メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!
M.ZUIKO DIGITAL「ED 7-14mm F2.8 PRO」&「8mm F1.8 Fisheye PRO」
オリンパスがこだわったPROレンズの光学設計
Reported by 伊達淳一(2015/7/17 10:00)
描写性能だけでなく、防塵・防滴、操作性までこだわったM.ZUIKO PROシリーズの超広角ズームとフィッシュアイレンズ。
どちらも、開放F値が明るく、最短撮影距離も短いのが特徴で、周辺画質の向上を図るため、Super EDレンズなど特殊硝材を贅沢に使用し、色収差やコマ収差を徹底的に低減。バックフォーカスを規格ギリギリまで短くすることで、性能を犠牲にすることなく、同スペックのレンズに比べ、大幅な小型・軽量化も実現している。
インタビューの注目トピック
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M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROで実現した小型化のワケ
――M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの開発の狙いとターゲットユーザーを教えてください。
城田:すでに、M.ZUIKO PROシリーズとして、M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PROとM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROをラインアップしておりますが、それに続く、開放F2.8の明るさを誇る超広角ズームとして投入したのが、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROです。
12-40mm、40-150mm、そして今回の7-14mmとこの3本のPROレンズで、35mm判換算で14~300mm相当の画角を開放F2.8の明るさでカバーでき、重さも3本合計で約1,800gと機動性に優れているのが特徴です。PROシリーズということで、プロやハイアマチュアの方々に満足して使っていただける高い光学性能や信頼性を実現すべく開発に取り組みました。
とりわけ超広角ということで、自然風景や星景の撮影など無限遠に近い被写体を写すケースが多くなりますので、画面の周辺部まで点を点として再現できることにこだわっています。これは、フィッシュアイレンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROも同じですが、MTFを向上させるのはもちろん、MTFには現れないようなサジタルコマフレアや色収差などもしっかり抑え、画面周辺まで点が点に写せることを目指しました。
――このレンズは、35mm判換算で14mm相当の広い画角をカバーし、開放F2.8の明るさにもかかわらずコンパクトなのが魅力ですが、前玉が大きく突出しているので、PLフィルターは装着できません。16-35mm相当の画角でPLフィルターが装着可能な開放F2.8の超広角ズーム、という要望はそれほど多くなかったのでしょうか?
安富:ご存じのように、ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0というフォーサーズ規格の超広角ズームを発売しています。それと同じ画角を確保したいという思いがあり、少なくとも焦点距離7mmをカバーするという前提で開発がスタートしました。フィルター装着の可否については検討しましたが、このレンズに関しては“画角”と“画質”を最重視しました。
城田:開発当初は、フロントフィルターの可能性を検討してみたのですが、サイズが直径130mmと巨大で、しかも仮に発売するとなると価格が3万円以上になってしまうかもしれないということで、さすがにユーザーの方が期待しているものにならないだろうと、フィルター装着は見送ることにしました。
――そうなると、PLフィルターが使える超広角ズームは、M.ZUIKO DIGITAL ED 9-18mm F4.0-5.6しかありませんが、画角的にも光学性能的にもPROシリーズと比べると見劣りします。開放F4でPLフィルターが使える超広角ズームをプラスαしてほしいところですね。
城田:そういった声もいただいていますので、現在検討も視野に入れているところです。
――期待しています。ところで、フォーサーズ規格のZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0と比べると、カバーする焦点距離は同じで、しかも、開放F値が1段明るいF2.8にもかかわらず、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの方が圧倒的にコンパクトなのはなぜですか?
木股:広角、超広角レンズの設計では、バックフォーカス(レンズ最後端から撮像面までの距離)が短い方が設計的に有利です。
しかし、一眼レフの場合、クイックリターンミラーがあるので、レンズの後群がミラーに当たらないように前方に配置し、レンズのバックフォーカスを長くする必要があります。そうすると収差を抑えるために前方のレンズ群の負担が増え、レンズ枚数が多くなり、全長を伸ばすことになるため、大きく重いレンズになってしまいます。
その点、ミラーレス構造のマイクロフォーサーズ規格は、一眼レフよりもバックフォーカスを短くできるため、元々ミラーがあったところに後群を配置し、効率良く収差を抑えられます。前方の群のレンズ枚数も減らせるため、レンズの全長を短くすることができますし、絞りを中心に対称的にレンズを配置することもできるので、設計的には非常に有利になってくるのです。
開放F2.8と1段明るいにもかかわらず、ここまで小型・軽量化を図れたのは、バックフォーカスを大幅に短くしたマイクロフォーサーズならではの光学系だからです。
――ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0とM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROでは、画質性能はどちらの方が上ですか?
