交換レンズレビュー
SIGMA 50-100mm F1.8 DC HSM | Art
他に類のないズーム全域F1.8を実現した望遠ズーム
Reported by 北村智史(2016/4/27 08:00)
シグマ「Art」ラインは、妥協を排して作品づくりを行なうユーザーのために、高い光学性能と表現力を追求したレンズ群であり、画質を最優先にした設計がなされているのが特徴だ。ここで紹介する50-100mm F1.8 DC HSM | Artも、その1本である。
F1.8の明るさを持つAPS-Cサイズ専用の大口径ズームとしては、すでに同社の18-35mm F1.8 DC HSM | Artが発売されており、50-100mm Artはそれにつづく第2弾となる。
35mmフルサイズに換算して75-150mm相当(キヤノン用は80-160mm相当)の2倍ズームで、望遠側はやや物足りない数字だが、単焦点の85mm、100/105mm、135mm相当の画角をカバーしてF1.8の明るさとなれば、ポートレートをメインにしている人にはとても魅力的なスペックといえる。
バヨネット式の花形レンズフードとケースが付属している。キヤノン用、シグマ用、ニコン用が用意されている。
デザインと操作性
焦点距離から考えればかなりの大きさである。最大径は93.5mm、長さは170.7mm。重さは1,490gある(いずれもシグマ用の数値)。正直にいってかなり大きいし重い。が、ほかの大口径望遠ズームの数字を見てみると、70-200mm F2.8クラスで1.5kg前後なので、重さ自体は我慢すべき範囲といえる。
ちなみに、キヤノンのEF 50mm F1.8 STM、EF 85mm F1.8 USM、EF 100mm F2 USMの3本を足すと、重さは1,045g、税別で15万円となる。ニコンのAF-S 50mm F1.8 G、AF-S 85mm F1.8 G、AF DC 105mm F2 Dの3本では1,175g、24万7,500円だ。
光学系は15群21枚構成で、蛍石と同等の性能を持つというFLDガラスレンズを3枚、特殊低分散のSLDガラスレンズを1枚と高屈折率SLDガラスレンズを3枚、高屈折率高分散ガラスレンズを1枚採用するというぜいたくな設計となっている。
ズーム操作をしてもレンズ全長が変化しないインナーズーム方式を採用。操作はとても滑らかで、気持ちよくまわせる。ズーミングによる重量バランスの変化もほとんどない。AF駆動源は新設計の薄型HSM(超音波モーター)、ピント合わせはインナーフォーカス方式で静かで速い。フォーカスリングにもほどよいトルクがあって、MF操作も快適に行える。
三脚座は回転式で取り外しはできない。動きは非常に滑らかでガタツキがなく、気持ちよく操作できる。90度ごとにクリックストップがある。素早く縦横を切り替えるには便利だが、左右の傾きの微調整を三脚座側で行ないたい場合に、少しだけ動かす操作ができないのはちょっとうれしくない(あくまで個人的な好みの問題ではあるが)。
残念なのは、手ブレ補正機構を内蔵していないこと。画質最優先のArtラインだけに手ブレ補正機構がないのは必然ではあるが、この重さのレンズを手持ちで撮るのは手ブレ補正なしでは案外にきつい。防塵・防滴でないのも物足りない点だ。
遠景の描写は?
このレンズにかぎったことではないが、撮影の前に、ピントのチェックを忘れずにやってもらいたい。どれほど画質のいいレンズであっても、ピントが合わなければぼやぼやした写真しか撮れないのだから、愛用のカメラのAFでちゃんとピントが合ってくれるかどうか確認しておくことはとても大事だし、必要に応じてピント位置を正確に微調整しておきたい。
別売の「SIGMA USB DOCK」を利用すると、カメラの微調整機能よりも細かなチューニングが行なえるので、できればレンズといっしょに手に入れることをおすすめする。
実写画像をざっと見た印象では、ケチのつけどころのないレンズといっていい。ズームのどの焦点距離でも、画面全体でシャープな仕上がりがえられた。
細かく見ていくと、絞り開放は各焦点距離ともにわずかにアマさがあるが、画面中心部はF2.8まで絞るとほぼベストの状態となる。四隅もF5.6まで絞ったほうがいいようで、F8あたりまでは良好な画質がキープできる。F11からは回折の影響が出はじめ、F16でははっきりと解像が悪くなる。
歪曲収差は広角端で弱いタル型、望遠端で弱いイトマキ型という典型的なパターンだが、量的には小さいので、直線的な被写体を撮るのでなければ無視できるレベルだと思う。
周辺光量の低下もあまり大きくなく、絞り開放でもひどく目立つことはないし、F2.8まで絞れば気にならなくなる。大口径ズームとしては良好だと思う。
周辺部にわずかながら倍率色収差が見られる。キヤノン機は純正レンズしか補正してくれないので(このへんはニコン機がうらやましい)、ピクセル等倍で見ると、少し気になる場合があるかもしれない。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像をダウンロード後、800×600ピクセル前後の縮小画像を表示します。その後、クリックした箇所をピクセル等倍で表示します。
- 縦位置で撮影した写真のみ、無劣化での回転処理を施しています。
ボケ味は?
