ペンタックスK-5に「完全自動絞り」のベローズを装着する

Reported by糸崎公朗

ノボフレックスからかつて発売されていたオートベローズは、ユニークなカラクリで“完全自動絞り”を実現したアイデア商品だった。今回はこのベローズの機能をデジタルカメラで活かすためペンタックス「K-5」に装着。内蔵ストロボ用ディフューザーに加え、スレーブストロボ「ヒカル小町」も装備した。レンズは専用の「ノフレクサー60mmマクロ」を装着。三脚に据えてはいるが、手持ち撮影用の高倍率マクロシステムとして組んでみた

ユニークなカラクリの「完全自動絞り」ベローズ

 フィルムカメラの時代“ベローズ”はマクロ撮影用アクセサリーの定番として各社から発売されていた。ベローズの機能は中間リングに似ているが、蛇腹の伸縮により撮影倍率を変えられる点が異なる。またマクロレンズのヘリコイドより伸縮の幅が大きく、撮影倍率もその分大きく変えることができる利点がある。

 ただ、一般的にベローズは装置としては大袈裟で操作も面倒だ。多くのベローズはダブルレリーズを使用して“半自動絞り”でシャッターを切れるが、手持ち撮影はとても無理で、三脚に据えて使用することが前提になっている。

 その昔、カメラの操作自体が難しかった時代は、ベローズ撮影の難しさも当たり前として受け入れられていたかも知れない。しかしカメラがオート化するに従い、ベローズは時代遅れのアイテムになっていったと言えるだろう。

 しかしかつてドイツの用品メーカー、ノボフレックスから発売されていたオートベローズは、ダブルレリーズを使用せずに“完全自動絞り”を実現した優れモノだった。ぼくはその昔、カメラショーでこのオートベローズを手に取り、アッと驚く巧妙なカラクリに感動したことがある。マウントは固定式で、オリンパスOM、キヤノンFD、ニコンF、ペンタックスK、ミノルタMD、などが用意されていた。

 しかし少量生産の精密機器のためか値段が10万円近くと高価で、あこがれのアイテムになっていた。ところが最近中古カメラ店でこのオートベローズを発見、1/5以下の値段だったので即ゲットしてしまった。しかも同じくノボフレックス製の「ノフレクサー60mm F4マクロ」まで付いていたのだ。

 ぼくが買ったのはペンタックスKマウント仕様だったが、ペンタックスのデジタル一眼レフはあいにく友達のお下がりで貰った古い「*istD」しか持っていない。そこで今回はペンタックスリコーさん(この新しい社名も感慨深いものがある)から現行品の「K-5」をお借りして、このオートベローズの使い心地と性能を試してみることにした。

―注意―

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今回紹介するノボフレックス製オートベローズをペンタックスK-5に装着したところ。一般的なベローズより小型軽量で、なおかつ「完全自動絞り」を実現した優れたアイテムだ比較として紹介するM42マウントのペンタックス製ベローズ。シャッターボタンに装着したダブルレリーズにより「半自動絞り」が作動する。非常に重厚な作りで三脚の使用が前提になっている。かつてはどのメーカーからも、似たような仕様のベローズが発売されていた
オートベローズには同じくノボフレックス製の「ノフレクサー60mm F4マクロ」が付属していた。このレンズにはヘリコイドがなく、ベローズ専用となっている。またKマウントにもかかわらず、マウントに出っ張りがありカメラに直接装着することはできない。もちろんベローズには、さまざまなKマウントレンズが装着可能だベローズのレンズマウント部。カメラの絞りレバーの動きが、フォーカシングレールの間のロッドを介して、ベローズの絞りレバーに伝えられる。その動きは後ほど動画で見ていただきたい
ノボフレックス製オートベローズもいちおうは三脚の仕様が前提になっている。蛇腹の伸縮で撮影倍率を決め、カメラの微動用レールでピント合わせをするのが一般的な使い方だ。これは蛇腹を縮めた状態こちらは蛇腹を最大に伸ばした状態で、撮影倍率も最大になる。が、ここで問題が発生! このベローズをK-5に装着した場合、肝心の自動絞りが作動せず絞り開放でしか撮影できないのだ。しかし確認のため*istDに装着すると自動絞りはちゃんと作動する。これは不思議だ……そこでメーカー担当者に相談し、対策を講じることにした
まずK-5は*istDなどと違って、レンズを外した状態では“絞りレバー”が作動しない仕様になっているそうだ。しかしレンズを装着するとマウントの電気接点に通電し、それによって絞りレバーが作動する。つまりレンズ装着の有無を、電気接点の通電で感知している。従って普通であれば、古いMF用のKマウントレンズでも自動絞りが作動するはずであるところがノボフレックス製ベローズのマウントを確認してみると、黒塗装されている。これではマウント接点に通電するはずもなくK-5で自動絞りが作動しないのは当たり前だ。そこでアルミホイルをカットし、両面テープでマウントの一部に貼り付けた。この工作によってカメラ側の電気接点が通電し、めでたく完全自動絞りが作動するようになった