木股:絞り値をF4にそろえた場合、MTFとしてはどちらもほぼ同等になります。M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROをF2.8開放にしても、実用上遜色ないレベルです。
ただ、MTFに出てこない描写性能、例えばサジタルコマフレアや色収差はM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROの方が抑えられていますので、星を撮ったときなど点が点としてにじみなく写せますし、最周辺部で星が写らないということがないように、周辺光量もしっかり確保する設計になっています。
宮田:超広角レンズでは周辺の色収差が目立ってきます。そこでこのレンズには、Super ED(超特殊低分散)レンズをオリンパスとしては最高となる3枚使用し、EDA(Extra-low Dispersion Aspheric/特殊低分散非球面)レンズも2枚使用することで、徹底的に色収差の低減を図っています。
3枚目の大型のDSA(Dual Super Aspheric)レンズによりフラットな像面を確保したり、ズーム全域でのサジタルコマ収差を除去したりと、最周辺の描写性にもこだわっています。
また、倍率色収差をコントロールすることでMTFをもう少し高めることができるのですが、MTF以外の画質も徹底的に追求し、色にじみやサジタルコマフレアの抑制による点像の維持などバランスを重視した設計になっています。
――素朴な疑問なのですが、周辺までMTFを高めていけば、おのずと色収差やサジタルコマフレアなど周辺の諸収差も小さくなるのでは?
宮田:MTFを計算する際、可視光の波長域に対し、波長ごとに優先順位を設けています。順位が高いところの収差を優先的に補正して、MTFを高くすることはできるのですが、そうしますと、例えばパープルフリンジなど、あまり優先度の高くない部分の特性が悪くなったり、バランスを欠いた描写になってしまうことがあります。
――なるほど。ボケ味やゴーストはMTFで分からないのは承知していましたが、それ以外にもMTFでは分からない性能ってあるんですね。
宮田:そのあたりの調整はオリンパスならではのノウハウです。
木股:設計者としては、MTFに着目して設計しがちですが、今回のレンズは実写性能を高めるため、MTFだけに着目するのではなく、全体を見てバランスを最適化しています。
――星や夜景撮影では、点を点に写すために、サジタルコマフレアはできるだけ少ない方が望ましいのは分かりますが、それ以外の一般的な撮影でサジタルコマフレアの少なさが実感できるケースはありますか?
木股:ワイド端で高周波の被写体があると違いは明らかに分かりますね。サジタルコマフレアが十分に抑えられていない場合には、周辺部の木々や木もれ日などが乱れたり同心円状にぶれたような描写になったりします。F4まで絞れば、画面の四隅に星を入れて撮影しても、色にじみなくほぼ点像に写すことができます。
――どのようなゴースト対策が施されているのでしょう?
木股:広角になると画面内に光源が入るシチュエーションが多くなりますので、そのシチュエーションでのゴーストがなるべく少なくなるよう取り組んでいます。
ゴースト対策としては、面形状とコーティングという2つの要素がありますが、面形状を大きく変えてしまうと性能とのトレードオフになってしまいますので、性能を損なわない範囲でレンズの面形状の最適化を図りつつ、斜め入射に強いZERO(Zuiko Extra-low Reflection Optical)コーティングを施しています。
宮田:ZEROコーティングというのは、通常よりも多層膜の蒸着を施して反射を抑えたコーティングで、それを応用し、広い波長域で全体的に反射率を下げ、斜め方向から入射した光の反射も下げるようなコーティング設計もできますので、それを新たにZEROコーティングの応用という形でこのレンズに施しています。
フォーサーズ用のZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F4.0は、画面内に太陽など強い光源を画面の中央付近に入れた場合に、大きな赤いゴーストが発生することがありましたが、そういった目立つゴーストが発生しないように対策しています。
――ZEROコーティングが施されているのはどの面ですか?
