交換レンズレビュー
タムロン 50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD
広角側50mmからスタートする異色の望遠ズームレンズ その使い勝手は?
2024年6月27日 12:00
タムロンからソニーEマウント用交換レンズ「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」が発売された。35mmフルサイズ対応の望遠ズームレンズとして、広角側50mmはじまりの扱いやすさが魅力の1本となっている。
新しいズームコンビの誕生
「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」(以下50-300mm)は、広角端50mmからはじまる望遠ズームレンズだ。50mmからスタートしているというのが面白く、広角端が70mmの一般的な望遠ズームレンズとは被写体への向き合い方が違ってくる気がした。
というのも、70mmと聞くと中望遠という言葉が頭に浮かぶが、50mmと言われれば間違いなく標準域と考えるだろう。それによって被写体に向き合った際にはじめに中望遠の画をイメージするか、標準の画をイメージするかでは全くアプローチが違うのだ。
そしてこのレンズを語るにはもうひとつ大きな要素がある。それはタムロンが同じEマウント用レンズとして2023年に発売した「17-50mm F/4 Di III VXD」(以下17-50mm)があるということだ。そう、この17-50mmとセットで運用すれば超広角から望遠までを2本のズームレンズで撮りきってしまえるのだ。
自然風景を撮影するフォトグラファーの多くは、超広角ズームレンズ/標準ズームレンズ/望遠ズームレンズの3本を基本セットとしていると思うが、それが2本セットに減らせられるのであれば、こんなにうれしいこともない。荷物の軽量化やレンズ交換の頻度を減らせるなどメリットは計り知れない。
デザインと操作性
70mmではなく50mmまで広角側を広げているが、レンズそのものは巨大化せず小型軽量。重量は665g、最大径78mm、長さ15mmと、一般的な70-300mmクラスのレンズよりも小さいくらいに抑えられているのが素晴らしい。とはいえタムロンの超軽量な望遠ズームレンズ「70-300mm F/4.5-6.3 Di III RXD」の545gには敵わないが。
ちなみにタムロンには50mmスタートの超望遠ズームレンズという、似たようなコンセプトの製品もある。ただしその「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」は1,155gなので、今回とりあげるレンズがかなり軽いという説明にもうなずけるはずだ。
フィルター径は67mm。ここ最近タムロンで発売しているレンズの多くが67mmで統一されており、そのこだわりは素直にすごい。ちなみにコンビで使いたい17-50mmもフィルター径は67mmだ。
簡易防滴構造の鏡筒となっているため、比較的安心してフィールドで使用できる。
鏡筒デザインは凹凸の少ないシンプルなものだが、外装やゴムローレットの仕上げなどのクオリティーは高い。ズームした際の鏡筒にガタツキなどもない。50mmから300mmへのズームリングの回転角は90度未満で、スッと伸ばせる感じが扱いやすかった。ズームリングのトルクも軽すぎず重すぎず適度。
ズームロック機構も搭載されている。とはいえ、首から下げて歩いていても、繰り出し部分が自重落下してくることはなかった。なお、ズームロック機構にオート解除機能はない。
側面にはフォーカスセットボタンを1つ備えている。VCモードのON/OFFといったスイッチ類は非搭載。
専用ソフトウェア「TAMRON Lens Utility」へ接続するためのUSB Type-C端子を1つ備えている。
解像性能
レンズは14群19枚、うち特殊硝材レンズXLDレンズを2枚、LDレンズを2枚使用して高画質化が図られており、ズーム全域で開放F値から高い解像力を持っている。
特に広角側で非常に解像力が高く、(開放F4.5ではあるものの)50mmの単焦点レンズとして考えても優秀な部類に入ると感じる。
