交換レンズレビュー
EF70-300mm F4-5.6 IS II USM
画質向上を実感 AFも速く軽さも嬉しい
2017年3月10日 11:39
EF70-300mm F4-5.6 IS II USMは、2005年に発売した前モデル(EF70-300mm F4-5.6 IS USM)から約11年ぶりのリニューアル版として、2016年12月に登場した。
様々な機能が加えられたにも関わらず、重さは前モデルよりも80gほど増えたのみ。質量は約710gで特に「重い」とは感じられない。同じ70-300mmの「Lレンズ」EF70-300mm F4-5.6L IS USM(約1,050g)と比較すると3分の2ほどの軽さで携行に便利だ。画質で「L」を選ぶか、取り回しの良さで本レンズを選ぶか迷いそうだ。今回はEOS 5D Mark IVと組み合わせて鉄道を撮った。
発売日 | 2016年12月上旬 |
実勢価格(税込) | 5万7,000円前後 |
マウント | キヤノンEF |
最短撮影距離 | 1.2m |
フィルター径 | 67mm |
外形寸法 | 80×145.5mm |
重量 | 約710g |
デザインと操作性
望遠ズームレンズの焦点距離は様々だが、一般的な70-200mmを35mmフルサイズで使用した場合、風景やスポーツそして鉄道では、望遠端でも「もうちょっと焦点距離が長ければなぁ」という場面に時々出くわす。
EOSのフルサイズ用望遠ズームのラインナップには70-300mmのズーム域を持つレンズが本レンズの旧型も含め4モデルあり「あと少しだけ長さが欲しい」に応えてくれる。APS-Cセンサーのボディで使用すれば、さらに長い焦点距離(35mm判換算で112-480mm相当)になるので、被写体によってはこれ位のズーム域が程良いチョイスになりそうだ。
本レンズは、新しい技術が盛り込まれて誕生した。その最たるは、AF駆動に新型の「ナノUSM」が搭載されたことだろう。キヤノンが独自に開発した超音波モーター(USM)をチップ状に薄型化したもので、高速でスムーズなAFを可能にしている。また、EFレンズでは初となる「液晶画面」が採用されている。
レンズ構成は旧モデルの10群15枚から12群17枚になり、UDレンズの位置など、各レンズの配置も見直された。絞り羽根も8枚から9枚に、手ブレ補正効果が約3段分から約4段分に強化。
リアフォーカス方式を採用し、ピント合わせの際、レンズ先端が移動や回転する事がない。またフルタイムでのマニュアルフォーカスも可能になった。
ワイドなズームリングを中央に、レンズ先端側にフォーカスリングを配置。スイッチ類の出っ張りがほとんどなく、フラットな円筒形の容姿でマウント側が裾絞りのスマートで品位あるデザインになっている。
そして何と言っても、レンズ上面に配された液晶画面が目を引く。「撮影距離表示」「焦点距離表示」の基本的な情報表示のほか、「揺れ量表示」が目新しい。
レンズの上下、左右方向への角度揺れを知らせるもので、ライブビューでの動画撮影に効果を発揮しそうだ。各表示は液晶左下の「MODE」ボタンを押して切り替える。今回使用したカメラは、フルサイズのEOS 5D Mark IVだったので確認できなかったが、APS-Cサイズの場合は「焦点距離表示」を35mm判に換算して表示してくれる。
切り替えスイッチはこのボタンの他、鏡胴左側にAF-MF切り替えスイッチと、スタビライザーON-OFFスイッチ、右側にズームリングロックを備える。ズームリングロックはワイド端側に固定するもので、携行中の不用意なレンズの伸びを抑える事ができる。
作品
冬の早朝、東海道新幹線の三島~新富士へ向かった。この場所は富士山と新幹線の共演が楽しい。
新幹線の先頭が画面の左隅になるレンズにとってはアウェーな状況下、冬の太陽が昇って間もない光量のなか焦点距離160mmにセット。ISO1600、1/4,000秒、F8で撮影した。画面隅であるにも関わらず、ヘッドライトの周囲はもとより、高速シャッターで静止した車輪(ブレーキディスク)のディンプルまで克明に描写されていた。