木股:深凹面に適した斜め入射に強いZEROコーティングは、前の3枚のレンズ両面に施しています。後ろのすべてのレンズにも、斜め入射に強いZEROコーティングとは別のZEROコーティングが施されています。
――一般的なマルチコーティングもZEROコーティングも、蒸着コーティングという点では同じだと思いますが、どういった要件を満たすとZEROコーティングと呼べるのでしょうか?
宮田:一般的なマルチコーティングに対し、ZEROコーティングは反射率が半分以下に抑えられているのが特徴で、製法も大きく異なっています。
――短期間ながら、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROを試用する機会を得たのですが、確かに画面内に太陽を入れても目立つゴーストは発生しにくくなっているのを感じました。
ただ、これだけ画角が広く、前玉が突出しているので、太陽を画面の四隅ぎりぎりに配置したときには、複数のゴーストがそれなりに出てしまいますが、どのゴーストも淡く、色調もブルー系に統一されていますね。これは狙ってゴーストの色を同系色にまとめているのでしょうか?
木股:そうですね。ゴーストを完全に防ぐのは難しいのですが、同じゴーストでも赤系のゴーストは目立つので、なるべく青系になるようにコーティングの特性を調整しています。
宮田:ゴーストを抑えるには、レンズの曲率があまり大きくならないようにするという手法もありますが、全体的なレンズのパワーが弱まりますので、そうすると全長を大きくせざるを得なくなり、マイクロフォーサーズの強みを生かせなくなります。
ZEROコーティングは、全波長域で反射率を大きく抑えられるコーティングですので、曲率の高い面でも反射を抑える効果が高く、ゴーストが発生したとしてもできるだけ目立ちにくい色になるように、ZEROコーティングでコントロールしています。
安富:このレンズはフード固定式で、ズーミングに伴って前玉がフードの内側を前後しますが、ワイド端で前玉が一番手前に、テレ端では一番奥に引っ込みます。しかも、ズームしたときの第1群の移動量が大きく、かなりフードの奥まった位置まで前玉が後退するので、ワイド端だけでなくテレ端でもフードの遮光効果が高いのが特徴です。
――最近はズーム中域で前玉が一番引っ込むレンズも多いですが、このレンズは非常に素直な動きですね。そこまで、意図して設計しているんですね。
ところで、ほかのレンズに比べ、AF時にフォーカスが前後に大きく動くような気がします。一度ピントを合わせた後にもう一度ピントを合わせ直しても、フォーカスレンズが大きく動くのがあまりスマートに感じません。やはり、焦点距離が短いぶん、これくらい大きくフォーカスレンズを動かさないと、コントラストのピークがつかみにくいのでしょうか?
木股:フォーカスを行うレンズ群をどこに配置するかが設計のポイントとなるのですが、このレンズでは小型化と高性能の両立を優先してフォーカスレンズ群の配置を決めました。
ただ、どうしてもフォーカスレンズの動きに対する像倍率変動がやや大きめに出てしまう位置となっています。バランスを取って最適化してあるため、実使用上は問題ないと考えていますが、撮影シーンによっては少し気になることもあるかもしれません。
――決してAFが遅いわけではないのですが、ほかのM.ZUIKO DIGITALレンズに比べると、AF時にフォーカスが大きく動くなぁ、という印象を受けました。特にC-AFのウォブリングは気になりますね。まあ、このレンズをC-AFで使うケースはあまりないと思うので、実用上問題とはならないとは思いますが……。なるほど、そういう理由だったんですね。
安富:AF関連で言いますと、最短撮影距離にもこだわっています。7-14mmの設計にあたり、PROシリーズとして共通の操作性、感触が得られるように配慮しました。
特に最短撮影距離の短さについては先に発売した2本のPROレンズで高評価をいただいており、この7-14mmも並の最短撮影距離で満足するのではなく、超広角ズームとして一歩抜きん出た20cmまで寄れることにこだわりました。
ただ、小型化と近接撮影能力を重視した光学設計にしたことで、ほかのレンズよりもフォーカスレンズを大きく動かさなければなりません。そのため、移動量が増えても素早いピント合わせが行えるように、フォーカスレンズとそれを支えるユニットをギリギリまで小さく軽くして慣性の影響を受けにくくし、素早くスムーズな動きに対応できるよう工夫しています。
――超広角でグッと寄れると遠近感が強調され、よりダイナミックな構図で撮影できますね。開放F2.8の明るさでここまで寄れると、被写界深度が深いマイクロフォーサーズの超広角とはいえ、背景もある程度ぼかせると思いますが、ボケ味についてはどうですか?
