交換レンズレビュー
小型軽量で美しいボケも楽しめる中望遠レンズ
XF50mmF2 R WR
2017年6月5日 18:07
今年2月に発売された富士フイルムXマウント用の中望遠レンズだ。
先に発売されたコンパクトな“開放F2シリーズ”の単焦点レンズ「XF23mmF2 R WR」と「XF35mmF2 R WR」に次ぐ3本目となる。35mm判換算の焦点距離は76mm相当になるが、重量はわずか200gといたって軽量。しかし、デザインや細部の仕上げには高級感さえ感じられる。
発売日:2017年2月
実勢価格:税込4万6,000円前後
マウント:富士フイルムX
最短撮影距離:0.39m
フィルター径:46mm
外形寸法:60×59.4mm
重量:約200g
デザインと操作性
デザインは、XF23mmF2 R WRおよびXF35mmF2 R WRと同じ流れのシンプルかつ高級感ある印象だ。
他の2本に比べると若干重いが、それでもわずか200gの軽量コンパクトなサイズに収められている。フィルター径は46mm。構造的にはWRのネーミングが示すとおり防塵・防滴仕様で鏡胴10カ所にシーリングが施されていて安心感がある。
左手の指先がスッと届く場所にセッティングされた大きな絞りリングは、目視的にも操作感も抜群の実用性だがデザイン的にも特徴となっている。
鏡胴や絞りリングなど艶のあるブラック(ブラックバージョンの場合)で美しいのだが、ペイントがされていないリアのマウント部に表されているように金属部材を使って丁寧に仕上げられているところにメーカーの目指す方向がよくわかる。
本体のカラーはブラックとシルバーの2種類が用意されているので、使用カメラとあわせての好きな組み合せで楽しめる。
高級感漂うリア部。金属製マウント部分は丁寧に加工されていて、ボディ取り付け時にとてもスムーズな動きでビシッと締まる。
鏡胴本体を正面から。インナーフォーカスを採用しているので近接撮影時にもレンズ繰り出しはなくコンパクトなままだ。
付属の純正レンズフードを装着。耐逆光性は勿論だがしっかりとホールドできる。
絞りリングがあることでマニュアル時や絞り優先オートでの撮影時に迅速に操作できる。
絞りリングの存在自体が見た目にもおしゃれなデザインで高級感が増す。
作品
今回の撮影旅行へ出たのはゴールデンウィーク明けの週だったが、東北地方では場所によってはまだまだ遅咲きのヤマザクラの仲間が散りはじめたばかりで、風に舞う桜の花びらが春の訪れをようやく感じさせてくれるようだった。9枚羽根の円形絞りは大きくボカした背景も丸くやわらかな描写にしてくれる。
反対にF8まで絞り込むと解像度がグッと増してきて、砂や小石、板木、金属の錆びた感じやペイントのマテリアルなどそれぞれの特徴がしっかり描写されている。
絞り込むことで周辺光量の低下などはほぼ無く、青空の四隅まで均一な画質が感じられる。
旅先で撮影していると必ずやってくるネコさん。きっと地元のボスに違いない(笑)。逆光線に輝く海を背景に開放で撮影すると、立体感が増して望遠効果が強くでる。
夕暮れ時の田園地帯でビニールハウスや軽トラをシルエットに近づけるため、アンダー気味に撮る。直射で入ってくる逆光線でもフレアがほとんど発生しない描写力。
山形県鶴岡市の致道博物館にあるモダンな洋風建築を正面から捉える。雨の降る中、悪条件でも十分に質感を感じられる描写だ。
開放絞りのF2で70~80cmくらいの距離からドアノブにフォーカスして背景をボカす。背景の芝生が大きくボケると同時に手前のドアもグラデーションでなめらかなボケ味だ。