なお画面内に強い光源があると、それなりに目立つゴーストが発生する。
広角端50mmで遠景を撮影。画質は極めて良く、周辺部に至るまで非常に高い解像力を持っている。
同じ位置から300mmで撮影。枯れ木のディテールをしっかりと描けており十分な解像力だ。
ただ最周辺部の線がにじむ印象があり、やや解像力が落ちる。とはいえ実用的には十分な解像力で、目くじら立てるほどのものでもないので安心してほしい。
近接性能
近接撮影能力も大きな魅力だ。50mmでの最短撮影距離は0.22mで、最大撮影倍率1:2のいわゆるハーフマクロ。ワーキングディスタンスは非常に短く、50mm時の最短撮影距離では大抵の場合でフードが被写体にぶつかってしまうほどとなる。
望遠側にズームしていくとだんだんと最短撮影が長くなり、300mmで0.9m、最大撮影倍率1:3.1となる。50mm側と300mm側で最短撮影が約70cmも変わるため、近接撮影時にズームをすると思っている以上に撮影ポジションを前後しなくてはならないのはちょっと慣れが必要だ。
セイヨウキンシバイをズームしながら最短撮影距離で比較撮影してみた。
[共通データ]ソニー α1/50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD/絞り優先AE(絞り開放)
ボケ感
非球面レンズを採用していないこともあり、丸ボケの中に年輪ボケの発生はなくきれいだ。丸ボケの形は焦点距離でキャラクターが変わるので、好みでズーム域を調整したい。
50mm前後は焦点距離の短さもあり、近接撮影でない限りは大きなボケにはならない。ボケの輪郭は少しあるが汚く感じるほどでもない。
135mm前後のボケ感がもっともバランスがいい。丸ボケの形もきれいな円形の範囲が広く、ボケの輪郭もやわらかできれいだ。
300mm前後でボケの輪郭がもっともやわらかくなるが、口径食の影響がかなり大きくなり、完全な円形の丸ボケは画面最中央部のみとなる。
作品
2段で流れる滝を焦点距離50mmで撮影した。50mmという標準域で撮れてレンズサイズも小さいので、あまり望遠ズームレンズという感じがしないのが本レンズのいいところ。50mm近辺での解像力が非常に良く満足感が高い。
ダムの橋の上から水中木を撮影した。弱い風が流れていい描写が得られた。ズーム中間域の150mmあたりでも解像力は非常に高い。
50mm近辺での近接撮影はとても楽しい。撮影するたびに「あれ? まだ寄れる」を繰り返してしまう。なお近接撮影時には周辺部は収差が大きくなり画が流れる傾向にあるが、本格的なマクロレンズでもないのでそこはご愛嬌ということで。
くるりとした新芽がかわいい。100〜135mmあたりの焦点距離が撮影倍率やワーキングディスタンス、ボケ味などの近接撮影能力がもっとも良く感じる。
草むらからひょっこり顔を出したシマリス。ふくれた頬袋がかわいい。動物認識AFにおけるAFのスピードや食いつきも良く、被写体を認識さえしていればピントを外しているカットは1枚もなかった。
ウスバカゲロウが高い木の枝に止まっていた。300mmでも少し足りなかったのでAPS-Cサイズにクロップして、35mm換算450mmの画角で撮影。クロップしても解像力は全く問題なく、十分に作品クオリティーで撮影できる。
まとめ
50-300mm F/4.5-6.3は、標準50mmから望遠300mmまで使える超便利な望遠ズームレンズ。300mmまであれば一般的な望遠域の撮影は十分であり、小型軽量なサイズからも風景写真やスナップ、ファミリーフォトの現場でかなり重宝すること間違いなしだ。
また50mmのハーフマクロレンズとしても使えるのがいい。いつもマクロレンズを持ち歩いてはいるものの等倍撮影まではしない、というユーザーは、本レンズがあればほとんど困ることはないだろうから、さらに持ち運ぶ機材を減らすこともできる。
画質にはしっかりこだわりつつも機材重量をもっと減らしたい、レンズ交換の頻度も減らしたいというユーザーは一度、17-50mmと50-300mmの超便利なズーム2本システムを検討してみるといいだろう。