インタビュー

パナソニック「LUMIX G9 PRO」(後編)

ボディ単体でも6.5段の手ブレ補正 顔が隠れてもAF追従する"人体認識"とは?

パナソニックが1月25日に発売したマイクロフォーサーズ機「LUMIX G9」(DC-G9)の開発者インタビューをお届けする。日本市場ではプロ向けに"G9 PRO"として展開する狙いなどについて聞いた。(編集部)

パナソニック株式会社アプライアンス社の面々。前列左からAP社直轄デザインセンター パーソナルデザイン部 PA3課 主任意匠技師の佐々木厚氏(デザイン)、商品設計部 商品設計三課 主任技師の堀江悟史氏(開発リーダー)、商品企画部 第一商品企画課 主務の角和憲氏(商品企画)、外装設計部 外装設計二課 係長の玉置亮輔氏(外装設計)、後列左から商品企画部 第一商品企画課 主務の渡邊慎治氏(レンズ企画)、ソフト設計部 ソフト設計六課 課長の澁野剛治氏(AF)、商品設計部 商品設計二課 主任技師の岡本晃宏氏(画質設計)、ソフト設計部 ソフト設計六課 係長の櫻井幹夫氏(手ブレ補正)

高速読み出し、電子シャッターでの高速連写やプリ連写について

——試作機の電子シャッターで蛍光灯を撮影したところ走査線は2本写りました。この結果からスキャンスピードは1/60秒前後と思われ、従来機の2倍になっていることは確認できました。プロ機を謳うならさらに2倍から4倍くらいのスピードが欲しかったと思いますが、読み出しスピードを向上させるにはどんな課題がありますか?

岡本:画素数も関係しますが、それ以外ではイメージセンサー側での電荷の取り出しと、それをA/D変換して画像処理エンジンまで伝送するという一連の動作の全てを高速化する必要があり、現時点でのバランス点が、この読み出し速度になっています。

画質設計を担当した岡本晃宏氏

——読み出しスピードのボトルネックになるのは、どういった部分ですか?

岡本:このG9 PROでは、どこかがボトルネックになっているということはなく、全てがそのレベルになっているということです。それぞれの速度を上げようとすると、さらに個別の課題が出てきてしまいます。現在の技術においてメカシャッターの作動速度で読み出すことは現実的でなく、現時点としてはここがベストのバランス点であると考えています。

——何か技術的なブレイクスルーが必要ということでしょうか?

岡本:ブレイクスルーも必要ですし、読み出し速度を向上させるにはセンサー側での回路スペースの確保や、電力面、さらには伝送速度の高速化など技術的な難易度の高い課題が色々とあります。そのため、現時点ではメカシャッターによる撮影をメインにお考えいただき、電子シャッターでの撮影はその特性を理解された上でお使いいただくのがよろしいかと思います。

——イメージセンサーは自社生産ですか?

岡本:それにつきましては公表はしていません。

——電子シャッター時は最高60コマ/秒で連写可能ですが、フル画素で秒間60コマ撮影できるのでしょうか?

岡本:はい。フル画素での連続撮影速度になります。

——GH5の場合は6Kフォトで60コマ/秒でしたので、高速連続撮影時の画質ではG9 PROの方が優位ということになりますね。

岡本:そうなります。

——超高速連写モードで、1コマ目でピントを固定したAFSモードの場合は60コマ/秒ですが、動体にAFを追従させるAFCモードでは20コマ/秒まで落ちる理由は?

澁野:AFCモードでは、60コマ取得したデータのうち40コマはAFに利用しているということになります。

AF機能を担当した澁野剛治氏

——電子シャッター時に超高速連写モード(SH1、SH2)に加えてメカシャッターと同じ高速、中速、低速のフレームレートがあるのはなぜですか?

角:これは、電子シャッターではサイレント撮影が可能ですので、メカシャッターと同じコマ速でも活用の機会があるということで搭載しています。

——プリ連写機能はシャッターボタンを押す前からの写真を記録できるユニークな機能ですが、AFS/MF時は最⼤24枚、AFC/AFF時は最⼤8枚と枚数が違うのはどうしてですか?プリ連写時のコマ速は?

澁野:プリ連写機能の特徴は時間を遡って連写できるということですが、遡る時間がどちらのモードも同じになっています。その時間は約0.4秒間に設定していまして、このため60コマ/秒で24枚、20コマ/秒で8枚撮影という枚数の違いが発生します。

——遡る時間は0.4秒とのことですが、調整は可能ですか?

