交換レンズレビュー

SAMYANG AF 75mm F1.8 X

小型軽量で取り回しの良い、APS-C専用の大口径中望遠レンズ

SAMYANGの「AF 75mm F1.8 X」は、APS-Cサイズセンサーを搭載する富士フイルムXマウント用の大口径中望遠AFレンズです。35mm判換算での焦点距離は112.5mm相当。

大きな特徴は純正レンズにはないスペックの大口径中望遠レンズながら、大変に軽く、コンパクトに仕上がっているところです。なおかつ、価格も比較的おてごろで提供してくれていますので、いやが上にも興味というものが湧いてくるというものです。

サイズ感と使用感

本レンズの最大径×長さは、φ70.0×69.3mmで、質量は約257g(レンズキャップ・フードを除く)となっています。コンパクトなサイズもさることながら、200g台という圧倒的な軽さが際だっています。

今回はXシリーズのフラグシップモデル「X-H2」で試写をしましたが、最近発表されたエントリーモデルの「X-S20」ともサイズ的な相性は良さそうです。

フィルター径も62mmと大きくありません。フィルターへの投資も大きくかけずにすむというものです。

先端部付近には赤いリングが施されており、角度によって見え隠れするようになっています。なかなか奥ゆかしい趣向のこの"Hidden Red Ring"とマットな黒仕上げは、SAMYANGの第2世代AFレンズであることを表すデザインだそうです。

鏡筒側面には「カスタムスイッチ」が搭載されています。これは動画撮影時にフォーカスリングの機能を変更するためのもので、「MODE2(M2)」にするとフォーカスリングを絞りリングとして使うことができるようになります。クリックがなく無段階で絞りを調整できるので、動画撮影時に映像の明るさをスムーズに変更することができ便利です。

注意したいのは、「カスタムスイッチ」を設定する前に露出モードを「A」または「M」に設定しておくことと、絞り値をF1.8に設定しておくこと。また、「MODE2(M2)」時にフォーカスリングで絞りを調整しても、カメラ側の設定表示はF1.8まま変わりませんが、そうした仕様ですので心配はいりません。

樹脂製のレンズフードが同梱されています。

解像性能

9群10枚のレンズ構成のうち、2枚のHR(高屈折)ガラスと3枚のED(超低分散)ガラスを使用するなど、なかなかに贅沢に特殊レンズを配置しています。

絞り開放(F1.8)での試写結果を確認すると、画面の中心部は高い解像感とコントラストを見せてくれていますが、周辺部では像が乱れフレアがかかったように解像感は甘く感じます。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/480秒・F1.8・±0.0EV)/ISO 125

しかし、112.5mm相当の望遠レンズを使って絞り開放で遠景を撮るという機会はあまり考えられませんので、実際の使用ではそれほど問題になることはないのではないでしょうか。ポートレート撮影などでは、絞り開放付近の柔らかな描写が好まれることも多いです。

上述の周辺部の解像感の甘さは、F5.6にまで絞ることでほぼ解消され、画面全体で高い解像度とコントラストが得られるようになります。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/480秒・F1.8・±0.0EV)/ISO 125

風景撮影などで平面的な被写体を撮るときは、F11やF16などに絞り込んで撮影することが多いため、本レンズの絞り値に対する描写傾向の変化はむしろ妥当と言えると思います。

ポートレート作例

中望遠レンズと言えばポートレート、ということで撮影させてもらいました。大口径中望遠レンズと言うと、とかく大きく迫力のあるイメージですが、本レンズは前述の通りコンパクト設計なため、モデルさんの方も必要以上の威圧感を覚えることがなかったようで、楽しく軽快に撮影することができました。


被写体の前後に大きなボケが入るように配置して撮影してみました。背景ボケには、若干、個性的な2線ボケが見られますが、F1.8と開放F値が順当に大きな大口径レンズということもあり、混ざり合うように溶け合ってしまうため気になることはありません。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/180秒・F1.8・±1.7EV)/ISO 125

