写真展レポート

写真家インタビュー:岩合光昭さんの“動物の撮り方”とは

キヤノンギャラリー3会場で写真展が同時開催中

©Mitsuaki Iwago 「ねこがお」(キヤノンオープンギャラリー2)より

岩合光昭さんは写真家として活動を始めた当初から、身近なネコと野生動物を並行して撮影してきた。「12年前、テレビでネコを撮る番組が始まってからは、猫写真家と思う人が増えたけどね」。NHK BSで「岩合光昭の世界ネコ歩き」が始まったのは2012年8月6日で、最初の訪問地はイスタンブールだった。

そんな岩合さんの全貌が垣間見える写真展が、東京・品川のキヤノンギャラリー3会場で開催されている(キヤノンギャラリー S「Masai Mara」、キヤノンオープンギャラリー1「この素晴らしき世界」、同2「ねこがお」)。

岩合光昭さん

目の前に広がる自然全てを、よく見て観察すること

岩合さんは大学生だった19歳の時、動物写真家の父、岩合徳光さんのアシスタントとしてガラパゴス諸島への撮影に同行した。1969年のことだ。

「自然に関心があり、その中に身を置くことが好きだった。野生動物や自然を通して、地球のダイナミズムを表現したいと思っていました」と岩合さんは話す。

最初の写真集は父との共著で『北極』(講談社刊、1975年)。その3年後、『愛するねこたち』(講談社刊)を出版した。

「ネコの写真集の方がはるかに売れた(笑)。それもあって人間の近くで生きる彼らと、野生動物たちを並行して撮っていこうと決めた」

©Mitsuaki Iwago 「Masai Mara」(キヤノンギャラリー S)より

キヤノンギャラリー Sで開かれている「Masai Mara」は、2024年度「キヤノン/WWFカレンダー」の撮影で訪れた時の写真で構成している。

「決まっていたのは撮影期間は20日間ということだけ。事前に何を撮るかとかは決めていません」

まずはその日の朝、出会った動物たちを見て、少し追ってみるか、違う動物を探すかを決める。

「判断基準は経験と勘ですね」

今回、1番迷ったのは、川を見下ろす丘に象の家族を見つけた時だ。

「川を渡ってくれるかなと期待して、1時間ほど待ちました」

©Mitsuaki Iwago 「Masai Mara」(キヤノンギャラリー S)より

撮影にはガイドのサポートも欠かせない。

「今回のガイド兼ドライバーはこの地を熟知していた。観光客はネコ科の動物、ライオン、チーター、ヒョウを好むから、彼らのいる場所をよく分かっていました」

ライオンやジャッカルなどは車の中から撮影する。動きを予測しながら、彼らが通るであろう場所に車を停めて待つ。

「車が動いていると近寄ってこないし、下手をすると嫌がって遠くに離れてしまう」

ジャッカルは約4mまで近づき、ライオンの家族は車の横を通り過ぎたところを24mmの広角レンズで収められた。

©Mitsuaki Iwago 「Masai Mara」(キヤノンギャラリー S)より

撮影で大事なのは、被写体となる動物はもちろん、目の前に広がる自然全てをよく見て観察することだ。

「年齢とともに視力は多少衰えていますが、自然の中で動物を見る時は別。いまだに数百m離れた場所にいる動物もはっきりと識別できます」

風景全体を見渡した時、ふっと引っかかりを感じる。そこをよく見ると、岩の向こうに動物が潜んでいるのを見つけたりする。

「きちんと見えるようになるには、現地に入って2~3日はかかりますね」

©Mitsuaki Iwago 「Masai Mara」(キヤノンギャラリー S)より

猫や犬は観察していると、こんなことを考えているのかなと分かった気になる時がある。

「野生動物にそれはない。完全にこちらからの一方通行です」

ただよく見ていると、動物同士が何やら会話しているように思える時がある。

「そういう時は良い1枚が撮れることが多いから、シメたと思いますね」

©Mitsuaki Iwago 「What a Wonderful World -この素晴らしき世界-」(キヤノンオープンギャラリー1)より

キヤノンオープンギャラリー1で開催している「What a Wonderful World -この素晴らしき世界-」は、同じ自然を題材にしながら、「Masai Mara」とは違う世界が広がる。多種多様な地球の輝きが躍動する、まさにタイトル通りのイメージ。また動物が写っていない風景写真を発表するのは今回が初めてだ。

「フィルムの時代は撮影できるカット数が限られていたから、風景は考え抜いてシャッターを押していました」

会場には岩合さんがセレクトしたBGMが流れる。ここでしか味わえない岩合ワールドをぜひ。

©Mitsuaki Iwago 「What a Wonderful World -この素晴らしき世界-」(キヤノンオープンギャラリー1)より

キヤノンオープンギャラリー2ではネコたちのアップが並ぶ。生後1日から10数年生きてきたネコまで、その顔にはさまざまな物語が刻まれる。

「コンテストには顔を撮ったものが多いから、こんな写真集を作り、写真展を開いてしまった」と笑う。

どのネコたちも一心にレンズを見つめている。

「さっと撮れる時と、時間をかけて待つ時がある。相手に合わせて声をかけたり。それは子どもを撮る時と似ているのかもしれない」

©Mitsuaki Iwago 「ねこがお」(キヤノンオープンギャラリー2)より
©Mitsuaki Iwago 「ねこがお」(キヤノンオープンギャラリー2)より
©Mitsuaki Iwago 「ねこがお」(キヤノンオープンギャラリー2)より

写真展情報

会場

東京都港区港南2-16-6 キヤノン S タワー 1階・2階

  • 「Masai Mara」@キヤノンギャラリー S
  • 「What a Wonderful World -この素晴らしき世界-」@キヤノンオープンギャラリー1
  • 「ねこがお」@キヤノンオープンギャラリー2

開催期間

  • キヤノンギャラリー S:2024年6月18日(火)~7月30日(火)
  • キヤノンオープンギャラリー1・2:2024年6月18日(火)~7月23日(火)

開催時間

10時00分~17時30分

休館日

日曜・祝日休館

入場料

無料

(いちいやすのぶ)1963年、東京生まれ。コロナ禍でギャラリー巡りはなかなかしづらかったが、少し明るい兆しが見えてきた。そんな中でも新しいギャラリーはいくつも誕生している。東京フォトギャラリーガイドでギャラリー情報の確認を。写真展の開催情報もお気軽にお寄せください。