 オートべローズの自動絞りの動きを動画で見ていただこう。シャッターの作動に合わせてフォーカシングレールの間のロッドが回転し、その動きが内部のギアを介してベローズの絞りレバーに伝えられている。ちなみに片側の動かないロッドは“開放絞り伝達レバー”用で、電気接点を採用したK-AFマウントでは廃止されている。

 

さらにベローズを実用的に使用する工夫を行なう。軽快な自動絞りの機構を活かして“手持ち撮影仕様”に仕立てる方針だ。まずはカメラのストロボカバーとベローズ基部にマジックテープを貼るこの自作ディフューザーは、ペンタックス645Dの記事で使用したものと同じ。汎用性の高い形状で、今回のK-5にもそのまま転用できた
本来三脚を取り付ける底部のネジには、L字アングルを装着完成したシステムだが、ガンダムに出てくるモビルアーマーみたいになった(笑)。K-5の内蔵ストロボには自作ディフューザーを被せ、さらにボール雲台やブラケットなどを組み合わせスレーブストロボ「ヒカル小町」を装着。スタジオ撮影用の照明セットをカメラにくっつけた状態だが、これで手持ち撮影が可能になる

テスト撮影

 ペンタックスK-5は電気接点のないMFレンズを使用した場合、露出モードはMのみ、内蔵ストロボはフル発光のみで使用できる。従って、ストロボ光量や絞りを自在に変えながらの撮影はできない。テストは最小倍率と最大倍率の比較のみ、手持ちで簡単に行なった。

オートベローズとノフレクサー60mmマクロとの組み合わせの最小倍率。それでも10円玉が画面いっぱいに撮れる倍率が得られる。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約7.1MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F22 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm蛇腹を最大限に伸ばすと、10円玉の鳳凰堂の中心がこの大きさで撮れる。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.1MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
参考までに、ペンタックス純正のマクロレンズ「D FA MACRO 100mm F2.8 WR」の最大倍率(等倍)で撮影。画質はさすがに文句なしに素晴らしい。。K-5 / D FA MACRO 100mm F2.8 WR / 約6.9MB / 4,928×3,264 / 1/160秒 / F3.5 / 0EV / ISO200 / プログラム / WB:オート / 100mm

実写作品と使用感

 先に書いたように、ペンタックスK-5は電気接点のないMFレンズを使用した場合、内蔵ストロボはフル発光のみでしか使えず調整が効かない。しかし今回のシステムでは最小倍率でF22、最大倍率でF11で適正露出が得られることが分かり(ISO200の場合)、さらに被写体のシチュエーションに応じて絞りやISO感度を調節しながら撮影した。

 露出モードもマニュアルに限定されるが、ストロボを使ったマクロ撮影では露出もストロボもマニュアルで調整した方が安定した光量が得られ、シャッタータイムラグも少なくなる。

 K-5とオートベローズの組み合わせはなかなか快調な使い心地だ。完全自動絞りを装備するだけあって、開放絞りでの正確なピント合わせが可能だ。まさに普通のマクロレンズと同じ感覚で使えるが、蛇腹が破れたらおしまいなので扱いには気を遣う。このあたりもベローズが流行らなくなった理由かもしれない。

 K-5はファインダー像も見やすく、ピントの山も掴みやすい。等倍を超える高倍率マクロの手持ち撮影は難しい技術を要するが、まぁ慣れの問題である。

 今回の撮影システムにスレーブストロボ「ヒカル小町」を加えたのは、半逆光の照明で植物の質感を美しく表現するためだ。だたしヒカル小町は昼間の晴れの光ではセンサーが反応せず、スレーブ発光してくれない。だから日影や曇りなどの条件を選んで撮影する必要がある。

 倍率は最小と最大の両端のみで撮影した。任意の中間倍率を選択してもEXIFにデータが記録されるわけではないのでわかりにくい。もとよりベローズは先に倍率を決めてからピント合わせするので、割り切って使った方が気が楽だ。