絞り開放(F1.8)では周辺部の解像性能にちょっとした不安がありましたが、ご覧の通り、通常のポートレートで被写体を配置する位置では、そんな不安もただの杞憂となりました。ピントを合わせた目は、素晴らしくキリリと高いシャープネスがあります。カメラ側の機能である顔認識や瞳認識にもキチンと対応してくれています。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/800秒・F1.8・±1.0EV)/ISO 125

開放F値で撮るばかりがポートレートではないと思います。ドア前に立ってもらい撮影しましたが、こうした場合は画面の隅々まで精細に写ってほしいと思い、絞り値をF5.6にして撮影しました。おかげでドアや壁のタイルも質感高く撮れました。絞り値によって描写傾向が変わる、なかなか使いでのある楽しいレンズです。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/105秒・F5.6・±0.7EV)/ISO 125

ポートレート撮影をするうえで、本レンズの良いところはというと、やはり大口径中望遠レンズらしからぬコンパクト性にあるのではないかと思います。静止画としてのポートレートはもちろんですが、ジンバルにカメラをセットした動画撮影などでも運用性の高さを発揮してくれることと思います。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/280秒・F1.8・±1.0EV)/ISO 125

マクロ/スナップ作例

本レンズの最短撮影距離は0.69m、最大撮影倍率は0.13倍と、現代的なAPS-C用の中望遠レンズとしては普通と言ったところでしょうか。それでもネイチャー撮影などでは、植物を適当な大きさで写すことができるので意外に重宝します。絞り開放時に見せてくれる、被写体にまとわりつくようなわずかなフレアを、逆に美しく感じてしまったりしました。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/420秒・F1.8・±0.0EV)/ISO 125

撮影距離と被写体の位置によっては、上の作例のように独特なイメージの2線ボケが盛大に発生することがありました。ただし、個人的には決してガチャつくように邪魔なボケではなく、本レンズならではの個性的な表現と受け取ることもできます。

ある条件によって端的に目立つタイプの独特なボケですので、クセを味方につけて活かすという使い方をすると幸せを感じるかもしれません。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/5,800秒・F1.8・±0.0EV)/ISO 125

SAMYANG独自のUMC(ウルトラマルチコーティング)によって、逆光などの照明条件が悪い場合でも優れたシャープネスとクリアな画像が得られるとのこと。

実際、逆光に対しては及第と言えるだけの高い耐性を見せてくれるのですが、撮影条件と強い光源の位置によっては独特な虹色のゴーストが発生することがありました。こうしたところも、ゴースト発生のクセを理解しておいて、作画に利用したくなります。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/4,400秒・F1.8・±1.7EV)/ISO 125

小型軽量な中望遠レンズということで、スナップ撮影などでも大いに活用できます。50mmではちょっと構図がルーズになってしまうかな? というような状況で、ちょうど良い引き寄せ効果を得られるところが嬉しいところ。フルサイズ用の大口径中望遠レンズを持ち出すのは大げさだなと感じるような場合でも、本レンズならさりげなく使うことができます。

X-H2/SAMYANG AF 75mm F1.8 X/75mm(112.5mm相当)/絞り優先AE(1/120秒・F2.8・-0.3EV)/ISO 125

まとめ

本レンズのAF駆動にはステッピングモーターが採用されているため、AFはとても速く、正確で、なおかつ静かです。静止画撮影時で快適なのはもちろんですが、動画撮影時にも余計な雑音が入ることなく、さらに有効に使えることと思います。

しかし本レンズの大きな特徴は、何と言っても最新設計の大口径中望遠レンズながら、小さく軽量なところです。APS-Cサイズ用に設計されているということもありますが、この軽快感はポートレート撮影をはじめ、風景やネイチャー、スナップ撮影など、さまざまなシーンで活躍の幅を広げてくれるのではないでしょうか。

描写性能にかんしては、絞り開放から完璧な写りをする、ン十万円の高性能レンズに及ぶものでありませんが、逆を言えば、絞りを開けて柔らかく、絞り込むほどに画面全体の描写が引き締まるという、昔ながらの懐かしいレンズ操作を楽しめるレンズでもあります。今となっては少なくなった個性豊かなレンズを使いこなす楽しみを考えれば、価格のことも考慮して、決して選択肢から外れることはないと実感しました。

モデル:進藤もも

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。