私はこれを買いました!

もっとちゃんと失敗したい

富士フイルム X half(鈴木誠)

「フィルムカメラモード」でMF(ゾーンフォーカス)撮影。ピントリングで微調節も可能。経験がモノを言います

年末恒例のお買い物企画として、写真家・ライターの皆さんに、2025年に購入したアイテムを1つだけ紹介していただきました。(編集部)

やらなくていいことをやりたい

雑誌「フォトコン」で担当していた連載「新技術誕生のバックストーリー」(2025年1月号〜12月号)でX halfを取材した際に、若い人達が“自分達が買って使いたいカメラ”をテーマに企画したと聞いて触発されました。

触ってみて気に入ったのは、フィルムカメラの所作とデジタルの利便性が私好みにバランスしていたところ。私はたまに中古のフィルムカメラを買いますが、だいたいフィルムを現像に出すのが億劫で撮りっぱなしになってしまいます。それでも撮った写真は見たいので、ほどよく手間の掛かるX halfはどうだろうと思い買ってみたわけです。共感は求めません。

では気に入ったから毎日持ち歩くのかというと、恥ずかしながらそうでもなく。昭和のご家庭にあった「フィルム1本に1年が写っている」ぐらいの出動頻度かもしれません。撮影が必要な仕事なら「ライカQ3」を持ち出しますし、カメラマンが別にいれば「RICOH GR III」をお守りにします。X halfを持ち出すことは私にとって、“これは100%遊びである”と線を引く、勇気ある贅沢な選択なのです。

今年はライターとして一般誌のカメラ特集に携わる中で、つくづく「カメラ」と聞いて思い浮かべるもの、期待することの多様化を実感しました。カメラ専門誌界隈から見える世界は、今のカメラ人気の一部分、もしくは全くそれ以外の部分なのではないかと。どういうことかというと、昨今のフィルムカメラ人気なりコンデジブームは、スマホありきの時代だからこそ新しく発掘された遊びのように思えてならないのです。

露出の過不足や手ブレ、ピンボケなど、失敗する可能性があるからこそ成功が(普通にちゃんと写るだけでも)嬉しいんですね。失敗がなければ成功の実感もなく。モノよりコト消費と呼ばれる時代に「失敗ありきの道具にわざわざお金を払う」という消費者心理は見逃せないでしょう。

それはカメラ経験者にとっても同じで。例えばX halfのファインダー視野率はビックリするほど低い(覗く位置でいかようにズレる)のですが、それをカメラの構え方で工夫するのか、ファインダーの窓に照準でも貼るのか、おもちゃ箱から自慢のドイツ製ファインダーを出してくるのか……みたいなことを考えるのも、遊びとして楽しめます。

そんな調子ですからX halfは是非ともアップデートで、フィルムカメラモードのISO感度を固定できるようにしてほしいなと思っています。そうでないと、暗い場所でもISO12800まで感度アップしてしっかり写ってしまいます。ご承知の通り、こちらはエンジョイ100%の気構えで使っていますから、「暗くて手ブレしちゃう」みたいなフィルムカメラで起こりうる失敗は何でもウェルカムなのです。自動車教習所のシミュレーターみたいな感じでしょうか。ご検討よろしくお願いいたします。

会社員時代の旅仲間と岐阜へ。背面モニターを何となく見ながら、思いつくままに片手でパチパチ撮りたくなる効能があります。
富士フイルム X half(X-HF1)/プログラムAE(1/680秒、F5、+0.7EV)/ISO 400/フィルムシミュレーション:ACROS

近況報告

フリーライター2年生の今年。仕事の半分ぐらいが楽器関係の取材・執筆だったような気がします。人生とはわからないものです。ギターを背負ってお茶の水を歩いていると、なんだか学生時代に戻ったかのようでした。いっぽうカメラ関係は本誌記者時代の特別な訓練が生きまして。現在発売中の「カメラホリックVol.14」では、“ベッサのファインダーはライカを超えたのか?”というテーマのもと、赤城耕一さんと一緒にレジェンド技術者を取材しました。距離計ファインダーとはこんなにも奥が深いのかと勉強になりました。こちらもよろしくお願いいたします。

ライター。本誌編集記者として14年勤務し独立。趣味はドラム/ギターの演奏とドライブ。日本カメラ財団「日本の歴史的カメラ」審査委員。YouTubeチャンネル「鈴木誠のカメラ自由研究