角の入口にあたる。

 F4という開放絞り値は単焦点レンズとして決して明るいものではないが、高感度に強い最新のデジタル一眼レフカメラとの組み合せならばまず問題になることはない。一見地味なスペックに見えるが、このDA 15mm F4 ED AL LimitedこそがsmcPENTAX超広角レンズの中の白眉であると言える。


DA 15mm F4 ED AL Limited / ディストーション補正OFF / 倍率色収差除去OFFDA 15mm F4 ED AL Limited / ディストーション補正ON / 倍率色収差除去ON

DA 15mm F4 ED AL Limited / F4DA 15mm F4 ED AL Limited / F16

 構成枚数が少ない単焦点レンズの抜けのよさはさすがの貫禄で、ズームレンズをまったく寄せ付けない。組込みの花形フードも効果的に画角外からの光をカットしている。


DA 15mm F4 ED AL Limited / 約5.9MB / 4,928×3,264 / 1/400秒 / F10 / 0.0EV / ISO800 / WB:オート / 15mmDA 15mm F4 ED AL Limited / 約5.9MB / 4,928×3,264 / 1/640秒 / F13 / -0.3EV / ISO800 / WB:オート / 15mm
DA 15mm F4 ED AL Limited / 約6.7MB / 3,264×4,928 / 1/13秒 / F8 / 0.0EV / ISO800 / WB:オート / 15mm

smc PENTAX-DA 12-24mm F4 ED AL [IF]

 成り立ちから言うとトキナーとの共同開発製品で、トキナーのAT-X 124 PRO/AT-X124 DXⅡ PROと同じ光学系を持つ。とは言え、OEM供給を受けているわけではなく、共同開発したレンズのKマウント仕様をPENTAXが製造販売し、他のマウント向けをトキナーが製品化するという関係になっており、正真正銘のsmcPENTAXレンズである。トキナー版との最大の違いは、クイックシフトフォーカス(QSF)システムに対応していることで、AFとMFの切替操作を意識させない快適な操作性を発揮する。


K-30に装着したsmc PENTAX-DA 12-24mm F4 ED AL [IF]。巨大なフードのせいで大きく見えるが、レンズ自体はコンパクトで、カメラに装着したバランスは見た目よりはるかに軽く感じる。

 このレンズも歪曲収差の高次補正にこだわって設計したものといわれ、単焦点レンズのDA 15mm F4 ED AL Limitedにはやや譲るものの、実写作例に見られる通り、広角端の12mmでタル型傾向が目につく程度で、超広角域に足を踏み入れるズームレンズとしては例外的なほど自然な直線描写を見せる。QSFの操作性の高さもあり、8-16mm F4.5-5.6 DC HSM購入後も筆者の機材リストに留まっている優秀なレンズだ。


12mm / ディストーション補正OFF / 倍率色収差除去OFF15mm / ディストーション補正OFF / 倍率色収差除去OFF
18mm / ディストーション補正OFF / 倍率色収差除去OFF20mm / ディストーション補正OFF / 倍率色収差除去OFF
24mm / ディストーション補正OFF / 倍率色収差除去OFF

 わずかに残っている歪みも、ボディ内収差補正機能を使えばほぼ完全に取り除かれ、さらに良好な描写を得ることができる。実例として、12mmと15mmの焦点域で「倍率色収差除去」「ディストーション補正」ともにONにして撮影したデータを掲載する。上に掲げた無補正のものと比較すれば、効果を読み取っていただけると思う。


12mm / ディストーション補正ON / 倍率色収差除去ON15mm / ディストーション補正ON / 倍率色収差除去ON

収差補正機能のON/OFFは、メニュー設定からも行なえるが、INFOボタンを押して表示されるコントロールパネルから操作するのが早い「ディストーション補正」をオンにすれば、歪曲収差補正が有効になる。同様に倍率色収差補正もオンにすれば、広角レンズの周辺で気になりやすい色のにじみが軽減される。