木股:前ボケも配慮していますが、特に後ボケにはこだわっています。先ほどご説明したように、サジタル(同心円)方向とメリジオナル(放射線)方向でボケ方が変わると、スピード感を感じるような流れるボケとか、渦を巻いたぐるぐるボケになってしまいます。
そこはコマ収差をしっかり補正して、周辺のボケ像がいびつに歪まないようにしています。ピント面だけでなく、少しフォーカスが外れた部分も同時にコマ収差を良好に抑える、というのは非常に難しいのですが、今回はそこにも着目して設計を追い込みました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROで広がる表現の可能性
――次に、M.ZUIKO DIGITALとしては初となるフィッシュアイレンズ、M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROについてお話を伺いたいと思います。まず、このレンズを開発した狙いとターゲットユーザーを教えてください。
城田:どちらかといえば、フィッシュアイレンズは使用用途が限定される特殊なレンズですが、一定の需要があり、オリンパスのカメラシステムとして完成度を高めるためにも、M.ZUIKO DIGITALのラインアップに必要だと考えていました。
ただそうはいっても、フィッシュアイレンズを積極的に購入するという方がそう多くはないのが実状です。並のスペックでフィッシュアイレンズを出しても、これまでと需要はそう大きく変わるとは思えません。そこで、フィッシュアイレンズの新しい可能性を提供できないか? というクェスチョンを自分たちに投げかけるところから開発をスタートさせました。
その結果、F1.8という開放F値の明るさとレンズ前2.5cmまで寄れる近接撮影性能、そして、マイクロフォーサーズならではの高い機動力、という3つの要素を盛り込むことにしました。
フィッシュアイレンズが使われる主要なシーンとして、星景撮影や水中撮影、花や虫のマクロなどがありますが、開放F1.8の明るさがあれば、十数秒の露出でも微光星まで写せるので、満天の星空を簡単な固定撮影でも写せます。
また、水中ではフラッシュ撮影が一般的ですが、このレンズならその場の光だけでも、被写体ブレの恐れが少ないシャッター速度を確保できるので、フラッシュ撮影とは違った水中写真が撮れるようになります。
さらに、フィッシュアイレンズはぼけない、という認識がありますが、開放F値の明るさと最短撮影距離の短さを組み合わせれば、フィッシュアイならではのデフォルメ効果で主要被写体を大きく写しつつ、広い画角の背景をぼかすという新しい表現が可能となります。
このように、F1.8の明るさとレンズ前2.5cmの近接撮影性能を実現することで、フィッシュアイレンズの新たな表現、可能性が広がり、より多くの方々にフィッシュアイレンズの魅力、楽しさに気づいていただければ、と考えました。
――フィッシュアイレンズで開放F1.8という明るさは世界初ですか?
城田:監視カメラではもっと明るいものもありますが、交換レンズとしては、世界初です。
――開放F1.8という明るさと周辺画質を両立させるために、どのようなアプローチを試みたのでしょう?