 ということで季節は晩秋を迎えていたが、自宅近所の国分寺市で撮影した植物や昆虫を見ていただこう。

「イヌガラシ」の花を最大倍率で撮影。小さくて目立たない花だが拡大するとなかなか可憐で綺麗だ。イヌガラシという名前はカラシに似ているが何の用もなさない雑草、と言う意味で名付けられている。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.7MB / 4,928×3,264 / 1/180秒 / F16 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm小さな花がいくつも集合して咲いている「ハキダメギク」。植物学者の牧野富太郎氏が、たまたま掃きだめに生えていたこの植物をハキダメギクと命名したそうだが、実際は空き地や道ばたなどどこにでも生えている。最大倍率で撮影。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.1MB / 4,928×3,264 / 1/180秒 / F16 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
俗に“ひっつき虫”と言われる「コセンダングサ」の種子。草むらにはいるとズボンにたくさんこの種子がくっついていることがある。最大倍率での撮影だが、逆向きに生えた鋭いトゲの様子がよく分かる。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.5MB / 4,928×3,264 / 1/180秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mmハキダメギクと同じキク科の「オニタビラコ」の花。小さな花の1つ1つから、クルンと丸まっためしべが突き出ている。最大倍率で撮影。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.6MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F16 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
ぺんぺん草とも言われる「ナズナ」の花。花も可憐だが蕾の質感が瑞々しい。イヌガラシと同じアブラナ科なので、印象が似ている。最大倍率で撮影。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.3MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm最大倍率で撮影した「ナギナタコウジュ」の花。花びらに毛が生えているが、これは長く変化した細胞が連なったもののようで、よく見ると細胞壁が確認できる。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.1MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F16 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
「マルバルコウ」の花の中心部を最大倍率で撮影。花粉をたたえた雄しべと、粘着性のあるめしべの両方が確認できる。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.7MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F16 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm同じマルバルコウの花を最小倍率で撮影。ヒルガオ科の植物だが、朱色が鮮やかだ。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約5.9MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F22 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
小センダングサの花に止まる「ヤマトシジミ」。気温の低い午前中の日影で撮影したので、カメラを近づけても逃げずに大人しくしていた。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.3MB / 4,928×3,264 / 1/180秒 / F22 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm同じヤマトシジミを最大倍率で撮影。毛むくじゃらの面白い顔をしている。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.1MB / 4,928×3,264 / 1/180秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
ヤマトシジミと同じシジミチョウ科の「ウラナミシジミ」の顔を最大倍率で撮影。複眼に毛が生えているが、ゴミ付着防止のためだろう。ヤマトシジミの複眼にはそのような毛が生えておらず、なかなか興味深い。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.1MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm同じウラナミシジミを最小倍率で撮影。夕方、雑木林のコナラの葉に止まってじっとしていた。本来このチョウの翅には小さな“しっぽ”が付いているが、この個体はすり切れて無くなっている。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.3MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F22 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
「オオカマキリ」を最小倍率で撮影したが、その名の通り大きな虫なので全身像を撮ることはできない。カマキリは他の虫と違って、カメラの方を向く仕草をするので面白い。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.5MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F22 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm最大倍率で撮影したオオカマキリの頭部だが、これも大きすぎて画面からはみ出してしまった。が、それよりもこの写真は黒に締まりが無くグレーに写ってしまっている。原因は「ノフレクサー60mm F4 マクロ」が逆光に弱く、スレーブストロボの光でハレーションを起こしているのだ。このレンズは高級感のあるベローズに比べ、チープな印象だ。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約6.6MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
こちらは最大倍率で撮影した「ハラビロカマキリ」の頭部。逆さに写っているのは、実際に上下逆さの姿勢で木に止まっていたから(笑)。同じカマキリでも種類によって顔の印象が異なっているのも面白い。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約7.5MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm同じハラビロカマキリの胸像を最小倍率で撮影。折りたたまれた前足や鎌のディテールも興味深い。黒目がこっちを向いているように見えるのは“偽瞳孔”という錯覚の一種で、どの方向からも同じように黒目が見える。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約5.9MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F22 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm
カメムシの一種「ホソヘリカメムシ」を最小倍率で撮影。刺激臭のある“屁”をするのでこの名前があるが、実際はメロンソーダのようなさわやかな香りがする。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約5.9MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F22 / 0EV / ISO100 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm最大倍率で撮影したホソヘリカメムシの頭部。複眼の間に2個の単眼が見える。実はこのカメムシの写真は内蔵ストロボとディフューザーのみで撮影しているが、なかなか良く写っている。K-5 / ノフレクサー60mm F4マクロ / 約7.3MB / 4,928×3,264 / 1/125秒 / F11 / 0EV / ISO200 / マニュアル露出 / WB:オート / 60mm





糸崎公朗
1965年生まれ。東京造形大学卒業。美術家・写真家。主な受賞にキリンアートアワード1999優秀賞、2000年度コニカ フォト・プレミオ大賞、第19回東川賞新人作家賞など。主な著作に「フォトモの街角」「東京昆虫デジワイド」(共にアートン)など。毎週土曜日、新宿三丁目の竹林閣にて「糸崎公朗主宰:非人称芸術博士課程」の講師を務める。メインブログはhttp://kimioitosaki.hatenablog.com/Twitterは@itozakiTwitterはhttp://twitter.com/#!/itozaki

2011/11/18 00:00