交換レンズレビュー

SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art

全域F1.8、しかも抜群の描写性能…新たな可能性を感じる“超”大口径ズームレンズ

シグマから発売された「28-45mm F1.8 DG DN|Art」は、35mmフルサイズミラーレスカメラ対応の大口径ズームレンズで、Lマウント用とソニーEマウント用が用意されています。

特徴は、ズーム全域で絞り開放F1.8を実現していること。シグマはこれまでにも「18-35mm F1.8 DC HSM|Art」や「24-35mm F2 DG HSM|Art」といった、F2.8より明るい大口径ズームをラインナップしてきましたが、それらはいずれも一眼レフカメラ用のレンズ。つまり本レンズは、世界初となるフルサイズミラーレスカメラ用の超大口径ズームレンズというわけです。

サイズ感と操作性

外形寸法は約φ87.8×153.4mmで、質量は約950g(ソニーEマウント用)。28-45mmという広くもないズーム域の割には、あまりにも大きくて重いのですが、これはズーム全域で開放F1.8という大口径を実現したことからでしょう。

お世辞にも携帯性が良いとは言えませんが、重量バランスがとても良く、インナーズームが採用されていることもあって、実際にカメラにレンズを付けて撮りまわってみると、思ったほど撮影に苦労するようなことはありませんでした。

今回は、主にソニーの「α7R V」で試写を行いましたが、「α7C II」との組み合わせでも案外いけてしまったのは意外だったところ。Lマウント用では、シグマの35mmフルサイズミラーレスカメラ「fp」シリーズを使うことも想定されているはずですから、不思議な話ではないのかもしれません。

レンズ先端から順に、フォーカスリング、ズームリング、絞りリングと並びます。絞りリングの搭載は、近頃のシグマの高性能ラインではおなじみとなってきました。フォーカスリングとズームリングの間には、好みの機能を割り当てられる「AFLボタン」が2カ所に備えられています。

ボタン類としてまず目につくのが、鏡筒左側にあるAFとMFを切り換えるための「フォーカスモード切換えスイッチ」。

その下に、絞りリングのクリックの有無を切り換えるための「絞りリングクリックスイッチ」。

さらに反対側には、絞りリングを「A」位置に固定するための「絞りリングロックスイッチ」を備えています。

花型のレンズフード「LH878-06」が同梱されています。質感が良い上に取り付けやすく、遮光効果も高い優れたレンズフードです。多くのレンズで、立派なレンズフードを用意してくれているのは、シグマレンズの長所のひとつと言えると思います。

解像性能

ここからは実写の結果を見ていきたいと思います。ズーム域が控えめとはいうものの、破格の全域F1.8ということで「描写性能はそれなりなのでは?」と不安を覚えるところです。ここで、広角端と望遠端のそれぞれで、絞り開放F1.8での解像性能を確認してみましょう。

まずは、広角端28mmで撮影したものが、以下の画像になります。

広角端
ソニー α7R V/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/28mm/絞り優先AE(1/8,000秒、F1.8、−0.7EV)/ISO 100

結果から言えば、絞り開放F1.8とはまったく思えない、素晴らしい解像性能を見せてくれました。これは驚きです。画面の広い範囲で高い解像感を発揮しており、さすがに周辺部はやや低下するものの、解像感が自然につながっているため、作画的に気になることはありません。

レンズ補正の「周辺光量補正」を「オート」にした場合でも周辺光量は不足しますが、スペックから考えれば問題のないレベルだと思います。「歪曲収差補正」は初期設定の「切」のままでしたが、気になるような歪みが見られないところは、非常に立派な結果と言えるでしょう。

次に、望遠端45mmで撮影したのが、以下の画像になります。

ソニー α7R V/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/45mm/絞り優先AE(1/8,000秒、F1.8、±0.0EV)/ISO 100

広角端と同じく、こちらも絞り開放F1.8とはまったく思えない、素晴らしい解像性能です。周辺でわずかに解像感が低下するのも同じですが、望遠端の方がより目立ちにくく高画質を感じやすいのではないかと思います。ある程度の周辺光量の低下がみられるのも同じですが、むしろ効果的に作画に活かしたくなる程度ですので、肯定的に捉えたいところです。