宮田:まず企画の城田から、開放F1.8のフィッシュアイを作りたい、という提案を受けました。しかも星を撮りたいということで、周辺まで点が点に写ることを求められました。
一般的なフィッシュアイレンズは、周辺で像の流れや色にじみが発生するものがほとんどです。しかも世界初のF1.8の明るさで、最周辺まで点が点として解像させるとなると、さらに設計の難易度は高くなります。
先ほどの7-14mm F2.8PROの話と同じで、光学系の前の方で広い画角から入射する光を大きく曲げると必ず収差が発生します。その収差をいかに後ろの群で補正するかがポイントとなりますが、このレンズは開放F1.8と一般的なフィッシュアイレンズよりも1.3段も開放F値が明るいので、より収差も多くなります。
そこで、一般的なフィッシュアイレンズは構成枚数が10枚前後なのに対し、このレンズは17枚と非常に贅沢な光学系を採用しています。特に、後群にスーパーEDレンズやEDレンズといった特殊硝材をふんだんに使って、色収差を徹底的に補正しています。スーパーEDレンズは加工が難しい硝材なのですが、それを3枚使ってでも色収差を徹底的に抑えることにこだわりました。
また、マイクロフォーサーズはバックフォーカスを短くできるので、規格ギリギリまで後群を撮像面に寄せ、多くのレンズを後群に配置して収差を徹底的に補正すると同時に、前方の光学系に対する負担を減らし、小型軽量化も合わせて追求しています。
17枚のレンズをこの大きさに入れるためにはメカ設計者へ、レンズを可能な限り薄くするためには製造部門へ負担をかけてしまいましたが、そのかいあって開放F1.8の明るさで周辺まで点を点に写せるフィッシュアイレンズを実現することができました。
――カットモデルを見ると、前の方で広い画角の光を緩やかに曲げながら採り込んで、後ろの群で収差を丁寧に補正している感じがよく分かります。
しかし、後群のレンズとレンズはほとんど隙間がなく、ぎっしり詰まっていますね。これだけレンズがぎっしり詰まっているにもかかわらず、最短撮影距離は12cm、レンズ先端から2.5cmまで寄れる近接撮影能力があるのも驚きですね。
宮田:最短撮影距離を短くすると、それだけフォーカスレンズを大きく動かす必要があります。AFスピードを確保するため、フォーカスレンズをできるだけ小さく軽くし、最適な位置を選んでいます。
――インナーフォーカスということは、撮影距離によって画角が微妙に変化するんですか?
木股:無限遠がもっとも画角が広く、最短撮影距離では少し画角が狭くなります。
――ほかのM.ZUIKO PROシリーズは、ワンタッチでAF/MFを切り換えられるクラッチ機構やL-Fnボタンを備えていますが、このM.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROはどちらの機構も省かれていますね?
城田:このレンズはかなり小型に仕上がっていますので、これらの機構を無理矢理入れても使い勝手が悪くなったり、レンズが大きくなってしまったりします。
それと、もともとフォーカスのストロークが非常に小さいので、無限遠と最短くらいしか目盛りを振れません。いろいろなバランスを考え、フォーカスリングのみのシンプルな操作性がベストと考えました。
山崎:カメラの底面からも張り出しにくい、小型なサイズを実現しました。また、ネイチャーフォトで花や虫などを撮影する場合にも、レンズは小型な方が使いやすいので、ほかのPROシリーズでは共通の特徴であるフォーカスクラッチ機構やL-Fnボタンを諦めてでも、小型・高性能の両立にこだわりました。
――星景写真では拡散フィルターを併用して明るい星を肥大化させて撮影するのが定番ですが、このレンズも7-14mm F2.8PROも後部にシートフィルターを挟み込むフィルターポケットがないのが残念です。
山崎:広角レンズを小型化するには、バックフォーカスができるだけ短い方が有利です。フィルターポケットを設けると、そのぶんバックフォーカスが長くなり、レンズが大きくなってしまうため、マイクロフォーサーズの強みを最大限に生かせなくなります。
商品としてのバランスを考えたときに、フィルターポケットを設けてレンズのサイズを大きくしてしまうことは避けたいという判断です。
――では、星景撮影で拡散フィルターを使いたい場合はどうすれば良いのでしょう?
山崎:メーカーとして推奨するわけではありませんが、レンズの一番後ろにある枠は平らな形状なので、ここにシートタイプの拡散フィルターを適切な大きさに切り抜いて貼り付けることは何とか可能だと思います。
また、星景撮影を撮影されている方の中には、カメラ本体マウント内の一番手前の枠に拡散フィルターを装着している人もいらっしゃいます。
――あくまで自己責任で、ということですね。できれば、適切なサイズに切り抜き済み、接着テープ装着済みの拡散フィルターを、オリンパスオンラインで特別配布してほしいところですね。
ちなみに、もしフィルターポケットを設けた場合、性能に妥協しないとして、レンズはどのくらいの大きさになりますか?
