交換レンズレビュー
NIKKOR Z 40mm f/2(SE)
寄りもこなせる準標準レンズ “いかにも”なデザインで気分もアップ
2023年11月28日 07:00
ニコンの「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」は、フルサイズ対応のミラーレスカメラ用として登場した標準単焦点レンズです。レンズ名にあるSEはSpecial Editionの略で、本レンズは2021年10月に発売された「NIKKOR Z 40mm f/2」と、外装デザインが異なる同じもの。SEを名前に持つレンズとしては「NIKKOR Z 28mm f/2.8(SE)」につづく第2弾になります。
本レンズが発売されたのは2023年1月のこと。どこかかつてのAIニッコールを思わせるレトロなデザインですので、APS-Cサイズ機(DXフォーマット)の「Z fc」向けに発売されたものと思っていましたが、この10月になってフルサイズ機(FXフォーマット)の「Z f」が登場しました。これで焦点距離40mmをニコンのヘリテージデザインで存分に楽しむことができます。
外観・操作性
本レンズの、最大径×長さは約71.5mm×45.5mm、質量は約170gとなっています。SEではない「NIKKOR Z 40mm f/2」の最大径×長さは約70.0mm×45.5mmで、質量は約170gですから、本レンズの方が約1.5mmだけ最大径が小さいことになります。これは単純に外装デザインの都合だと思うのですが、結果的には小型・軽量なレンズが少しだけとはいえ、さらに小さくなっています。
スマートないで立ちの「NIKKOR Z 40mm f/2」に比べて、フォーカスリング(後述)のゴムローレットやシンボリックな銀環を含めた鏡筒は、全体的に凹凸が強調されたデザインになっています。ヘリテージデザインの「Z f」や「Z fc」にはよく似合うのですが、一見して金属製に見える銀環をはじめ、多くのパーツは樹脂製を採用しており、高級感や重厚感のようなものはあまり望めません。
「NIKKOR Z 40mm f/2」と同じく、マウントも樹脂製です。ちょっと残念に思いますが、よほど過酷な撮影シーンであったり、よほど厳格な精度を要求されるような条件であったりでもしなければ、実際の撮影において問題となるようなことはないでしょう。価格を下げることでより多くの人が手にしやすいレンズになる、と考えれば納得できるというものです。
前述のフォーカスリングは、正確に言うと、Z マウントレンズではお馴染みのコントロールリングという名称です。初期設定では「フォーカス(M/A)」(AF時にコントロールリングを操作するとただちにMFに切り換わる機能)になっていますが、それ以外にもカメラ側の設定で「絞り値」「露出補正」「ISO感度」にすることもできます。
4群6枚のレンズ構成のうちには2枚の非球面レンズを配置し、9枚羽根の円形絞りを採用するなど、肝心の描写に関する仕様については本格的で手抜かりがありません。こうしたところはヘリテージデザインの「Z f」や「Z fc」と方向性を同じくしていると思います。
解像性能
絞りを開放のF2.0にして、平面的な建築物の撮影をしてみました。焦点距離40mmは、画角的な使いやすさもあって、風景写真などの広いシーンを絞り開放で撮る機会もあると思いますので、案外重要なのではないかと思います。
結果はと言いますと、中央付近は最高というほどではないにしても、絞り開放からほどよい解像感がありつつ、それが周辺にかけてゆっくりと低下していくという、現代的な高性能を維持しつつもオーソドックスで嫌味のない自然な写り。ヘリテージデザインが特徴のひとつですが、描写性能も好ましいと感じました。わずかに残る周辺光量落ちも作画に活かせそうです。
2段絞ったF4にすれば、中央付近はビシッと解像感が高まり、周辺部の甘さもほとんど解消されます。絞り込むほどに画面全体の描写性能が向上するという、往年の標準的な傾向を現代的に体現してくれているといった感じでしょうか。さらに絞り込んで、F5.6、F8.0、F11.0……と進んで行けば、ますます画面全体の解像感は完璧なものとなりますので、均質性を重視した撮影でも有効に使えると思います。
