交換レンズレビュー
HD PENTAX-DA 18-50mm F4-5.6 DC WR RE
カメラに付けたままコンパクトに持ち歩ける沈胴ズーム
Reported by 大高隆(2016/5/2 08:00)
HD PENTAX-DA 18-50mmF4-5.6 DC WR REは、沈胴機構を採用して収納性を高めた標準ズームレンズだ。焦点距離は18-50mmでAPS-C用のイメージサークルをカバーし、画角は35mmフルサイズ換算の27.5-76.5mmに相当する。
基本設計を同じくするsmcコーティング版が、PENTAXのエントリーモデルであるK-S2のキットレンズとしてセット販売されているが、今回取り上げるのは単体販売されているHDコーティング版の方だ。
デザインと操作性
外形寸法は最大径71mm×全長41mm(沈胴時)で、重さは158gと軽い。これでもかと言わんばかりにプラスチック責めの鏡筒は高級感とは無縁だが、作りはしっかりしている。
光学系は異常低分散ガラスと非球面レンズを含む8群11枚で構成される。開放絞りはF4-5.6、最小絞りはF22-32。絞り羽根は7枚の円形絞りを採用し、開放から1絞りの範囲で円形を保つ。
最短撮影距離はズーム全域で0.3mで、最大撮影倍率は0.23倍(およそ1/4倍)とかなりの接写が利く。
沈胴時の41mmという長さは標準ズームレンズとして際立って薄く携帯性はいい。しかし、沈胴機構を収めた鏡筒は太く、伸長するとHD DA 20-40mm F2.8-4ED Limited DC WRよりも少し長くなるので、印象としてコンパクトというわけではない。
同梱品として専用のフードと、フードにかぶせるキャップが付属している。沈胴時の薄さと遮光効果を両立させた形状のフードだが、プラスチックなので金属製のように薄く作ることができず、ややかさばってしまっている。鏡筒先端には58mmのフィルターネジが切られているので、携帯性を追求するならフードは外し、普通の58mm径キャップを使ったほうがコンパクトになる。
撮影するときはロックを解除しながらズームリングを回してレンズを伸長する。同時にカメラの電源もオンにしなければならないので咄嗟のチャンスに対する速写性はいいとは言えない。
ズームリングとフォーカスリングが接近しているうえに幅も狭いので操作が窮屈だが、その辺りは沈胴レンズの宿命なので慣れるしかない。
AFはDCモーターによるレンズ内モーター方式を採用し、静かにスッと合焦する。クイックシフトフォーカスシステムにも対応し、合焦後はスムーズにMFに移行できる。もっとも、このレンズは「パワーフォーカス」仕様なので、AFとMFが干渉しないのは半ば当然かもしれない。
「パワーフォーカス」というのは、フォーカスリングの回転を機械的に伝えて光学系を動かすのではなく、フォーカスリングを回す動きに合わせてAFモーターが作動し、レンズを駆動する方式だ。つまりモーターでMFを行なうわけで、操作に対するタイムラグや、微妙な調整ができないのではないかと懸念されるかもしれないが、その点はよくチューニングされており問題ない。
当然、AFモーター用電源接点を備えたKAF2マウントのボディ専用になり、それ以前の古いPENTAXでは全く撮影できない。購入を検討する場合は、ボディとの対応状況をよく確認しよう。
遠景の描写は?
広角18mm側。画角中央部は開放からシャープだが、周辺画質はそれより落ちる。特に、画面右側のビルがボケているのが目立つ。いくらか像面湾曲があるようで、周辺部は画角中央と比べて手前にピントが来ているように見える。
これが本来の光学設計によるものか、あるいは沈胴機構の精度の問題なのかはわからないが、いずれにせよ18mm側の遠景描写には高い点はつけにくい。光学系のアライメント(整列)に要求される精度は、焦点距離が短いほど、撮影距離が無限遠に近いほど厳しくなるので、広角側の無限遠テストは、このレンズにはいささか酷な条件かもしれない。
歪曲収差や倍率色収差はボディの補正機能も併用すれば十分に抑えられており、問題はない。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
長焦点側50mm。開放から画面の隅々まで文句のない描写を示している。倍率色収差/軸上色収差ともに目立たず、解像力も十分以上に高い。一絞り絞ったF8が解像力のピークになるが、回折補正の効果でF11でもまずまずシャープ。F16までは実用範囲。F22あるいはF32の最小絞りは、高速シャッターが足りない場合以外は避けた方が無難だ。
収差補正を使って撮影した画像でレンズ性能を評価することの是非は考えどころだが、最近のPENTAXの場合、回折補正はデフォルトでONになっている。テストに使ったK-3 IIの撮像素子は、計算上F8を超えると回折による小絞りボケが認められるようになる。回折補正なしでは、このレンズの解像力のピークが現れるはずのF11辺りで性能を発揮できず、実際よりも「解像力が悪い」という印象を与えかねない。そうした兼ね合いから、ここでは回折補正Onのままで評価した。
回折補正は3世代以上前のPENTAXには備えられていないが、その時代の機種は撮像素子が1,600万画素クラスなのでF13~F15程度までは問題ない。つまり、このレンズに期待できる性能は、ここに掲げた回折補正ONのK-3 IIによる撮影データで代表できるとみて差し支えない。
本来、このレンズは、2,000万画素のK-S2や、それ以前の1,600万画素のAPSC・PENTAXと組み合わせるのがふさわしく、2,400万画素のK-3 IIでのテストは少々酷だったかもしれない。
ボケ味は?