山崎:例えば、フィルターポケットを設けることで、バックフォーカスが5mm長くなるとすると、12-40mm F2.8 PRO並の大きさになると思います。
――バックフォーカスがわずか5mm違うだけでも、そこまでサイズに影響するんですか!? ついでに持って行くにはちょっと大きいですよね。逆にもっとバックフォーカスを短くすれば、もっと小型化できるということですか?
城田:マイクロフォーサーズはオープン規格ですので、現在のオリンパスボディで大丈夫でも、他社製品と組み合わせた場合に問題が起きる可能性があります。そのため、規格の範囲内でギリギリまでバックフォーカスを短くしたのが、今回の2本のPROレンズです。
――そのほかに、M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROならではのトピックはありますか?
城田:徹底的に周辺画質を高めたことで、フィッシュアイ特有のディストーションを補正しても、解像感の低下が極めて少ないことが分かりました。
そのためOLYMPUS Viewer 3の「フィッシュアイ補正」という機能を使うと、フィッシュアイレンズの歪みを補正して一般的な超広角レンズで写したような写真に変換することができます。歪みを補正すると、周辺の像が大きく引き伸ばされるので画質は劣化しますが、このレンズは周辺の解像が非常に優れているので、像が引き伸ばされても解像感がそれほど大きく低下しません。
また、フィッシュアイ補正を行うと35mm換算で約12mm相当の画角が得られますが、実際にはそれよりも広い範囲が写っているので、フィッシュアイ補正でズームをプラス側に動かして、アスペクト比を変更すると3:2で約11mm相当、16:9で約9mm相当の画角を得ることができます。
――超広角ズームを持っていないときには便利な機能ですね。ところで、この2本のPROレンズを「受注生産」にしているのはなぜですか?
城田:「受注生産」ではなく「受注販売」です。「受注販売」は、予約したお客さまに確実にお届けするという形の販売方法で、「受注生産」とは違って生産そのものは随時行っています。
CP+でこのレンズを発表した際、我々が想像していた以上に反響が大きく、発売当初は十分な数をご用意できそうにないことが分かりました。そこで、確実に欲しいと思っていただける方にできるだけ早くお渡しできるよう「受注販売」という形を取らせていただきました。
したがって、市場の(潜在)ニーズに対して十分な数がご用意できるようになれば、受注販売ではなく、通常販売に切り替わる予定です。
――なるほど。よく“予想を上回るご予約をいただきき、十分な数をご用意できないので、発売日を遅らせていただきます”というメーカーもありますが、早く予約を入れた人から順番にお届けするという方が、ユーザーにとってはうれしいですよね。本日はどうもありがとうございました。
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2本のレンズともコンパクト、かつ収差を抑えた周辺画質の高さに驚く
最近、フルサイズ対応超広角ズームの高性能化が著しく、開放絞りから安定した周辺画質が得られる製品も出てきたが、高画質と引き換えに、レンズ重量は1kg前後とヘビー級。フルサイズ一眼レフはボディも重いので、あれこれレンズを持っていこうとするとかなりの体力が必要となる。
その点、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROは、14mm相当の画角をカバーする開放F2.8の超広角ズームとしては驚くほどコンパクトで、重量も約534gと軽い。
同じ画角、同じF値で撮影した場合、フルサイズよりも被写界深度が絞り2段分深くなるので、風景をパンフォーカス的に撮影したいときにも、より速いシャッター速度で撮影できるのは有利だ。
ただ、フルサイズ機は高感度画質に優れているので、2段絞り込んでも2段感度を上げて撮影すればイーブンになるかもしれないが、軽量コンパクトなボディとレンズでフルサイズとイーブンな結果が得られるなら、機動力が高いぶん、マイクロフォーサーズの方が体力的に優しく、より快適に楽しく撮影できる。
また、M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheyeの周辺画質の高さには驚かされた。7-14mm F2.8も周辺画質はかなり高く、コマ収差や色収差が徹底的に抑えられているのだが、8mm F1.8 Fisheyeは、さらに周辺画質が整っていて、しかも、レンズ前2.5cmまで被写体に寄れるので実に楽しいのだ。
レンズも軽いので、OLYMPUS AIRに装着してポール撮影するのも楽だ。この夏は、ぜひこのフィッシュアイで星景写真に挑み、周辺画質の高さを確認してみたいと思っている。