澁野:残念ながらそれはできません。

——0.4秒に設定した理由は?

角:0.4秒に設定しましたのは、人間がシャッターチャンスはここだと思って反応できるタイムラグが大体0.4秒くらいかかるということで、そのように決めました。

澁野:ちょっと遅めに感じられるかもしれませんが、チャンスを見逃した部分も加味して、大体0.4秒くらい見ておけば十分ということで設定しています。

——プリ連写時にAFCモードにしていると、例えば急に画面外から入ってきた被写体にもピントを合わせることができるのですか?

澁野:現状では、シャッターボタン半押し状態の時に捉えた被写体は追従できますが、画面の外から入ってきた被写体に追従することはできません。

——フル画素で60コマ/秒の撮影が可能なのに6Kフォト、4Kフォトを併用している理由は? 実際に鉄道を撮影してみましたが、フル画素での高速連写時は連続50コマ、つまり60コマ/秒の場合は1秒弱、20コマ/秒でも2秒半くらいで連写が止まってしまうので、もう少し撮影できればと感じました。

角:フル画素の高速連写はバッファメモリーの関係でどうしても連続撮影可能枚数に限界がありますが、6Kフォト、4Kフォトでは最大で10分間まで連続して撮影できるということで搭載しています。いつ起こるかわからないシャッターチャンスを狙いたいというような時は6Kフォトや4Kフォトが有効になると考えていますので、撮影シーンに応じて使い分けて頂ければと思います。

AF追従の秒間20コマ連写ではRAW記録も可能。(2017年11月の製品発表会より)

画質について。80M相当のハイレゾモードを新搭載

——ダイナミックレンジが25%向上とありますが、イメージセンサー自体のダイナミックレンジが向上したのですか?それとも画像処理上で、階調として活かす範囲を広げたということでしょうか?

岡本:画像処理側での対応になります。信号処理のフローの最適化と本体の製造工程での調整を行うことで、今回のダイナミックレンジ拡大を実現しました。

——マルチピクセル輝度⽣成、つまりRGB成分から輝度信号を⽣成・抽出する際の参照領域を従来機(GH4)⽐で約9倍のエリアに拡⼤させ、周波数特性(周波数ごとのMTF)を最⼤約2倍に向上させたとありますが、参照領域を拡大させるとどうしてコントラスト(MTF)が向上するのですか?

岡本:MTFが上がるということは、元の信号をより正確に再現できるということになります。イメージセンサーではフィルターをベイヤー配列にしているので、離散的なサンプリングをしていることになるのですが、ここからフル画素に復元するときの技術においては、より広範囲の信号から演算を行うことで被写体と周囲との相関関係をより正確に復元しやすくなる傾向があります。信号をより正確に再現できることでMTFも上がります。

——マルチピクセル輝度⽣成とは、他社で言うところのレンズの結像性能を補正する"点像回復"の技術と同様と考えて良いですか?

岡本:基本的には別の処理です。G9 PROにも「回折補正」という機能があり、これはレンズの小絞りボケを劣化の波形とは逆のフィルターをかけることで元の信号を回復するというものです。これに対してマルチピクセル輝度⽣成は、ベイヤー配列の信号から最初の信号生成の段階でより正確に信号処理を行うという技術であり、そもそも目的や考え方が異なります。もっとも、技術的にはフィルター演算処理を行うということで似たような処理であるとは言えますが、そこに向かう目的が異なるということです。

——従来の9倍のエリアの信号を処理するということですが、よりエリアを広げるとMTFは上がりますか?

岡本:理論上はそうなりますが、回路規模も大きくする必要があり、効果とのバランスを考慮して現在の形にしています。

——新しい⾼精度マルチプロセスNRは、ノイズ識別レベルを従来機(GH4)⽐4倍の分解能でノイズと被写体を細かく判別とありますが、分解能を上げると信号だけでなくノイズのディテールも出てくるのでより信号との区別が難しくなるのでは?

岡本:確かに信号レベルだけを見ていますとそうしたイメージをもたれるかもしれませんが、ノイズと被写体は信号特性が異なっていまして、ノイズは基本的にランダムで周囲との相関がありません。これに対して被写体は周囲との相関が高いということで、この2つを判別することをノイズリダクションのアルゴリズムの中でやっていますので、処理の分解能を上げることでその判別精度も高まります。被写体とノイズの判別精度が高まれば、より適切なノイズリダクションが可能になるということです。

——よく「輝度変化の激しい部分は信号部分なのであまりノイズ除去はかけず、輝度変化の少ない部分はノイズを重点的に除去する」と言われますが、そうしたエリアの判定の分解能が上がるということですか?