最短撮影距離はズーム全域で0.95m。最大撮影倍率は1:6.7(約0.15倍)。広角端では、もう少し寄りたいなぁ、と感じるが、そのせいでこれ以上大きくなられも困るし、ぜいたくはいわないことにする。
広角端は絞り開放でも十分に解像するが、望遠端は薄く紗がかかったようなソフトな描写になり、シャープさがほしい場合は、少なくともF2.8ぐらいまでは絞りたい。
開放F値が明るいだけあって、ボケの量は大きい。質のほうも上々で、硬さがなく、前ボケも後ボケも開放から絞った状態まで、神経質なところはまったく出てこない。解像感の高いレンズで見られがちな二線ボケ傾向がないのが好印象だ。
中距離でも、ピントが合った部分の前後がすうっと滑らかにボケていくところは見ていて気持ちがいい。
ただ、中~近距離の撮影時に、特に望遠端の絞り開放付近で周辺光量の低下がやや大きいように思う。やはり、F2.8まで絞ればあまり目立たなくなるが、カメラの補正機能がはたらかないだけに、気になるシーンがあるかもしれない。
作品
解像感を強調する設計のレンズだと、エッジの強いざわっとしたボケになりやすい条件だが、いやな感じにならないのがこのレンズの持ち味。ピントが合った部分の描写もいい。
望遠端の最短撮影距離付近でF5.6まで絞ったカット。解像のよさもあるが、ピントの前後の滑らかにすうっととけていくボケ方がとても魅力的。
正直、大きくて重いので、持ち歩きは楽しくない。が、こんなふうなボケ方をされたらたまらない気持ちになってしまう。写りは楽しい。
絞り開放だとシーンによっては周辺光量落ちが気になるので少し絞ってF2.8。普通の大口径ズームなら絞り開放のF値が、少し絞ったところだったりするのがおもしろい。
喫茶店の看板を望遠端の絞り開放で撮ったカット。前後のボケだけ見ているとズームレンズっぽさはまったくない。できのいい単焦点レンズのような写りだ。
アンティーク調の外灯を前ボケにしてみた。画面の左端で倍率色収差が見られるが、量としては小さい。キヤノンさんがもうちょっとサードパーティーレンズに優しくしてくれたらいいのになぁって思う。
ピクセル等倍で見ると看板の左上の部分のボケがほんのちょっぴりうるさい感じになっているが、それ以外はほんとうにいやなところがなくて、すごいなぁって思う。
まとめ
ズームでF1.8通しの明るさを持つこのレンズのいちばんの泣きどころは大きさと重さ、そして手ブレ補正機構を持たないことだ。といっても、これはないものねだりでしかなくて、ほかにケチをつけるところが見当たらないから愚痴っているだけである。
写りだけならほんとうに楽しいレンズである。画面の隅々までシャープな描写は、単焦点レンズに引けを取るものではない。自然で滑らかなボケも素晴らしく、変なクセがない分あつかいやすくていい。日ごろから単焦点レンズを使い慣れている人でも、このレンズならシャープさやボケ味に不満を感じることはないのではないかと思う。
今までは、大口径望遠ズームといえば、70-200mm F2.8クラス以外の選択肢はあまりなかったのが、この50-100mmの登場で、レンズ選びの幅が広くなった。比較的短めの焦点距離でボケを重視した画づくりをしたいなら、このレンズはきっと役に立ってくれるはずだ。