デジカメアイテム丼

ニコンの高性能保護フィルター「ARCREST」を実写テスト

低反射率&高い平面精度で、レンズ本来の描写力を生かす

ニコンの高性能保護フィルターとして話題を集める「ARCREST」の試用レポートをお届けする。同製品の企画・販売元であるニコンイメージングジャパンに取材した内容と併せて、実際にフィールドでの撮影結果をもとに検証していく。

レンズの高性能+高価格化とともに、保護のニーズも高まる

まず前提として「フィルター」というアクセサリーは本来、撮影画像に対してなんらかの効果を求めてレンズに取り付けるアクセサリーであるわけだが、「保護フィルター」だけは事情が違う。写し出された画像に対して、効果が無ければ無いほうが良い製品である。保護フィルターはその名の通り「レンズの保護」だけが使用目的のため、レンズに取り付けたことによってなんらかの効果が発生してしまっては困るからだ。

現在の市場を見てみると、保護フィルターは各社から多くの種類が発売されている。保護フィルターは常用アクセサリーであるため、多くのユーザーが交換レンズと同時に購入する。また近年は、交換レンズの高性能化に伴ってレンズ自体も高価になりがち。これまで以上に”レンズ保護”が重視されていることも、現在の市場拡大につながっているだろう。

だが、正直なところ僕は保護フィルターをあまり常用していなかった。なぜかと問われれば、画質劣化を避けたかったからの一言に尽きる。保護フィルターは無色透明で効果のないフィルターではあるのだが、実際は多少の画質劣化を招いてしまうことがあったからだ。画質劣化と一括りに言っても様々あると思うが、ことフィルターに関していえば、フレアやゴーストの発生が最たるものだろう。

そこで今回発売となるARCRESTは、保護フィルターでありながら画質にこだわり抜いた製品だと聞き、非常に興味を持っていたのだ。高画質を謳っているだけあり、本製品は他社製品に比べて高価である。しかし、高画質なニッコールレンズを作るあのニコンの高画質保護フィルターとあれば、読者諸兄も興味津々のはずだ。

ゴーストの出方に明確な差!

まず使ってみた感想をあえて一言でいうならば、「ARCRESTは逆光撮影時に明確な画質の差が出るフィルター」である。製品名の「ARCREST」(アルクレスト)は反射防止を意味する「AR」(Anti Reflection)と、頂点を意味する「CREST」を合わせた造語だそうで、なるほど、まさにコンセプトどおり。画質比較のために撮影した写真を見ていただきたい。

【共通データ】
Nikon D810 / AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR / 4秒 / F5 / ISO125 / マニュアル / 86mm

以下のサムネイルは赤枠部分の切り出しです

画面内に、工事現場の非常に明るい照明がいくつもある。逆光耐性テストとしてはかなりイジワルな状況だ。結果はご覧の通り、フィルターなしはゴーストの発生が一切なく、ARCRESTは画面中央右にうっすらとではあるがゴーストが確認できる。

しかし他の保護フィルターでは、同じ位置にかなりはっきりとしたゴーストが現れているのが分かるだろう。正直、ここまで差が出るとは思っていなかったので驚いた。余談だが、テスト撮影に使用した「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」はゴーストやフレアがなかなか出てくれず(笑)、レンズ自体の逆光耐性の高さにも驚かされた。

フィルターなし
ARCREST使用
他社同価格帯保護フィルター使用
他社一般価格帯保護フィルター使用

広角レンズの「PC-E NIKKOR 24mm f/3.5D ED」を使ったテストでは、さらにわかりやすい結果となった。ここまで来るともう説明もいらないだろう。

【共通データ】
Nikon D810 / PC-E NIKKOR 24mm f/3.5D ED / 5秒 / F16 / ISO200 / マニュアル / 24mm

以下のサムネイルは赤枠部分の切り出しです
フィルターなし
ARCREST使用
他社同価格帯保護フィルター使用
他社一般価格帯保護フィルター使用

あくまで"低反射率"にこだわったARCREST

"なぜこれほどの逆光耐性を実現できたのか?"という基本的な疑問について、ニコンイメージングジャパンの商品企画担当者に概要を教えてもらった。

「ARCRESTに採用されている片面反射率0.1%を実現した『ゼロワンARコート』は、いわゆる多層膜コートです。一般的な多層膜コートは4~5層で形成されているのに対し、ゼロワンARコートはその3倍以上の層からできています。その上に撥水・撥油コートも施しています」

「ARCRESTのガラス強度は一般的な保護フィルターとさほど変わりません。ガラスに強度を持たせるには、表面部分の元素をナトリウムからカリウムに置き換えて化学強化するのですが、それを施すと片面0.1%という低反射率を実現できませんでした。また、低反射率を優先するために帯電防止の処理もあえてしていません」

