コーワPROMINARの世界 高画質マイクロフォーサーズレンズの秘密を探る
驚愕の超広角レンズ「PROMINAR 8.5mm F2.8」を検証
トップレベルの低歪曲と高解像力、その実力を見る
Reported by 中村文夫(2015/6/15 08:00)
プロミナーレンズの歴史紹介と工場見学に続き、いよいよ今回からは実写レポートを公開します。まずは、シリーズ最広角の「KOWA PROMINAR 8.5mm F2.8」から。その独特な世界をご堪能ください。
PROMINAR 8.5mm F2.8は、現在、発売中のマイクロフォーサーズ用単焦点レンズのなかで最も焦点距離が短い超広角レンズ。対角線画角は106度で、35mmフルサイズ換算で17mmに相当する。
念ために説明しておくと、マイクロフォーサーズの公式Webサイトにあるレンズ一覧表の単焦点レンズ欄には、オリンパスとパナソニックの8mmが掲載されている。だが、この2本はディストーション(歪曲収差)を敢えて残すことでデフォルメ効果を得る魚眼レンズ。正確には広角レンズではない。つまりPROMINAR 8.5mmは、ディストーションがきちんと補正された広角レンズとして、最も広い画角が撮れるレンズなのだ。
またズームレンズの中には、広角側が7mmからスタートする製品があるが、やはりディストーションの少なさという意味では単焦点レンズの方がはるかに有利。F2.8という明るい開放F値も大きな魅力だ。さらに独自のコーティングや丁寧な内面反射防止処理によりゴーストやフレアに強く、ヌケの良い透明感の高い画を撮ることができる。
高度な光学補正で徹底的にディストーションを排除
このレンズの最大の魅力は、なんと言ってもディストーションの少なさだろう。デジタルカメラの場合、撮影時にディストーション補正をオンにしたり、撮影後の画像処理でディストーションの補正が可能である。
ただし補正時に画面の周辺部がわずかにトリミングされたり、画面外の画が補われたりする現象が避けられない。つまりファインダーで見えていたものがカットされたり、余計なものが写ったりするのだ。
その点、撮影レンズ側にディストーションがなければ画像処理は不要。ファインダーで見た撮影範囲が忠実に記録できるばかりか画質劣化の恐れもない。
このレンズのカタログに記載されているディストーションは0.12%。ただここで気を付けたいのはTVディストーションという数値で表記されていること。テレビモニターに映し出された画像の歪みを示しているので、我々がふだん使っているデジタルカメラの光学ディストーションに直すと約3倍になる。
もともと興和は工業用FAレンズの技術をベースにレンズを開発しているのでこうなったが、光学ディストーションに直した0.36%という数値もデジカメ用超広角レンズとしてはトップクラス。作例を見ればわかる通り、非常に高度なレベルでディストーションが除去されている。
画面全体にわたって高解像度を実現
高レベルのディストーション補正と並ぶプロミナーレンズの魅力は高解像力だ。これを実現するため興和はXD(低分散)ガラスによる色収差の低減、非球面レンズによる像面湾曲の除去のほか、無限遠から近距離まで良好な像を得るためのフローティング機構など最新の技術を駆使。
画像処理に頼るのではなく、あくまでも光学補正にこだわる姿勢を貫いている。そればかりか敢えてAFを避けMF仕様にすることでレンズ設計の自由度を奪う電子部品を排除。メカもカム式ながら、フォーカスと絞りの回転角が広く、その感触にもこだわっているなど、MFのメリットを最大限に活かすレンズづくりを行っている。
徹底した内面反射防止処理でフレアやゴーストの発生を抑制
PROMINAR 8.5mmのレンズ構成は14群17枚。単焦点レンズとしては複雑な設計だが、内面反射を考慮した鏡筒設計に加え、独自のコーティングや組立時にレンズエレメントの側面に手作業で墨を塗るなど、徹底した内面反射防止処理でゴーストやフレアを防いでいる。
この効果は存分に発揮され、逆光で撮影してもフレアによる画質の低下はごくわずか。さらに見苦しいゴーストの発生も最小限に抑えられている。
20cmの最短撮影距離を実現
PROMINAR 8.5mmの最短撮影距離は20cm。106度という広い画角を活かし遠近感を強調した接写ができる。
また超広角レンズは絞り開放でも被写界深度が浅くならないと思われがちだが、被写体までの距離が近ければ浅い被写界深度による表現も可能。さらに円形絞りの採用で、絞ったときのボケも汚くならない。
単焦点レンズは写真上達の早道
ディストーションが極限まで補正されたKOWA PROMINAR 8.5mm F2.8のようなレンズが最も威力を発揮するのは直線を多用した建築物のような被写体だ。何度も説明しているが、真っ直ぐなものが曲がって写ると気持ちが悪い。当たり前の話だが、ディストーションのないレンズを使えば、真っ直ぐなものが真っ直ぐに写る。
また建築物を撮影するときのコツは、カメラの水平を保つこと。それから縦のラインを垂直に写すなら、そのラインに対してカメラを平行に構えるようにする。
これに対し、被写体を見上げたり、見下ろしたりするアングルで撮影すると、縦のラインが一点に収束するように斜めに写り、遠近感の表現が可能。つまりカメラの傾きを少し変えるだけで、写真の印象をがらりと変えることができる。
遠近感を上手く表現するには、被写体までの距離が大切である。ズームレンズばかり使っていると、自分が移動しなくてもズーミングだけでフレーミングの調節ができるので、フットワークが悪くなりがちだ。だが写真の良し悪しはどの位置から被写体を狙うのかで決まってしまう。そういう意味でプロミナーのような単焦点レンズは、写真上達の早道と言えるだろう。
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今回は3本あるプロミナーレンズのうち、最も焦点距離の短い8.5mmをレポートしたが、次回はもう少し画角の狭い「KOWA PROMINAR 12mm F1.8」を取り上げる予定だ。
35mmフルサイズの24mmに相当する広角レンズなので8.5mmほど遠近感が極端に強調されず、より自然な広角表現が可能。いわば広角レンズ入門に最適な焦点距離と言えるだろう。また8.5mmの開放F値が2.8であったのに対し12mmはF1.8。大口径レンズならではのボケ味も含め、このレンズの魅力を探ることにしたい。
制作協力:興和光学株式会社