作例
35mmほどには広くなく、50mmほどには狭くない。40mmという焦点距離は、日常を見たまま自然に切り撮るのにピッタリな画角だと思います。個人的にはズームレンズでも40mm前後はよく使いますので、本レンズのような明るい単焦点レンズとして、さらにはヘリテージデザインのSEとして登場したことに、大いに存在価値を感じるところであります。
ピクチャーコントロールを「フラットモノクローム」にして撮影しました。本レンズとデザイン的にマッチする「Z f」は、専用レバーで直ぐにモノクロームに設定できるようになっています。レトロなデザインのカメラ&レンズだけに、モノクロームの写真を楽しむ機会も増えそうです。
最短撮影距離は0.29mで、最大撮影倍率は0.17倍。35mmフルサイズ対応の標準単焦点レンズとしてはかなり寄れる部類ですので、被写体を画面いっぱいに大きく写すことができます。花瓶の花を印象的に撮ったり、食べ物を美味しそうに撮ったりなど、テーブルフォトでも大活躍してくれそうですね。
AFは抜群に速いということもありませんが、気になるほど遅いということもなく、現行製品としては「まあ普通かな」と言ったところです。コンセプト的にそれほどスピードを要求されるレンズでもなく、軽量で小柄なレンズの性能としては十分と言っても問題ないでしょう。
AF精度も高く正確にピントを合わせることができるので、ピント合わせはAFに任せてしまい、前述のコントロールリングは絞り値や露出補正を割り当てるといった使い方もアリかもしれません。AF駆動にステッピングモーターを採用していることもあって、静音性は優れており、動画撮影にも安心して使えます。
草むらで2匹のウサギ(の置物)を発見しました。本レンズの絞り値は開放F2.0と明るいため、被写体の前後を大きくぼかして印象的に写すことができました。開放F値が明るいのは単焦点レンズである本レンズの大きなメリット。一般的な標準ズームレンズではなかなかこうはいきません。
強い光源(太陽)を画面内に入れての撮影です。作例では画面左下に小さなゴーストが発生していますが、いろいろ試した結果としてはこの程度が最大で、製品のクラスを考えると逆光耐性はかなり優秀なレベルだと思います。ただし、光源の周辺に発生するフレアは比較的多いため、光源の位置に注意するか、あえて作画に活かすなどの工夫が必要になります。
また、(「NIKKOR Z 40mm f/2」を含め)本レンズは専用のレンズフードは特に設定されていないので、必要な場合は汎用製品を各自で用意することになります。
まとめ
以上、「NIKKOR Z 40mm f/2(SE)」のレビューをしましたが、何度も述べますように、これは外装デザインを別にした「NIKKOR Z 40mm f/2」と写りや操作性はまったく同じです。つまり、どちらを使っても撮れる写真は同じ。違いは何かと言われれば、結局のところ気持ちの問題だけということになります。でも、カメラを操りながら写真を気持ちよく撮りたいと思うなら、それは結構大切な違いだったりするものです。
それにつけても、焦点距離40mmという画角は広すぎず狭すぎずで、自然なイメージの写真が撮れるのが魅力。開放F2.0の明るさや、寄れる最短撮影性能という、程よいスペックの良さも手伝って、単焦点レンズの存在価値を再確認するためにはもってこいのレンズなのではないでしょうか。
これがSラインのような高性能レンズなら当然のように価格も高くなり、気軽に手を出しにくいレンズとなってしまいますが、本レンズの場合、具合よく割り切った質感と描写性能に収めてくれているので、多くの人が標準単焦点レンズの良さに触れることができます。「SE」とするかどうかは、「Z f」または「Z fc」を所有しているかどうかによると思いますが、いずれにしてもZ マウントユーザーでしたら、「買っててよかった!」「持っててよかった!」と思えるレンズだと思います。