どちらも、並々ならぬこだわりである。割れにくさや帯電防止といった保護フィルターの最新トレンド(?)にもあえて乗らず、低反射、つまり高画質へのこだわりだけを突き通した開発陣には頭が下がる。

ARCRESTの高画質を支えるのは低反射だけではない。ニッコールレンズ基準のガラスと新設計のフレームの組み合わせによる、究極の平面精度を持つフィルターでもあるのだ。こちらも以下に比較を示すが、ARCRESTを付けたことによる画像の歪みや解像力の低下はまったく見られなかった。

【共通データ】
Nikon D810 / PC-E NIKKOR 24mm f/3.5D ED / 1/60秒 / F11 / ISO64 / マニュアル / 24mm

フィルターなし
ARCREST使用
他社同価格帯保護フィルター使用
他社一般価格帯保護フィルター使用

使用しているガラスの質や、高い平面精度を実現するフィルター枠の構造についても聞いた。

「ARCRESTのガラスには、ニッコールレンズに使える水準の"光学ガラス"を使っています。フィルターは平面なので屈折率や分散率を考慮する必要はなく、ガラス自体は決して特殊なものではありませんが、光学ガラスゆえにガラス内部の不均質などに対する検査水準がとても高いです。これは従来のニコンのレンズフィルターも同様でした」

「ARCRESTはこれまでにない研磨技術とマウント方法で、かつてない平面性を実現しています。研磨技術を詳しく解説することはできないのですが、とても時間と技術力を要する新規技術の平面研磨加工です。ガラスのマウント方法も新規技術の『フラットプレーンシステム』を採用しました。これまでのバネやリングでフレームにガラスを固定する方法では、どうしてもガラス自体にテンションがかかってしまって、製品となった段階でガラス面に歪みが生じていました。しかしフラットプレーンシステムは、とても高度な金枠加工とエラストマーで保持することにより、ニュートンリング1本以下の平面精度を持つガラスに掛かる負荷を大幅に軽減し、歪みの影響を最小限に抑えています」

これほど平面性にこだわりを持って作られているフィルターがあっただろうか。面精度はガラス面同士を重ねて発生するニュートンリングの少なさで観察できるが、一般的なフィルターは高精度を謳うものでもニュートンリングが4~5本程度だ。また、フレームのガラス保持力も、ガラス自体が耐えられないほどの400Gという領域まで設計されており、心強い。

使い心地まで行き届いた設計

フレームに施されたアルマイト処理は極めて良い指がかり

最後に、使用していて気付いた部分をお伝えしたい。ARCRESTは一般的な薄型の保護フィルターよりもさらに薄く、ネジ込み部を除いた厚さは3.4mm(95mm径のみ3.9mm)しかない超薄型フィルターだ。レンズに装着したときにスッキリと見た目が良い上に、超広角レンズでもケラレを発生させない。

フィルターは薄ければ薄いほど取り外しがしにくくなりそうなものだが、ARCRESTのフレームに施されたアルマイト処理は極めて指がかりがよく、取り外しは手元の他社製品よりスムーズだった。聞けば、フィルターのネジ山も、きちんとフィルターがレンズと平行に入るように切られており、斜めに噛んでしまって互いのネジ山を傷めないよう設計されているそうだ(しかも、ニコンのフィルターは昔からそうだったという)。こうしたカタログに記載がない部分にまで、ニコンらしい細やかさを感じられた。

他社ユーザーにもオススメ

ARCRESTは"CREST=頂点"の由来通り、レンズフィルターにおけるひとつの頂点を見せつけた。常用しがちな保護フィルターだからこそ画質への影響は避けたい。今回の比較テストで明らかになったとおり、特に逆光撮影の多いユーザーにおいては唯一無二の存在となるはずだ。

個人的な願望ではあるが、ARCRESTの逆光耐性を知ってしまったので、このクオリティでPLフィルターやNDフィルターのような”画像効果のあるフィルター”も欲しくなってしまった。保護フィルターに関してはゴーストがどうしても気になる場合には取り外すという選択ができるが、効果のあるフィルターは取ってしまうともちろん効果が得られなくなるからだ。

ARCRESTは高価なフィルターだと最初に書いたが、それでも流通量の多い77mm径で税別1万3,500円と十分に手が届く範囲。この金額で”レンズ保護”と”高画質の保証”が手に入るのは良い選択肢だといえる。 当然だがニコンのレンズ以外にも使用できるので、他社製品のユーザーであっても、高画質を求める向きは一度手にとってみてほしい。

制作協力:株式会社ニコンイメージングジャパン

今浦友喜

(いまうらゆうき) 1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。日本各地の自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。

http://ganref.jp/m/yukimaeye