岡本:そうです。最もシンプルな判定基準ではそうしたこともありますが、実際にはもう少し複雑な演算で処理しますので、その辺りの精度が全て高まるということです。

——人間の目ではノイズと信号は明らかに異なりますが、AIの技術をノイズレベルの判定に利用しているということはありますか?

岡本:ノイズリダクションの技術では今の所AIの技術は使用していません。

——新機能のハイレゾモードの仕組みを教えてください。

櫻井:ボディ内手ブレ補正のメカ機構を利用しまして、任意の位置から画素をずらした8枚の画像を撮影し、元画像(20MP)の4倍となる80MPの画像を生成するという機能です。

手ブレ補正機能を担当した櫻井幹夫氏

——画素ずらしは0.5画素ですか?

櫻井:まずベイヤー配列を補う形で、元の位置から1画素づつずらした画像を4枚撮影し、元の位置から0.5画素ずらした位置でまた同様に4枚撮影、計8枚を用いて合成します。

——ということは、まず元の位置で撮影した4枚で1枚の画像を作り、同様に0.5画素ずらした位置で撮影した4枚で1枚の画像を作り、2枚の画像から80MPの画像を作るのでしょうか?

櫻井:いいえ。撮影した8枚の画像全てを使ってRGB情報も補いながら、センサー画素数を超える80MPの画像を作るイメージです。

——他社ではベイヤー型のフィルター配置のセンサーを1画素づつずらして4回撮影し、各画素でRGB信号を得る方法がありますが、そちらではなく、こちらの方法を採用した理由は?

櫻井:1画素づつずらして4回撮影するだけの場合は解像感が上がりますが、画素数はそのままになります。この機能は、小型軽量なマイクロフォーサーズシステムを採用している当社カメラでも、圧倒的な高画質かつ高解像を実現する事が目的でしたので、こちらの方法を採用しました。

ディープラーニングによる「人体認識」も使える顔認識AF

——顔認識はもちろん人体認識ができるということですが、これはどんな仕組みで行なっているのですか?

澁野:先ほど出ましたAIの技術を使っています。まず、パソコン上で何万枚もの画像からAIの手法の一つであるディープラーニング技術で人体を学習させ、画像上のどこに人体があるのかを認識するネットワークを作り、カメラのファームウェアに実装しています。このネットワークをヴィーナスエンジン内にあるDSPで動かすと、画像のどの部分に人体があるかが判別できるという仕組みです。

人体認識のイメージ。顔が認識できない場合に自動で機能する。(2017年11月の製品発表会より)

——瞳認識が可能とのことですが、左右のどちらの目にピントを合わせるか選ぶことはできますか?

澁野:はい。まず液晶モニター上で右目または左目をタッチするとピントを合わせる目を切り替えることができますし、ファインダーを覗きながらですとタッチパッドAFや、ジョイスティックで枠を合わせたい瞳に移動させてから、シャッターボタンを半押しするという操作でも可能になっています。

——AFCモードにすると画面がウォブリングでちらつくのが気になります。DFDの技術でウォブリングの必要があまりないと思われるのになぜ画面がちらつくのですか?

澁野:DFDでウォブリングを小さくすることはできるのですが、それを行うと今回目標としている動物や野鳥などの被写体のスピードについていけなくなる場合があり、今回のG9 PROに関しましては、レンズを動かす量をある程度確保した動作にしています。

——ウォブリングによる像揺れを低減するには、レンズのフォーカス位置の変動による像倍率の変化を少なくする必要があると思いますが、そうした配慮はされていますか?

渡邊:はい。もちろん行なっています。特に今回は12-60mmや100-400mmでは特にその部分をケアして設計しています。

澁野:これまでのレンズより抑えた設計になっています。

——AFの初動時に大きくウォブリングするのも気になります。

澁野:最初のコマは高精度なコントラストAFを使ってしっかりとピントを合わせるという考え方がベースになっているので、コントラストAFで見られるように少し動作が大きめになることがあります。

——動体追従時にDFDとコントラストAFを組み合わせていて、DFDによる距離情報がコントラストAFによるピント検出をサポートしているとのことですが、DFDだけでピント合わせを行うことはできないのですか?動体追従時もメインのピント合わせはコントラストAFなのでしょうか?