最短撮影距離付近では、18mm側も50mm側も大きな崩れはなく良いボケだと言える。球面収差は18mm側でやや過剰補正、50mm側で補正不足タイプのようだ。非球面レンズを1枚使っているが、いわゆる玉ねぎボケはみとめられない。
2m~5mの中距離では18mm側も50mm側も前ボケの方が穏やかで、後ボケに少し輪郭が生じるタイプ。やや過剰補正型に転んでいるようだが、無難なボケだといっていいだろう。遠景テストで芳しくなかった18mm側の周辺描写も、中距離・近距離では気にならない。
逆光耐性は?
逆光耐性のテストは長辺のほぼ中央に太陽が入る構図で撮影した。この条件はAFモジュールなどがあるミラーボックスからの乱反射がシビアで、総合的な逆光性能を測るのに向いている。
結果、さすがにHDコーティングは伊達ではなく、どのショットも強いフレアはなく、目立つようなゴーストも生じなかった。
作品
パンフォーカスを狙ってF11に絞り、空を濃い色に写すため-2/3EVの露出補正をかけた。少し右隅が甘いが、年季の入ったステンレスの質感がよく写っていると思う。
風に揺れる満開のハクモクレンの花を、50mm側で開放、1/1,000秒の高速シャッターで写し止めた。絞り開放で現れるハイライトのにじみがこのレンズの持ち味の一つだ。
石の質感と、街路樹の枝とその影の対比を狙った。カスタムイメージでキーとコントラストを少しあげ、少し硬く出るように調整した。
解像力を最大にするためにF8を選択。手前の壁のボケと自転車のフレームの重なりを微妙に変えながら10枚ほど連写中の一コマ。ボケに嫌味はなく、とてもシャープに写る
ホワイトバランスCTEを選択してボディカラーを強調。絞りはF9だが、カメラが1,600万画素クラスであればF16まで絞るところ。強目のフリンジが出ているが、フリンジ補正が使えるカメラであればこれも補正可能だ。
雨天で風も強かったのでISO800で1/640秒のシャッターを切る。私の中の主題は雨に打たれた花だったが、鉄道写真なら、列車にピントを合わせて1/1,000秒が絞りと感度を選ぶだろう。
50mmの最短撮影距離で接写。開放F値が暗いので荒天時のマクロ撮影はピント合わせが難しいが、うまくいけばこれくらいに写る。
法面の下草の緑を背景に満開の桜の淡い桜色を引き立たせることを狙った。ヒキの絵なので解像力を最大にするためF8で。カスタムイメージ「鮮やか」、WB「色温度指定6,250K」で温かみのある色合いにして、花びらの色を殺さないようにした。あと2メートル身長が高ければ背景を完全に緑で占めることができるのだが叶わず。
まとめ
このレンズの最大の魅力はなんといっても、沈胴させてコンパクトに携行できることだ。プラスチックを多用した軽さと絞り開放の柔らかい描写などは、低価格の入門用大口径として人気の有るDA35mm F2.4ALやDA50mm F1.8と通じるものが感じられる。実際、その辺りのレンズと組み合わせは面白そうだ。
遠景テストの広角側で少し残念な結果だったが、全般的な性能は十分なレベルだ。近距離の描写は優れており、50mmの開放はハイライトのにじみと柔らかい後ボケが印象的だ。解像力は十分なので、コントラストの強い光線状態を作ってポートレートや花を撮るといいかもしれない。
身辺の記録やスナップ写真向きのレンズで、高画素数のカメラでじっくり風景を狙うには向かないが、K-S2をはじめとする軽量なPENTAXとの組み合わせで、ハイキングや登山、あるいは日常的な散歩のお供として活躍してくれるだろう。