全域F1.8の大口径ズームレンズながら素晴らしい実写結果でした。シグマは以前にも一眼レフ用としてズーム全域F1.8の製品を出していますが、少なくとも解像性能においては大きな進化を遂げていると言って問題はありません。こうしたことは、ミラーレスカメラ用のレンズとしての利点を、よくよく活かしているからこその結果だということが推測できます。

近接撮影性能

本レンズの最短撮影距離は、ズーム全域で30cmと一定になっています。最短撮影距離が一定と言うのは、ズームレンズにおいて、撮りやすさを提供してくれます。というより、全域F1.8のズームレンズと考えると、素直にスゴイと言えるのではないかと思います。

広角端28mmでの最短撮影距離は30cm。コスモスの花くらいですと、画面いっぱいに写すのは難しいですが、大きく写ったコスモスを適度に配置して、背景を広く写すことは容易にできます。いわゆる「広角マクロ」の作画がやりやすいということですね。

ソニー α7R V/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/28mm/絞り優先AE(1/800秒、F1.8、±0.0EV)/ISO 100

望遠端45mmでの最短撮影距離も30cmです。焦点距離45mmのレンズ(しかも35mmフルサイズ)で、最短撮影距離が30cmでしたら、全域F1.8のズームレンズでなくとも「かなり寄れるレンズ」といって良いのではないかと思います。

ソニー α7R V/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/45mm/絞り優先AE(1/800秒、F1.8、+0.3EV)/ISO 100

作例のコスモスでしたら、まさに画面いっぱいに花を写すことができます。F1.8だけに被写界深度が浅く花が浮き上がったように写せるのは、明るいレンズならではの表現といえるでしょう。

作例

絞り開放F1.8から解像性能に優れた本レンズですが、絞り込めばさらに解像感は高くなり、画面の隅々までいきわたった鮮鋭な画像が得られます。周辺光量の低下もF4以上に絞ればほぼ完璧に解消されるといった結果でした。

ソニー α7C II/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/28mm/絞り優先AE(1/40秒、F8.0、−0.7EV)/ISO 100

望遠端が50mmでなく45mmであることに少し物足らなさを感じましたが、試写中に標準域として使った画角はほぼ40~45mmの間に収まっていました。個人的な趣向もありますが、筆者の場合、それほど50mmにこだわる必要もないと思い直した次第です。

ソニー α7C II/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/28mm/絞り優先AE(1/125秒、F4.0、±0.0EV)/ISO 100

コムギ畑のなかに小さな可愛い花が咲いていましたので、出来るだけ寄って撮影しました。最短撮影距離は30cmですが、なにしろ開放絞り値がF1.8ですので、前後のボケは非常に大きくなり幻想的な写真を撮ることができます。

ソニー α7C II/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/45mm/絞り優先AE(1/1,600秒、F1.8、±0.0EV)/ISO 100

リニアモーターが採用されていることもあって、大柄な鏡筒であってもAFスピードは速く、不満を覚えるようなことはありません。精度や静粛性についても優れており、動く被写体であっても浅い被写界深度のなかに高い歩留まりでピントを捉えてくれました。もちろん、ソニー製カメラの被写体認識機能や瞳AFにシッカリ対応しています。

ソニー α7R V/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/40mm/絞り優先AE(1/200秒、F1.8、±0.0EV)/ISO 800

大口径であることばかりに意識しがちですが、質感表現やボケ味などの描写性能も大変素晴らしいレンズです。ズーム域は広くないものの、この優れた描写性能と選択できる絞り値の幅広さを考えると、写真表現の幅も実はかなり広いレンズだと感じました。

ソニー α7C II/SIGMA 28-45mm F1.8 DG DN|Art/40mm/絞り優先AE(1/4,000秒、F2.8、−1.0EV)/ISO 800

まとめ

35mmフルサイズ対応でズーム全域F1.8のレンズ。使用頻度の高い焦点域で実現してしまうところがシグマのすごいところですね。なんともロマンのあるレンズです。

そして、ただロマンチックなだけでなく、描写性能は絞り開放からリアルに高く、大柄なわりには取り回しが良く使いやすいなど、実用面においても上手くまとめているのだから本当に素晴らしい。

ミラーレスカメラが普及したことに伴って、最近では本レンズのようにあえてズーム域を欲張らず、開放F値やサイズ感に付加価値を求める製品が増えているように感じます。ズーム域の広さだけが表現の幅を広げる要因でないことを、ユーザーが理解し要望しているということなのかもしれません。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。