澁野:AFが追従する20コマ/秒の高速連写時は、DFDを主体にしたAFで動作しています。先ほども60コマの撮影能力を20コマまで落として40コマ分の情報をAFに利用していると申し上げましたが、これは実はDFDの演算のための時間として利用しています。

——フォーカスポイントの「追尾」時にシャッター半押しで被写体をロックするのは良いのですが、半押し解除と同時にロック解除にならず、わざわざOKボタンを押す必要があるのが面倒です。

澁野:タッチパネル使用時には、ライブビュー中も追尾を続けるという仕様の関係もあって、解除にはジョイスティックの中央ボタンを押すかMENU/SETボタンを押すようにしています。

——切り替えができればいいですね。タッチパネルで行うときは現在の仕様でいいのですが、シャッターボタン半押しでロックする時は、半押ししている時だけロックする形がいいです。

澁野:検討項目とさせていただきます。

世界初、ボディ単体でも6.5段分の手ブレ補正

——「6.5段分の補正効果」とのことで仕様を整理しますと、焦点距離60mm(35mm判換算120mm相当)まではボディのみで6.5段分の補正を実現したと言うことでよろしいでしょうか?

櫻井:そうです。今回の手ブレ補正性能公表値は、LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.の60mm(換算120mm)では、B.I.S.(ボディ内手ブレ補正)のみで6.5段の補正性能を実現しているということ、更にはLUMIX G VARIO 14-140mm / F3.5-5.6 ASPH. / POWER O.I.S.の140mm(換算280mm)で、B.I.S.とO.I.S.(レンズ側の光学式手ブレ補正)を組み合わせた「Dual I.S.2」によって6.5段の手ブレ補正性能を実現していること、この2点になります。

LUMIX G9 PRO+LEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.

——B.I.S.だけで6.5段の補正ができるのは、60mmまででしょうか?

櫻井:実際にはもう少し長焦点側でも、B.I.S.のみで性能維持は可能とは考えますが、今回はCIPA基準に基づき、キットレンズLEICA DG VARIO-ELMARIT 12-60mm / F2.8-4.0 ASPH. / POWER O.I.S.の望遠端(60mm)で測定した時、B.I.S.(ボディ内手ブレ補正)のみで6.5段分の補正効果が得られたという形で公表しています。

——ボディだけで6.5段というのは世界初ですか?

櫻井:そうですね。

——さらに望遠側ではレンズ側の手ブレ補正機能も働き、相乗効果で例えば140mm(35mm判換算280mm相当)でも約6.5段が維持可能ということですね。

櫻井:はい。LUMIX G VARIO 14-140mm / F3.5-5.6 ASPH. / POWER O.I.S.レンズとの話となりますが、焦点距離140mmでは、ボディ側のB.I.S.、またはレンズ側のO.I.S.、それぞれ単独で6.5段は達成できないのですが、「Dual I.S.2」では、B.I.S.とO.I.S.の相乗効果によって6.5段を達成しています。

——60mmまではレンズ側の手ブレ補正機能を全く使用しないのですか?

櫻井:ボディ側だけで対応できるブレの場合はボディ側のみで補正しますが、60mm以内であってもボディ側での補正範囲を超える大きなブレの場合は、レンズ側のO.I.S.機能も動かして補正するアルゴリズムになっています。

——ボディとレンズが協調する「Dual I.S.2」の状態でも、ボディ側でカバーできる範囲のブレの場合はレンズ側のブレ補正を動作させないのですか?

櫻井:G9 PROのアルゴリズムでは、基本的にはボディ側だけでできるだけ頑張って、カバーしきれない場合にレンズ側の手ブレ補正も活用するという考え方です。

LEICA DG VARIO-ELMAR 100-400mm / F4.0-6.3 ASPH. / POWER O.I.S.も、「Dual I.S.2」が使える交換レンズのひとつ。

高いカスタマイズ性を持つ操作系

——前面に新設されたファンクションレバーの機能を教えてください。

堀江:2ポジションのレバーで、モード2に事前に競っていないようを割り当てることが可能です。モード1は現在のカメラ設定に従います。G9 PROは基本は右手だけで操作できるようにしていますが、唯一左手での操作を想定したもので、レバーを切り替えるだけで設定を変更することができます。

例えばシャッター方式という項目を割り当てた場合、通常のファンクションボタンですと一度メニュー画面に入って選択する操作が加わりますが、ファンクションレバーでは、レバーを切り替えるだけで瞬時に電子シャッターモードに切り替えられ、操作を一つ減らすことができます。