ワイド端70mmで撮影、周辺光量の低下と樽形のディストーションが若干でているが、いずれも現像段階で修正可能な範囲だろう。それよりも、画面隅の高い描写力に驚く。
鉄道写真では、大風景のなかを走る列車を遠くから俯瞰撮影する場合がある。例え画面中に小さく写った車両であっても、なるべく詳細に記録したいのが「鉄ちゃん」の心理(笑)。「遠景の描写も大いに気になる」という事で、古くより交通の要衝である「薩埵(さった)峠」からの俯瞰撮影を行った。
左は絞り開放のF5、右はF11まで絞り比較した。列車の先頭に行き先が表示されているが、等倍まで拡大してみると、左の絞り開放で撮った画像はやや結像が甘いものの「静岡」の文字が確認でき、F11まで絞った右はシッカリ結像し「熱海」と読める。EOS 5D Mark IVの有効画素数約3,040万画素にも十分に応える描写力である事が確認できた。
ワイド端の70mm、F11で撮影したカット。画面左隅の列車の描写はもとより、画面センターの対岸まで克明に描写されている。
このレンズには手ブレ補正が搭載されており、鏡胴左のスイッチでON-OFFを切り替えて使用する。他のレンズには通常撮影「モード1」や、流し撮り対応の「モード2」などの選択肢を備えるモデルもあるが、このレンズにはない。通常撮影と流し撮りを判断して切り替え、自動的に最適な手ブレ補正を行ってくれる。
写真は1/80秒での流し撮り、高速で走る新幹線を流し撮りでピッタリ止める事は難しい。手ブレ補正のアシストは有り難い機能だ。
こちらは、雨に濡れ漆黒となった蒸気機関車を同じく流し撮りで捉えたもの。
もと京王井の頭線(渋谷~吉祥寺)で走っていた岳南電車の車両。愛嬌あるフェイスを望遠端300mmで正面から。AIサーボAFでAF追従して撮影した。望遠端の描写も申し分ない。
工場地帯を走る小さな鉄道に、小さな春を見つけた。咲きはじめた梅の花にピントを合わせようとAFを作動させたところ、俊敏なAFの動作に戸惑ったほどだった。F8に絞って撮影しているが、ボケ具合は嫌みがない。
出発準備が整う大井川鐵道のSL列車。先頭には受験生へのメッセージを掲出していた。前ボケの感じも悪くない。
ほぼ最短撮影距離で蒸気機関車の足まわりを撮影。1/40秒の手持ち撮影だが、手ブレ補正がシッカリ効いている。水滴の付着した金属の鈍い輝きなど、近距離の描写も素晴らしい。
薄暮の頃、照度が低下するなか、AFは一瞬戸惑う場面もあったが、問題なく作動しピントを合わせてくれた。
ハイビームのヘッドライトはかなり強い光源でゴーストが発生しても不思議ではないが、気にならない程度の最小限に留まっている。
岳南電車は工場夜景との取り合わせが楽しい。絞り開放での照明灯の滲み具合が美しい。
工場地帯を走り去る電車を20秒の長時間露光により光跡で捉えた。工場のディテールが美しく描写されている。本レンズには三脚座がないのが心配だったが、カメラブレがないのはレンズ自体が軽量だからだろう。
まとめ
カメラの高性能化が進むなかで、各メーカーとも新開発やモデルチェンジによる新しいレンズが次々と登場している。本レンズも新技術を搭載して登場した。
ナノUSMによるAFの速さは目を見張るものがあるし、新機軸の液晶表示もなかなか楽しい。これに加えレンズ構成や配置などの見直しなどで、描写性能が向上している。そんな基本的な進化も、このレンズの魅力度をアップする要因になっていると思う。
Lレンズであれば描写力が優れているのは当然のように思ってしまう。しかし、本レンズは非Lレンズでありながら、それに匹敵する力を有しているのがわかった。
筆者は普段EF70-200mm F4L IS USMを使用しているが、望遠端が足りずエクステンダーを使用する場合がある。その際の画質と開放F値を考えれば、荷物を軽くしたい海外撮影などでは本レンズで十分に思う。比較的求めやすい価格でもあり、望遠ズームの購入を検討しているならば、選択肢に入ってくる1本になるだろう。