今度は前ボケと比較するために、上のカットと同じ位置からフォーカスポイントを後方の芝生へ移動させての撮影。
庄内地方の田園風景。フィルムシミュレーションのベルビアとの組合せで夕暮れのグラデーションが美しく再現されている。
男鹿市で見つけた昔懐かしい昭和の香りが漂う建物。看板の文字や造りに70年代を感じる。飲食街の街並みは夜と昼ではまったく違った顔を見せてくれる。
比較的至近距離から2段絞ったF4で撮影。合焦させたツルニチニチソウ(たぶん)の他はわずかにボケていく。
ホワイトアウトしそうな曇り空をバックに秋田県の大ボスキャラ、なまはげ。
土手で風にそよいでいた植物の穂先にフォーカスさせて絞り開放にて撮影。前後のボケ味は自然体のグラデーション描写。
季節外れの海の家。曇天の空と海を背景にブルーの壁が悲しい。
低いコントラストの曇天下、中間辺りまで絞って撮影。遠景の灯台や人物までしっかりと解像している。
国道7号線を走っていると突如目の前に現れた奇妙な建物をクルマを停めて逆光撮影。後で知ったのだがポストモダン建築の旗手、渡辺豊和さんの設計による秋田市の体育館だった。
山形県酒田市に残るシンボル的な観光スポットの1つ、山居倉庫。庄内地方らしい産物である米を貯蓄しておく倉庫群だ。土門拳記念館を見学した後で立ち寄ったらあいにくの雨模様だったがそれも風情かなと。
グレー一色の雨空。烏だって家路を急ぐ頃だ。
秋田県と山形県の県境にある小さな漁港で出会った漁師さん。今日は悪天候で船での漁はないけど、海藻をすくって採ってきたと見せてくれた。
西洋建築の博物館の窓から外光が射し込む雰囲気が好きだ。薄暗いトーンから明るいガラス窓までリアルな描写。
大名屋敷の入口の引き戸の一部だけに絞り開放でフォーカス。木目の質感は徐々にボケていく感じが良い。
これからの季節には多く見られるシーンだが、防塵防滴仕様のレンズで安心して撮影に臨める。2階の屋根を伝って落ちてくる雨粒の雨粒の大きさで雨の激しさを表現する。もちろんフォーカスは雨粒に。
開放絞りで涼しそうなレース編みのカーテンの一部に合掌させ、5~10cmの前後の中でのグラデーションボケ味を楽しむカット。
歴史的な建造物の資料館にある古いシャンデリア。暗がりになっている階段下部分を掠めながら電球の光線を直線上に撮影したが、黒いマスとなった輪郭のボケ味も気持ちよく電球の雰囲気も両立している。
ガラスを濡らす雨粒にフォーカスし、背景にあるベランダの手摺りの形状なども見せるためにF4でボカしながらも輪郭を出す。木製の窓枠に時代を感じる。
ようやく青空が戻り、雲間から顔を覗かせた庄内富士と呼ばれる鳥海山を山形県遊佐町より撮影。5月だというのに山頂付近には万年雪が残っているが美しい。
まとめ
箱を開けて中身を取り出した時の最初の印象は、「軽い」「小さい」そして「おしゃれ」。
しかし実際に数日間一緒に旅をしながら撮影の現場で使ってみたら、ステッピングモーター搭載により駆動音に気がつかないうちに高速合焦するAFと描写力に加え、「合焦部はキレッキレなのに、柔らかく美しいボケ味」という作品を創造する喜びを感じられる結果だった。
そして手放す頃の感想は「高級感」と「信頼感」という実質的なものへと変化していた。
元々フィルムメーカーで、カメラはもちろん大型カメラ用のレンズを供給し、昨今はデジタルカメラやレンズで次々とヒット作を生み出している富士フイルムが提供するにあたっての真剣さが感じられた。
APS-Cサイズのメリットの1つでもある「コンパクトさ」という優位性を巧く活用できるレンズシリーズである。
撮影協力:公益財団法人 致道博物館(山形県鶴岡市)