ボディ前面のファンクションレバー

——ファンクションボタンが19も設定可能とのことですが、モニター画面内のタブとジョイスティックの10点は少し難しそうです。

角:設定可能なものに対してはファンクションボタンを割り当てできるようにする、ということを基本的な考え方としまして、ご自分で設定されたい方に使っていただけるようにしています。ただ、デフォルトでは我々が推奨する機能を割り当てています。

堀江:カーソルボタンとジョイスティックはどちらかしか使わないというお客様もおられ、その場合は一方が空きボタンになってしまうので、ファンクション設定ができるようにしています。タッチタブ機能はタッチ操作をメインに使うユーザーに好評です。

——そのほか、操作性の面での見どころを教えてください。

玉置:LUMIXの従来機から変更した一番のポイントは、シャッターボタンのフィーリングです。半押し状態から全押しするところのクリック感をなくし、ストロークも浅くして、軽くシャッターが切れるようにしています。これは一瞬のシャッターチャンスにかけるプロユーザーを意識した工夫点です。

また、各種操作ボタンは従来機ではストロークが浅く、押したかどうかわからないというご指摘をいただいておりましたので、この機種ではストロークを深く取り、なおかつボタンの径も大きくして押しやすくするなど、細かな点でプロ機にふさわしい操作感が得られるようにしました。

——なるほど、目立たないところでもプロ機ならではの工夫はあるのですね。ところでボディはマグネシウム製ですか?

玉置:そうです。小型軽量化にメリットがあるため、マグネシウム外装で強度を確保する構造にしています。

G9 PROのマグネシウムボディ。

——USB端子から給電しながら撮影できる機能は大変ありがたいです。本体のUSBコネクターがMicro USB3.0 Type-Bで、バッテリーチャージャーのコネクターはスマートフォンなどでも広く使われているMicro USB2.0 Type-Bと、それぞれ異なります。互換性はありますか?

堀江:充電やPCとの通信時はMicro USB2.0 Type-Bと本体のMicro USB3.0 Type-Bが上位互換ということで、基本的に使用可能です。Micro USB3.0 Type-Bの端子はちょっと変わった形をしていますが、端子の半分の形状はMicro USB2.0 Type-Bと全く同じなので、この部分にMicro USB2.0 Type-Bのケーブルを挿すことができ、この場合はUSB2.0として使えます。ですからスマートフォンなどで普及しているMicro USB2.0 Type-Bケーブルを使ってカメラへの給電や通信も可能です。

——ちなみにSDカードスロットは2基ありますが、2基ともUHS-II(U3)SDカード対応でしょうか?

堀江:はい。2基ともUHS-II(U3)規格に対応しています。

——最後にお一方ずつ、言い足りない点、注目してほしい機能。使いこなしのアドバイスなどございましたらお願いします。

堀江:今回の開発では、"自分たちでも欲しくなるカメラ"、撮影機能だけでなく"普段持ち歩いてカッコいいと思えるカメラ"を目指しました。例えばファインダーも表示を大きくするだけでなく接眼部も丸型にするなど、所有欲も重視したものに仕上げていますので、そのあたりも見ていただけたらと思います。

岡本:画質面では、ダイナミックレンジや高感度ノイズの低減といった画質のベースとなる部分も進化しているのですが、画作りの面でも進化させています。これまでもLUMIXでは被写体の持つ質感をしっかりと描写することをターゲットとして開発してきましたが、今後プロ写真家やハイアマチュアのお客様にもこのカメラに共感して使っていただくためには"LUMIXの画作りとはどういうものか"というコンセプトをより具体的にイメージできるものにしなければいけないと考え、画作りの思想を再構築する活動を行いました。

その結果、新たに「生命力・生命美」というキーワードを発し、それに基づく形でG9 PROの画作りをブラッシュアップしました。具体的には、色彩のグラデーションのスムーズさであるとか、立体感のあるトーン、被写体のディテールの描写性などもしっかりと進化させていますので、その辺りの出来栄えを是非実際にお使いいただいて、実感していただけたらと思います。

角:今回のG9 PROは、冒頭でも申し上げました通り「一瞬を逃さないカメラ」をコンセプトに開発しました。ファインダーを覗きながら右手だけで操作できる点や、今回新たに天面部分に搭載しましたステータスLCDなど、カメラを首からぶら下げた状態でも瞬時に設定を確認し、スッと構えて撮るという動作がスムーズにできるようになり、「一瞬を逃さないカメラ」を実現できているのではないかと考えています。