 DA 12-24mm F4 ED AL [IF]には花形フードが付属するが、このフードがとてつもなく大きい。レンズにリバースマウントして収納できるようになっているものの、カメラバッグへの収納はかなり苦しい。固定長のフードでズームレンズに対応するにはできる限り大径である方がいいのだけれども、さすがにこれは若干やり過ぎという感じがする。


直径は左の8-16mm F4.5-5.6 DC HSMとほぼ同じなのだが、フードの直径が10cmほどあるため、非常にかさ張る。10cmといえばEOSのLレンズ並みのサイズだ。ものによっては小型バッグにフードを逆付けで収納することは難しい。無理に押し込んで取り付け部を破損するよりも、外して別に収納する方が無難。

 しかしながら。この立派なフードに加え、smcコーティングや内面反射防止が功を奏し、逆光時の抜けのよさは見事。画角ギリギリのところに太陽が入る構図でもゴーストやフレアの発生は最小限に抑えられている。


DA 12-24mm F4 ED AL [IF] / F4 / 12mmDA 12-24mm F4 ED AL [IF] / F16 / 12mm
DA 12-24mm F4 ED AL [IF] / F4 / 24mmDA 12-24mm F4 ED AL [IF] / F16 / 24mm

 ただし、長焦点側で軽いフレアが認められた。基本的には充分なコントラストを持つものの、smc PENTAXレンズとしては良い点は与えられず、8-16mm F4.5-5.6 DC HSMのような可変ズームフードがあればと思わざるを得ない。


DA 12-24mm F4 ED AL [IF] / 約6.8MB / 4,928×3,264 / 1/1,000秒 / F10 / -0.3EV / ISO400 / WB:オート / 21mmDA 12-24mm F4 ED AL [IF] / 約6.6MB / 4,928×3,264 / 1/640秒 / F10 / -0.7EV / ISO400 / WB:オート / 21mm
DA 12-24mm F4 ED AL [IF] / 約6.8MB / 4,928×3,264 / 1/500秒 / F9 / -0.7EV / ISO400 / WB:オート / 24mm

まとめ

 DA 12-24mm F4 ED AL [IF]は、標準ズームとのコンビで使うにはもってこいの1本。焦点距離の中間値(18mm)が標準ズームの広角端と等しく、標準に近い画角から超広角までを広くカバーできる。一般的な建築物や風景など「箱の外側を撮る」撮影ならば、広角側は12mmで充分なことがほとんどだ。

一方、インテリア撮影など「箱の内側を撮る」タイプの撮影では8-16mm F4.5-5.6 DC HSMが断然威力を発揮する。ただし、長焦点側も超広角域に留まるこのレンズはスナップなどには非常に使いにくく、陸に上がったカッパのようなことになってしまう。この二本に関しては、適材適所で選ぶとしかいいようがなく、それさえ間違えなければいずれ劣らぬ名レンズと言える。

 DA 15mm F4 ED AL Limitedは、できるだけ荷物を増やしたくない場合に、標準ズームにプラスする一本として魅力的だ。一見玄人好みのレンズと思われがちだが、取り回しがよく、画角も扱いやすいので、初心者にも勧めやすい。軽量で持ち歩きも苦にならず、広角レンズ入門用としてもうってつけだろう。


【2012年11月2日】記事初出時、SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC HSMについて「ピントの微調整やMFには切替スイッチ操作が必要」と記載しておりましたが、正しくはピントの微調整(フルタイムマニュアル)はスイッチ操作不要で行なえます。






大高隆
1964年東京生まれ。美大をでた後、メディアアート/サブカル系から、果ては堅い背広のおじさんまで広くカバーする職業写真屋となる。最近は、1000年存続した村の力の源を研究する「千年村」運動に随行写真家として加わり、動画などもこなす。日本生活学会、日本荒れ地学会正会員

2012/11/1 00:00