佐々木:デザインの面からは、GH5という静止画・動画のハイブリッド機としてのフラッグシップ機があり、その後にこのG9 PROが登場したということで、静止画のフラッグシップ機としてふさわしい風格と機動的な運用ができるように、様々な面でデザイン上の工夫をしました。実寸法はGH5とあまり変わりませんが、見た目の印象や触った時の印象はよりコンパクトに感じられると思います。その高い機動性を、実際に手に取っていただき、ファインダーを覗き、シャッターを切ってみていただくことで、このカメラの良さを実感していただけたら幸いです。

玉置:今回の機種では、ファインダーを覗きながら右手だけで操作できる点など、操作性の面に一番こだわりました。これを実感いただくには実際のカメラを手にとって触っていただくのが一番かなと思います。我々としてはプロの写真家が仕事の道具としてお使い頂いても大丈夫なものになったと感じていますので、その辺りをぜひお店で体感していただけたらと思っています。

櫻井:G9 PROの機能的な訴求ポイントとしては、6.5段分の手ブレ補正効果を実現した点があります。G8とGH5では5段分の手ブレ補正効果を実現しましたが、これは補正アルゴリズムの進化によるところもありますが、主にデバイスの能力に依存しているところが大きかったです。今回の機種における技術的なブレイクスルーは、従来からのジャイロセンサーだけでなく、イメージセンサー、加速度センサーから得る情報なども加味することで補正効果を高めた、新アルゴリズムを開発、採用した頃です。これらにより6.5段分の手ブレ補正効果を達成しましたが、ボディ単体で6.5段分の手ブレ補正が可能なのは現時点で本機だけですので、その効果をぜひ実際に手にとってお確かめいただけたらと思います。

澁野:新しい機能としましては、人体認識や20コマ/秒でのAF追従が挙げられます。それ以外にもベースとなるDFDやコントラストAFの性能にも、GH5からさらに磨きを掛けておりますので、動画、静止画に関わらずこれまでのLUMIXでも最高のAF性能が得られるようになっています。ぜひ実機でお確かめいただけたらと思います。

渡邊:交換レンズの面では、ライカブランドの12-60mm、8-18mm、50-200mmのF2.8-4シリーズの3本をG9 PROと組み合わせてお使いいただきたいという思いがあります。あとは、大変高価なレンズですが、同時発表のライカ200mm F2.8もLUMIX史上最高画質のレンズでもありますので、G9 PROに装着してぜひお試しいただきたいと思います。

インタビューを終えて(杉本利彦)

LUMIX G9 PROが発表された時、「プロ写真家がターゲットのプロ機」であると聞かされてもいまひとつピンと来なかった。同社には動画のプロおよびハイアマユーザーを中心に好評なGH5がすでにフラッグシップ機として存在し、まさかエントリー機のイメージも残るGシリーズの最新機種が"ハイエンドのプロ機"になるなど、にわかにはイメージできなかったからだ。

しかし、当初疑問に感じた"?"の部分は、今回のインタビューでほぼ解明できた。なるほど、LUMIXの開発陣にとって、この10年間に培われたカメラ技術の集大成がG9 PROであり、プロの撮影現場で道具として酷使されても耐え、かつ動く被写体を確実に捉える性能を実現できた自負があるのだろう。

考えてみれば、パナソニックには長年にわたって培われた業務用ビデオカメラのノウハウがあるし、DFDや6.5段分の手ブレ補正効果といった新しい技術を切り開く開発力もあり、優れた光学技術も併せ持っている。つまり、企画とタイミングが合えばいつでもプロ機を開発できる下地はあったわけだ。

ただ、質問にも加えたが、その優れた技術力が現時点ではマイクロフォーサーズ機でしか発揮できていないのは少々もったいないと思う。今の時代、作る側の論理よりユーザーの要望を最優先したモノづくりが必要なのだから、その辺りの企画面での柔軟性が出てくれば、今後より幅広い層の期待を集めるカメラメーカーになるのではないかと思う。次の10年には、攻めるパナソニックの新たなるフェーズを見てみたい気がする。

杉本利彦

千葉大学工学部画像工学科卒業。初期は写真作家としてモノクロファインプリントに傾倒。現在は写真家としての活動のほか、カメラ雑誌・書籍等でカメラ関連の記事を執筆している。カメラグランプリ2017選考委員。